ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
私はフェリシアとジョーカーの家を建てると、2人を連れて外へと出る。
光をくぐった先では、リョウマ兄さん達が必死な顔をして、私を探しているようだった。
「!! アマテラス!」
光と共に現れた私達に、一瞬驚いたらしかったリョウマ兄さんだが、すぐに安堵した表情で私に向かって駆けてくる。
「すみません、リョウマ兄さん。黙って消えたりして」
「まったくだ。お前が暗夜の者にまたさらわれたと思って肝が冷えたぞ」
腕を組んでため息を吐くリョウマ兄さんに、私は苦笑いを浮かべて頬を掻く。
私が見つかった事がよほど嬉しかったのか、天馬に乗って探し回っていたらしいヒノカ姉さんが、天馬に乗ったままこちらに突っ込んで来て…、
「って!? ちょ、ちょっと待ってくださいヒノカ姉さん!? 天馬ごと来られると私潰れちゃいます!?」
慌てて両手を前に出してわたわたする私に、ヒノカ姉さんはギリギリで天馬からジャンプしたかと思うと、私に向かって勢いよく飛び込んできた。
「ぎにゃ!?」
「アマテラス! 心配したんだぞ!! スサノオを失って、その上お前まで居なくなってしまったら、私は……。うう…良かった、無事に見つかって……」
飛び込んできたヒノカ姉さんを受け止める形で押し倒された私は、すがるような姉さんの抱きつきによって、体がガッチリと完全にホールドされてしまっていた。
タクミやサクラ、アクア達もこちらにやってきて、ヒノカ姉さんの珍しい姿に目を丸くしていた。
「…驚いたわ。ヒノカも、こんな風に女の子らしいところがあったのね」
「ア、アクア姉様…ヒノカ姉様だって女の子ですから、おかしくない…と思いますっ…」
「なんでそこで自信なく尻すぼみになっていくんだよ…」
三者三様の様子に、私は少しおかしくて笑ってしまう。…締め付けが苦しいが。
「さて、アマテラス。聞きたい事は色々とある。この2人は誰なのか。さっきの光は何なのか。今まで何処に居たのか…などな」
フェリシア達を見ながら言うリョウマ兄さん。そして私は、もはやおなじみになるのではないかと思いながら、あのセリフを口にした。
「えっと…話せば長くなるのですが…」
フェリシア達にした説明にプラスアルファ(フェリシアとジョーカーについて)もあったので、本当に話が少し長くなってしまったが、それでもリョウマ兄さん達はしっかりと耳を傾けてくれていた。
「…なるほどな。星竜か…話に聞いた事はある。確か、もう残っていないと聞いていたが、生き残りがいたとはな」
私の呼びかけに応じて出てきていたリリスをマジマジ見つめながら言うリョウマ兄さんに、リリスは少し居心地が悪そうで、ヒラヒラとしたその尻尾をせわしなく左右に揺らしていた。
「…本当に信用していいの? アマテラス…姉さんの臣下って事は、この2人も暗夜の人間なんだよ? 僕は信用出来ないね」
タクミの不躾な物言いに、ジョーカーはどこ吹く風と動じないが、フェリシアはアワアワと私に不安そうに視線を送ってくる。少々かわいそうだったので、ここは助け船を出しておくのが良いだろう。
「2人は疑われるのが分かっているのに、私の元へと来てくれたんです。下手をすれば、そのまま捕まって、あまつさえ処刑されてしまうかもしれないというのに、命の危険を顧みずに私に仕えるために来てくれた…。私はこの2人を強く信頼しています。2人の事がどうしても信用出来ないというのなら、それは私も信用されていないのと同じ…」
「アマテラス様…ズズッ」
フェリシアが涙目になって、両手を組んで嬉しそうに視線を送ってくる。ジョーカーも、両目を瞑って笑顔を浮かべていた。
「今更疑うものか。お前はスサノオと闘ってまで止めようとしたんだ。そんなお前を信用出来ないで、兄を名乗れはしないからな。そこの2人に関しても同じだ。アマテラスが心の底から信頼している、彼らを信用するのはそれだけで事足りる。それに、アマテラスとは付き合いも長いようだし、特に心配はいらんだろう」
「…兄さんが言うなら、僕も仕方ないけど認めてやるよ。だけど、信用したって訳じゃないからね」
見るからに不満そうなタクミだが、とりあえずは納得してくれたらしかった。ぷいっとそっぽを向くと、タクミはそのまま歩き去ってしまう。
それを見て、リョウマ兄さんは呆れるようにため息を吐いた。
「タクミの事は…まあ、大目に見てやってくれ。あいつもまだ精神的に未熟なんだ。とにかく、これからよろしく頼む。フェリシアにジョーカー…で良かったか?」
「は、はい! 精一杯頑張ります!」
「ええ。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げるフェリシアとジョーカー。それを見て、リョウマ兄さん達は穏やかな笑みを浮かべていた。
それぞれが様々な想いを胸に抱え、王城へと帰ってきた。その頃にはもうすっかり日も暮れ、空には星空が広がっていた。
「リョウマ様、至急お耳に入れたい事が御座います…」
帰って来るなり、ユキムラが深刻そうな顔をしてリョウマ兄さんに話しかけていた。それが気になった私達は、何かあったのかと心配して、その様子を見守っていると、
「何? …どういう事だ」
ユキムラの話を聞き終えると、眉間にしわを寄せ、険しい顔になって考え込むリョウマ兄さん。その尋常ではない様子に、サクラがおどおどと兄に尋ねた。
「あ、あのっ、リョウマ兄様…何かあったのですか?」
妹の心配する声に、リョウマ兄さんは言うか言うまいかを決めかねているようで、少しして何かを決心したように、その重い口を開いた。
「…今、報告があった。母上の亡骸が……消失した、と」
「なっ…!?」
その衝撃の内容に、私達はひどく驚いてしまう。母の死さえ悼む事が許されないなんて、悲しすぎる。
「兄様…母様の遺体が消失した、とは一体どういう事だろうか…。まさか、これも暗夜王国の仕業なのか…?」
ヒノカ姉さんが拳をギュッと固く結び、怒りに震えているのが分かった。
父は、いや、暗夜王ガロンはどこまで卑劣なのだろうかと、嫌でも思ってしまう。私とスサノオ兄さんを巻き込んでまでして母を殺し、その上、母の亡骸までどこかへとやってしまうなんて、もはや人間のする事とは思えない。心通った人間のする事とは、到底思えなかった。
それこそ、悪魔のような所行と言える。
「まだ断定は出来んが、恐らくそうだろう。死体でノスフェラトゥを作るような国だ。母上の亡骸も、何かに利用しようとしているに違いない。どこまで卑劣な行いをすれば気が済むのだ…暗夜王国め…!!」
リョウマ兄さんが怒りを隠そうともせず、暗夜への憎しみの言葉を吐き捨てる。
「…母様を弔う事も出来ないなんて…そんなの、あんまりですっ……」
「くそ、暗夜王国め…!! 絶対に奴らを倒してやる…この母上から受け継いだ風神弓に懸けて…!」
「スサノオをさらうだけでは飽きたらず、母様の遺体まで奪うなど、許せない…! 必ず、どちらも取り戻してみせる!」
きょうだい達はそれぞれ悲しみ、そして怒り、暗夜への憎しみを募らせていくが、そんな中アクアだけは何も言わず、何かを考え込んでいるようだった。
「あの…アクアさん、何か気になる事でも…?」
私の呼びかけにハッとすると、
「いいえ、何でもないわ」
作ったのが分かる笑顔で、問題ないと答えたのだった。
そして、その翌日。
亡き白夜王国女王の葬儀は、本来なら国を上げて執り行われるはずだったが、民にも甚大な被害が出ていたため、出席出来る者のみと限られたものとなった。
遺体が無い事は公表せず、そしてそれは無闇に民を不安にさせないためでもあった。
「……」
あんなに被害が出たというのに、お母様の葬儀には多くの民が参列していた。これが平時であれば、もっとたくさんの、いや、国中の白夜の民が来ていたに違いない。
私は、葬儀を見守る中で、アクアの姿が見当たらない事に気がついた。
(アクアさん…?)
他のきょうだい達は一番目立つ所に居るので、当然そこに居たものと思っていたが、どうやらアクアはそこには居ないらしく、一体どこに行ったのか分からない。
私は、まだ白夜王国の第二王女としての顔見せが不完全だった事もあり、私を知らない民達がいる手前、兄さん達と並んであの場に立つことは断った。
だから、私は比較的この葬儀を抜け出してアクアを探しに行きやすかったのだ。
私は異例中の異例だらけの葬儀を抜け、アクアを探し回った。壊れた街並み、葬儀の行われている城にも、どこにもアクアの姿はなく、途方に暮れかけた時、私はある場所を思い出した。
アクアと初めて会ったあの湖。
なんとなく、アクアはそこに居るような気がして、私はすぐにそこに向かって歩き出す。
「…アクアさん」
湖までやってくると、思った通りアクアはそこにいた。
初めて会った時の桟橋の上で、水面をジッと眺めていた。後ろからはその表情まで見えないが、どことなく悲しい雰囲気を纏っているような気がする。
「…アマテラス。どうしたの? まだ葬儀は終わってないのでしょう…戻りなさい」
「いいえ、戻りません。戻るなら、あなたと一緒にです」
私の言葉に、何を言っても無駄だと判断したのか、アクアは振り返って手招きしてきた。私はその誘いに乗り、アクアの隣まで来ると、2人して桟橋に腰掛ける。
足に水の冷たい感覚がする。
「…ねえ、アマテラス。私はミコト女王にとても良くしてもらったわ」
「はい…」
「あの人は、自分の事を母親だと思って欲しいと言って、そして私にも他のきょうだい達と同じくらい愛情を注いでくれた…」
「…はい」
「もしかしたら、暗夜にさらわれたあなた達の代わりだったのかもしれない。でも、それでもミコトは私を娘として愛してくれたの」
語るアクアの横顔を見ながら、私は相槌を打って静かに耳を傾ける。今にも消えてしまいそうなアクアから、注意を離さないように。
「…ミコトの遺体が無い葬儀なんて、私には意味がない…。ねえ、あなたは本当に暗夜王国が遺体を持ち去ったのだと思う?」
「…分かりません。ただ、暗夜王国はノスフェラトゥのように死者さえも利用します。だから、可能性は高いとも思っています」
「…あの時、私達を襲った姿の見えない怪物も、暗夜の差し金だと思う?」
段々とアクアの言いたい事が分からなくなってきた私は、率直に聞いた。
「何が言いたいのですか」
「………、もし暗夜以外に敵が居るとしたら、あなたは信じる…?」
「それは、どういう…?」
もはやチンプンカンプンな私に、アクアは歯切れが悪そうに返してくる。
「…いいえ。やっぱり何でもないわ。今のは忘れて」
それっきり、アクアは再び黙り込み、水面に足を漂わせていた。
そして一抹の不安を胸に、私はアクアと共に揺らぐ水面を見つめていた。
今や遠く離れてしまった暗夜のきょうだい達に、スサノオ兄さんに想いを馳せて…。