ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第24話 再会

 

 傷付いたヒノカ姉さんを腕に、私は暗夜軍が撤退していくのを眺めていた。

 この戦闘では勝ったが、何かすっきりとしない。言うならば、試合に勝って勝負に負けた、とでも言える気分なのだ。

 

「う…うぅ……スサノオ……ぐすっ」

 

 ヒノカ姉さんの嗚咽が、さっきからずっと私の耳に届いている。私は泣く姉さんの体をそっと抱き締め、宥めようした。

 いや、もしかしたらこれは、姉さんの為だけではなく、私の為でもあるのかもしれない。

 兄さんは、私達の目の前で暗夜へと行ってしまった。私の、私達の手は届かない。私達の手は、振り払われたのだ。

 

 今までずっと一緒に過ごしてきた私達。もう、私達の道が重なる事はないのだろうか。

 もう、闘う以外に道は残されていないというのか。

 

 姉さんを抱き締めながら、私は涙をこらえて、今やもう見えない兄を想っていた。

 

 

 

 

 

「姉様!」

 

 しばらくして、サクラがこちらへとやってきた。サクラはヒノカ姉さんの様子に気付くと、慌てて祓串を使用する。

 ヒノカ姉さんは泣き疲れて寝てしまっていたが、その傷はみるみるうちに癒えていき、傷は完全に消え去っていた。

 

「ありがとうございます、サクラさん」

 

「い、いえっ! 私にはこれくらいしか出来ませんから……」

 

 私はヒノカ姉さんをそっと地面に横たえると、立ち上がってサクラの頭を撫でてやる。

 サクラは、嬉しそうに私の手を受け入れて、顔をほんのり赤くしていた。

 どうやらこの子は、頭を撫でられるのが好きらしいのだ。

 

 赤い顔をしながら、サクラがある事を尋ねてくる。当然であろう問いを。

 

「あ、あのあの、スサノオ兄様は……?」

 

 その問いに、私は答えに詰まってしまう。そんな私の様子を見て、サクラも言わなくても分かってしまったのだろう。赤く染めていた頬はすぐに戻り、目には涙が浮かんでくる。

 

「そんな…せっかく、会えたのに……」

 

「サクラさん……」

 

 私は泣いた2人の姉妹を見て、ようやく現実を認められた。

 私は白夜を選んだ。さっきまでは自信を持ってこの選択が正しかったとは思えなかった。

 でも、もし私が暗夜を選んでいたら…?

 スサノオ兄さんを失うだけでなく、私まで失ってしまったら、ヒノカ姉さんやサクラは、一体どれほど涙を流したのだろう?

 スサノオ兄さんを取り戻せなかったのは辛い事実だが、私は白夜を選んで良かったのだと、やっと心から思う事が出来た。

 

 私は、暗夜の家族よりも、白夜の家族を選んだ。暗夜王ガロンの卑劣な行いを打ち砕くために、白夜王国につくと決めた。

 もう、迷いはしない。私は、私の正義を突き進む。

 

 でも、それでも……、

 

「マークス兄さん、カミラ姉さん、スサノオ兄さん、レオンさん、エリーゼさん…闘わなければならないのですか…。……私は…」

 

 

 

「ねえ、アマテラス」

 

 

 

 気がつけば、いつの間にかアクアが私の後ろに立っていた。私はその声に振り返り、アクアの顔が目に入ってくる。

 その顔は、悲しそうだった。

 

「…どうしても辛いのなら、闘わなくていいのよ。闘いは私やリョウマに任せて、戦乱から身を引く事を選んでも…」

 

 私の心情を気遣ってくれての言葉だろう。だけど、私はこの闘いから逃げる訳にはいかない。

 

「…いえ、そんな事は出来ません。辛い事から目を背け、耳を塞いでいても…状況は変わりませんから。私は闘います。アクアさんや…白夜王国の皆さんと、共に」

 

 私の決断に、アクアはそれでも悲しそうに、頷いて返した。

 

「…そう…」

 

「これでいいんです…。たとえどれだけ辛くても、この道の先が平和に繋がっていると、私はそう信じていますから」

 

 出来る限りの笑顔で、私はアクアに向けて微笑んだ。

 

「では、サクラさん」

 

「は、はいっ。…ぐしゅ」

 

 涙を拭って、サクラは静かに私の言葉を待っている。

 

「ヒノカ姉さんの天馬の傷も治してあげてくれませんか? 私も流石にヒノカ姉さんと天馬を抱えては戻れませんから」

 

 竜の力を使えばそうでもないが、それをいちいち言う必要もないだろう。それに、傷付いた天馬もいつまでもそのままでは可哀想だ。

 

「わ、分かりましたっ」

 

 パタパタと倒れる天馬へと駆け寄るサクラ。私はそれを見届けて、再び撤退していく暗夜軍に目を移す。

 もう、ほとんどが去ってしまって、見えるのは後続の兵達くらいだ。

 

 

「また、会いましょう…暗夜の、私の家族の皆さん。願わくば、それが戦場ではない事を……」

 

 

 スサノオ兄さん…いいえ。『当麻』兄さん…、私は…『光』は、決して諦めません。

 それが、今の私に出来る『私』への精一杯の手向けですから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、私は白夜の軍と共に帰還している。

 ヒノカ姉さんの天馬もすっかり元気で、今は起きたヒノカ姉さんを乗せて悠々と夕暮れの空を駆けていた。

 

「ん? こちらに誰かくるな…」

 

 と、リョウマ兄さんが、撤退したとはいえ暗夜軍に警戒しながらの帰還だったので、後ろを確認しながら何度目かに振り向いた時、こちらに向けて走ってくる存在に気がつく。

 

「あ…あれは…!」

 

 私もそれが誰であるかに気がつき、踵を返して走り出す。

 

「おい! アマテラス!」

 

 急に引き返す私に、リョウマ兄さんが声を掛けてくるが、私は止まらなかった。

 

 

「アマテラス様~!!」

 

 

「うぶ!?」

 

 私は途中で止まったのだが、突進してくるフェリシアに勢いよく抱き付かれ、押し倒される。

 

「おいバカ! アマテラス様を転ばせるとかアホか! メイドならメイドらしく慎ましくしろ」

 

「ああ!? す、すみませーん!」

 

 ガバッと起き上がると、フェリシアが私の手を取り起き上がらせてくれる。

 

「ジョーカーさん…フェリシアさん…どうしてここに? スサノオ兄さんはどうしたんですか?」

 

「スサノオ様からの命により、私達はあなたの下に参上したのでございます」

 

「はい! アマテラス様をお守りしますね! それから、アマテラス様のお世話もしますので、心配しないでくださいね?」

 

「いや、お前は家事が全滅なんだから、アマテラス様のお世話は俺がする」

 

「え~!? ひどいですよ!」

 

 この賑やかな雰囲気、正直懐かしくて嬉しくもあるのだが、肝心な部分が全然頭に入ってこない。

 これがフェリシア・クオリティというものなのだろうか。

 

「あの、何故スサノオ兄さんがあなた達を私の元に…?」

 

「はい。これから白夜王国で過ごすといっても、不慣れな環境に苦戦するでしょうから、私達にあなたの生活をフォローして欲しい、とスサノオ様から賜っております」

 

「あとですね~、アマテラス様をお守りしろとも言われていますよ」

 

「スサノオ兄さんが…そんな事を…?」

 

 違う道を選んでも、やっぱりスサノオ兄さんは昔と変わらず優しい。

 でも、この2人がこちらに来て、スサノオ兄さんはどうするのだろうか。

 

「ご心配なさらず」

 

 顔に出ていたのか、ジョーカーが私の懸念に答えた。

 

「スサノオ様にはまだフローラが居ますので、心配いりません。あいつ1人居れば、スサノオ様の身の回りの事は全く問題ないかと」

 

「はい~。姉さんは家事万能ですから、大丈夫です! って、スサノオ様も言ってました~!」

 

「そ、そうですか…」

 

 どうしてだろう? フェリシアが会話に加わると、何故か和んでしまう…。

 

 と、私が和んでいると、リリスがやってくる。そういえば、こちらでは会話が出来ないのを思い出す。

 

「リリスさん…? どうかしたのですか?」

 

 私の言葉に、こくこくと頷くリリス。それを見たフェリシアとジョーカーは目をパチクリさせて、

 

「リリス? 厩舎係のリリスの事ですか? まさか…この獣が?」

 

「はい。実はそうなんです」

 

「え~、アマテラス様ったらまたまた~。リリスさんは人ですよ?」

 

「そうです。このような獣であるはずが…」

 

「ええと、話せば長くなるのですが…」

 

 どう説明しようかと考えていると、見かねたリリスが異界の門を開く。

 突然の輝きに驚いた2人は、

 

「!? この光は一体…!?」

 

「これも話せば長くなるのですが…」

 

 やがて光は大きくなっていき、3人を完全に飲み込んだ。

 

 

「……………な」

 

 遠くからその様子を、ポカンとして見ていたリョウマだった。

 

 

 

 

 

 

 やがて3人を包む光が小さくなっていき、星界がその姿を露わにする。

 

「場所が変わりましたー!? アマテラス様、ここはどこなんですか?」

 

 驚きを隠せない2人は、キョロキョロと辺りを見渡している。

 その様子に私は、私とスサノオ兄さんが初めてここに来た時の事を思い出していた。

 

《詳しくは私からお話しします。実は…》

 

 そうして、リリスから事の顛末がフェリシアとジョーカーに語られ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてリリスの説明が終わり、なんとなくではあるが、ようやく納得したフェリシアとジョーカー。

 

「…なるほど。ではこの地は、異界という事なのですね」

 

「ふわぁ…綺麗なお花がたくさん咲いた木がいくつも生えてますよ~!」

 

 ジョーカーは話をまとめようとしているが、フェリシアは呑気にお花見気分となっていた。

 多分理解出来ているとは思うが…ここはフェリシアを信じよう、うん。

 

《アマテラス様。これからアマテラス様と仲間の皆様はご自身が定めた道を歩まれます。そこで私も、何かアマテラス様の力になりたいのです。…出来れば、スサノオ様とお2人一緒にお仕えしたかったのですが、それは出来ない事…》

 

「リリスさん…すみません」

 

《いえ、いいのです。私も、スサノオ様に託されたのです。アマテラス様の力になるように、と。それに、スサノオ様には私の力の一部を差し上げて参りましたので、アマテラス様がお気に病まれる事はありませんよう、お願いします》

 

「…本当に、私は良い兄と、良い臣下を持ったものですね」

 

 少し滲んだ涙を指で拭うと、私はすぐに笑顔に戻る。こんなにいい従者達を心配させる訳にはいかないから。

 

《アマテラス様。この異界を自由にお使いください。休息や戦いの準備が安全に出来ます》

 

「ありがとうございます、リリスさん」

 

《それから、これは大切な事なので覚えておいてください。この異界は竜脈の力に満ちています。アマテラス様が望めば、建物をお好きに建てる事も出来ましょう。お仲間の方々もこれからこの城で過ごす事もあるのでしたら、皆さんのお部屋や憩いの場など、必要になってくるでしょう。それは、アマテラス様にご用意して頂きたいのです》

 

「そうですね。では早速フェリシアさんとジョーカーさんのお家を作りましょうか」

 

 

 なんというか、遊び感覚で建物を作り始める私なのだった。

 

 


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