ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第2章 白夜編 光を追う者
第21話 光へ手を伸ばす


 

 私はマークス兄さんに向かって、夜刀神を構える。

 

「マークス兄さん…兵を退いてください」

 

 私は選んだ。白夜を、本当の家族を。

 

「なに? アマテラス、まさか…白夜側につく気なのか?」

 

「はい…私は、白夜の側で闘います。そう決めたんです」

 

「アマテラス…。スサノオ、お前もそうだと、そう言うのか…?」

 

 スサノオ兄さんは、黙ったまま眼を閉じて動かない。

 

「…確かにお前達は、元は白夜王国の王族だ。私とお前達に、血の繋がりは一滴もない。だが、お前達が暗夜王国に来たその日から、私にとってお前達は本当のきょうだいだった。誰が何と言おうとお前達は…スサノオとアマテラスは私の大切な家族だ」

 

 もう一度、マークス兄さんが私達に向かって手を差し出してくる。

 

「カミラもレオンもエリーゼも、みんな同じ気持ちだ。父上だって、きっと。お前達は暗夜王国の人間だ…! 戻ってこい、スサノオ、アマテラス!」

 

「すみません、私達は戻れません。見たんです、ガロン王の卑劣なやり方を。町が破壊され、罪もない人達が死に、そして……白夜女王ミコト…お母様までも…」

 

 脳裏に蘇ってくる、母の最期の言葉。自分の命よりも、我が子を守れた事を喜んで逝った、お母様の暖かい言葉。

 

「あの…兄さんはさっき、お父様も同じ気持ちだと言いましたよね。ガロン王も、私達の事を家族だと思っていると。ですが、私達は白夜女王に庇われなかったら…ガロン王から渡された剣の爆発で死んでいました。本当に家族だと…そう思っているのなら、私にそんな事をするはずがありません…」

 

 敵を倒すために、我が子を犠牲にしても構わないようなあの策略。それを実行した者に、人としての心があるとは思えなかった。

 

「ガロン王にもし人の心があるのなら、白夜王国にこんな真似をするはずがありません! ガロン王こそが悪なんです!」

 

 私の言葉に、マークス兄さんは怒りを隠さず、

 

「何事を…! 父上が悪であるはずがない」

 

「兄さん…! ガロン王のしている事は、間違っています。兄さんも私達と…白夜王国と共に闘って……」

 

 

 

 

「いや、違うな」

 

 

 

 

「え…?」

 

 私の言葉を遮るように言い放ったスサノオ兄さんに、私は驚きを隠せない。一体何が違うというのか、見当がつかないからだ。

 

 ゆっくりと、マークス兄さんの元へと歩き出すスサノオ兄さん。私は止めようと、手を伸ばすが、もう届かない。

 

「スサノオ…?」

 

 そして、振り返ったスサノオ兄さんは、悲しい笑みを浮かべて、

 

 

 

 私に夜刀神を向けていた。

 

 

 

「俺は、白夜王国には戻れない。俺の家族は、暗夜にいる。俺の家は、暗夜にある。俺は、もう白夜には帰れない」

 

 スサノオ兄さんの言葉に、一切の迷いはない。心の底から、本心のままに語っているという事が、嫌でも分かってしまう。

 

「そん、な……だって、白夜であんなに楽しく過ごしたじゃないですか…! お母様とだって、昔話をいっぱいしたじゃないですか! ガロン王の卑劣な行いを、この目で見たじゃないですか!!」

 

「それでも、だ」

 

「!!」

 

 スサノオ兄さんの目には、もう決して変わらないという強い意思が宿り、私を見つめていた。

 

「俺はな…アマテラス、昔ある事を誓ったんだ。とても遠い昔、今じゃはっきりと全部を思い出せないが、確かに誓った事がある。どんな事があろうと、『妹を守る』ってな」

 

「…! な、なら! 私と一緒に…」

 

「お前と一緒に行ってしまえば、エリーゼはどうなる? 俺にとって、お前と同様にエリーゼも大切な妹なんだ」

 

「でしたら、サクラさんだって…」

 

 私の言葉に、スサノオ兄さんは首を振る。

 

「確かにそうかもしれない。だが、お前がそっちを選んだ時点で、俺とお前はもう同じ道を歩めない。絆で繋がった妹を、家族を、俺は置いてはいけない」

 

 もう、何を言っても、スサノオ兄さんには届かない。それがはっきりと分かってしまった。

 そして、更にスサノオ兄さんは言葉を続けた。

 

「お前が白夜につくと言うのなら、俺が、俺達が力ずくでもお前を連れて帰る」

 

「そうだな…帰ってから、説教をせねばならんだろう」

 

 マークス兄さんとスサノオ兄さんが、私へと剣を構える。だけど、私は……。

 

 

 

 

 アマテラスは剣を構える事が出来なかった。たとえ、白夜王国につくと決めても、暗夜のきょうだいを傷付ける事なんて出来なかったのだ。

 

 それでも、スサノオ達は止まってはくれない。

 

 

「何をボケッとしてる!」

 

「! リョウマ、兄さん…」

 

 立ち尽くすアマテラスの前に、雷神刀を携えてリョウマが踊り出た。その目に、強い怒りを宿しながら。

 

「どういう事だ。何故、そちら側についている、スサノオ!」

 

 リョウマの怒声を、スサノオは静かに受け止め、そして、

 

「俺は選んだ。暗夜につく事を」

 

「何故だ…! そいつらは、暗夜は母上を殺した奴らだぞ! それが分かっていながら、お前は暗夜に味方すると、そう言っているのか!?」

 

「…ああ」

 

「分かっているのなら何故、暗夜王国側につく理由がある!? お前は白夜王国の王子なんだぞ!? 本当ならお前は、俺達と共に白夜王国で育つはずだった! それなのにお前は、自分を連れ去った敵国のために闘うというのか!」

 

「…ああ」

 

 リョウマの顔が、苦痛に歪む。弟は、自分達を捨てたのだと。取り戻したかった繋がりは、もう戻ってこないのだと。

 

「よく言った、スサノオ。さあ、行こう! 白夜に誑かされたアマテラスを、連れ戻すのだ!」

 

「黙れ! 貴様らこそ、よくもスサノオを誑かしてくれたな…! 力ずくでも、スサノオは白夜に連れて帰る!」

 

 2人の王子が、互いに剣を構えて睨み合う。その殺気も闘志も、今までのどんな時よりも、とても濃厚で、立っているだけで頭が痛くなるような錯覚がするほどだった。

 

 そして、互いの他の家族も、こちらへとやってくる。

 

「暗夜を裏切るなんて、許さない。絶対に逃がさないよ、アマテラス姉さん…」

 

「暗夜は母上の仇…! 全員、僕が倒してやる…!!」

 

「やっと、やっときょうだいが元に戻ろうとしているんだ…。もう二度と、スサノオもアマテラスも貴様らなどに渡しはしない!」

 

「うふふ…。白夜は皆殺しよ…。そうすれば、アマテラスだって私達の元にきっと帰ってきてくれる…」

 

「わ、私もっ、頑張りますっ! それで、スサノオ兄様に帰ってきてもらうんですっ…!」

 

「よ~し! 頑張って、アマテラスおねえちゃんを取り返すからね!」

 

 きょうだい達が、互いにスサノオとアマテラスを奪い返そうと意気込んでいる。

 大切な人達が、殺し合おうとしているのだ。それを黙って見ているなんて、アマテラスには出来ない。

 

「や、止めてください! どうか、軍を退いてください!」

 

 アマテラスの叫びも、もはや皆には届いていない。

 

「…もう、闘うしか…道は無いのですか…」

 

 どうしてこうなってしまったのか。自分の選択がいけなかったのか。

 

 もはや、戦闘は避けられなかった。

 

 

 

「一度、貴様とは決着をつけなければならないと思っていた…。貴様を倒し、アマテラスは暗夜に連れ戻す!」

 

「ふん…それはこちらの台詞だ。俺が貴様に勝ち、スサノオの目を覚まさせる!」

 

 マークスとリョウマが、互いに剣と想いをぶつけ合い始める。

 それに続くように、他のきょうだい達も闘いを開始した。

 

「貴様らを打ち倒し、私の大切な弟と妹は何としてでも守る! 白夜第一王女ヒノカ! 参る!」

 

「何度言えば分かるのかしら…? スサノオもアマテラスも、私の弟と妹だというのに。あなたを殺せば、私の可愛いアマテラスもきっと、私の元へと帰ってきてくれる…」

 

 ヒノカが天馬に乗って天へと駆けて行き、その後をカミラが斧を肩に担いで、飛竜を駆って追いかけていく。

 

「いいよ、暗夜一の魔法を、特別に見せてやる。僕に挑んだ事をせいぜいあの世で後悔するんだね」

 

「黙れ! 死ぬのはお前だ! 僕が、お前を殺してやるんだ…!」

 

 レオンとタクミによる、魔法と矢の押収が辺りを破壊していく。

 

「さあ、俺達も始めよう。アマテラス」

 

 スサノオは、夜刀神を構え直してアマテラスへと宣告する。

 

「もう…戻れないんですね。スサノオ兄さん…」

 

 アマテラスも、夜刀神を構えてスサノオと対峙する。その眼には、涙が溢れていた。

 

 

「俺はお前を倒してでも

 

 

 

 

 暗夜へ連れて帰る」

 

 

 


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