ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第11話 異形の力

 

 一同は無人となった城砦へとたどり着くと、完全に敵の影が無いことを確認するために内部をくまなく調査した。

 結果、どうやら白夜兵は全く残っていないようだった。調べて分かったのは、中は生活感が少なからず存在したという事だ。となれば、やはりスサノオの推測通り、ガロン王の情報は全くのデタラメであったという事になる。

 しかし、それが分かっていても、その事をスサノオは口にしなかった。今はただ、無事に任務を終えた安心感の方が勝っていたからだ。

 どうやら、アマテラスはまだその考えには至っていない。ならば、無闇に不安を煽る必要はない。

 

「…よし。これでお父様の任務は果たせました…」

 

「……そうだな」

 

 城砦の入り口に集まると、アマテラスが安心しきったように呟く。ただ、その顔には隠しきれないやり切れなさが滲み出ていた。スサノオも、そのアマテラスの表情に、同じものを感じながら言葉を返していた。

 

 あとは帰って報告するだけ、そう思っていただけに、スサノオもアマテラスも、従者達も油断しきっていた。それゆえに、忍び寄る気配に気が付いてはいなかった。

 

「…貴様、暗夜軍の将だな」

 

「!?」

 

 突如、アマテラスの背後から聞こえた男の声。砦には誰も居なかったはずなのに…と、動揺を隠せずにその場の誰もがアマテラスの後ろに目を向ける。

 アマテラス自身も、間近で、それも背後からの声に即座に振り返る。

 

「俺はサイゾウ…白夜の忍びだ。貴様の命、貰い受ける」

 

 闇から現れたかのように、影から這い出たかのように、はたまた最初からそこに居たかのように、ごく自然とそこにいたサイゾウ、そして部下の忍び達が、アマテラスに各々の得物を向けていた。

 

「くっ…! 油断しました…!」

 

「ちっ! 忍びか! それも相当の手練れ…!」

 

 完全に油断していただけに、脱力していた体では対応が間に合わない。すぐそばに敵がいるアマテラスでこれなのだから、当然スサノオや他の臣下達も反応が遅れてしまっていた。

 

「爆ぜ散れ!」

 

 サイゾウの手にした爆弾が、アマテラスへと目掛けて投げ捨てられる。小ぶりながら、それは十分に人を殺せる威力を持っていた。

 

「アマテラス!!」

 

 咄嗟に懐の魔竜石に手を伸ばすも、力の恩恵を受ける前にアマテラスに被弾してしまう。恐らく、あの爆弾は爆発までの時間が短くなるように細工されているはずだ。

 今から動き始めるようでは間に合いそうにない。

 

 そう、今から動き始めるようでは。

 

 

 

「…そうはさせん」

 

 

 

 と、一陣の風がスサノオ達の間を通り抜けたかと思うと、赤黒い剣筋がアマテラスに投げられた爆弾を弾き飛ばした。

 爆弾は弾かれるとすぐに、アマテラスを巻き込む事なく盛大に爆裂音を立てながら爆発し、近くの枯れ木を凪払う。

 

「!? …貴様は…」

 

 急に現れたばかりか、自らの爆撃を防がれたサイゾウは、その張本人を鋭く睨み付ける。

 そして、その当の本人はというと、

 

「間に合ったか。無事で良かった、アマテラス」

 

 涼しそうな顔には、得意気な笑みを浮かべていた。

 

「マークス兄さん…!」

 

「ああ。それに、私だけじゃない」

 

 その言葉の通り、続々と駆け付ける援軍に自然と笑みがこぼれるアマテラス。

 そして、スサノオも一気に緊張感から解放されたように、大きく息を吐いた。

 

「悪運強いね、アマテラス姉さん」

 

「大丈夫? スサノオ、アマテラス…。とても心配したのよ…」

 

「も~! スサノオおにいちゃんとアマテラスおねえちゃんが死んじゃったら、あたしも死んじゃうんだからっ」

 

 口々に、スサノオやアマテラスへと駆け寄るきょうだい達。

 

「みんな…」

 

「とりあえず助かったよ、マークス兄さん」

 

「お前達は下がっていろ。あとは私達に任せるんだ」

 

 マークスはずいっと、アマテラスの前へと守るように出る。

 カミラは後ろへと下がってきたアマテラスを抱きしめると、ぺたぺたとアマテラスの体を手で検診し始めた。

 

「ひゃっ!? カ、カミラ姉さん…くすぐったいです」

 

「ああ…! アマテラス、怪我をしてるの? 誰にやられたの…かわいそうに…」

 

 カミラが言っているのは、モズとやり合った時に、砕いた手裏剣の破片で出来た傷の事だった。だが、言う程痛くはないし、傷自体はとても軽いのだが…、

 

「だ、大丈夫ですよ姉さん」

 

「安心なさいな…。アマテラスをいじめる悪者は…」

 

 聞く耳を持たずといった具合に、カミラはアマテラスをゆっくり放すと、その美しい顔に妖艶な笑みを貼り付けて、

 

「お姉ちゃんがみんな殺してあげる。ふふ、見ててねアマテラス…」

 

 言うや、バッと自身の飛竜に飛び乗り、サイゾウの部下達へと一気に接近して、その手に持った鋼の斧を容赦なく振り下ろした。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「ぎゃあ!?」

 

 猛速の一撃に、忍び達は為すすべなく倒されていく。

 その普段見る姉との違いすぎる違いに、アマテラスとスサノオは困惑を隠せない。

 

「あ、あれがしとやかなカミラ姉さんなのか??」

 

「た、たくましい…ですね??」

 

「あ、そっか。2人は戦場のカミラおねえちゃんを見た事がなかったのね。どう? かっこいいでしょー!? カミラおねえちゃん! えへー!」

 

 我が事のように、嬉しそうに語るエリーゼ。そしてそんなエリーゼとは裏腹に、敵であるサイゾウは焦りを隠せていなかった。

 

「ちっ…」

 

 だが、そこに新たな動きがあった。疾風の如く、荒野を走りくるは、1人の女の姿。黄色いマフラーのようなものをたなびかせて、その女はサイゾウの隣へと並び立つ。

 

「カゲロウ推参致した。サイゾウ、首尾は如何に?」

 

「…しくじった。奴ら相当に手強い。カゲロウ、増援はお前1人か?」

 

「否。まもなくリョウマ様の本隊が到着なさる」

 

 ふと、耳に入ってきたその名前に、スサノオとアマテラスは注意を引かれる。

 

「どこかで聞いたような…」

 

 しかし、それがはっきりとは思い出せない。もやが掛かったかのように、朧気にしか頭に浮かんでこないのだ。

 

「ほう、リョウマ様が…。ならばこの戦、俺達の勝利だ」

 

 サイゾウの顔には焦りが消え、代わりに勝ち誇ったような表情になる。

 

「敵の増援か…。更に後続も来るようだな」

 

「なるほどね…。どうする、マークス兄さん?」

 

 現れたカゲロウに警戒を払いながら、その会話を聞いていたマークスとレオン。

 

「そうだな…目的は果たした。無駄に命を奪う気はない」

 

 顔だけ振り返ると、マークスはスサノオとアマテラスに向かって命令した。

 

「スサノオ、アマテラス、お前達はギュンターと先に戻れ。私達も後から追いかける。他の者は私達と共に時間を稼ぐんだ」

 

「はい、分かりました…。皆さんも、気を付けて下さいね…」

 

「死ぬんじゃないぞ、みんな」

 

 2人はそう言って、走り出した。いつまでも自分達が残っていては、他のみんなが時間を稼ぐ意味が無くなってしまうからだ。

 

「任せたぞ、ギュンター!」

 

「はい。お任せ下さい」

 

 マークスの言葉を背に、ギュンターもスサノオ達に続く。

 

「さて、やるぞお前達」

 

「頑張っちゃうよー!!」

 

「いいよ。僕も少しは本気を出そうかな」

 

「ふふ…。私のスサノオとアマテラスを傷つける奴は、全員殺してあげるわ……」

 

「さーて、ヒーローの力、見せてあげるよー!!」

 

「僕の推測では、このメンバーでの全員の生存確率はほぼ100%です」

 

「敏腕メイドの力、見せちゃいます!」

 

「どこが敏腕メイドだ。この戦闘プロの破壊神メイドめ」

 

「わ、私の取り柄なんて逃げ足の速さだけなのに…、殿なんて無理だわ…」

 

「仕方ない…、行くぞミネルヴァ。敵は殲滅する……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スサノオ達は中間地点の崖を越え、暗夜へと続く橋へと至っていた。

 

「さあ、後はこの橋を渡るだけ。スサノオ様、アマテラス様、どうかお急ぎを。橋を渡りさえすれば安全です」

 

「ああ」

 

 歩を進めようとする3人だったが、その行き先にはとある影があった。

 彼らを遮るのは───

 

「…帰す訳にはいかねえな」

 

「ガンズさん…?」

 

 とっくに逃げ出したはずのガンズだった。

 

「なに…? どういう意味だ?」

 

 訝しげなギュンターに、ガンズは歪んだ笑みを浮かべて、

 

「こういう……意味だよ。ギュンター!」

 

 突然、斧を振りかぶってギュンターへと飛びかかったのだ。容赦のない凶撃が、ギュンターへと襲いかかる。

 

「ぐ、ぐおぁ!?」

 

 斧の攻撃自体は、着込んだ鎧によってダメージを軽減出来たが、問題はそこではなかった。

 

 バキッ!

 

 衝撃により、ギュンターと彼の乗る鎧騎馬の足元の木板が砕け、そして、

 

 

 ギュンターは奈落の底へと落ちていった。

 

 

「ギュンターさーーーーーーんッ!」

 

「き、さまーーー!! 何故だ、ガンズ! 何故、仲間を……!!!!」

 

 闇を覗き込みながら、突然の別れに涙を落とすアマテラス。そしてスサノオは、ガンズの凶行に怒り心頭で叫ぶ。

 しかし、そんな彼らの様子に微塵も罪悪感を抱かずに、ガンズはいやらしい笑みを浮かべたままだ。

 

「…お守りが消えて寂しいか? なら、谷底で3人仲良くやるんだな」

 

 その心無い言葉に、双子の兄妹の中で何かがプツンと切れた。

 

「許さん、許さんぞ…! ガンズ!!」

 

「よくもギュンターさんを! 仲間を! ガンズさん! 許しません!」

 

 怒り故に、彼らは気付いていない。自身にどんな変化が起きているかを。互いに、どんな変化が起きているのかも。

 

「な…! なんだ…こいつらは…!?」

 

 スサノオの体からは黒い煙のようなものが全身から吹き出しており、その背には禍々しい翼が。それはまるで飛竜のようで、しかしそれにしては凶悪すぎる形状をしていた。両手両足は太い鉤爪と化し、もはや人間の手足ではない。

 

 アマテラスはガングレリを持っていない手が巨大化し、やはり人間の腕の形状ではなくなっていた。更に顔面を覆う仮面のように、何かの生き物のようなものがアマテラスの顔を覆い隠す。

 

「があぁぁぁ!!!!」

 

 翼により超速低空飛行でスサノオはガンズへと一瞬で距離を詰めると、その大きな鉤爪の足でガンズを真上へと蹴り上げる。

 

「ぐふっ!?」

 

 それを、大ジャンプでアマテラスが正面へと移り、その巨大な左手で思い切りガンズを殴りつける。

 

「ぐあっ!?」

 

 勢いのあまり、ガンズは橋の向こう岸へと吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。そこに、スサノオとアマテラスのそれぞれ融合して大きくなった両手から放たれる魔弾が追撃を仕掛ける。

 

 ゴガッ!

 

 大きな炸裂音と共に、ガンズは大きく吹き飛ばされ、全身を傷だらけにするが、なお息があった。

 

「う…が…、まさか……お、おまえ……」

 

 息絶えだえと、ガンズは恐ろしいものでも見るかのように、異形の存在へと目を向けた。

 

「許さんぞ…ガンズ!!」

 

「何故仲間を殺したんですっ! 何故私達を狙うんですか! 答えて下さい…今すぐに!!!!」

 

「お、俺は…命じられただけだ! 暗夜王…ガロン様に……」

 

「なに!?」

 

「なんですって…!? お父様に…!?」

 

 流石に、2人は動揺を隠せなかった。まさか、父親が自分達を殺すように命じるとは思いもしなかったからだ。

 そして動揺の隙を突き、ガンズはボロボロの体でスサノオ達から逃げ出した。

 

「待て、ガンズ…!」

 

 そして、逃げたガンズを追おうとした時、アマテラスの持つガングレリが紫色のオーラを噴出し、

 

「なっ…きゃあああっ!?」

 

 突如、アマテラスの制御を離れ、手にしたアマテラス毎、ギュンターの後を追うかのように急降下した。

 

「なに!? アマテラスーーーー!!!!!」

 

 闇へと落ちていく妹に、橋から身を乗り出して飛び込もうとしたその時、スサノオの目の前を青く輝く何かが落ちていった。それが、スサノオが飛び込むのを意図せず止めていた。

 

「い、今のは…リリ、ス……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が祖、我が神、我が血…」

 

 谷を落ちていく中、リリスは祈るように両手を組んで呟く。禁断の力を解放するために…。

 

「星竜モローよ…我に力を!」

 

 すると、一際強い青い輝きがリリスを包み込み、瞬く間にその姿を変えた。

 宝玉を手にした、小さな竜の姿へと。

 

 リリスは落ちていくアマテラスへと突っ込み、そのまま自分にしがみつかせるようにして上昇していく。

 

「!! アマテラス、リリス!!」

 

 その様子を見ていたスサノオは、上空で光を放ちながら浮かぶ2人の姿に、魅入るように固まっていた。

 

「リ、リリスさん……あなたは……」

 

《……スサノオ様、アマテラス様……》

 

 2人の心に直接語りかけるかのように、聞き慣れたリリスの声が響く。

 

《いつかこういう時がくるのではないかと思っておりました……。私は人間ではありません……》

 

 その言葉に息を呑むスサノオとアマテラス。そうだ、その姿が、何よりもそれを物語っているからだ。

 

《……私はスサノオ様とアマテラス様に、命を救われた竜です。きっともう、覚えてなどいらっしゃらないでしょうけれど…。怪我を負って…あの厩舎に隠れていた醜い獣の私を…あなた方は優しく介抱してくださいました》

 

 その言葉に、スサノオとアマテラスは思い出した。幼き頃に怪我をした鳥を助けた事があったとカミラは言っていたが、違う。そうではない。助けたのは、今のリリスの姿に似た、小さな動物だった事を。

 

「忘れてなんかいません…。あの時のあの子は、あなただったんですね…リリスさん」

 

《はい。その時から、私はあなた方に一生お仕えすると決めたのです》

 

「リリス…」

 

《……でも、それももう終わり……。この身に余る力を使った私は、二度と人間には戻れません……》

 

 それは、自分達のよく知るあのリリスの、かわいらしい女の子の姿が永遠に見る事が出来ない、そんな告白だった。

 しかし、語るリリスの言葉には、寂しさこそあれど悲しみは一切含まれていなかった。

 

《でもいいのです……こうしてお話することももうじき出来なくなるけれど、それでも……アマテラス様が、スサノオ様が生きていて下さるなら……それで……》

 

 その時だった。上空に浮かぶリリスへと、雷が落ちたのだ。

 ギュンターが言っていたように、空を行く者を雷が襲う。それはリリスも例外ではなかったのだ。

 

「リリスっ!」

 

《っ……!》

 

 徐々に降下を始めるリリスとアマテラス。優しいアマテラスは、この状況でもなおリリスを助けようとしていた。 

 

「リリスさん…! このままでは危険です! あなただけでも逃げてください!」

 

《神祖竜よ…汝が地に…我らを…迎え… ……》

 

 リリスが呟くと、中間地点の崖に光が溢れ出す。そして、彼女は迷いなく地面に向かって突っ込み、その姿を光の向こうへと消した。

 

「アマテラス、リリス…!」

 

 光に消えたアマテラス達を追って、スサノオも弱まりつつある光へと急ぎ飛び込んだ。それ以外、彼には選択肢がなかったから。

 

 

 そして、次に彼、彼女が目を開けたそこには、

 

 

 

 澄み渡る青空が、大きく広がっていた。

 

 

 


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