ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第12話 暖かな世界へ

 

「…ここ…は…?」

 

 目を開けると、眼前に広がるのは広大な緑地と、木々は見たこともないような桃色の花を咲かせて整然と並んで植えられた、まるで異国の城内庭園だった。

 

《スサノオ様やアマテラス様が暮らす大陸とは異なる世界──星界です》

 

「星界…? つまりは『異界』、ということか…?」

 

 辺りをキョロキョロと見回すスサノオは、昔読んだ文献に書いてあった事を思い出す。

 

《そうですね、そう捉えていただいて良いと思います》

 

「異界…か。以前、古い書物に書いてあるのを読んだ覚えがある。俺達が暮らす世界以外にも、数多の世界が存在し、そこには世界毎に様々な人が暮らしている。俺達の存在する世界も無数に存在する世界の1つに過ぎない、と」

 

「へえ~…。初めて知りました」

 

 アマテラスはこの不思議な空間に、さっきまでの怒りや悲しみ、苦しみがごっちゃになっていた心が解きほぐされていくのを感じていた。

 

「異界に行くにはいくつか方法があるらしいが……」

 

 チラリとリリスを見るスサノオ。小さな竜の姿で、リリスは微笑んで答える。

 

《はい。今回は私が異界の門を開き、ここにお連れしました。神祖竜の加護を受けたこの地でなら、こうしてお話することが出来ます。スサノオ様、アマテラス様。ここなら安全です。ゆっくり休息なさってください。今、お休みになれる場所をご用意しますね…》

 

 と、リリスが何もない緑地に視線を向けると、そこから、ツリーハウスが地面から湧き上がってきた。

 その時、スサノオとアマテラスは感覚的にある事に気がつく。

 

「今のは…竜脈か…?」

 

《そうです。この異界は竜の力で満たされていますから…。時空を司る星竜の加護を受けたこの世界は…、竜脈も時間の流れも、元の世界とは違います》

 

 リリスの言葉に、改めて深く感嘆の息を吐く2人。

 

「まさか、こんな世界があるなんて…、まるで夢や幻のようです」

 

「ああ…。ここには、他には誰もいないのか?」

 

 何気ないスサノオの問いだったが、リリスはどこか寂しそうな顔をして、ポツポツと語る。

 

《はい。この場所には、私しか…。父も母も、仲間と呼べる存在も……みんな居なくなってしまいましたから》

 

「…すまない。辛い事を思い出させてしまったな」

 

 すかさず謝罪するスサノオに、リリスは再び笑みに戻る。その笑みは、どこか満たされているような、暖かな笑みだった。

 

《いいえ、良いのです。私はあなた方と出会い、1人ではなくなったのですから……》

 

 そう言うと、再びツリーハウスが湧き上がってくる。先程出てきたものの隣には、寸分違わぬツリーハウスが並んでいた。

 

《お部屋は1つずつしかご用意出来ませんでしたので、それぞれをお使いになってください。さあスサノオ様、アマテラス様、今はゆっくりお休みください…。私は神殿に居ますので、ご用があればお呼びくださいね?》

 

 ふわふわと、リリスはスサノオ達の居る場所から少し離れた所に建っている、木に囲まれた神殿へと入っていった。

 

「今はリリスの言う通り、ゆっくり休もう。ギュンターの事、ガンズの事、そして…父上の事。色々あるだろうが、心を整理する時間が俺もお前も必要だろうしな……」

 

 言って、「じゃあな」と、スサノオはツリーハウスに登っていった。彼も、1人で考えたい事があるからだ。

 

「…心の整理、ですか。……そう、ですよね」

 

 途端に、アマテラスの胸には喪失感が蘇ってくる。足下が急にぐらついて、いきなり宙に落下していくような、嫌な感覚。

 

「ギュンターさん…。みんなは、無事に撤退出来たのでしょうか……」

 

 途方もない不安が、他の者達は無事に帰還出来たか心配にさせる一方で、アマテラスの心はグチャグチャになっていく。

 嫌な考えを振り払おうと、アマテラスは頭を強く数回振ると、気持ちを落ち着かせるように、自身もツリーハウスへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。この世界において1日が経っていた。

 2人は食事を摂る以外の時間はツリーハウスへと籠もりっきりで、ずっと考え込んでいた。

 しかし、いくら考え込んでも、何も思い浮かばなかったのだが……。

 

《スサノオ様、アマテラス様、お体はいかがですか?》

 

 リリスが2人へと尋ねる。

 スサノオ達は現在、初めてこの星界へと来たときと同じ場所に集まっていた。

 

「ありがとう。もうすっかり元気だ」

 

「不思議ですね…。ここにいると、傷がみるみる治っていくみたいですね」

 

《良かったです。…それではスサノオ様、アマテラス様、元の世界に戻られますか?》

 

「…はい。皆さんの事が心配ですから」

 

「俺も同じだな」

 

 2人の答えを聞くと、リリスは再度確認をする。

 

《…分かりました。ですが1つ、お聞きいただきたい事があります。私は無限渓谷で異界の門を開きました。元の世界に戻るという事は、門を開いたあの場所に戻るという事…。あの地は白夜王国との国境。白夜兵と出会う危険もあります》

 

 それは覚悟の上だった。そうそう都合良く事は運ばないのが世の中なのだから。

 

「分かった。覚悟して行くとしよう」

 

「出来れば、戦闘が無いように願いますが……」

 

 リリスは2人の顔をゆっくりと見て、頷いた。

 

《それでは、門を開きます…》

 

 そして、再び青白い光がリリスを包み、やがてスサノオとアマテラスの全身をも包み込んでいき───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳に聞こえてくるのは、雷の轟く音。肌を撫でる風は冷たく、視界に映ってきたのは薄暗い崖と、漆黒に染まる無限の谷。

 

 戻ってきたのだ。無限渓谷に……。

 

「…戻ってきたみたいだな」

 

「マークス兄さん達はもう居ないんでしょうか…?」

 

 さあ、誰かいるかを確認しようかとした時だった。

 

「…暗夜兵か」

 

「!?」

 

 突然、どこからか聞こえてくる何者かの声。

 その声の持ち主を探そうとして、直後、

 

 

 ドガッ!

 

 

「あぐ!!?」

 

 アマテラスの頭部に走る鈍い痛み。それは、すぐにアマテラスの意識を奪う。

 

「なっ──!?」

 

 いきなりの襲撃に、スサノオはとっさに剣に手を伸ばすが、

 

「動くな! 動けばコイツの命は無いぞ」

 

 手が剣に触れる寸前で、敵が動きを封じてきた。アマテラスを人質にされたという事が、背中越しでもスサノオは分かった。

 

「ちぃっ…!」

 

 観念して、武器から手を離し、両手を上げて振り返ると、そこには、

 

 

「お前は、この間の───っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、そこは知らない天井だった───。

 

 

 なんて、現実逃避をしようとした私に、

 

「目覚めたか」

 

 不意にかかる女性の声。

 しかし、最近どこかで聞いたような気がするが……?

 

「さっきは不意打ちをしてすまなかったな。まさかお前達だとは思わなかったんだ」

 

 起き上がり、声を頼りに顔を向けると、鍋を挟んだ向こう側に、先日戦った姿がそこにあった。

 

「あ、あなたは…確か炎の部族の…」

 

「リンカだ。ここは炎の部族の村だよ」

 

 炎の部族の村…、という事はつまり、ここは『完全に白夜王国の領内』なのでは……?

 

 私の不安そうな顔を見て、リンカはバツの悪そうな顔をして言う。

 

「アマテラス、あたしはお前を…白夜王国に引き渡す」

 

「…そうですか。仕方ありません。私は処刑されてもおかしくない事をしましたから」

 

 それもそのはず、私は何の罪もない白夜兵をこの手に掛けてしまった。キッカケはガンズと言えど、私がこの手を血で染めた事に変わりはないのだから。

 

「いや、心配するな。お前は殺されない。何故ならお前は、いや、お前達は…」

 

 予想外のリンカの言葉に混乱する間もなく、扉をノックする音がリンカの言葉を遮る。

 

「!」

 

「ん? もう来たか」

 

 リンカに促され、私は急かされるように外へと出される。

 正直に言って、鍋が気になったが、仕方がなかった。

 

「あ…あなたは…」

 

 そして、外に居たのは、これまた先日に見た姿だった。

 そう、リンカと共に暗夜の捕虜として連れてこられた忍び、スズカゼだ。

 

「ご無事で良かった……。アマテラス王女。リンカさんが頭を殴って気絶されたと聞いた時は、心臓を締め付けられる思いでしたが、その様子を見る限り息災のご様子。心より安心しました」

 

「え? えっと…?」

 

 スズカゼはチンプンカンプンになっている私を置いて、話をどんどん進めていく。

 

「さ、行きましょう。すぐに白夜王城までご案内いたします」

 

「……??? あ、そういえばスサノオ兄さんはどこに居るんですか? まさか、もう処刑されてしまった後では……!?」

 

「ご安心を。スサノオ王子はご無事です。先に白夜王城へと向かわれましたので、この場にはいらっしゃらないのです」

 

 では、とスズカゼが先導を始める。雪に覆われた山道を、私はスズカゼと後ろから付いて来るリンカに挟まれながら進む事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白夜王国・王城シラサギ。

 暗夜とは何もかもが違う建造法や、文化の違いがそこかしこから感じられる。

 ぐんぐんと進むスズカゼの後に付いて来てから3時間、途中休憩も何度かとったが詳しい事は着けば分かるの一点張りで、聞いても何も教えてくれない2人に、私はどんどん不安が高まっていっていた。

 そして、城内を上に上がっていくにつれて、いよいよ目的地が近づいてきているらしく、緊張と不安と恐怖で、私の顔は見れたものではない状態に違いない。

 

「失礼します」

 

 スズカゼが大きな扉の前で、大きめに入室の礼をする。どうやら、王の間のようだった。

 

 

「待っていたぞ、スズカゼ。ご苦労だったな」

 

 

 中には、少し豪勢でありながら、謙虚さも同居したような、荘厳な甲冑を身に着けた男が玉座の前にいた。

 どことなく、本当にどことなくだが、どこかで見た事があるような気がするのは、私の気のせいなのだろうか……?

 

「はい、リョウマ様」

 

 スズカゼが、リョウマと呼んだその男の前に跪く。

 

「えっと、あの人は…?」

 

 私は気になり、隣に居たリンカに小声で聞くと、リンカは隠そうともせず普通の声量で答える。

 

「ああ…白夜王国の第一王子、リョウマだよ」

 

「…リョウマさん、ですか」

 

 その会話が聞こえていたのだろう、そのリョウマは、私の事を静かに見つめていた。

 

「……」

 

「………」

 

 この沈黙が、次第にいたたまれなくなってくる。なので私は、本題を切り出す。

 

「もういいでしょう。処刑するつもりなら、早く…」

 

 だが、私の言葉は最後まで続かなかった。

 リョウマが私から視線を違う所へと向けると、スズカゼやリンカもそちらへと視線を移したのだ。私も言葉を中断し、気になってそちらに目を向けると、

 

「……」

 

 少し離れた所に、妙齢のとても綺麗な女性が、ジッと私を見つめて立っていた。その顔はどこか切なそうでいて、しかし嬉しそうで、長年の夢がようやく叶ったような、そんな表情だった。

 

 やがて、女性は口を開く。ゆっくりと、一言一言噛みしめるように。

 

「戻ってきてくれたのですね…。本当に…本当に…」

 

「え? あの、なにが……?」

 

 混乱する私の頭は、一体全体何が起きているのか全く理解が追いついていない。だが、女性はそんな私を待ってはくれない。

 

「良かった…よく無事で……!」

 

 

 そして、その女性は私をギュッと抱きしめると、とんでもない爆弾を放ったのだった。

 

 

 

「本当に…良かった…。

 

 

 

 

 私の子……アマテラス!!」

 

 

 


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