ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

16 / 113
第13話 白夜の同胞

 

「…ええっ!? 私が…あなたの子!? ど、どういう事なんですか、いったい!」

 

 本当に予想だにもしなかったその言葉に、私の頭は理解を追いつくどころか、真逆の方向へと走り続けている。

 

 女性が名残惜しそうに私から抱擁を解くと、優しく私の頬を撫でて言う。

 

「いいですか、アマテラス。あなた、そしてスサノオはこの白夜王国の王子と王女…。幼い頃…あなた達は暗夜王国にさらわれ、連れ去られてしまったのです。私はあなた達の母ミコト。私達は家族なのですよ」

 

 慈しみの笑みを浮かべて、ミコトは尚も私の頬に手を置いていた。

 その手から伝わってくる体温は、どこか懐かしくて、不思議と安心感が湧いてくる。

 しかし、私は父であるガロン王から聞いたはずだ。私の母親は既に死んだ、と……。

 

「そんな…あなたが、私の本当の母親? うそです、そんな事…信じられません」

 

 体はもはや頭では思い出せない古き記憶を覚えているとでも言うかのように、私の意思とは関係なく、ミコトから感じる暖かさを受け入れていた。

 だが、私の心が、それを認めようとはしていない。いや、認めたくても、認められない。

 何故なら、私には、マークス兄さんやカミラ姉さん、レオンにエリーゼと、暗夜のきょうだい達がいるからだ。

 

「ああ、そうだろうな。だがこれは…本当の事だ」

 

 今まで静かに見守っていたリョウマが、穏やかに微笑んで、私に語りかけてくる。

 

「…俺はリョウマ。お前の兄だ」

 

「…私の、兄さん…?」

 

 私の、『兄さん』という呼びかけに、リョウマは大きくは表情に出さないが、それでも嬉しそうに頷いた。

 

「そうだ。はっきりと憶えている、お前がさらわれた時の事は。あの時…当時はまだ友好関係にあったはずのシュヴァリエ公国を訪問していた父、白夜王スメラギは突如敵に襲われた。暗夜王ガロンの騙し討ちにあったんだ…」

 

 語るリョウマは目をつぶり、噛みしめるように口にする。

 その顔は、辛い記憶を思い出していると、物語っていた。

 

「そこで白夜王は…お前の父親は、命を落とした」

 

「白夜王スメラギ…」

 

 話を聞くうちに、次第に私の心は、信じられない内容であるというのに、耳を傾け始めていた。

 

「それが私の本当のお父様…?」

 

「本当に覚えていないのか? 少しでも思い出せないか?」

 

 リョウマに問われるも、何も覚えていないし、何も知らない。だから、そもそも思い出すどころの話ではないのだ。

 

「…思い出せません…何も…」

 

「そうか…まあ無理もないな。お前の兄スサノオも、同じ反応だったからな。アマテラス、これはスサノオにも言った事だが…、今信じろとは言わない。すぐには受け入れられない話だろう…」

 

 仕方ない。だが、そのうち絶対に認めてもらう。そんな意思の強さが、言葉には込められているのが感じ取れた。

 

「では、スサノオも呼んで……」

 

 そんな時だった。1人の白夜兵が、慌てるように王の間へと駆け込んできたのだ。

 

「報告です! 北方の山の村々が敵襲を受けています!」

 

「なに!?」

 

 兵の報告を耳にした途端、リョウマは声を荒げて叫んだ。

 

「あの辺りには今、ヒノカとサクラが…」

 

「はっ。ヒノカ王女とサクラ王女は村にとどまり、村人達を避難させています!」

 

 兵の報告を聞き終えると、リョウマの顔つきが変わる。先程までは穏やかだったが、今は武人のそれだ。

 

「…分かった。俺もすぐに向かう! アマテラス、お前も共に来てくれ。お前の目で真実を見極めて欲しい」

 

 リョウマは私の瞳を真っ直ぐに見つめて頼んでくる。その曇りのない目に、私は意を決し、頷いた。

 

「よし…。すぐに出る! スサノオも呼んできてくれ! 今はあいつの部屋にいるはずだ。そのまま城門へと向かわせるんだ」

 

「はっ!」

 

 報告に来た白夜兵は命令を受けると、即座に王の間から走り去っていく。

 

 続いて、リョウマとスズカゼも外へと向かい始める。

 

「無事に、また帰ってきてくださいね…アマテラス。そしてスサノオ…」

 

 リョウマ達の後に続く私の背には、ミコトの心配する声が届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪が一面を真っ白に染める銀世界。村から離れた山間において、2人の女性が窪みに身を隠していた。

 

「ごめんなさい、ヒノカ姉様…。私が足をくじいてしまったせいで…」

 

 気弱そうな少女が、足を押さえながら謝る。そんな様子を見て、もう1人のヒノカと呼ばれた女性は、少女を安心させるように柔らかく微笑んで、

 

「大丈夫だ。民を守るために頑張ったサクラはとても立派だった。村人達はまだ避難の途中…誰かが残って戦わねばならない」

 

 そう言って、立ち上がるヒノカ。覚悟を決めたその顔には、凛々しく美しい勇ましさがあった。

 

「たとえ劣勢でも、白夜の王女として戦い抜いてみせよう」

 

「は、はいっ、姉様…」

 

 サクラと呼ばれた少女もまた、その手にした杖を握り締め、立ち上がる。少しでも、姉を助けるために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告にあったのはこの辺りだったな…!」

 

 道中を急ぎ駆け抜けた俺達は、休憩する時間も惜しんでここまでたどり着いた。

 

「いいか、スサノオ、アマテラス。報告によれば、敵は数が多く、広範囲に散っているようだ。決して1人で行動はせず、必ず最低でも2人以上で行動するんだ」

 

 リョウマはそう言って、雪原を駆け出した。

 今リョウマ自身が単独行動を注意したばかりだというのに、その行動に呆気に取られていると、スズカゼがその意味を教えてくれる。

 

「リョウマ様は白夜王国一の剣士。そうそう危険な事はないでしょう。情報では、敵はノスフェラトゥの軍勢です。おそらくリョウマ様は敵を引き付け、少しでもヒノカ様とサクラ様への危険を減らそうとしているのです。そして、私達もその間に少しでも早くお2人の救助に行かなければなりません」

 

「そういう事だ。だからボケッとしてる暇は無いぞ、スサノオにアマテラス」

 

 リンカが俺とアマテラスの背を力強く、バシッと叩く。確かに、こんな所で足踏みしている訳にもいかない。

 まだ納得した訳ではないが、罪無き命を守るのが先決なのだ。

 

「は、はい! 行きましょう!」

 

 ガングレリを手に、アマテラスがリンカと共に走り出した。それに俺とスズカゼも続く。

 しかし、雪原というだけでも走りにくいというのに、目に付くのは岩山ばかりで、これでは敵の姿が見えないばかりか、進行の邪魔でしかない。

 と、そんな時、俺の体が直感的にある事に気付く。岩山の少し手前、そこから感じられる大地の力…『竜脈』だ。

 

「俺が先行して道を開く! お前達は速度を落とさず、そのまま走れ!」

 

 懐から魔竜石を取り出すと、意識をそこに集中させていく。すると、俺の体を黒いオーラが包み込み、力が増幅していくのが分かる。

 

 一気に踏み込んだ足で岩山へと距離を詰めると、勢いよく地面へと拳を叩きつけて叫ぶ。

 

「『竜脈』よ! 大地を穿て!!」

 

 拳を通して、地面から俺の体へと竜脈の力が循環していく。すると突如、岩山は跡形もなく吹き飛んで、見通しの良い平野が現れた。

 

 その様子を眺めていたリンカが、驚きの声を上げる。

 

「!? 岩山が…跡形もなく……。あれも…『竜脈』なのか…? まさか、これほどの力が…」

 

「王族は神に最も近い者…、そう伝えられています。神宿る地を見出し、呼び起こす…。王族ご自身にさえ御しきれぬ力…。今はそれが、ヒノカ様達を救う鍵となるかもしれません」

 

 リンカ達は感嘆しながらも、俺の言った通りスピードはそのままで新たに生まれた道を駆け抜けていく。

 

「俺が大きく道を切り開いていくから、アマテラスは細かに周りを整えてくれ!」

 

「はい! 『竜脈』よ…業火の炎を!」

 

 俺が大きな岩山を、アマテラスが雪山を炎によって溶かしていく。すると、初めて敵の姿を見る事が出来た。

 

「なんだ…あれは? 人間じゃ、ない…?」

 

 その姿は、ゴツゴツとした体表に覆われ、皮膚は継ぎ接ぎだらけにも関わらず、隆々とした筋肉が見て取れる。灰色の肌に、顔には頭をすっぽりと覆うようにマスクが装着されており、時折吐き出される吐息は紫がかっていた。

 

「ノスフェラトゥだ。暗夜王国が作り出した、死した兵士だよ」

 

 こちらに気付くなり、ノスフェラトゥの集団が向かってくる。

 

「こちらと同じ数ですね。幸い、奴らはそこまで俊敏ではありません。1人1体でも十分でしょう」

 

 スズカゼは向かいくるノスフェラトゥに向かって、彼の武器である手裏剣で攻撃する。

 リンカもまた、ノスフェラトゥの1体へと突進していった。

 

「アマテラス、敵が暗夜の兵だろうと今は気にするな! 躊躇すれば、俺達が殺される!」

 

「はい! あとで事情を話せば、お父様やマークス兄さん達も分かってくれるはずです」

 

 魔剣を手にしたアマテラスから目を離し、俺は目前のノスフェラトゥへと注意を向ける。

 

「こんな所で、立ち止まっている訳にはいかないんだよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ヒノカ達にもノスフェラトゥの攻撃がおよび始めていた。

 

「民を脅かす怪物よ、このヒノカが相手になろう!」

 

 天馬の馬上で、槍を構えてヒノカは叫ぶ。その背後には足を痛めたサクラがいるため、あまり高く飛んで動く訳にはいかない。

 

「グゴガァァァ!!」

 

 ノスフェラトゥが闇雲に拳を振り回しながら、ヒノカに襲いかかる。それを拳が当たる直前で槍により叩き落としていく。

 

「参る!」

 

 乱撃の隙を突いて、槍の刃先がノスフェラトゥの腕、胴と切り込みを入れていくが、まるで怯んだ様子もなく、逆に槍の柄を掴み取られてしまう。

 

「ぐ、くそ…!」

 

 どんなに力を入れても、まるでびくともせず、動きが止められてしまう。

 

「ガガ、グガァァ!!」

 

 空いた手でヒノカ目掛けて拳を打ち込もうとしたその時、

 

 コツン。

 

 と、ノスフェラトゥのヘルメットに小さな石がぶつかった。それにより、一旦動きが止まると、石が飛んできた方へ顔をギギギと傾ける。

 

「…わっ、私も白夜の王女です。お、怯えたりしませんっ…」

 

 動きを封じられた姉を救おうと、必死になって小石を投げつけたサクラ。しかし、その目にはやはり恐怖によって少し涙が滲んでいた。

 

「ググギ、ギギギガガ「隙あり!」ゴガガ!?」

 

 その一瞬の隙を狙って、ヒノカが天馬の上から会心の蹴りをノスフェラトゥの頭部へと放ったのだ。それにより、ノスフェラトゥの手から槍が放され、即座に連撃を敵の首へと打ち込むヒノカ。

 

 ノスフェラトゥの弱点は頭部にある。死んだ肉体を操るために必要なのは脳。脳に仮初めの命を与える事により、脳から無理やり作り替えた死人の肉体を動かせているのだ。そして、首には肉体へと繋がる神経が大量に存在しており、首への攻撃もノスフェラトゥには有効だった。

 

 ただし、ヒノカはその事を詳しく知っている訳ではない。白夜王国にノスフェラトゥの事を詳しく知っている者などいないと言っても過言ではないくらいだ。

 しかし、白夜の戦士は経験で知っていた。幾度となく襲い来る怪物の軍勢を相手に、長年戦い続けてきたからこそ知る事が出来た敵の弱点。

 それが、白夜の戦士には染み付いているのだ。

 

「グギ、ガギ…ギ…」

 

 ドシン、と大きな震動を鳴らせて、ノスフェラトゥのその巨体が崩れ落ちる。

 

「やったか…」

 

 敵が倒れた事に安堵するヒノカだったが、少しの違和感に気付く。

 

「どうなっている…? ノスフェラトゥの攻勢が弱すぎる…」

 

「も、もしかしたら、リョウマ兄様達が助けに来てくれたのかも…」

 

 ヒノカの疑問に、サクラが嬉しそうな顔で予想するが、姉は浮かれずに答える。

 

「かもしれないな。しかし、それで油断して敵にやられる訳にはいかない。サクラ、確実に助けが来るまでは気を抜くな」

 

「は、はいっ…。ごめんなさい、姉様…」

 

「いや、いいんだ。お前のおかげで私も希望を持てたのだから。…安心しろ、サクラ。お前は私がこの命に代えても守り抜いてみせる…! なにせ私は───

 

 

 

 お姉ちゃん、だからな」

 

 




ノスフェラトゥに独自設定がありますが、オリジナルという事をお忘れなく。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。