ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第17話 哀しみの覚醒

 

 しばらくして、スサノオ組とアマテラス組はそれぞれが露店を楽しんだ後に目的の『炎の広場』へとやってきた。

 広場の中心には大きな竜の像がとぐろを巻くように立っており、白夜王国を見守っているかのようだ。

 

 サクラ達もようやく合流し、その手には小さな包みが。タクミはふてくされたように、片手に同じ包みをぶら下げていたが、サクラの持つ包みに重ねると、そっぽを向いてしまう。

 

「…あはは」

 

 その様を苦笑混じりに見て笑うアマテラス。ふと、この広い空間を回りながら見渡すと、アマテラスは隣にいたアクアに、呟くように話す。

 

「アクアさんやサクラさんの言っていた通りですね。みなさん、良い人達ばかりです。それにみなさん楽しそうで、良いですね、こういう所も…」

 

「良かった…気に入ってくれて。私もこの町が好き」

 

 アクアも、アマテラスが自分と同じ気持ちでいてくれる事に、心から喜んでいた。

 しかし、その様子を見て快く思っていない者がいたのもまた事実だった。

 タクミが、険しい顔つきでアマテラス達へと歩み寄る。

 

「アクア。それとアマテラス…姉さん、と、今は呼んでおくよ。母上も、それを望んでいるようだからね」

 

「………」

 

「調子に乗るなよ…? 僕はあんた達3人を信用していないからな」

 

 タクミの物言いに、アマテラスは黙って聞き、アクアも辛そうにタクミを見た。少し離れているスサノオもまた、何ともいえない顔して、成り行きを見守る。

 

「タクミ…」

 

「気安く呼ぶなって言ってるだろ」

 

 アクアを拒絶するように、タクミはアクアの言葉を一掃する。

 

「あんたは、父上を殺した暗夜王国の王女なんだ。信用出来るはずがない。アマテラス、そしてスサノオ、あんた達も同じさ。その年まで暗夜王国の王族だったんだ、今さら…」

 

 そこで、今まで黙っていたスサノオがようやく口を挟んだ。

 

「いや…。矛盾してるぞ、タクミ」

 

「なに?」

 

「その理屈なら、俺達と同じだけこの白夜王国で暮らしてきたアクアは、もうすっかりお前達の仲間のはずだろう?」

 

 スサノオの言い分に、タクミは少し言いよどみ、顔を反らしてしまう。

 

「…ふん。とにかく僕はあんた達を信用してない。それを言っておきたかっただけさ」

 

 言うだけ言うと、タクミはさっさと竜の像の下まで行ってしまう。

 そこに、サクラが団子の包みを持って駆け寄ってきた。今まで、タクミのせいで近寄りにくかったみたいである。

 

「スサノオ兄様、アマテラス姉様…。こ、これっ、お口に合えば…。このお団子、甘くて美味しいって白夜王国でも人気なんです。みんなの分も、はいっ」

 

 重なった包みを落とさないように、サクラが慎重に包みの封を開ける。

 

「ありがとうございます、サクラさん」

 

「ありがとう、サクラ」

 

 スサノオとアマテラスも差し出された包みから団子を取ると、優しい笑みをサクラへと向ける。

 

「は、はいっ!」

 

「……」

 

「…サクラ。俺達は、お前と同じくらいの年の女の子を知っているんだ」

 

「えーっ、だだ、誰ですか?」

 

 大げさな驚き方をするサクラに、スサノオとアマテラスは微笑ましく感じた。

 

「スサノオ兄様とアマテラス姉様のそのっ、そのっ、お友達とか……」

 

「ええと……まあ、そんなところだ」

 

 まさか、実の妹に『暗夜での妹の事だよ』などと言う訳にもいかず、誤魔化すスサノオだった。

 

「さあみんな、そろそろ時間だ。さっさと食べ終えてしまえ。民の皆も集まってくるのに、のんきに団子を頬張っていては示しがつかないからな」

 

 と、サクラから団子を受け取ると、パクパクと団子はヒノカの口の中へと消えていく。

 見事な早食いを前に、スサノオ達も団子を急ぎ食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それほど時間も経たずに、執務を終えたミコトとリョウマも炎の広場へとやってくる。

 

「お待たせしましたね…」

 

「民達も集まっているようだな」

 

 リョウマの言う通り、すでに炎の広場には大勢の白夜の民が集まってきており、帰ってきた第二王子と王女を一目見ようと、ちょっとした混雑が出来上がっていた。

 

「さあ、スサノオ、アマテラス…」

 

 竜の像を背にする2人の前に立ち、民へとお披露目しようとミコトが手招きをする。

 それを、他のきょうだい達も少し離れた所で見守っていた。

 

 

 しかし、平和な時間は一瞬にして崩れ去る。

 

「……なんだ?」

 

 異変に真っ先に気付いたのは、リョウマだった。ちょうど、スサノオ達と正面に当たる離れた場所で、人混みが綺麗に左右へと分かれていくのだ。

 そして、その中心に佇む長い外套を纏った誰かが、身体中に数珠のようなものを巻き付けるようにして立っていた。

 

 その異様な姿に、民達も異変を察して避けていたのだ。

 その謎の人物は、手を伸ばす。スサノオ達に向かって。

 

 いや、正確には、アマテラスへと向かって。

 

「……!」

 

 ここにきて、ようやく異変に気付いたスサノオとアマテラスだったが、気付いたところで何も変わりはしない。外套の人物が手を伸ばした先にあるもの、それは───。

 

「な!? ガングレリが…!?」

 

 アマテラスの腰に差されていたガングレリは独りでに宙へと飛び出し、回転しながら外套の人物の手元へと飛んでいったのだ。

 

 そして、初めてアマテラスは気付いた。ガングレリの柄に、大きな瞳が蠢いていたという事に。

 

「…!?」

 

 ミコトもガングレリが飛んでいった事で、背後の異変に気がつく。

 その視線の先では、既に外套の人物が異形の剣を振りかぶっているところだった。

 

 

 地面へと突き立てるように、外套の人物はガングレリを勢いよく大地へと突き刺す。

 すると、そこを中心に紫色のエネルギーが円上に発生したと思った次の瞬間、

 

 ドバァッ!

 

 一気に広範囲へと拡大したのだ。その爆発は、周囲にいた人々を吹き飛ばし、周りの建物をなぎ倒していく。

 

「……ククク」

 

 その不気味な笑い声が聞こえると、ガングレリから飛び散った破片が、一斉にスサノオとアマテラスへと目掛けて飛来した。

 

「!!?」

 

 何もかもが突然すぎて、2人はとっさに腕で身をかばおうとするが、到底助かりはしない。

 このままでは、確実に死ぬ。

 

 

 

「────あ」

 

 

 死ぬ、はずだった。

 

 

 2人の前に居たミコトが、飛来するガングレリの破片をその背で受け止めたのだ。

 

 母親として、何としても我が子を守りたい…。親心ゆえに、ミコトの体は自然と動いていた。

 

 

「────あ、あぁっ」

 

「は、母上!」

 

 倒れてくる母親を、受け止めるスサノオ。アマテラスは、信じられないものを見たと言わんばかりに、両手で口を覆い、目を見開いて、愕然としていた。

 

「…け、怪我は…あり、ま…せん…か……?」

 

 スサノオの腕の中で、ミコトが掠れる声で尋ねてくる。その手をギュッと握り締め、スサノオは必死に答えた。

 

「は、はい…! 俺も、アマテラスも、無事、です」

 

 苦痛に耐えながらも、ミコトは笑顔を崩さずに、スサノオとアマテラスへと笑いかけて言う。

 

「…良かっ…た…、私…の…可愛い…スサ、ノオ……アマ…テラス……」

 

 穏やかに笑いながら、震える手が、スサノオの頬を優しく撫で、そして、

 

 

 力無く、地面へと落ちていった。

 

 

「はは、うえ…?」

 

 スサノオの手に、ずしりと重みが増す。そして手には、暖かく、しっとりとした感触があった。

 それは、スサノオの腕を、肘を、胴を、膝を伝い、石の大地へと浸透するように流れていく。

 白い石を、真っ赤に染めながら、広がっていっていた。

 

「おかあ、さま…? お母様…? おかあ、さ…ま」

 

 アマテラスの悲痛な泣き声が、広場へと響き渡る。

 

「か、母様っ!!」

 

 ミコトが倒れたのを目の当たりにしたサクラが、血相を変えて駆け寄ろうとするが、それを前にいたリョウマが制して止めた。

 

「…何者だ、貴様…!」

 

 その顔に怒りを隠そうともせず、腰に差された刀を抜く。

 

 バチチ、と雷を纏った刀を手に、リョウマは外套の人物へと向けて、武器を構えて走り出す。

 

「よくも母上を!!」

 

 一気に間合いを詰めると、一切の手加減なく、外套の人物を一閃する。

 

「なに!?」

 

 が、手応えはまるで無く、切り裂かれた外套が宙を舞うのみ。

 

 

「母上…母上…母上ェェェ!!!!」

 

 絶叫を上げ、茫然自失となるスサノオの腕から、血で滑ったミコトの体がズルズルと地面へと倒れていく。

 

「あ、ああ…ああ…」

 

 両手はべっとりと、母の鮮血に染まっていた。

 

「あ───あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」

 

 スサノオとアマテラスが、目の前の受け入れがたい現実に、喉を裂くように叫ぶ。

 絶望に満ち満ちたその雄叫び。

 

 そこで2人の思考は、飛んだ───

 

 

 

 

 

 

『ガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!』

 

 すさまじい雄叫びと共に、スサノオとアマテラスの体から紫色のオーラが天へと昇り始める。

 

「何事だ!?」

 

 背後で起きた更なる異変に振り向くリョウマ。そこにあったのは、当に異常な光景だった。

 

 頭を抱えるようにうずくまるスサノオとアマテラス。次第にその腕は大きく伸び始め、続けて次に脚が同様に大きく伸びる。

 体が何倍にも膨れ上がり、背には飛竜のような翼が、頭は完全に獣のように変化していき、長い角がしなやかに伸びていた。

 4本の足で立つその姿は、まるで馬のようだが、見た目は全く異なる。例えるなら、そう、

 

 

 ───伝承にある、竜のような。

 

 

 アマテラスの姿は、もはや人のそれではなく、完全に白銀の竜へとその姿を変えていた。

 

 そして、それとは対照的であるかのように、スサノオはアマテラスとは異なる姿へと変貌していた。

 

 体はアマテラス同様に何倍にも大きくなっていたが、その手足は強靭で凶悪な鉤爪を持ち、何より違うのは、その翼。大きさはアマテラスの倍程で、刃をそのまま翼にしたように鋭利で、艶やかな光沢を放っている。

 顔は竜そのもので、頭から生えた角はアマテラスのようにしなやかではなく、太く槍のように鋭い。

 2本の足で立つその姿は、竜というよりも、ドラゴンに近いものがある。

 そして、アマテラスの白銀とは打って変わって、スサノオは全身を漆黒に染めていた。

 時折、口からは黒い煙がその姿を覗かせている。

 

 

 この、まるで対のような2体の竜を見た者は、こう言うだろう。

 

 

 

 

 ───『白光と黒闇の双竜』、と……。

 

 




アマテラスは原作通りの見た目ですが、スサノオは印象としてはFFのバハムートを想像してもらえば良いと思います。更に言えばFFⅨのが一番イメージに近いかも。
次点でタクティクスオウガのダークドラゴンでしょうか…。

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