ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第23話 見習い軍師の奇策

 

「うへぇ…もうご対面とは、分かってはいましたけど、やっぱり気が引けますね…」

 

 軍師見習いのクリスの呟きは、川の対岸のとある一角へと向けられたものだった。

 

「仕方ないわよ。ルーナ達が暗夜王国に付いてるって分かってて、私達はこっちに付いてるんだから。というか、アンタのせいだって事を忘れないでよね」

 

 ルディアも同じく、憂鬱そうに対岸を見ながら言う。ただ、それも仕方のない事。何せ、見知った顔が敵陣の中にいるのだから。

 

「分かってますよー。僕のワガママでこうなってるんですよね。ホント、すみません!」

 

 謝ってはいるものの、それが笑顔でなので、本当に反省しているのかは怪しいものだった。

 

「お前、本当に謝る気あるようには見えねえって…。それより、気になる事があんだけどよ」

 

 ブレモンドはそう言って、対岸を指差しながら何かを数え始める。

 そして、訝しげに目を細めて言った。

 

「やっぱり、人数が足りねーな」

 

「そうみたいね。居ないのは…」

 

「異界の闘技大会に参加している姉さんは外すとして、この場に居ないのはカタリナ一行ですね」

 

 クリスが言うのは、同郷の友の事だ。カタリナと呼んだ少女の一行は、以前のクリス達と同じくこの世界を旅して回っているはず。

 ここに居ないという事は、まだそれを続けているという事なのだろう。

 

「ちょっと助かったわね。あの子達まで居たら、私達が圧倒的に不利だったし」

 

「だな。竜が2匹とデカいウサギだけでも厄介なのに、その上俺らの中で一番強い奴がアイツラ3人のお守り役に付いてんだ。面倒くせぇ事にならなくて何よりってもんだろ」

 

 杖を片手に、頭を掻きながらブレモンドは溜め息を吐いた。

 どうやら、向こう側もこちらの存在に気付いたようで、進軍を開始している。遠目から見ても分かる程に、驚愕した様子で。

 

「さて、ユキムラさんに頼んで仕込みは終わっていますし、こちらものんびりと行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 向かいくる集団を前に、クリス達は立ち止まって自身の得物に手をかける。

 

「ちょっと! なんでアンタ達がそっちにいるのよ!」

 

 そんな3人にかけられる叫び声。

 やってきた7人の中の、暗めの赤髪をツインテールにした少女が、怒声を上げていたのだ。

 

「やあやあ、皆さんお揃いで。お久しぶりですね!」

 

 鬼気迫る彼女らと違い、クリスはのんきに挨拶をしている。それを見るルディアとブレモンドは、どこか諦めた顔をしていた。

 

「げ、元気そうね…」

 

「あ、うん。おっひさー!!」

 

「アンタ達も、挨拶返してんじゃないわよ!」

 

 あまりのクリスの緊張感の無さに、ノルンとアイシスが釣られて挨拶を返すが、先程怒鳴った少女から鋭いツッコミを入れられ、すぐさま顔を引き締める。

 

「悪いわね、みんな。私達は白夜王国を味方するわ」

 

 ルディアはクリスのペースに巻き込まれる前に、さっさと本題に入る。

 

「…本気なのですか? あなた達は不利であると分かっていて、白夜王国につくと? そう言いたいのですか?」

 

 ライルが、苦虫を噛み潰すような顔で尋ねる。それを、3人は頷いて返した。

 

「ふっ…、それがお前達の選びし運命というのなら、俺は止めはしない。魂の導きには、誰も逆らえず、手出しする事は許されないのだ……!」

 

「いやいやいや! そんな事言ってる場合じゃないって!? 僕らみんな幼なじみなのに、それが殺し合うなんて僕らの父さん母さんに顔向け出来ないよ!」

 

 アイボリー色の髪をした短髪の青年が、芝居かがったように話すが、それを灰色の髪で、前髪を横に流すような髪型の青年が血相を変えて反論する。

 

「ちっ…! グダグダと言い合いをしている場合ではないぞ!」

 

「え? ……あー!?」

 

 ミシェイルの示す方を見て、アイシスが大声を上げた。そこは上空を指しており、カミラの乗る飛竜が、スサノオを共に乗せて撤退していたからだ。

 

「スサノオ様だー!?」

 

「って、あれ? ルーナ、カミラ様が撤退してるって事は、君も戻らないといけないんじゃない?」

 

「うわ、ヤバ…! ラズワルド、オーディン! アンタ達もさっさとマークス様とレオン様の所に戻らないと、相棒に文句言われるわよ!」

 

 ルーナ達は少しのワガママを聞いてもらって、ここに来ていた。だが、そろそろ主君の元へと行かなければ、それぞれの相方に負担を掛けすぎてしまう。

 

「スサノオ様も共に撤退しているようですが、アマテラス様はどうしたのでしょうか…?」

 

 まだ、2人の決断を知らないため、ライルが疑問をそのまま口にするが、

 

「なら、私達のする事は決まってるよ! アマテラス様を助けに行こう! うーん、ピンチに颯爽と現れる天馬に乗った私…、うん! すごくヒーローだよね!」

 

 意気揚々と天馬の手綱を引くアイシスだったが、背後の違和感に気がつく。あまりにも、叫び声が大きく、そして多いのだ。

 

 その異変に、他のメンバーも振り向くと、

 

 

「あ、僕の考えた策が動き始めたみたいですね」

 

 

 大津波が、暗夜の軍勢を飲み込もうと迫るところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 川の上流にて───。

 

「サクラ様、それではお願いします」

 

「は、はいっ!」

 

 他のきょうだい達とは違い、戦列に加わる事のなかったサクラは、ユキムラと共に上流まで来ていたのだ。

 川の上流では膨大な量の水が長年を掛けてせき止められており、川の流れはダムから漏れ出した少量の水流により生まれたものだった。

 

「竜脈よ…大地をえぐれっ」

 

 溢れ出す竜脈の力により、ダムの一部分を破壊し、とある方向へとのみ流れ出すように調節する。

 

「いやはや、クリスさんもなかなかに目ざといですね。この貯水した川の水で暗夜軍を流してしまおうとは、良い策です」

 

「わ、私も、兄様達の力になれたでしょうか?」

 

 自信なく尋ねるサクラに、ユキムラは笑顔で答えた。

 

「ええ。これなら、リョウマ様達もお褒めになってくださるでしょう」

 

「それなら、良かったですっ…」

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと…これじゃ陣形が総崩れじゃないのよ!?」

 

 ルーナの叫びの通り、暗夜軍は死者こそ少ないが、ほとんどが水流によって流されてしまい、まともに闘える状況ではなかった。

 ルーナ達が水流に飲まれずに済んだのは、中央の島寄りだったから。もし、島の近くに来ていなかったら、巻き込まれていたのは確実だ。

 

「く…! マズいですね」

 

 ライルが眼鏡を光らせて、白夜側に目を向ける。白夜軍はこの好機を逃さないように、一斉に進軍を開始したのだ。

 

 彼らは、最初からこの策をあらかじめ知らされていた。だからこそ、こちらからは進軍せず、防戦の態勢を取っていたのだ。

 

「ひ、ひいぃぃぃ!!?? 白夜の軍勢が来るぅぅぅ!!??」

 

 弓を胸に抱えて怯えだすノルンが、一目散に退散する。それを見て、アイシスも焦ってノルンを追いかけ始めた。

 

「うわわ…! 僕らも急いでマークス様達のところに行かないと!!」

 

「くっ…、闇の力が疼く…。ふっ、命拾いをしたな…クリス、ルディア、ブレモンドよ。次に会った時こそ、我が真の力をお前達に見せてやろう! ……おい、待てよラズワルド! 置いてくなってー!」

 

 慌てて走り出すラズワルドをオーディンも追いかける。その様子を見て、溜め息を吐く残ったルーナ達だったが、すぐに切り替えると、

 

「もういいわ。アンタ達がそっちについたのは分かった。…ホントは了承しかねるんだけど。これじゃ暗夜軍は撤退せざるを得ないし、あたし達もここは退かせてもらう。だけど、次に会った時は覚えてなさいよ。力ずくでも、こっち側に引っ張ってやるんだから!」

 

 ルーナの言葉に、ミシェイルがルーナとライルをミネルヴァへと引き上げる。

 

「…おい、言っておくが、ミネルヴァは本来2人までしか乗せられないんだ。あまり暴れるなよ、ルーナ」

 

「な、なんであたしだけ名指しなのよー!?」

 

 騒ぐだけ騒ぐと、やかましさと共にミネルヴァが飛び去っていく。

 

 

「ここは私達の勝ち…ってとこかしら?」

 

「…結局、俺らは闘ってないけどな」

 

 去りゆく友の背を見送りながら、どこか哀愁感の漂うルディアとブレモンド。クリスは、そんな2人の肩に腕を回して笑う。

 

「良かったじゃないですか、殺し合わずに済んで。向こうも言っていましたが、今度会った時も僕らが勝って、力ずくでもこっち側に引きずり込みましょう!」

 

 遠くの方で、他の暗夜の王族達も撤退を始めるのが見え、背後では白夜王国の大きな勝ち鬨が上がっていた。

 

 白夜王国は、ひとまずの勝利を得たのであった。

 

 


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