ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
第1話 暗夜第二王子・王女
私は知らない草原に立っていた。周囲を見渡してみると、見慣れた鎧を身につけた『暗夜』の兵士と、鎧にしては軽そうな防具に、剣にしては細い武器を装備した、見覚えの無い兵士。彼らは大軍同士で戦っていた。
至る所で上がる怒号と悲鳴。至る所で飛ぶ血飛沫と断末魔のような叫び声。
この光景に思い当たる事があるとすれば、
そう、戦争だ。
人と人、国と国が、異なる思想または思惑を持って、他国へと侵略、あるいは自国を守る為に殺し合う。
私が見ているこれが当にそれだった。
次々と草原が血に染まる中で、新たな動きがあった。異国の戦士の中で飛び抜けて強く、暗夜の兵を次々とその手にした雷を纏う剣で切り捨てていく1人の男。その男が剣を
敵が倒れていく中、彼はそれに見向きもせずに、草原に
彼の事はよく知っている。だって彼は───。
「貴様がこの軍の将か? ならば、同じ将として一騎打ちを所望する!!」
異国の戦士、『白夜軍』の大将が高らかに声を上げた。それにまた、丘の上で甲冑で武装した馬に乗る暗夜の大将も呼応する。
「良いだろう。我々の戦いで勝敗が決するというのなら、その申し入れ、受けて立とう。我が剣の錆となれる事、誇りに思え!」
剣を鞘から抜き、なだらかな丘を馬に乗りながら一気に降りていく暗夜の将。
それに対し、白夜の将もまた、敵に向けて走り出す。
「「参る!!」」
今、当に2人の剣がぶつかり合おうとし───。
(………スさ……)
?? 何か声が聞こえたような……?
(……て……い……テ……様)
確かに声が聞こえるが、今は目の前の戦いを見なければならない。そんな気がするのだ。しかし、
(起きて下さい、アマテラス様)
「ん…、?」
目を開けると、こちらを覗き込む影が2つ。
目を擦りながら、そちらに視線を向けると、
「おはようございます、アマテラス様」
「起きる時間ですよー!」
私と兄に仕えてくれているメイドの2人が、私を上から覗き込むようにして起こしてくれていたらしい。
「えっと…、まだ外は暗いみたいだけど?」
ボーッと窓から外を見るが、朝というにはまだまだ外は暗い。
「アマテラス様、今日はマークス様が直々に稽古を付けて下さる日です。兄君をあまりお待たせしてはなりませんぞ」
と、メイド達の後ろからよく知る声が。同じく私に老年の身ながら仕えてくれている騎士兼執事のものだ。
「えっと、ギュンターさん? マークス兄さんはもう来てるの?」
「はい。とっくに訓練の用意を終えて、アマテラス様をお待ちしていらっしゃいますぞ」
まさかこんな時間もよく分からない空の暗さで、もうマークス兄さんが来ているとは夢にも思わなかったので、少し思考停止してしまう。すると、
「あら、まだおねむのようですね。では、私達がしっかり起こして差し上げます。フェリシア?」
「はい、姉さん!」
そう言って、2人して私のほっぺたにその華奢な手を添えると、瞬間、私の頬にヒヤッとする感覚が襲った。
「ちゅ、冷た!? 起きます! 起きましたから冷たいのは止めて下さい!!」
メイド姉妹は私の意識が完全に覚醒したのを確認すると、ソッとその手を離した。
「ふふ。氷の部族出身である私達にかかれば、こんなもの朝飯前です」
「もう…、フローラさんたら普段はマジメなのに、たまにこうやってイタズラするんですから……」
私がベッドから起き上がると、ススッとフローラとフェリシアが後ろに下がる。そしてようやく彼女達の後ろにいたギュンターの姿が目に映った。
「それにしても、よくお眠りになっておられましたな」
「ええ……。ちょっと、夢を見ていました」
「えっとえっと、いつもの夢ですか? アマテラス様がこことは違う世界で楽しく生活しているっていう?」
フェリシアが言うのは、私が見た事もないような人や物で溢れる世界で、違和感無く毎日を楽しく過ごすというものだ。確かに、その夢は幼い頃からちょくちょくと見る事はあったが、今朝のは違った。あそこまで現実味を帯びた夢、そして生々しい夢は初めてだった。
「いいえ。さっきまで見ていた夢は違った。私の事を、知らない人達が『きょうだい』だって言ってるの。それに、マークス兄さん達と戦っていて……。おかしな話ですよね? 私のきょうだいは、この暗夜にしか居ないのに」
だけど、今日初めて見たあの夢は、私の胸に深く刺さったかのように違和感を残していた。それに、どこか懐かしさを感じたような───。
「アマテラス様、その夢は……。いえ、何でもありません」
フローラが何かを言いかけて止めた。気になって聞き返そうとするが、
「アマテラス様、先程も申し上げたように、マークス様がお待ちです。お早い仕度の程をお願いします」
ギュンターはそう言って、部屋を退出しようとする。そこで、私は今になってようやく気が付いた。
「あの、そういえばジョーカーさんが見えませんが」
「ジョーカーでしたら、すでに準備を終えたスサノオ様と共に、一足早くマークス様との訓練に行っております」
「ええ!? スサノオ兄さんはもう訓練を始めてるんですか!?」
「はい。だから早く仕度して頂きたいのです」
まさかの連続に、私は急いで寝間着から着替える為に立ち上がる。
「では、私はこれで失礼します。フローラ、フェリシア、あとは任せるぞ」
「「かしこまりしました」」
ギュンターはキビキビとした動きで、部屋から出て行った。それを見送る暇もなく、メイド姉妹が私から寝間着を手際良く剥いでいく。
「す、すみません。いつも世話を焼かせてしまって」
私の謝罪の言葉に、フローラは顔色一つ変えず、フェリシアは楽しそうな顔で、
「いいえ。これもまた主の為と思えば、苦もありません」
「私はこうしてアマテラス様やスサノオ様に御奉仕できるのが幸せですから~!」
本当に、私は、私とスサノオ兄さんは良き臣下に恵まれたものだと、心の底からそう思った。
「遅れてしまい、すみません!」
ようやく着替えを終え、訓練用の武器を持ってマークス兄さんが待つ塔の屋上まで行くと、そこには既に互いに剣をぶつけ合う2人の兄の姿があった。その傍らには、暇そうに魔道書を読む私達の弟も居た。
「ハッ!! ようやく来たか、アマテラス」
「セイ! 遅いぞ、俺がその分マークス兄さんのシゴキを受けるんだからな」
訓練を中断して、私に話しかけてくる兄達。ただ、マークス兄さんはスサノオ兄さんの言葉に、どこか意地悪そうな笑みを浮かべて、
「ほう、私との訓練がそれほど不服だと。そう言いたいのか、スサノオ?」
「そ、そんな事は言っていません! ただ、俺1人だと休み無しで休憩出来ないので……」
「あからさまに焦ってるよ、スサノオ兄さん。それだとマークス兄さんの言葉を認めてるようなものだよ」
揚げ足を取るかのように、スサノオ兄さんをおちょくるのが、暗夜王国第三王子のレオンだ。
たまに皮肉ってくるが、感に障る程でもないので、まだかわいい方である。
「おいレオン! 頼むから今は止めてくれ! 本当に休憩したいんだよ俺!」
「はいはい。冗談だよ冗談」
「フッ。まあ、そういう事にしておいてやろう。望み通り、スサノオはしばらく休憩だ。さて、次はアマテラス、お前の番だ」
馬上で訓練用の剣を構えるマークス兄さんに、私も持ってきた訓練用の剣を構える。
スサノオ兄さんとレオンは、邪魔にならないように端の方へ移動して座って観戦するようだ。
「訓練だからといって、手加減はしない。本当の殺し合いだと思って掛かって来い、アマテラス!!」
「は、はい!!」
「始まったね」
魔道書を片手に、レオンがマークス兄さん達を見ながら言う。
「休憩させて貰っておいてなんだが、マークス兄さんはやっぱり流石だな。俺との訓練をしてから続けてアマテラスとも訓練してるんだから」
「ま、暗夜王国最強の騎士だからね。それくらいどうって事無いんじゃない?」
興味無さそうな口振りで、魔道書に目を通しているレオンだが、チラッチラッとアマテラス達の訓練に目をやっているあたり、素直ではない。
「お前も、そんな素っ気ないふりしてはさっきから何度もチラッと見てるな。なんだ、アマテラスが戦ってる姿はそんなに気になるか?」
「な、何を言っているんだい? 僕が見てるのはあくまで剣捌きであって、別におかしな事は何もないよ?」
「はいはい。そういう事にしておいてやるよ。まあ、お前のそれがアマテラスだけに向けられたものじゃないって事はよく分かってるつもりだよ」
「……なんだか、スサノオ兄さんのその妙に達観してるところは尊敬してあげるよ。というか、さっきのセリフ、マークス兄さんのを少し真似してない?」
「何の事だかな? さて、ジョーカーに水でも貰って来るかなっと」
立ち上がり、訓練の様子を眺めながら塔の屋上入り口で待機しているジョーカーの元へと向かった。
「そういうところが食えないんだよね、スサノオ兄さんはさ」
主人公の名前はカムイではなく、オリジナルです。白夜にツクヨミが居たけど、まあ無関係です。
それに、ツクヨミが居るなら他の三貴士が居てもいいじゃない?