ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第29話 悲しみを越えて

 

 テンジン砦…その砦は周囲を和風な壁でぐるりと囲んで、その後方には一際高く大きな建物が。そしてその砦内部へと至るまでが少々入り組んでおり、敵を阻む事に優れた構造をしていた。

 初見でここに攻め込もうものなら、入り組んだ建築と待ち伏せた兵によって手痛いしっぺ返しに合うであろう。

 

「これが、テンジン砦…。流石は白夜随一の砦と言われるだけありますね。思っていた規模より遥かに想像を超えた大きさです……」

 

 外側の砦の入り口から、高く聳える本丸と周囲を囲む壁を見渡した私は、その予想外の大きさに驚嘆の息を漏らす。

 

「アマテラス姉様っ…わ、私、怪我をした方達が心配なので、早速治療のお手伝いに行ってもよろしいですか…?」

 

 いつになく気迫に満ちたサクラに、私は笑顔で了承する。

 

「はい。是非、お願いしますね?」

 

「ありがとうございます…! では…」

 

 そう言って、サクラは2人の臣下を連れ、砦内へと駆けていった。

 それにしても…やはり、あの子は優しい子だ。傷ついた民達を心から心配していた。姉として、立派な妹を持てて誇らしい限りだ。

 

(…立派な、妹……)

 

 ついつい、妹という単語から暗夜に残してきてしまったエリーゼの事を思い出す。あの子も、他人を心から心配出来る、とても優しい子だった。

 私が暗夜を裏切った事、エリーゼはどう思っているのだろう。悲しんでいるだろうか、怒っているだろうか、……恨んでいるだろうか。

 もし恨まれていても、憎まれていても、私に文句は言えないだろう。私は彼女に、それだけの事をしてしまったのだから……。

 

(それでも、私はもう戻れない。戻る事は許されない。私はもう、選んでしまったのだから)

 

 この道を選ぶと決めた時から、覚悟はしていた。暗夜のきょうだいと戦う事は避けられない。ならばせめて、少しでも早くこの戦争を終わらせる。

 

 他でもない、この私の手で、この戦争に終止符を打つ。

 

 

「大丈夫、アマテラス?」

 

 ふと掛けられた声に、我に帰ってくる。それはアクアからのもので、私とアクア、フェリシアにジョーカー以外は既に砦内へと歩を進めていた。

 知らぬ間に、深い思考の海へと沈んでいたらしい。

 

「随分深く考え込んでいたようだけど…何か心配事でもあったの?」

 

 心配そうに私に視線を向けるアクアに、私は正直に話した。こんな事で嘘をつくのは、なんだか心苦しいと思うから…。

 

「…サクラさんの立派な姿を見て、少し思い出していました。私のもう一人の妹…エリーゼさんの事を…」

 

「そう…」

 

 私を急かすでもなく、アクアはただ一言呟いただけだった。ただ、その一言は会話を終わらせる為のものではなく、私で良ければ話を聞いて上げる、というアクアの心遣いが籠もっている事が感じ取れたのだ。

 そんなアクアに甘えて、私は想いを吐き出した。フェリシアやジョーカーも居る前で、自分の弱さを隠そうともせずに。

 

「…私は、自分の選択が間違いだったとは思いません。暗夜王国の…お父様、いいえ、暗夜王ガロンのやり方は非道です。私はそんな非道な策略に、従いたくなんてない。それに…平和を愛し、両国の平和を望んだお母様のご意志を継ぎたいと心から思っています」

 

「ええ…」

 

「…ですが、それを為すためには、暗夜の王族達と……、私のもう一つの家族と戦わざるを得ない。私が血のつながらない妹だと知っての上で、本当のきょうだいのように接してくれた暗夜のきょうだいと…。そして、血を分けた私の半身、スサノオ兄さんと」

 

「…私には、あなたがどれほど苦しんで結論を出したのか、どれほど辛い道を歩み出したのかは共有出来ない。でも…」

 

 俯く私の頭が、そっと暖かさに包まれた。アクアが、私の頭を両腕で包み込むように、その胸に抱いたのだ。

 そして言葉を続ける。幼子に優しく語りかける母親のように、優しく、暖かさに満ちた声音で。

 

「あなたがどんな決断をしても、そのために何を拾い上げ、何を切り捨てても……私はあなたを認め続ける。あなたを赦し続けてあげる。どんな事があろうとも、皆があなたを許さなくても、私は、私だけはあなたを見捨てたりしない。絶対に…」

 

 抱きしめる力が心なしか強くなったアクアに、私は再びの疑問を抱く。それは以前聞いたはずだけど、それでも、その疑問を抱かずにはいられない。

 

 

───どうして、そこまで私に優しくしてくれるの?

 

 

 その疑問が言葉になる事は無かった。聞く前に、頭をそっと離されて、その時に見たアクアの顔に、思ったから。

 

 どこか憂いを帯びたその顔に、今は聞くべきではない、と。

 まあ、聞いたところで、また同じ答えが返ってくるだけだろうとは思うが…。

 

「アマテラス様、そろそろ私達も行きましょう。タクミ王子が訝しげにこちらを見ているようですので」

 

 話が一段落ついたと判断したジョーカーが、砦の方を見ながら言う。私も釣られてそちらに目を向けると、

 

「…………」

 

 ジョーカーの言う通り、タクミがかなり訝しげに、私達の方を見ていた。

 

「…急ぎましょうか」

 

 アクアはさっさと先へと歩き始めて、私もそれを追う形で砦内へと入って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 砦内では、至る所で忙しそうに行き来する人、寝かされている怪我人とそうでない怪我人とで溢れかえっていた。

 行き来する人は、ほとんど医療に携わる事が分かる者で、明らかに戦闘慣れしていないであろう体つきをしている者が多い。

 時折、医者や看護婦に混ざって兵も往来しているが、彼ら彼女らは物資・動けない怪我人の運搬など、雑用を任されているようだ。

 

「…すごく多くの人が負傷しているんですね」

 

 私は、廊下にすら溢れ出る怪我人の数の多さに、申し訳なさでいっぱいになる。

 この中には、私が持っていた魔剣の爆発に巻き込まれた人もいるかもしれないからだ。私は、本当ならここにいるべきでは無い人間なのではないか…そんな考えがよぎってしまう。

 

 申し訳なさでいっぱいになった私は、思わず顔を背け、皆が進む方に向き直るが、

 

「あたっ!?」

 

 前方不注意だったせいか、前から来た誰かにぶつかってしまった。

 その相手は私よりも小柄だったらしく、ぶつかった勢いで倒れてしまっていた。

 

「す、すみません! 大丈夫ですか!?」

 

 慌てて倒れた人物に手をさしのべると、華奢な手が私の手を掴んだ。

 

「い、いえいえ! こちらこそ、ちゃんと前に注意してなかったもので、ごめんなさい!」

 

 と、その可憐な声で倒れた人物、少女は答える。あたふたと焦るようなその仕草に、頭の後ろで結んだ、ウサギの耳のようなリボンがぴょこぴょこと揺れていた。

 

「では、お互い様という事で」

 

 このままではお互い譲り合うばかりになると即時判断した私は、私よりも小さなその少女に折衷案という事で『お互い様』という事にした。

 少女の方もそれで納得したというように、にぱっと明るい笑顔で「はい!!」と元気な声で返す。

 

「あはは、今テンジン砦は負傷者で溢れ返ってるのに、危うく負傷者を増やすところでした!」

 

 失敗失敗~、と自ら頭を小突く少女に、私は少し吹き出してしまう。彼女の様子を見ていると、何故だかさっきまでくよくよしていた自分がバカバカしく思えてきたからだ。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 私が笑ったのが不思議だったのだろう、少女は疑問符を頭に浮かべて尋ねてくる。

 

「いいえ何でも。それより、急いでいたのではありませんか?」

 

「あ! そそそ、そうでした! 急いで次の場所に行くよう言われてたんでした! それでは失礼します!」

 

 と、少女は風のごとく颯爽と廊下を駆けていった。

 

「…元気な方でしたね。あ、名前を聞いてませんでした…」

 

 もう姿が見えなくなった少女に、心の中で礼を告げ、私は少し離れてしまった一行の元へと走った。

 

 

 

 

 

 

「さて、状況を改めて確認しよう」

 

 一際広い部屋に着いた私達は、現状を整理し直す事にした。ヒノカ姉さんは机に大きな地図を広げると、このテンジン砦の位置を指で示す。

 

「敵は暗夜の騎馬隊が少数。確かにここに居る兵でも対処出来ない事は無いだろうが、このテンジン砦の現状を思えば、なるべく要らぬ気は使わせたくない。故に敵は可能な限り私達だけで叩く」

 

「そうだね。僕らが思っていたより、負傷者の数も多い。それに見たところ今も手一杯って感じだったし、ここの兵にこれ以上負担を掛けない方が良いと僕も思う」

 

 ヒノカ姉さんの言葉に、タクミも頷いた。臣下の皆も異論は無いようだ。

 

「サイゾウ達には、敵が砦近辺まで接近する前に報せるように伝えてある。負傷者を不安にさせない為にも、敵は砦内に絶対に入れずに倒すんだ。報せが入り次第、ホラ貝で知らせよう。頼んだぞ、セツナ」

 

「うん…分かりました。こう見えて…ホラ貝を吹くのは得意…」

 

「では、報せがあるまでは治療の手伝いをしよう。各自、人手の足りない所に行って助けてやってくれ。解散!」

 

 ヒノカ姉さんの一言で、皆が一斉ににバラけて行く。私は地図を畳もうとする姉さんに、気になった事があったので尋ねた。

 

「姉さん、少しいいですか?」

 

「ん? どうした、アマテラス?」

 

「先程、地図を見て思ったのですが…この『スサノオ長城』とは…?」

 

 テンジン砦から少し離れた場所に位置するその長城、それはこのテンジン砦よりも王都に近い場所に存在していた。

 

「スサノオ長城は…白夜王国にとって、最終防衛線と言っても過言ではない城だな。城と言っても、防衛戦に特化した造りで、生活には一切配慮していないから、あそこで夜を明かすのは辛いだろう」

 

「何故、ここを通過しなかったのですか? こちらを通れば、もっと早くここに到着出来たと思うんですが…」

 

 そうなのだ。直線距離で考えた場合、ここを通過した方が遥かに早くテンジン砦に到着出来たはず。なのに、何故あんな山道を通ったのか。

 

「ああ、それは…」

 

 少し言いよどむヒノカ姉さんだったが、諦めたように口を開いた。その顔は、どことなく悲しそうだった。

 

「スサノオ長城には今、白夜王国中から選りすぐりの兵が集まっているんだ。そしてその中には、お前やアクアを良く思わない連中も少なからず居てな」

 

 その説明だけで、私は分かってしまった。何故、スサノオ長城を避けたのかを。

 そこを通る事で、余計ないざこざを起こさない為に、わざわざ避けて通ったのだ。

 

「…そう、でしたか。お心遣い、ありがとうございます、姉さん」

 

「いや、いいんだ。本当なら、私はお前や…スサノオを、あそこに連れて行ってやりたいと思っていた」

 

 スサノオ兄さんの名を出す時、姉さんは少し辛そうだったが、それでも語った。長年の思いの丈を吐き出すように。

 

「スサノオ長城…スサノオと同じ名だろう? 昔、母上から聞いた事があるんだ。スサノオという名は、あの長城から貰ったのだと。スサノオ長城のように、強く、固く、長く、大切なものを守れるような人間になって欲しいという願いが込められているそうだ」

 

 思ってはいた。スサノオ兄さんと同じ名だと。それはたまたまではなかったのだ。そこにはきちんと、意味があったのだ。

 お母様の想いが、そこには詰まっていたのだ。

 

「あの長城から眺める夕日は絶景なんだ。いつか、お前やスサノオにも、あの美しい光景を見せてやりたい…それが、私の夢の1つなんだよ」

 

 そう言って、穏やかな笑みで私に微笑みかけたヒノカ姉さんに、私はやるせなさを覚えた。

 

 スサノオ兄さんは暗夜王国に味方すると決めた。ヒノカ姉さんのその夢が、どんなに叶えがたいものであるかを私は分かっていたから。だから、余計に歯がゆかった。

 きっと、ヒノカ姉さんもそれは分かっているに違いない。

 

 だからこそ、その穏やかな笑顔が、どうしようもなく儚く見えてしまうのだろう。

 

「さあ、話はこれくらいにして、私達も手伝いに向かうとしよう! さーて、忙しくなるぞ!」

 

 無理やり話を切り上げると、空元気さが拭えないが、元気良くヒノカ姉さんは室内を出て行った。

 私も心を入れ替え、手伝いに向かう。今は、何かをしていなければどうにも落ち着かないから。

 

 このどうしようもない気持ちを、抑えるために。

 

 





「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「やっほー! キヌだよ~。今回から、あたしがこのあとがき? のコーナーで遊んでいくから、よろしくねー!!」

キヌ「えっと、他に何を言うんだっけ? あ、母さん何それ~? かんぺ? それを読めばいいの? んーと、『毎回するかは分かりません。たまにゲストが来るかも?』」

キヌ「え~? 毎回やらないのー!? ぶーぶー、つまんなーい! いいもんいいもん! その分楽しんじゃうもんね!」

キヌ「えーっと、今日は初回という事で、げすと?は来てないよ。それとね~、作者さんが言うには、このこーなーはあたし達子世代が本編で登場出来るかが分からない、でも出したい、よし、ならばあとがきにでも良いから出そう! って感じで始める事にしたんだって」

キヌ「だからげすと?も基本的には子世代から呼ぶんだって! でもでも、作者さんも頑張ってあたし達が登場出来る展開を考えてるから、期待して待っててね~?」

キヌ「あ、母さん何? またかんぺ? 『今日のお題は「アマテラスが出会った謎の少女とは!?」です』だって」

キヌ「うーん、あたしも見たことなかった女の子だったけど、天馬みたいな匂いがしたよ! 今度あたしと遊んでもらおっかな~?」

キヌ「…うーん、やっぱり1人だとつまんなーい! よーし、マトイかシグレに頼んで高い所から飛び降りる遊びして来よーっと!」

キヌが遊びに行ってしまったため、収録はここで中断させていただきます。

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