ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第10話 惑う心

 

 一方、アマテラス達が戦っている間のスサノオ達はというと、

 

「はあぁぁっ!!」

 

「ぐあぁぁぁ!!?」

 

 怒号と悲鳴をその深き谷へと響かせながら、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「ここから先は行かせんぞ!」

 

 スサノオ達は白夜兵達が橋を渡りきる前に、自らも橋へと進入する事により敵の進撃を阻んだのだ。

 

「くっ…。思ったよりも敵の攻勢が大きくないな」

 

「幸い、所々足場が抜けてくれている事も助けとなっているのでしょう。ですが、それは我らにとっても味方するとは限りませんぞ」

 

 そう、橋は広めで頑丈ではあるが、やはり雨風に晒され続ければ傷んでしまうのは無理もない。それは確実に敵の行く手を阻んでくれるが、一歩間違えれば自分達にも障害と成りかねないのだ。

 

「くらえ!」

 

 ヒュン、と矢が風を切る音を鳴らせてスサノオへと襲い掛かる。それを、スサノオは素手で掴み取った。

 

「なんと…!」

 

 その様子を隣で見たギュンターは驚いていた。それも無理のない話。放たれた矢を直前で掴むなど、普通は出来る芸当ではないからだ。

 

「返すぞ……!!」

 

 矢を掴んだ右手を大きく振りかぶり、力強く自分を撃ってきた弓兵へと向けて投げ返す。

 一直線に飛んでいくと、矢は白夜兵の脳天へズブリ、と深く突き刺さった。

 

「ひっ!?」

 

 倒れた弓兵の近くにいた者は、その様を見てやった張本人であるスサノオに恐怖の視線を向けていた。

 

「ちぃっ…。敵が多いな。いくら倒してもキリが、フン! ない!」

 

 話しながら、スサノオは切りかかってきた白夜兵の1人を力任せに蹴り飛ばす。その白夜兵は絶叫と共に、深い闇へと消えていった。

 

「今はアマテラス様達があちらを制圧して、こちらに援軍に来てくださるのを信じるだけです」

 

 ギュンターは敵を威嚇するかのように、愛用の槍を大きく振り回す。

 

「そうだ、な!!」

 

 と、スサノオは3人同時に振り下ろされる敵の剣を、剣を両手持ちに切り替えて受け止める。数で勝る白夜兵達はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべるが、

 

「……なに!?」

 

 すぐに違和感に気が付く。大の男が3人掛かりで押しているというのに、スサノオの両腕は震えるどころか、彼らとの鍔迫り合いなど問題ではないと言わんばかりに、平然と佇んでいたのだ。

 

「うおおおっ!!」

 

 驚愕する敵をお構いなしに、スサノオは両腕で一気に敵を押し返す。バランスを崩した3人の白夜兵のがら空きとなった胴体に、スサノオの横切りが吸い込まれるように綺麗に入っていく。

 

 ブシャア!

 

 血が噴水のように吹き上がり、辺り一面を真っ赤に染める。茶色かったロープはたっぷりと白夜兵の血を吸い黒く変色していき、木板の隙間からはとめどなく溢れる血により、赤き滝となって闇へと落ちていく。

 

 そして、大量の返り血を浴びて、3体の屍の前には幽鬼の如き人間が静かに立っていた。見据えるは、残った生者達。

 その、命。

 

「ひ、うわあぁぁぁ!!??」

 

 命を刈り取る者が、自分達の目の前にいる。白夜兵達はそう錯覚してしまう程に、目の前のスサノオに途方もない恐怖心を抱いてしまっていた。

 更に、そこに追い打ちを掛けるかのように、彼らにとある報せが届く。

 

「モ、モズ隊長が討たれた!!」

 

「な、隊長が…!? そんな!?」

 

「そ、そんな、なら俺達はどうしたら!?」

 

 指令塔を失った白夜兵に混乱が走る。指揮官の居ない部隊程、脆く崩れていく事を証明するように、ピタリと白夜兵の攻撃が止んだ。

 

「退け! 無闇に命を奪うつもりはない!! 向かってこないのならば、貴様らを見逃してやる! だが、それでも刃向かって来るというならば、容赦はしない!!」

 

 血濡れの剣を掲げ、声高々に叫ぶスサノオに、白夜兵の一部が刀を投げ捨てて逃亡する。

 それに倣うかのように、次々と白夜兵が1人、また1人と逃げ出していく。

 

「終わったな…」

 

 生き残っていた敵兵が全て逃げ去るのを見届け、スサノオは一息つく。目に入ってくるのは、先程自分が斬り殺した3人のほか、切りかかってきて返り討ちにあって死んだ兵達。

 

「本来なら、殺さずに済んだんだ…。どうしてだ…? ここには敵兵は居ないはずではなかったのか……?」

 

 敵を殺す覚悟はとうの昔に持つと決めた。だから、殺す事に躊躇いはない。

 しかし、それでも殺さずに済むのなら殺さないに越した事はないのだ。

 

「もしや、ガロン王の情報に誤りがあったのでは…?」

 

「ああ…。だが、それでも腑に落ちない事がある…」

 

 スサノオがどうしても気になっている事、それは、

 

「ガンズ…、奴はこの事に対して全く驚いていなかった。いや、むしろここに白夜兵が居る事を知っているかのような口振りだった」

 

「まさか、ガロン王は我々に偽りの情報を与えたと……?」

 

 ギュンターの問いに、スサノオは黙って頷いた。それ以外に考えられないのだ。自分達は、わざとこうなるように仕向けられたのだと。

 ガンズは言っていた。スサノオ達がここで死ぬ、と…。それは、知っているからこそ出てくる言葉ではないのか。

 

「しかし、だとしてだ。俺とアマテラスに魔竜石と魔剣を与えたのは何故だ…? 俺達の死が目的ではなく、白夜兵達と諍いを起こさせる事自体が目的…? だからガンズを同行させた?」

 

「あまり考えたくはありませんが、そういう事でしょうな。ガロン王はこの戦争を勝ち急いでいるきらいがあります。しかし、白夜王国への侵攻は現状では難航しております。今回のこれは、白夜王国への挑発が目的だったのでは?」

 

「だとしても、おかしくないか…? それなら、別に俺達でなくとも良かったはずだ。いくらアマテラスへの罰を無くすためとはいえ、ガンズだけを送り込んでも良かったはず。他に何か見えない思惑があるような気がしてならない……」

 

 いくら考えたところで、答えは霧に隠されたように見えてこない。

 

「とにかく、アマテラス達は砦を押さえたらしいし、あっちに合流しよう。あれこれ考えるのは帰ってからでいい」

 

「そうですな。おお、あちらをご覧下さい。アマテラス様とジョーカー達がこちらに来ているようですぞ」

 

 言われてスサノオもそちらに目を向ける。そこには、さっきと変わらない元気な姿のアマテラス達が。

 ひとまずの安堵により、スサノオは握り締めていた魔竜石を懐に仕舞った。

 

 その漆黒の輝きに、渦巻く陰りがある事には気付かずに……。

 

 

 

 

 

 

「無事でしたか、兄さん…って、きゃー!?!? スサノオ兄さん!? 血まみれじゃないですか!?」

 

「いや、これは俺の血ではなくてだな……」

 

「はわわ!? す、すぐに治療いたします! スサノオ様、こちらに!」

 

 上半身を真っ赤に染めたスサノオに、アマテラスとフェリシアは慌てふためいてバタバタしている。

 そして、スサノオに付いた血が敵のものであると気が付いている面々は、その様子に苦笑いしていた。

 

「落ち着いて下さい、アマテラス様、フェリシアさん。そこまで血が付着しているというのに、スサノオ様は平気な顔で立っていらっしゃいます。つまり、スサノオ様は重傷を負ってはいないと推測出来ます」

 

「…そこまで冷静に分析出来るお前もどうかとは思うがな」

 

「おや? ミシェイルだって、ミネルヴァにスサノオ様の血の匂いではないと教えてもらっていたでしょう。それだってどうかと思いますが?」

 

「ふん。俺とミネルヴァとは心が通じ合っているんだ。おかしくともなんともない」

 

 拗ねるように、ライルから顔を背けると、ミネルヴァを優しい手付きで撫でるミシェイル。

 

 その傍らでは、スサノオの姿を間近で見て気絶したノルンと、それを介抱するアイシスがいた。

 

「おい…、こいつはいつもこうなのか?」

 

「うーん…、人格変わった時は全然平気なんだけどね。素のノルンだと、こういった物騒なのにはめっぽう弱いからねー。それに、ここに来る前は化け物とばかり戦ってたから、人間とかの生々しいのはまだ慣れてないんだよ」

 

「お前ら…、ノスフェラトゥを退治する仕事か何かをしてたのか……?」

 

「うーん、まあそんなところかなぁ」

 

「まあ、スサノオ様やアマテラス様の役に立ってくれるんなら、お前らの過去なんて俺にとっては関係ないんだがな」

 

「あはは、それはそれでありがたいかも」

 

 唸るノルンをよそに、各々が無事を喜び合い、呑気に雑談をしながら、任務の目的地である敵のいなくなった城砦へと向かうのだった。

 


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