ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第22話 VS.スサノオ

 

 スサノオ兄さんが魔竜石を掲げる。そして、魔竜石から湧き出た黒いエネルギーがその体にオーラのようにまとわりつく。

 

「!!」

 

 纏った黒きオーラが、投げるように振られると、腕の部分のオーラが私目掛けて勢いよく伸びてきた。

 

「せやぁっ!」

 

 迫り来るオーラの手を夜刀神で弾こうとするも、

 

「っ!?」

 

 夜刀神はオーラをすり抜け、それを見て私はとっさに腕でガードの姿勢を取った。

 

 ゴガッ!!

 

 夜刀神をすり抜けた黒いオーラは、私をすり抜ける事なく、私のガードした腕に的中する。

 ビリビリと痺れる腕の感覚。これは錯覚などではない。確かなダメージを私に残していっている。

 

「今のをよく防いだな」

 

 オーラが伸びた勢いと同じ勢いでスサノオ兄さんの腕へと戻っていく。

 スサノオ兄さんは腕をグルグルと軽く回して、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「何ですか…その力は?」

 

 まさか、あれこそが『魔竜石ギームル』の真の力? 避ける事しか対処の仕様がないなど、こちらにとってはかなり不利だ。その上、それは遠距離攻撃だ。これでは一方的に攻撃されるのが目に見えている。

 

「俺も驚いている…、というのは嘘だな。魔竜石の力を何度も使っていた事で、俺は所有者として完全に認められたらしい。魔竜石から、俺の頭の中にコイツの使い方がはっきりと伝わってくる。それも、恐ろしいくらいに自然な感じでな」

 

 ズオォォ、とスサノオ兄さんから発せられる黒いオーラが、より大きく空へと立ち上っていく。それと同時に、その禍々しさもより強く感じられた。

 

「不思議な気分だ…。最初から、俺と魔竜石は一つだったかのような……。ふふっ…、この力、もっと試してみたい…!」

 

 スサノオ兄さんがおもむろに、私に腕を向けたと思った瞬間、

 

 ズドン!!

 

「………な」

 

 私の頬を黒き砲弾が掠めていった。

 凄まじい速度を持った拳大のそれは、アマテラスの後方にある丘に着弾すると、大きな衝撃と土煙を生み出す。

 

「危ないな…、コントロールがまだ上手く利かないか。危うくアマテラスを殺すところだった……!」

 

 心底良かった、という顔をして息をつくスサノオ兄さん。その顔に、私は場違いにも安心感を覚えた。やっぱり兄さんは兄さんだ。たとえ道を違えようと、兄さんの本質は変わらないのだ。

 

 だとしても、だからといってここで負ける訳にはいかない。

 ここでスサノオ兄さんに負ければ、私は白夜王国と、リョウマ兄さん達白夜のきょうだいとのつながりが断たれてしまうかもしれないから。

 

 

 さしあたって、今一番の問題はスサノオ兄さんのオーラによる攻撃だ。腕のオーラを伸ばすのは、体の一部を扱うようなものなのだろう。だから、完全に切り離したオーラ弾は扱いが難しい。

 スサノオ兄さんの言葉から読み取れたのはこの程度だが、他にも必ず長所短所は存在しているはず。それをなんとか見極めなければならない。

 

 私は懐から竜石を取り出し、意識を傾ける。

 

「行きますよ……!!」

 

 竜石に封じられた私の竜の力の一部を、脚へと集中する。ちょうど、魔力で身体能力にブーストを掛けるのと同じ感覚だ。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない力を脚に感じる。

 

「…! 竜の力か…」

 

 私が竜石を手にしたのを見て、スサノオ兄さんも警戒を強め、夜刀神を構えようとする。

 私はその構えようとする一瞬の隙を狙って、一気に竜の力を解放した。一時的に私の脚が竜化すると、一足跳びでスサノオ兄さんの眼前へと躍り出る。

 

「!」

 

 私の速度に驚いたのか、竜化した脚に驚いたのか、驚愕を顔に浮かべたスサノオ兄さんに、私は夜刀神の刃を裏返して思い切り叩きつける。

 

 が、

 

「竜の力ともなると流石に速い…」

 

 いつの間にか竜化したスサノオ兄さんの腕が、私の夜刀神を受け止めていた。竜鱗で覆われたその腕は硬質で、まるで刃が通りそうにないような硬さを持っていた。たとえ裏向けていない夜刀神であっても、傷がつくかどうかも疑問に感じる程に。

 

 黒い竜腕を乱暴に横に振って、受け止められた夜刀神ごと私は振り払われる。

 即座に受け身を取って立ち上がり、竜石を高く掲げる。今度は腕を竜化させると、私は受け身を取った時に拾った石を竜の手で壊れない程度に握り締める。

 

「ッ!」

 

 更に竜石から力を引き出すと、竜化していた腕が膨れ上がり、やがて腕は手に持った石ごと、大きな竜の口へと変貌していく。

 その大きな口をグワッと開いて、

 

「ハッ!」

 

 スサノオ兄さんに向けて、竜化した腕の口内から持っていた石を撃ち出した。

 撃ち出された石は水で覆われており、それは私が竜化してやった外套の男の刀と同じ状態であった。

 石に水を纏わせたのは、水単体で撃つよりも、石を核として撃ち出した方がスピードが出るためだ。

 更に言えば、スピードを出して尚且つダメージがなるべく少なくなる方法がこれだったのである。

 竜化していた時の朧気な記憶だが、この水には攻撃と妨害の使い分けが出来る事を覚えている。

 

 狙いは、スサノオ兄さんの動きを封じる事。

 動きさえ止めてしまえば、リョウマ兄さん達の援護に行く事が出来る。マークス兄さん達を撤退させるには、こちらに有利な状況を作り上げる必要があるのだ。

 いくらマークス兄さん達が強くても、流石に多勢に無勢では退かざるを得ない。そのためにも、暗夜のきょうだいの誰かを戦闘続行不能にしなければならないのである。

 

「ちっ…!」

 

 水を纏った石の砲弾を、スサノオ兄さんは身を反らして避ける。どうやら、夜刀神で防ぐのはマズいという事が分かっているらしい。

 

(やっぱり、スサノオ兄さんにも竜化していた時の記憶がある……!)

 

 今のを夜刀神で弾こうとしてくれていたら、いくらかスサノオ兄さんの攻撃力を削る事が出来ただろうが、やはりそう甘くはないらしい。

 

「お前、早速竜石を使いこなしてるじゃないか。体の一部だけを竜化させたか。流石は俺の妹だ…」

 

 感心したように言うスサノオ兄さんは、肩を回すように腕を大きく振ると、

 

「じゃあ、俺も見習わないとな」

 

 前傾姿勢になったと思った次の瞬間、ぶちぶちぶち、と肉を破るような音と共にスサノオ兄さんの背から鋭利で真っ黒な竜翼が飛び出してきた。

 

「これは考え物だな…。これの度に服が破けると面倒だ」

 

 言いながら翼をバザバサと羽ばたかせると、スサノオ兄さんの体が地面から離れ、少しだけ宙に浮く。

 

「今はまだ高くは飛べないか…」

 

 ストンと地面に降りると、今度こそ夜刀神を構えて、猛スピードで私に向かって走り出してきた。

 

「くっ!」

 

 私は急ぎ応戦の体勢に入る。夜刀神を構えて間もなく、スサノオ兄さんの振りかぶった一撃が放たれる。

 とっさに夜刀神で迎え撃ち、2本の夜刀神が鍔迫り合いになる。

 

「ぐくっ…!!」

 

 スサノオ兄さんの夜刀神を受け止める私の腕が、徐々に押され始める。

 

「このまま押し切らせてもらうぞ!!」

 

 更に押してくる力が強くなる。このままでは押し負けてしまう。

 

「させま、せん!」

 

 竜石から力を引き出し、腕を竜化させる。それにより、力でスサノオ兄さんに勝る事が出来た私は、ゆっくりと、スサノオ兄さんの夜刀神を押しのけていき、

 

 

 

「言い忘れてたが、俺の腕は今4本だ」

 

 

 

「がっ…!?」

 

 突然私の左右から襲い来る続けざまに2発の衝撃により、全身を強打される。

 そして更にもう1発、よろめく私の体にスサノオ兄さんからの蹴りを入れられ、後方に大きく吹っ飛ばされる。

 ゴロゴロと何度も転がってようやく体が止まり、息が一気に口から漏れ出す。

 

「ケホッ、ゴホッ、…ハァ、ハァ、何、が…?」

 

 痛む体を何とか起こして、飛ばされた方を見ると、スサノオ兄さんの背では翼が大きく開かれていた。

 それを見て、すぐに何が起きたのかを理解する。さっきの攻撃はあの強靭な翼膜を叩き付けられたのだ。

 それだけでも、あれほどの衝撃を受けたというのに、もしスサノオ兄さんが本気で私を殺しにかかっていたら、あの鋭い刃のような翼を振るっていただろう。

 

「…ハァ、遠近自在なんて、ハァ、反則じゃないですか……!」

 

 離れればオーラの攻撃が、近づけば竜の体を活かした攻撃が。

 これでは迂闊な事が出来ない。せめて遠距離攻撃だけでも何とかしたいところだが……。

 

「……」

 

「全身が痛むだろ? だから、もうこんな争いは止めて、俺達と一緒に暗夜王国に帰ろう! 俺達の家があるのはこっちなんだ!」

 

「…いいえ。私の家があるのは、そちらだけじゃありません。白夜にも、私達の帰るべき場所が、家があります! お母様が守り続けてきた家が! 国が! 白夜王国だって私達の大切な故郷なんです! だから、兄さんこそこっちに戻ってきてください!」

 

 もはや届かないと分かっていても、私は叫ぶ。どうしても、諦めきれなかったから。

 ただ、それはスサノオ兄さんにしても同じ事。どうあっても、私達の主張は片方しか認められないのだ。

 

「…もう話し合いで解決出来る段階はとっくに過ぎてるって事くらい分かってる。やっぱり、力ずくしかないみたいだな」

 

 スサノオ兄さんの夜刀神を持つ腕が竜化していく。あの剛腕で夜刀神を振るわれたら、無事では済まないだろう。

 私もそれに対応するため、腕だけではなく脚も竜のものへと変えていく。

 

「ふっ!」

 

 黒いオーラの腕が私へと勢いよく伸びてくる。私はそれをしゃがんで避けると、頭上を素通りしたオーラを掴んだ。

 剣をすり抜けても、体には当たった事から、掴める事は分かっていた。

 すぐに起き上がり、掴んだオーラをそのまま手繰り寄せるように一気に引っ張る。

 

「うおっ!?」

 

 竜の腕で引っ張られたスサノオ兄さんは急な事に驚き、オーラごとこちらへと吸い寄せられてくる。

 

「当たれーーー!!!」

 

 全力でオーラを引っ張った腕はそのまま後ろにして、そしてこちらに引っ張られたスサノオ兄さんに向けて、力を込めたその拳で思い切り殴りつけた。

 

「ぐぶっ!!?」

 

 私の竜の拳がスサノオ兄さんの腹に綺麗に吸い込まれていき、その体がグンと吹き飛んでいく。

 何度もバウンドしながら転がっていくスサノオ兄さんの体が、ようやく止まり、ゆっくりと立ち上がろうとするが、

 

「う、く」

 

 腕に上手く力が入らないのか、なかなか起き上がってこれない。私は倒れ伏す兄さんの元まで歩を進めて言う。

 

「これで決着はつきました、スサノオ兄さん! 私の勝ちです! だから、白夜王国に……」

 

 

 ───戻ってきて。

 

 そう言おうとした時だった。

 

 

 

 ズシャア!!

 

 と、突如私のすぐ近くに、何かが大きな音を立てて空から落ちてきたのだ。

 

 土煙でよく見えないが、それによって私の意識がスサノオ兄さんから離れてしまっていた。

 だから、気付くのに遅れてしまった。

 

 

「ああ…私の可愛いスサノオ…。こんなに傷だらけになって、大丈夫…?」

 

 

 スサノオ兄さんの頭上に、カミラ姉さんが空から急降下してきたのだ。

 

「アマテラス…あなたがやったの? お姉ちゃん、きょうだい喧嘩は嫌いなのよ…」

 

「…カミラ姉さん」

 

 スサノオ兄さんを倒して助太刀に行くはずが、逆に1対2になってしまっている。

 カミラ姉さんの強さは、あの国境の砦の時によく分かっていた。

 

 私は、このままでは絶対に負ける。

 

 

「……!!」

 

 土煙がようやく晴れていき、私は落ちてきたものの正体に驚愕する。

 

 美しい白い毛並みに、鳥のような大きな翼。それは天馬。ヒノカ姉さんの愛馬である天馬が、空から降ってきたのだ。

 

 主人と共に。

 

 

「ヒ、ヒノカ姉さん!!」

 

 天馬のすぐ傍で倒れるヒノカ姉さんに駆け寄り、抱き起こす。

 どうやら命に別状はないらしく、意識も辛うじてあるようだった。

 

「く…済まない、アマテラス…。スサノオを連れ戻すと意気込んでいたというのに…このざまだ…。くそ…くそ、クソォ……!!」

 

 涙がヒノカ姉さんの頬を伝う。傷だらけの体で、涙を拭う事すらままならず、ヒノカ姉さんはスサノオ兄さんを取り戻せなかった悔しさと、再び、しかも今度は目の前で連れていかれる悲しみに、悲壮な表情を浮かべていた。

 

「残念だけど、スサノオを連れて帰って治療しないといけないの。アマテラス…また、今度会いましょう? その時こそ、もう一度私の胸に飛び込んでいらっしゃい…。あなたが戻ってきてくれるのなら、お姉ちゃん、とても嬉しいわ」

 

 カミラ姉さんがスサノオ兄さんを担いで自身の竜に乗せると、自分も竜へと跨がり、飛び立っていく。去り際の寂しそうな横顔に、私の心が痛んだ。

 ギュッと締め付けられるかのように……。

 

 




どうも、やっと忙しさから抜け出せたキングフロストです。

この前のサプライズ投稿した翌日から今日まで、忙しすぎて全然手につきませんでした。いざ書こうと思っても、途中で寝落ちしてしまい、起きたら朝でそのまま…と疲れもあって書けませんでした。

でもまあ、ようやく地獄の忙しさは抜け出せたので、気ままに投稿していきたいな、と思います。
それでは、お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。

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