ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
簡単な会議を終えた後、私達はヒノカ姉さんの指示通り治療の手伝いに奔走していた。
治療の手伝いとは言っても、実際の治療に当たれるのはサクラやアサマのように祓串を扱える者のみなので、戦闘要員たる私達は必要物資の運搬や負傷者の介助など、主に力仕事を手伝っていた。
「はい、起こしますよ」
砦のとある一室で、私も他のみんな同様に怪我人達の世話をして回っていた。今は、傷で脚と腕を上手く動かせない男性の手助けをしている。
「すまないね…イタタ」
痛みに顔を少し歪めて、私の手をとる中年くらいの男性。見たところ、年季の入った質素な和服に逞しい体つき、そして男性が纏う穏やかな空気…多分、一般市民の方、それも農作業を営んでいるのだろう。
彼の腰に手を回し、ゆっくりと体を起き上がらせる。
「…ふうっ。では、お薬を飲みましょうか」
医師から渡されていた粉薬を、コップに入った水に混ぜ込んでから男性にそっと手渡す。男性はおぼつかない手つきではあったが、しっかりとコップを受け取ると、それをゆっくりと飲み始める。渋そうな顔をしている事から、やはり美味しくはないようだ。
「…薬ってのはどうも好かねえや。どうしてこうもマズいんだろうね?」
「あはは、仕方ないですよ。良薬は口に苦し…って言いますから」
「ははっ。違いねえ!」
男性…農家らしきおじさんと共に、くだらない事で笑い合う。怪我人ではあるが、気分は極めて良好のようだ。
いや、このおじさんに限らずこのテンジン砦にいる負傷者のほとんどが、何かしらの怪我を負っていても明るいままだった。確かに重傷で気分が暗い人もいるが、それでも明るく笑っている人の方が遥かに多い。
どんなに辛い事があっても、それを笑って乗り越えて行く力を白夜の民は持っている。そう思うと、何故だか私の肩の荷が少しだけ下りたような、許されたような気になれた。
「にしてもお嬢ちゃん、あんたベッピンさんだなぁ! どうだい、俺の息子の嫁に来ないかい?」
「え、ええ!?」
おじさんがにかにかと、いたずらな笑みを浮かべて聞いてくる。どうやらふざけているらしかったが、私は今までそういった話には免疫が無かったため、慌てふためいていると、
「はっはっは! 冗談さ、冗談。でも、あんたが美人ってのは本当だぞ!」
「もう!」
快活に笑うおじさんに軽い悪態をつく。ただ、私の顔は困ったような笑いが浮かんでいたようで、私が心から怒っているわけでは無いという事は伝わっているらしい。
それから、私はおじさんから離れ、別の怪我人の元へと順に薬を届けて回っていたのだが、行く先々で、
『おや、可愛い子が来たねえ。どう? うちの嫁に来ないかい?』
『気の利くお嬢ちゃんだ! 良い嫁さんになるぞ!』
などと、おじさんおばさん達からやたらめったら褒めちぎられ、その度に私は顔を赤くしていた。
何故、こうも褒められるのだろうか? 私は普通に、ちょっとした他愛ない話をしたり、親身になって手助けしていただけなのだが…。
どうやら、私が最近帰ってきたアマテラス王女だという事を知らない人も多いらしく、その人達が私を褒めてくれていたようだ。
ちなみに、私の事を知っている人も中にはいたが、別段嫌われているようでもなかった。
何度か砦内を行き来していると、ここに来た時にぶつかった少女とも会った。
「あっ! さっきはどうも!」
可愛らしい笑みで話しかけてくれる少女は、最近軍に入隊したばかりの新人兵士で、今は見習い天馬武者として訓練に励んでいるらしい。
ここには、人手不足で手伝いに来ているらしく、彼女のみならず多くの新人兵士達が手伝いに駆り出されているようだ。
「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね。私はアマテラスといいます」
色々と聞いているうちに、まだお互いに名乗っていない事を思い出し、私は自分の名前を口にした。
すると少女は驚いた顔をして、
「ア、アマテラス…? と、という事は、アマテラス王女様!?」
驚いたと思うと、今度は即座にひざまずいて、謝罪の言葉を口にし始める。
「ももも申し訳ありません! あたし、まさか王女様だとは思わずに、偉そうな口を利いちゃって…」
「良いんですよ。私、実は自分が王族だって自覚が薄いんです。だから、私はそんな事を気にしたりしません。むしろ、さっきみたいに友好的に接してくれた方が私は嬉しいです」
土下座のような姿勢の少女と同じ高さになるよう、私も床に腰を下ろす。こんな事で、私は土下座される必要なんて無い。私は彼女と同じ目線で話がしたいだけなのだ。
「…アマテラス様はお優しいです。噂で聞いた通りのお方ですね」
少女は恐る恐るといったように顔を上げて、私が座り込んでいるのを見ると、どこか安心したような顔でそう呟いた。
「噂…?」
「はい。アマテラス王女は生前のミコト様や、姉妹であるヒノカ様やサクラ様とよく似ておられる。それは容姿ではなく、纏っている雰囲気がであると」
少女がまるで自分の事であるかのように、誇らしげに語る私の噂。お母様やヒノカ姉さん、サクラに似ていると言われて嬉しくない訳がなく、
「あ…そうです。その笑顔です。本当だ…アマテラス様の笑った顔、ミコト様達と同じ、優しさに溢れた笑顔…」
私は自分でも気づかないうちに、嬉しさで笑顔になっていたようで、それを見た少女もまた、穏やかに微笑んでいた。
「…はっ! そ、そうでした! あたし、まだ名前をお伝えしていません! えとえと…!?」
微笑んでいたのも束の間、少女はまた慌ただしくあたふたとするが、
「落ち着いて、ゆっくりで大丈夫ですから」
私は少女に深呼吸をさせると、どうにか落ち着いたようで、頭の後ろで揺れていたウサミミリボンの揺れも収まった。そしてようやく、私は少女の名前を聞けるのだった。
「申し遅れました! あたし、見習い天馬武者のエマです! 精一杯がんばります!!」
エマと別れた後も、私は手伝いへと奔走し続けていた。もしかしたら、もうテンジン砦を全て回ってしまったのではないかと思うくらい駆けずり回っていた気がする。
そして気が付けば、もう日も沈み始めていた。今は休憩と食事を摂るため、食堂へと向かっている。
砦とはいえ案外馬鹿に出来ないもので、食堂は簡易的なものではなく、しっかりとした厨房が備え付けられ、食事スペースもざっと100人は同時に座れるくらいの座席が用意されている。
しかも面白い事に、暗夜では基本的にテーブルと椅子で食事をするが、この食堂は畳の上にテーブルが置かれ、その畳の上に直接座って食べるらしい。なお、土足は厳禁との事。
「…ふふ」
確かに暗夜では珍しい。だが、私はこの光景を知っている…というより、何度も経験している。
それはもちろん生前の記憶での話で、流石に久しぶりすぎて私はこの状況がなんだか楽しかった。なんというか、『新鮮』という言葉がしっくりくる。
「おお、お前も夕飯か?」
と、しみじみとテーブルに肘を付いてた私が見上げると、長方形のお盆を両手で持ったヒノカ姉さんが私へと近付いてくるのが見えた。
「ん? なんだ、何も頼んでいないじゃないか」
ヒノカ姉さんは私の隣まで来ると、私の横の席に腰を下ろした。それにより、ヒノカ姉さんが持っていたお盆に乗っている物の正体がようやく判明する。
「姉さんは…焼き魚、ですか」
「ああ。これは鮎と言ってな、川に生息している魚なんだが、塩焼きにして食べると美味しいんだ。アマテラスも頼んだらどうだ? なんなら、私が頼んできてやろうか?」
皿の上で、鮎が湯気を上げながら、全身に塩を纏ったその姿は、なるほど確かに美味しそうに見える。生まれ変わってからは鮎を食べていないので、久しぶりに食べてみるのも悪くない。
「いいえ、姉さんに面倒を掛けてしまいますし、自分で行きます。…そうですね、鮎の塩焼き、良いかもです」
私は立ち上がると、厨房の方へと目指し歩き始める。当然、裸足で。
ここの食堂は日ごとにメニューが違うようだが、ある程度は融通が利くらしく、今も丁度、
「んー、テンジン砦の食堂の今日の献立は鮎の塩焼きかカボチャの煮付け定食かー。うーん、今はそんな気分じゃないなー…。おばさん、玉子焼きと味噌汁と納豆だけって出来るー?」
「出来るよー」
「じゃ、それでお願いー」
「あいよ」
ツバキと食堂のおばちゃんのやりとりが、それを証明していた。
「よろしくねー…って、うわ!? なんだアマテラス様かー、いきなり後ろに居たからびっくりしたよー」
と、機嫌良く振り向いたツバキが、背後にいた私に驚く。ただ、ツバキは間延びした口調なので、心の底から驚いているのかはよく分からない。
「すみません。話し込んでいたようでしたから、割り込むのも悪いかと思って…」
「いやー、別にいいよそんな事くらい。でもすごいねーアマテラス様。俺ってあんまり背後取られる事ないから、本当にびっくりしたよー」
爽やかスマイルで言うツバキ。果たして、このイケメン笑顔に落とされた女子は一体何人居るのだろうか、などと考えていると、
「あっ、そうそう。聞きましたよー、エマと仲良くなったそうですねー。エマ、とっても嬉しそうに話してましたよー?」
「え、エマさんとお知り合いなんですか? あ、私は鮎の塩焼き定食をお願いします」
「あいよー」
「そりゃー知ってるよー。俺も天馬武者だからねー、新人の訓練を見てやったりくらいはするから、エマとはそこで知り合ったんだー」
「へえ~、じゃあヒノカ姉さんもエマさんの事を知っているかもしれませんね」
「多分知ってるんじゃないかなー? ヒノカ様もたまに新兵に混じって訓練してるからねー」
意外な天馬コミュニティーが形成されているようだ。この分だと、兵種ごとに同じようなコミュニティーが形成されているのかもしれない。
「どうせだし、俺も相席させてもらっていいですか?」
ツバキが相席を申し込んでくるが、私には断る理由がなく、むしろ親交を深めたいとも思っていたので、快く承諾した。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「あはは、ありがとー」
とりあえず、料理が完成するまでは席について会話でもしよう。そしてふと思った。ヒノカ姉さんは料理が出来るまで、ここで待っていたのか、と…。
料理が出来るのを今か今かと心待ちにしながら台の上で肘を付いて待っているヒノカ姉さん……。
「…うふっ」
やばい、微笑ましすぎて笑いがこみ上げてくる。
「どうかしましたー?」
「あ、いいえ。なんでもないです!」
笑いを必死にこらえ、私はツバキと一緒にヒノカ姉さんが待つ座席へと戻るのだった。
そして───、
「遅かったな、アマテラス。先に食べ始めてるぞ。ん、ツバキも一緒か」
美味しそうに鮎を頬張るヒノカ姉さんに、私の我慢は限界を超えたのだった…。
「ふふふふふっ! あははははは!!
うふっ、ふふふ! ひー!!?」
「あ、アマテラス様ー…?」
「…私が何か可笑しかったのか?」
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」
※ここからは台本形式でお送りします。
キヌ「始まったー! 始まったよー!!」
キヌ「アタシ待ってたんだ! やっと本格的に遊べるね!」
キヌ「っとと、ちょっと興奮しすぎちゃった。それじゃあ、初めてのげすとさん、来てきてー!」
マトイ「初めまして。今回ゲストを務めさせて頂きます、マトイです。よろしくね」
キヌ「えへへー! この前はありがとう、マトイ! アタシとっても楽しかったよー!」
マトイ「この前…? ああ、上空を滑空する遊びの事ね。それにしても、布だけでよくあんなに飛べるわよね」
キヌ「簡単だよ? おっきな布を手足にくくりつけて、思いっきり体を伸ばすだけだもん」
マトイ「普通の人は空中でそんな事出来ないわよ。だって怖いもの」
キヌ「えー!? 楽しいのになぁ…。でも、マトイだって天馬に乗りながら空中でひっくり返ったりしてるじゃん!」
マトイ「あれは天馬っていう信頼出来る相棒がいるからよ。あの子とじゃないと、あんな芸当危なくて出来ないもの」
キヌ「そうなんだ。マトイは天馬と仲良しなんだね!」
マトイ「…まあ、あの子には無理させちゃう時もあるから、主人としてはまだまだね、私。…あら? 母さん、それってカンペ?」
キヌ「あ! それアタシもこの前読んだよー! その時はね、アタシの母さんが持ってたよ!」
マトイ「カンペが用意されてる時点で、私達の進行はそんなに期待されていなかったという事なのね…」
キヌ「え!? アタシ達、期待されてなかったの!? なんかやだー! ぶーぶー!!」
マトイ「キヌはともかく、私も同じっていうのがなんだかショックだわ。もっと父さんを見習って完璧を目指さないと…。という事で、カンペを読むわね」
キヌ「なんか釈然としないけど、分かったよ!」
マトイ「えっと…『前回に続き今回も登場したエマとは?』これが今日のテーマのようね」
キヌ「ああ! 天馬の匂いがした子だ!」
マトイ「エマ…彼女は、そうね。公式であって公式でない存在…ってところかしら」
キヌ「なにそれ?」
マトイ「知っている人、またはプレイしている人なら彼女の事は知っていてもおかしくないんじゃないかしら。ちなみに、『プレイしている』っていうのは『ファイアーエムブレムif』ではなくてサイファ、つまりTCG(トレーディングカードゲーム)の事を指しているわ」
キヌ「てぃーしー爺?」
マトイ「あなた、本物のエマと同じ間違いよ、それ。まあつまり、エマはゲームには出ないけど、カードゲームの方には出てるって事よ」
マトイ「これが公式であって公式でないっていう証明よ。有り体に言えば、サイファ限定のキャラクターって事ね」
キヌ「うーん、マトイの話むずかしくて分かんないよー!」
マトイ「…はあ。キヌにはオツムの特訓が必要みたいね。よし、じゃあお勉強しましょうか。私がみっちりと完璧に指導してあげるわ」
キヌ「え~!? やだ! アタシお勉強大嫌いだよ!」
マトイ「この前あなたの滑空する遊びに付き合ってあげたわよね? じゃあ、代わりにあなたは私の指導を受けなさい。言っておくけど、引きずってでも私の部屋に連れて行って私が納得するまで部屋から出さないから、そのつもりでいてね?」
キヌ「うげげ!? そ、そんなぁ~!!」ガシッ
キヌがマトイに連行されたため、収録はここで中止させて頂きます。