ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第27話 白夜王国の愉快な仲間達

 

 眠れぬ夜を過ごし、次の日の朝。私は期待や希望、不安や緊張といった、様々な想いを胸に抱えて白夜王国の門前へとやってきていた。

 

「…見た事のない方達がたくさんいますね」

 

 門前には既にチラホラと今回の遠征に参加するメンバーが集まっていたが、まだ全員という訳ではなさそうだ。

 

「おはようございます、アマテラス様」

 

「あ、アマテラス様、お荷物お持ちいたしますね」

 

 先に来て遠征メンバーの確認と点呼に務めていたジョーカーとフェリシアが、私が来たのに気付くと近寄ってくる。私はフェリシアに礼を言って、抱えていた荷物を手渡した。

 

「あれ? アマテラス様、ずいぶん軽いですけど、何が入ってるんですか~?」

 

 と、フェリシアが受け取った荷物を胸の前に持ってきて、不思議そうに尋ねてくる。

 

「……そのぅ、着替えを数枚と……おやつを…」

 

 なんだか気恥ずかしくて、声を小さくして言ってしまう。フェリシアも中身とその軽さの理由が一致し、納得したように「そうだったんですね~」と、のんきに返してきた。

 

「………」

 

 ジョーカーだけは、優しい笑みを浮かべて、こくこくと私に対して頷いていた。が、かえって私は余計に恥ずかしくなってしまったのだった。

 

 

「ね、姉様っ」

 

 私が赤面して俯いていると、サクラがこちらに向かいながら声を掛けてきた。見ると、その後ろには2人の男女が付き従っていて、おそらくサクラの臣下であろう事が予想出来る。

 

「…サクラさん。見ないで下さい、このミジメな姉の姿を……。今から遠征に行くというのに、城を出る時に女中さんから渡されるおやつを断りきれなくて、荷物が遠征ではなく遠足レベルになってしまう私なんて……王族として恥ずかしいですから」

 

「い、いえっ! 姉様は恥ずかしくなんかないですっ! わ、私も! その、…お菓子を荷物に入れてますから…」

 

 サクラもまた、私同様に顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに叫びを上げた。

 

「サクラさん…っ! 私達、やっぱり姉妹なんですね……嬉しいです」

 

「姉様……っ!」

 

 ガシッと熱い抱擁を交わす私達。その様子を、周りは呆れ半ばに眺めていた。タクミに至っては、自身も恥ずかしそうにしていた程だ。

 後日聞いた話では、

 

「仮にも僕の姉と妹がバカみたいな内容で歓喜して抱き合っていて、それを見せられる上に、他の皆に見られてる僕の気持ちも分かって欲しいね…」

 

 と、ヒノカ姉さんに語っていたらしいが、それはまた別の機会に。

 

 

 ひとしきり抱きしめ合った私達は、ゆっくりと抱擁を解くと、私はサクラの頭をいつものように優しく撫でる。

 

「私は優しい妹を持てて、幸せ者ですね」

 

「えへへ…」

 

 照れくさそうにサクラがはにかむ。その様を見て、何故か私の心は癒されていた。

 

「あのー、もういいのかなー?」

 

 間延びした声で掛けられる男の声に、私はサクラの後ろに臣下が居た事を思い出した。

 声を掛けてきた男性は、小豆色の長い髪を後ろで一つに纏め、軽そうな甲冑を身に着けている。そして、その顔はいわゆる『イケメン』だった。

 

「あ、すみません。えっと、初めまして…ですよね?」

 

「そうですよー。それでは改めまして、俺はツバキって言います。サクラ様の臣下をさせてもらってるんですよー」

 

 爽やかな笑顔を浮かべて自己紹介をするツバキ。そしてその隣では、同じく甲冑を着て、グレーがかったウェーブの長い髪を無造作に垂らした少女が、不機嫌そうにしている。

 

「ほーら、カザハナも、自己紹介しなよー?」

 

「…はいはい。あたし、カザハナっていいます。サクラ様の臣下で、一番の理解者です。これからよろしくお願いします」

 

 言って、ぷいっと顔を背けてしまうカザハナ。それを見て「あははー」と苦笑いするツバキ。

 

「よ、よろしくお願いしますね。2人共…」

 

 何かマズい事をしたのかと思い返そうとする私だったが、そんな余裕は与えてもらえなかった。

 タクミの方から、臣下であろう2人がこちらに歩いてくるのが分かる。

 こちらもまた、男女の2人組で、男の方はツバキよりも少しごつめの甲冑を纏い、長いのだろうか茶色がかった黒髪を後ろで束ねている。

 女の方は、同じく甲冑を身に着けており、長い紫の髪は後ろで束ねられ、ポニーテールで、なんとなくタクミの髪型に似ている。

 そして、その顔は、

 

「ひっ…! ま、魔王のような顔の女性が、近付いて来ますけど……!?」

 

 思わずツバキに尋ねると、ツバキはまたも苦笑いを浮かべ、

 

「あー、あれはねー、バカそうな男の方がヒナタでー、魔王みたいに怖い顔してるのがオボロだよー。オボロはたまーに、あんな怖い顔になるんだけど、普段はかわいい顔してるよー?」

 

「そ、そうですか……」

 

 どうしても、ツバキの言葉に同意出来ずにいる私だったが、時間は待ってはくれない。そして、魔王(仮)も待ってはくれない。

 スタスタと2人は私の目の前まで来ると、

 

「おう! 俺ヒナタってんだ! アマテラス様はタクミ様の姉ちゃんなんだってな。主君の姉ちゃんなら、俺達にとっても仕えるべき相手って事だよな! つー訳で、これからよろしくな!」

 

 なんとも軽く、そして明るく元気な挨拶だろうと思う。でも、隣の魔王の所為で全然気分が明るくなれない。

 私は意図せずひくひくと口の端を動かせていたようで、魔王…オボロが溜め息を吐いて口を開いた。

 …余談だが、この時それを見た私は魔王の吐息のように感じたとは、口が裂けても本人には言えない。

 

「どうも、オボロと申します。タクミ様の臣下としてこのバカと共にお仕えさせて頂いております。ですが、この遠征の隊長はアマテラス様と伺っておりますので、何なりとお申し付け下さいね。可能な限りで従いますので」

 

 丁寧な口調と声音とは裏腹に、オボロの顔は魔王のような形相のままで、ひどく違和感を感じずにはいられない。

 

「は、はい。よ、よろしく、お願いします…」

 

 挨拶を終えると、2人はすぐにタクミの元へと戻っていく。それを見ていて、タクミと一瞬目が合ったが、すぐに顔を逸らされてしまう。

 

「……早く認めてもらいたいものですね」

 

 弟の素っ気ない態度に、私は寂しさを覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくするが、一向にメンバーが全員揃わない。

 今のところ、まだ来ていないのはリンカ、ヒノカ姉さんとその臣下の人達。そして、お母様付きだった臣下の人達だ。

 ちなみに、アクアはスズカゼ、サイゾウ、カゲロウの忍者3人組と共にやってきたが、その長い髪には何カ所にも渡って寝癖が付いていた。

 

「アクア様…もう少し早く起きて頂かないと、支度に時間が掛かる事を考えれば、確実に間に合いませんよ」

 

「…ごめんなさい。ちょっと寝付けなくて…」

 

「…昨日、夜遅くに湖に行くアクア様を見かけたがな」

 

「私もそれは見たな。まあ、アクア様が1人で湖に行かれるのはいつもの事だが」

 

 という会話が聞こえてきたので、アクアは案外朝に弱いらしい。というより、夜更かしが原因なのではとも思えないでもないが…。

 

「ねえ、アマテラス」

 

 一連の会話を思い出している私に、アクアから声が掛けられる。私はそれで現実へと引き戻され、取り繕ったように慌てて応えた。

 

「え!? あ、はい! な、何でしょうか!?」

 

「…? 何をそんなに慌てているのかは知らないけど…、まあいいわ。ところで、ヒノカ達は知らないけれど、ミコト様の臣下だった2人は遅れるから先に行っていて欲しいそうよ。それと、リンカは炎の部族の村に行ってるから、そこから直接合流するって」

 

「そうなんですか。では、ヒノカ姉さん達が来たら出発するとしましょう。でも、それにしても遅いですね…」

 

 もしや何かあったのでは、と心配していると、ヒナタが私の心配を笑い飛ばすように話す。

 

「ああ、大丈夫大丈夫! どうせセツナが居ないって感じで探し回ってるだけだと思うぜ!」

 

「セツナさん、ですか?」

 

「はい。あの子、日頃からぼんやりしてる子で、いつも何かしらの罠に掛かっては動けなくなってるので、時々行方不明になるんです。まあ、大概は私達やヒノカ様に救助されて事なきを得るんだけど…」

 

「あれはあれですごいよね。猪の罠に引っ掛かると思えば、バレバレな子供の落とし穴にも落ちてるもん」

 

「俺なんか、この前セツナが魚を捕る網に掛かってるのを助けたよー」

 

「うむ。あれは一種の才能かもしれぬな」

 

「…そんな才能は俺は要らん」

 

 仲間達から散々の言われようであるセツナに、なんだか興味が湧いてきた。早くヒノカ姉さんに連れてきてもらいたいが、一向にその気配はない。

 

「…聞いているだけだと、お前に似通った部分があるんじゃないか?」

 

「む~! いくらドジな私でも、狩りの罠なんかには掛かりませんよ!」

 

 点呼及び確認係であるジョーカーとフェリシアも、暇なのでそんな風にじゃれ合っていた(フェリシアが一方的にからかわれる形で)。

 

 

 

 結局、ヒノカ姉さん達がやってきたのは、それから1時間経ってからだった。

 

 


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