ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第28話 テンジン砦へ

 

「皆、待たせてすまない! ほら、セツナ、お前もしっかり謝れ!」

 

 大慌てで天馬を飛ばせて来たヒノカ姉さんと、地上では街中をのっそりと走って?くる男女が一組。

 こちらに到着するや、ヒノカ姉さんが天馬から飛び降りて即座に、頭を下げて謝っていた。

 セツナと呼ばれた女性も、ヒノカ姉さんに無理やり気味に頭を手で下げさせられている。

 

「はい…。遅れてごめんなさい……、こんな感じでいいですか…?」

 

「バカ者! 最後ので台無しじゃないか!」

 

「バカだなんて…。ヒノカ様に褒められてうれしい…」

 

「褒めていない!!」

 

 到着早々に、仕込んでいたとしか思えないくらいのヒノカ姉さん達の漫才っぷりに、私は助けを求めるように後ろに顔を向けるが、

 

「またやってるねー」

 

「むう…、セツナのこの抜け加減、どうにかならぬものだろうか……」

 

「えー? セツナはコレがセツナらしくて良いんだよ?」

 

 と、いつもの事だと言うように会話をしていた。

 

「まったく、何故お前はこう、なんだ、世間とズレているんだ?」

 

「そんな…またヒノカ様に褒められた…うれしい」

 

「だから! 褒めていない!!」

 

「ま、まあまあ、ヒノカ姉さん」

 

 どんどんヒートアップしていく漫才に、そろそろ収拾をつける為に口を挟む。

 私の介入によって、ヒノカ姉さんは息をふうふうと荒らせてはいるものの、どうにか止まってくれたようだ。

 

「その…あれですね! 面白い方なんですね?」

 

「また褒められた…」

 

 私の、面白い、という言葉にセツナが嬉しそうに笑みを浮かべた。こうして見ている分には、彼女には悪意が全く無いという事が分かる。

 言うなれば…そう、彼女は純粋なのではないだろうか。

 

「はあ…もういい。セツナ、それとアサマ、自己紹介だ」

 

 もう諦めた、という顔でヒノカ姉さんがセツナと、彼女達より少し離れて漫才を見ていた男性に声を掛けた。

 アサマと呼ばれた男性が、ニコニコと朗らかに笑みを浮かべながらセツナの隣へと並び立つ。

 

「やっとですか。このまま日が暮れるまで続けるのかと思いましたよ」

 

 ……、にこやかに、その表情からは予想だにもしなかった毒が、彼の口から吐き出される。

 彼の言葉に、ヒノカ姉さんが「うぐ…」となっているが、彼は全く気にした素振りを見せず、ジッと私に顔を向けてくる。なんだか、値踏みされているようで、少し緊張してきた。

 

「あなたがアマテラス様ですね。話は聞いていますよ。これから遠征だというのに、お菓子を手に変な鼻歌を歌いながら城を出たそうですね」

 

「んなっ!? ど、どうしてそれを……!?」

 

 女中から断りきれずに受け取ったおやつ。実は、貰ったおやつを少し食べてみたところ、とても美味しいそれに思わずスキップしながら上機嫌で鼻歌混じりに城を出た私の姿を見られていたとは…不覚……。

 

「いえいえ、城の女中達が話していたのが聞こえただけですよ。そうそう、こんな事も言ってましたねぇ…アマテラス様がお菓子を食べて、あまりにも無邪気に喜ぶものだから、母性本能がくすぐられる、と……」

 

「うぅっ…」

 

 そんなに微笑ましい姿を晒していたのか、私は…。聞いていて、どんどん恥ずかしさがこみ上げてくる。

 そんな爆発寸前の私に、アサマがとどめの一撃を投下した。

 

「一国の王女ともあろう方が、お子ちゃまですねぇ」

 

 

 

「も、もう止めて下さいーーー!!?」

 

 

 

 ひとしきり叫んで、私はようやく落ち着きを取り戻した。しかし、未だに恥ずかしさは払拭しきれてはいないが…。

 

「…もう止めてやってくれ。これでは、アマテラスがあまりにも不憫だ…」

 

 ヒノカ姉さんが私によしよしをしながら、悟った顔でアサマを諫める。アサマは変わらずニコニコとして、こほんと咳払いをする。

 

「仕方ありませんね。では…改めまして、私はアサマと申します。ヒノカ様にお仕えする、しがない僧侶です。一応、よろしくお願いしますと言っておきましょう」

 

「私も…。私…セツナです…。ヒノカ様は私を…いつも罠から助けてくれるので…好きです」

 

「…はい、よろしくお願いします」

 

 ともあれ、これでようやく出発の準備が整ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白夜の城下町を出て数刻、私達は現在、白夜王城から少し南西を行った所にある砦を目指していた。

 もし暗夜からの侵攻が白夜王国内まで及んだ時、その砦はまさしく、白夜王国最後の砦となる。

 砦の名は『テンジン砦』。白夜きっての大きさと、設備が整っている事から、この戦争の要であるテンジン砦は現在、先の城下町急襲による怪我人と戦争で負傷した兵達の療養所となっていた。

 

 そして、私達が何故そこに立ち寄るのかと言えば───

 

 

 

『テンジン砦、ですか…?』

 

『ああ。どうにも、良くない報告が上がって来ていてな』

 

 城を出る前に、私はリョウマ兄さんに呼び出されていた。そこには、サクラの姿もあったが、ヒノカ姉さんやタクミ、アクアの姿は無い。

 

『良くない報告…とは?』

 

『テンジン砦では今、多くの負傷した者達が治療の為に詰めている。そのテンジン砦に、暗夜の騎馬隊が少数だが接近していると忍から報告があった』

 

『で、でもっ、テンジン砦にも兵が控えているはずです。心配ですけど、大丈夫なんじゃ…』

 

『確かに、テンジン砦にも兵は配置している。だが、敵は少数とはいえ、ここまで深く入り込めるという事は、多少なりとも実力を持っているという事だ。我が白夜の兵は弱くはないが、やはり不安要素は残る。そこでだ』

 

 そしてリョウマ兄さんが、サクラではなく、他でもない私を見ながら、指示を出した。

 

『アマテラス、ちょうどお前達の進路上にあるテンジン砦において、敵の騎馬隊を迎撃してもらいたい。敵は少数精鋭だが、幸いこちらも同じく精鋭少数。更に言えば、こちらは王族臣下の優秀な者ばかり。到底負けはしないはずだ』

 

『……そうですね。進路上にあり、尚且つ少数精鋭の私達が動く方が、テンジン砦の防衛に当たる兵、ひいては王城から兵を動員するよりも遥かに労力を消費せずに済みます。分かりました。この任務、受けさせて頂きます』

 

『そうか。そう言ってくれると助かる。サクラ、お前はテンジン砦にいる間、少しでも多く負傷した者の治療に当たってやってくれ』

 

『は、はいっ! 頑張りますねっ』

 

 そう言って小さくガッツポーズをするサクラは、どうにも愛らしいものだった。

 

 

 

 

 

────と、以上がテンジン砦に寄る理由である。

 

 出発直前に皆にもこの事を伝えたが、全員が異論無しで、満場一致でテンジン砦の防衛に参加する事となった。

 

「それにしても、兄様は何故私にも声を掛けてくれなかったのだ…。私達はきょうだいなのに、水臭いではないか…」

 

 ヒノカ姉さんが天馬の上で愚痴っている。それも仕方ないだろう。妹は声を掛けられたのに、姉である自分だけが姉妹の中で声を掛けられなかったのだから。

 

「それを言うなら僕もだけどね。…やっぱり、僕はまだリョウマ兄さんに実力を認めてもらえてないのか……?」

 

 ヒノカ姉さんに釣られてタクミまで一緒にネガティブになっていく。それを、臣下達(アサマとセツナ、ヒナタは特に気にした様子はないため、実質はオボロのみ)が心配そうに主君を見つめていた。

 これは私がフォローを入れた方が良いだろう。

 

「一応、ヒノカ姉さん達も探したそうなんですが、ヒノカ姉さんはどこにいるのか全く分からなくて、タクミさんは既に待ち合わせ場所に向かった後だったので、まだ留まっていた私とサクラさんだけ、という事になったんですよ。アクアさんはその時まだ眠っていたみたいですね」

 

 苦笑いを浮かべてアクアに視線を送る。しかし、アクアはすーっと私から視線を逸らしてしまう。

 

「悪かったわね、アマテラス。どうせ私はお寝坊さんよ」

 

「あ、や、別に、怒ってる訳じゃ…!」

 

 私が焦ったように答えると、そっぽを向いていたアクアがぷっ、と吹き出した。

 私が怪訝な顔でアクアの方を伺っていると、

 

「ふふふ。冗談よアマテラス。別に拗ねてないから安心して。ほら、見て。ヒノカもタクミも、もう機嫌は元通りのようよ」

 

 言われて、2人を交互に見てみる。

 

「ほらぁ! だから言ったじゃないですか! タクミ様城出るの早すぎたんだって!」

 

「このバカヒナタ! タクミ様は悪くないわよ! むしろ、タクミ様くらい早めの行動を心掛けた方が良いに決まってるでしょうが! 早起きは三文の得とも言うでしょ?」

 

「わ、分かったから、2人共落ち着きなよ。頼むから僕の耳元で騒がないでくれ……」

 

 

 

「く……つまり、セツナを捜索中だったから私には声が掛からなかったのか」

 

「まあ、そうなりますかね。まったく、本当に困ったものですよ。セツナさんを捜す為に私まで駆り出されるんですから、いい迷惑ですよ」

 

「そんなに褒められると…嬉しい…けど、照れる」

 

「褒めていない!!!」

 

 

 確かに、違う意味で疲れた顔をしているが、先程までのネガティブさよりはマシだと言えるだろう。

 

「ね? あなたが気に病む事は何もないわ」

 

 アクアが微笑みかけてきたので、私も気を取り直して、微笑み返した。

 

「アマテラス様」

 

 急に呼び掛けられ、何かあったのかと気を引き締めて振り向く。

 先行して様子を見に行ったカゲロウが、いつの間にか私の少し前方で跪いていた。

 

「何かありましたか?」

 

「いいえ、特に異常はありませぬ。ただの異常無しの報告と、もうじきテンジン砦が見えてまいりますので、そのお知らせをと」

 

「そうですか。ありがとうございます、カゲロウさん。ところで…」

 

 私はキョロキョロと辺りを見渡す。が、木々が生い茂るばかりで、山道に捜す人物の姿はないようだ。

 

「スズカゼさんとサイゾウさんはどこに?」

 

「あやつらでしたら、今もテンジン砦周囲で敵の気配を探っております。何かあれば、報せがあるでしょう。では、私も引き続き警戒の任に戻らせて頂く」

 

 再びありがとう、と言う間もなく、カゲロウはその場で大きくジャンプすると、一瞬で木の上まで登り、木から木へと跳んで姿が見えなくなった。

 私は、長い山歩きもひとまずの終わりを迎え、そして来る暗夜の騎馬隊との戦いに向けて、気合いを入れ直す為に叫ぶ。

 

「さあ、皆さん! テンジン砦はもうすぐですよ!」

 

 

 

 

 そして、一同の後方では…。

 

「ま、待ってください~!!」

 

「このバカ。だから言ったんだ。女の分だけとはいえ、全員分の荷物を持って山を進むとか止めとけって。バカかフェリシア」

 

「だ、だって、私はメイドですし…。何か皆さんのお役に立たないといけないかなって思ったんです」

 

「…一応言っておくが、俺達はアマテラス様にお付きしてるんだからな。スサノオ様の意思、はき違えるなよ…」

 

「わ、分かってますよ! 私達は何があっても、アマテラス様と共にあるって決めたんですから」

 

 フェリシアの決意の顔を見て、ジョーカーは少し微笑み、彼女の持っている荷物をいくつか手に取る。

 

「分かってるならいい。…どうやら最初の目的地に着くらしいからな。さっさとアマテラス様の所まで行くぞ」

 

 そしてまた、フェリシアも柔らかい笑みを浮かべて、元気良く返事をした。

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 後に、ジョーカーが女性陣の荷物を持っていた事で、一悶着あるのだが、この時はまだ、ジョーカーは知る由もなかった……。

 

 




 
どうも、久しぶりのキングフロストです。
気が付けば、お気に入り登録してくださっている方が100人近くもいらっしゃって、ありがたい事です。
そして、私の拙い作品を、2万回以上もアクセスしてくださって、嬉しい限りです。

話は変わりますが、上記を記念して、アンケートを活動報告にて実施しようかなと思います。
本編には直接関係はありませんので、気軽に見てやって頂けると助かります。

それでは、お読み頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。

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