ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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※タイトルは正常です


第26話 にじの賢者

 

 ミコトの葬儀から翌日、私達はこれからどう動いていくのかを見極めなければならなくなっていた。

 

 暗夜王国との戦火は既に上がり、今や小さな小競り合いもとっくにいくつか発生していた。

 それは小隊同士のぶつかり合いが主だが、いずれは兵を統率する力のある者も戦場へと出てくるはずだ。

 それこそ、マークス兄さん達のような将軍クラスの戦士が…。

 

 だからこそ、私達が今求めるべきなのは、『個々の強さ』。白夜と暗夜の軍同士には数の差はあれど、練度に大きな差はない。それを埋めるためには、兵の統率力に優れた者の成長が必要なのだ。

 

 だが、現状で私達白夜王国に、マークス兄さんと対等に渡り合えるのはリョウマ兄さんだけ。それに、カミラ姉さんやレオンといった暗夜の強き王族達に、今のヒノカ姉さんとタクミでは勝てる見込みはない。

 それを、2日前の白夜平原での戦いで思い知らされたのだから。

 

 そして、スサノオ兄さん…。スサノオ兄さんが、あのまま終わる訳がない。正直、私もあの闘いで勝てたのは運が良かっただけだと分かっている。

 兄さんが負けたのは、まだ力の制御が出来ていなかったから。それに、私を殺さない為には手加減するしか無かったはず。次に会った時、きっとスサノオ兄さんは私の想像以上に強くなっているに違いない。

 

 だから、私は、私達は強くならなければならない。

 

 

 現在、私達はリョウマ兄さんから呼び出され、王の間へと集まっていた。

 他のきょうだいも全員いるが、やはり目に見えて落ち込んでいるようだった。

 

 そんな中、リョウマ兄さんは険しい顔つきで、場の全員に向けて大声で喝を入れた。

 

「いつまでもへこたれるな! 辛いのは皆同じ。だが、それ以前に俺達は白夜の王族だ! 民を守る俺達王族がこんな様では、民に示しがつかんだろう!」

 

 長兄からの叱咤を受けて皆、顔は明るくはないが、前向きなものへと変わった。やはり、リョウマ兄さんは頼りになる。

 

「…すまない、兄様。私達がいつまでもこれでは、亡くなった母様にも申し訳ないからな。私も、気を引き締める」

 

「それで、リョウマは話があって私達をここに呼んだのでしょう?」

 

 アクアがきょうだい達の気持ちが切り替わったのを見計らって、リョウマ兄さんへと切り出した。

 それに、リョウマ兄さんも頷き、

 

「その通りだ。俺達は今、かなりマズい状態にある。今までは母上の結界のおかげで大規模な戦闘には発展しなかったが、今は違う。これから先、暗夜王国の攻勢が更に勢いを増していくのは確実だ」

 

「なら、僕らから打って出るのは?」

 

 タクミの提案に、リョウマは首を振って返す。

 

「いや、それは出来ん。我ら白夜の兵は屈強で、暗夜にも劣らんが、いかんせん数の差が大きすぎる。こちらから仕掛けて、無闇に兵の命を散らせる訳にはいかない」

 

「な、ならっ、私達はどうすれば…」

 

 不安そうなサクラの声に、その場のリョウマ兄さんを除いた全員が再び暗くなりかけるが、リョウマ兄さんの言葉がそれを止めた。

 

「兵力差が埋められんというのなら、俺達はそれを率いる者達の力の底上げをすればいい」

 

「それはつまり、兵を率いる私達自身が強くなる、という事で良いのだろうか、兄様?」

 

「そういう事だ。俺達が力を付ければ、それだけ敵を倒す数も増える。それはつまり、それだけ白夜の兵が傷つく可能性も減らせるという訳だ」

 

「ねえ…、リョウマは簡単に言うけど、それは簡単な事ではないわ。現に、幼い頃から修練を積んできたヒノカだって、暗夜王国のカミラ王女には適わなかった」

 

 アクアの言葉はどストレートなもので、ヒノカ姉さんも敗北というこの上ない屈辱を思い出し、口をキュッと固く結んで震えていた。

 

「…悔しいが、アクアの言う通りだ。人間は短い期間でそう簡単に強くはなれない。兄様には悪いが、それは夢絵空事と同じ。人は努力無くして進歩はしない。そして、それにはそれ相応の時間も必要になる」

 

「でも、今の僕らにはそう悠長に構えてる時間なんて無いよ」

 

 ヒノカ姉さんとタクミの言葉は何も間違いなどない。むしろ正論だ。だというのに、リョウマ兄さんは2人の意見を前に、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「リョウマ兄さん、もしかして…何か方法を知っているのですか? 私達が短期間で強くなれるような、方法を…」

 

「ほう…なかなか鋭いな、アマテラス。ああ、その通り、俺には心当たりがある」

 

 そう言って、リョウマ兄さんは手を叩き、パンパンと大きな音を鳴らすと、

 

「…これに」

 

 どこかで見たような気のする女性が、何もない所からいきなり現れた。

 

「カゲロウ、地図を広げてやってくれ」

 

「御意」

 

 リョウマ兄さんが指示を出すと、カゲロウと呼ばれた女性が、その豊満な胸元に手を突っ込み、そこから幾重にも折り畳まれた紙を取り出した。

 

「…カゲロウ、頼むからその仕舞い方は止めてくれ。目に悪い」

 

「これは失礼を。しかし、私もこれで慣れてしまっており、こちらの方が何かと便利なのですが…」

 

「…頼む。妹達に悪い影響が出かねんからな…」

 

 王女達を上げられては、カゲロウも流石に断れないようで、態度を改めた。

 

「それは私としても不本意、このカゲロウ、しかと肝に銘じましょう」

 

 ようやく聞いてくれた事に、リョウマは一息付いて地図を広げさせる。カゲロウが地図を広げる様子を、悔しそうに見つめるヒノカ姉さんはスルー(触らぬ神に祟り無し故に)して、私はリョウマ兄さんにさっきの続きを尋ねる。

 

「地図…という事は、国外にそのような魔法みたいな所があるのですか?」

 

 広げ終えられた地図を、私達は取り囲むようにして眺める。そして、リョウマ兄さんが地図の上に指を置いて説明を始めた。

 

「いいか、ここが俺達白夜王国の城。ここから南西に行き、フウマ公国を過ぎると、港町に出る。そこから更に西へと行くとミューズ公国がある訳だが…」

 

 リョウマ兄さんの指が途中で止まる。そこには、大きめの島があった。

 

「それまでの間に、ノートルディア公国がある。噂では、この国に『虹の賢者』と呼ばれる方が居て、訪れた者に試練を与え、見事乗り越えた者は力を手にすると言われている」

 

「虹の…賢者…?」

 

「ああ。そこでアマテラス、お前には隊長格を率いてノートルディア公国に行ってもらいたい」

 

 その言葉に、私は驚きのあまり、「うぇ…?」などと間抜けな声を出してしまう。

 そして、私が『率いる』という点に当然の如くタクミが反論をした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? どうしてアマテラス…姉さんなんだ!? それなら、僕やヒノカ姉さんでも…」

 

「いや、私も兄様に賛成だ。アマテラスはまだ帰ってきて日が浅いとはいえ、立派に白夜の王女。皆にそれを認めさせる上でも、アマテラスにはこれを成し遂げてもらいたいと私も思う」

 

「ヒノカ姉さんまで…、分かったよ。兄さんと姉さんが推すんだ、僕はもう文句は言わない。その代わり、成し遂げられなかった時は、今度こそ僕はアマテラス…姉さんを姉とは認めないからね」

 

 言うだけ言って、タクミは再び視線を地図へと戻す。それを見て、リョウマ兄さんとヒノカ姉さんは額に手を付いてため息を吐くのだった。

 

「ねえ、リョウマの言い分は分かったのだけど、それだとアマテラスがみんなを連れて出ている間、ここの守りはどうするの? それに、暗夜が攻めて来ないとも限らないわ」

 

 アクアはみんなから一歩離れた辺りで地図を見ていた。だからこそ、別の論点も見えていた。

 しかし、それはアクアに限った話ではない。

 

「それなら問題ない。城には俺が残る」

 

「で、でもっ、リョウマ兄様1人でなんて、いくらなんでも無茶ですっ…!」

 

「誰が1人と言った?」

 

 サクラの叫びに、得意気に返すリョウマ兄さんの視線が私達から離れ、王の間の入り口へと向けられる。

 私達もそれを追って入り口に目を向けると、

 

「やあやあ、皆さんやっと僕らに気付いてくれましたね!」

 

 ボロボロのコートを羽織った黒髪の少年と、暗夜の重騎士が着るような重厚な鎧に身を包んだ、これまた黒髪の女性、そして見るからに盗賊のようないかつい顔つきをした、クリーム色の若干リーゼント頭の男性が、そこに立っていた。

 

「彼らは…?」

 

「ん? アマテラスはまだ会っていなかったか。真ん中がクリスで、左がルディア、それであの山賊のような男がブレモンドだ」

 

「アあン!? 誰が山賊だオラ!! 俺はれっきとした神父様だってんだよ!!」

 

 リョウマ兄さんの珍しいボケに、盗賊っぽい人が盗賊っぽく怒りながら自分は神父だと怒鳴っていた。

 神父は、そんな風に怒鳴らないと思う。

 

「うるさいわよ、ブレモンド。とにかく、あなた達の留守はリョウマ様と私達で預かるから、気兼ねなく行ってきてもいいわよ」

 

「あはは! 心配しないで下さい。これでも僕、立派な軍師を目指してまして、白夜平原での洪水は僕が考えたんですよ!」

 

 そういえば、スサノオ兄さんが退却して少しした後、洪水が暗夜の陣地を襲っていたのを思い出した。

 

「あなたが、あれを…?」

 

「そうです。白夜王国の守りは僕とユキムラさんで策を張りますから、保っている間に帰ってきてくださいね?」

 

「だ・か・ら! 心配させるような事を言わない! このバカクリス!」

 

 ゴツンとルディアのゲンコツがクリスの頭に落とされる。クリスは頭を押さえながら、「イタタ」と笑みを浮かべていた。どうやら本気のゲンコツでは無かったらしい。

 

「という訳だ。だから俺の事は気にするな、アマテラス」

 

 まだ少し不安は残るが、いつまでもウジウジしていては、リョウマ兄さん達に申し訳ない。

 私は気持ちを固めると、真っ直ぐリョウマ兄さんの目を見て答える。

 

「分かりました。ノートルディア公国への遠征、その隊長の任、喜んで承ります」

 

「ああ、よく言った。それでこそ我が妹だ」

 

 とても誇らしげに、リョウマ兄さんは笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれた。

 なんだか、懐かしさを覚える暖かさを、胸の内に感じたような気がしたのだった。

 

 

 

 話はまとまり、城を発つのは翌日という事に決まり、各自遠征の準備の為に解散していったが、私はクリス達に呼び止められていた。

 

「何かご用ですか?」

 

 クリスはどことなく申し訳なさそうに、またはばつが悪そうに、口を開く。

 

「実は、ですね…スサノオ様の背を押してしまったのは、僕かもしれなくて…」

 

「え?」

 

「ある夜の日に、スサノオ様が1人夜空を眺めていた事があったのよ」

 

「確かその日は……アマテラス様はミコト様と一緒に寝てた日だったっけか?」

 

 私が、お母様と布団を並べて一緒に寝た…あの日…。

 私が白夜に帰ると決める一因にもなった、あの日…?

 

「スサノオ様、何かに悩んでいるようでして…僕がアドバイスをしちゃったんです…。多分、白夜か暗夜か…どちらに戻るべきなのかを悩んでいたんだと思います。でも、僕が余計な事を言ったばっかりに……!」

 

 クリスは言って、急に膝をつくと、頭と手を地面について謝罪してくる。

 

「本当に、すみませんでした!! 謝っても、許してもらえないとは分かっていますが……」

 

 土下座の姿勢をとるクリスとは別に、私は全然違う事を考えていた。

 

 スサノオ兄さんは、あの日…私と同じ日に、自分が進む道を決めたのかもしれない。

 そう思うと、つくづく不思議なものだ。やっぱり、私達は双子なんだ。考え方も性格も見た目も、性別だって違うけど、どこか通じるものがある。

 私達の間には、奇妙なつながりが、確かにあるのだ。

 

「いいんですよ、クリスさん。多分、あなたの助言が無くてもスサノオ兄さんは暗夜に戻っていたと思います。だから、あなたは別に悪くないんです」

 

 その場にかがみ込み、クリスを立ち上がらせる。彼が私に頭を下げる必要は、私には感じられないから。

 

「…でも」

 

「まったく…王女様が許すって言ってんだから、ウジウジしてないで受け入れなさいよね」

 

 ルディアの平手打ちが、クリスの背中に思い切り叩きつけられ、その反動でクリスは若干飛び上がっていた。

 

「うお…相変わらずえげつねぇ…」

 

 ブレモンドもまた、若干縮こまっていた。

 

「いったー!? ルディアさんけっこう力強いんですから、加減して下さいよ!?」

 

「意気地なしにはちょうど良い薬でしょ?」

 

 ルディアはいたずらな笑みを浮かべながら微笑んでみせる。それを見て、クリスは踏ん切りがついたのか、軽く息を吐くと私に視線を向けた。その目には、もう後悔は見えない。

 

「…アマテラス様がそう仰ってるんです。僕がいつまでもうなだれてちゃダメですよね。…分かりました! もう引きずるのは止めにします!」

 

 ようやく明るい笑顔に戻ったクリスに、私も釣られて自然と笑っていた。

 

「ところで、アマテラス様に言う事が他にもあったんじゃないの?」

 

「あっ、そうでした!」

 

 ポンと手を叩くクリスに、私が疑問に思っていると、

 

「アマテラス様、『虹の賢者』について、他にも噂があるんですよ」

 

「他にも…?」

 

「ああ。俺らが旅をしてる間に仕入れたんだが、ノートルディア公国にいる虹の賢者の他に、もう1人、『にじの大賢者』っていうのがいるらしい」

 

「『にじの大賢者』…ですか?」

 

 聞いた感じでは、後者の方がすごそうな感じではあるのだが…。

 

「その『にじの大賢者』様とは、一体どこにいらっしゃるのですか?」

 

「それが…大賢者の方は、つい最近広まった噂らしくて、情報がはっきりしないのよね…」

 

「噂では、シュヴァリエ公国、ミューズ公国、イズモ公国ってな感じで、どこに居るかも定まってねぇ」

 

「ですが、恐らくどこかの国に居るというのは間違いないでしょう。情報ではどれも国が出てきますから」

 

「そうですか…。一応、覚えておきますね。もしそれらの国に行った時、探すのに役に立つかもしれませんから」

 

 私は礼を言って、自分も準備の為にその場を後にした。

 次の目的地はノートルディア公国。そこで私達は本当に力を得る事が出来るのか、期待と不安を胸に、私はなかなか眠れぬ夜を明かしたのだった。

 

 


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