ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第58話 海を目指して~休息編~

 

 シェイドがスサノオ一行に加わり、既に幾日もの時間が過ぎていた。それだけの時が経てば、その行軍距離も比例して伸びるというもの。

 一行はそのまま南下し、現在は港のある街の一つ前の街に滞在していた。というのも、

 

「たまには息抜きも必要だろう」

 

 とのスサノオからのお達しがあったからだ。いくら休息を取っているとは言っても、ずっと行軍続きでは士気は下がるもの。それは少数だろうと大軍での行進だろうと何ら変わりない。

 故に、特に規制している訳でもなかったので、スサノオは皆を気遣い、少しの間だけこの街での滞在を決定したのである。

 

 そんな事もあり、そのお触れが出てすぐに各々が自由に過ごし始めた。たとえば、エリーゼやアイシスなどを筆頭に、活発な者達は早速街へと繰り出し、アカツキやエルフィといった鍛練好きは、街へはあまり出ずに星界でトレーニングに勤しみ(エルフィはたまにエリーゼに同行するが)、ライルやゼロのように情報を集めに街へと向かう者など。

 それぞれが様々な目的を持って、己のしたい事に時間を当てていたのである。

 

 そして、事の発端であるスサノオもまた、例に漏れず街を探索しに出掛けていた───。

 

 

 

 

 

 特にこれといった用事も目的もなく、スサノオは街を気ままに歩き回っていた。街を行き交う人々からは満ち足りた活気が伝わってきて、こちらまで元気になってきそうだ。

 

「暗夜の地下街程じゃないが、ここも中々に賑わっているな」

 

 港町からそう遠く離れていないためか、この街を足掛かりとして活用する者も少なくないのだろう。そういった行商人や旅人をターゲットに、宿や食事処も気持ち多めに点在しているように見える。

 

「はい。この分だと、市場の方にも期待出来そうです」

 

 と、柔らかい微笑みでスサノオの少し後ろを歩くのはフローラだ。

 彼女はスサノオが街に行くのなら、と自分も同行を申し出た。名目としては食材や備品の買い出しだったが、実質はスサノオとの逢い引き気分を楽しみたい……というのがフローラの本音である。

 

「ああ、そうだな。どうせ暇だし、俺もフローラの買い出しの手伝いでもしようかな?」

 

「そ、そんな! 主君に荷物持ちをさせるなど、臣下にあるまじき行為です! どうかお気になさらず、スサノオ様は自由にお過ごし下さい。私は帰り掛けにでも市場に寄れれば、それで良いのですし」

 

 スサノオの申し出に、フローラは慌てふためいて、どうにか言い分を捻り出してやんわりと断った。

 彼女の意見は正論は正論なのだが、実際のところ、いきなり市場に向かって一応の目的達成をしてしまっては、こうして逢い引き気分を味わう時間が減ってしまうから、という部分も大きく占めていた。

 

「そうか? なら、別に俺に付き合わなくても、フローラは買い出しを済ませて帰ってもいいんだぞ」

 

 無論、乙女心など露知らずなスサノオは、フローラの真意など到底分かるはずもなく、同行を止めても良いと口にする。

 彼にしてみれば、彼女を無為に付き合わせるのは悪い、という気遣いだったのだが、フローラにとっては余計なお世話にも程がある。当然、それを彼女はスサノオにバレないようにそれとなく拒んだ。

 

「いいえ。従者として、メイドとして、主君の行く所にお供するのが当然の務め。ですので、私の事はお構いなく。スサノオ様がお帰りになられた後ででも、市場に行けば良いだけですから」

 

「あ、ああ……」

 

 フローラの有無を言わさぬ迫力に、思わず気圧されるスサノオ。しかし、それ故に彼は彼女の言葉の矛盾に気付けない。

 “何故、彼女がスサノオに同行したのか”という事を。フローラがスサノオに伝えていた、彼女の元々の目的とは買い出しである。この同行とはつまり、本来なら買い出しがメインであって、スサノオと共に街を回る事ではなく、買い出しまでの間だけなのだ。

 そこを彼が指摘さえ出来ていたのなら、フローラの恋路は飛躍的に発展したであろうが、やはり恋とはそう上手く行かないのが世の常である。

 

「さあ、どうぞ気の向くままに街巡りを。私は僭越ながら、そのお供をさせていただきますので……」

 

 ただ、スサノオにのみ問題があるかと言えば、そうではない。フローラもまた、憧れてはいるものの男女の色恋には疎く、あくまで主君と臣下としての関係として同行しようとしていた。

 ホンモノとは程遠い。だけど、それだけで逢い引き気分を味わえると感じているのだから、初々し過ぎるにも程がある。

 

「そこまで言うなら、俺はもう何も言わないさ。フローラがしたいようにするといい」

 

 鈍い。その一言に尽きる、この男は……。と思いきや、スサノオはいきなりフローラの手を勢いよく掴んだ。何が何だか分からないというように、フローラが顔を赤く目をぱちくりさせていると、

 

「だけど、混雑とまではいかないが、それならはぐれない方がフローラには都合が良いだろう? それに、俺としても後ろを歩かれるより隣で歩いてくれてた方が、街巡りのし甲斐もあるってもんだ」

 

「………!! えっと、その、は、はい……

 

 もちろん、スサノオが彼女の気持ちを察したとか、そんな甘い話ではない。ただ、彼女の目的をこそ想ったが故の気遣いである。

 それでも、フローラにしてみれば、彼の突然の行動は、思わぬ出来事というか、嬉しいハプニングだったりする。なので、顔は赤いままで、語尾は小さくなったけれど、拒絶の意を示す事はしなかった。

 

「? 顔が赤いようだけど、体調でも悪くなったか?」

 

 フローラの変化に気付きはするが、その理由までは及びつかないスサノオ。やはり、鈍い。

 

「い、いいえ! あの、そう! 少し暑くて! やっぱり暗夜の国境近くだと、太陽の暖かさを実感出来ますね!」

 

「確かにそうだな……。…うん、太陽が出ているとは言え、海の上は寒いと聞くし、防寒具もついでに買っていくとするか」

 

 到底カップルの会話とは思えない内容が続くが、2人の様子を見守っていた周囲の視線は、それはもう暖かいものであったそうだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 スサノオ達が街を巡っている同じ頃、とある2人組の姿が街にあった。

 一人は仮面で顔の上半分を隠した背の高い青年。もう一人は彼とは対照的に背は低く、まだ幼さの残る容姿をした少女。

 つまるところ、ミシェイルとネネの事だ。

 

「さーて! 元気に買い出し、もとい食べ歩きに行くですよ!!」

 

「……おい、本音を隠すつもりすら無いのか」

 

 元気溌剌に財布片手に勢い勇むネネ。そんなネネの事を溜め息を吐いてミシェイルは痛む頭を手で支えていた。

 フローラが日用品を目的とした買い出しなら、こちらは軍事的な買い出しを目的としている。簡単に言えば、フローラの方はスサノオや軍の皆に出すお茶や茶菓子、タオルや洗剤など身近なものであるのに対し、ミシェイルは部隊全体の朝昼晩の全ての食事用の食材といった具合である。

 必然的に、日々の食材の方が重量がとてつもない事になるので、ミシェイルが買って出たという訳だ。

 決して、頑張るフローラへのお節介ではないとだけ言っておく。

 

「どのみち、食材選びで品定めするですから、同じ事ですよ」

 

 そして、ミシェイルが食材の買い出しに出るという事で、ネネが同行に手を上げたのだ。

 というのも、ミシェイルは食材選びには煩く、こだわる事で知られており、まずは少量を買って軽く調理してみて美味しかったら採用、という少し変わった買い物の仕方をしている。

 なので、彼が買い物に出る際は、その背にはいつも簡易調理キットが常備されていた。

 

 ちなみに、星界でも幾らかは食材を得られるのだが、やはりそれだけでは足りないので、こうして買い出しに来ているのだった。

 

「簡単な調理とはいえ、ミシェイルの作るご飯は絶品ですからね。下手な料理店に入るよりも確実性があって、なおかつお得です!」

 

 声高々に断言するネネ。彼女がミシェイルに同行した真の目的とは、彼がお試しで調理してみた食材を食べまくる事だったのだ……!!

 

「お前、一体いつからそんな食いしん坊キャラに成り果てたんだ……?」

 

 そんなネネの姿に、より頭が痛くなってくるミシェイル。頭痛と徐々に胃痛まで感じ始めた彼は、何故ネネに食材調達を知られてしまったのかと、若干後悔し始めていた。

 

「私はいつだって食べる事には真剣です。なんなら、木の根っこだって食べた事のある私は、こと食事に関しては口うるさくなってしまうのも仕方ありませんですよ」

 

「……なんか、すまん」

 

 ネネのかつての食事事情を聞いていた分、あまり突っ込んだ事は聞けないため、ミシェイルは諦めてネネの同行を受け入れる事にした。

 こうなってしまった以上、仕方ない。どうせ自分だけではすぐに満腹になり、食材選びも満足に出来ないだろうし、ネネの無尽蔵の胃袋──ネネ曰わく、鉄の胃袋は、この際便利と考えた方がいい。

 

「では、気を取り直して、食材選びを始めるとするですか」

 

 気にした素振りを見せる事もなく、ネネは元気に市場を物色し始める。出店に顔を覗かしては、品定めするように果物や肉、魚や野菜を眺めていた。

 これでは、一体どちらが食材選びに来たのやら。ミシェイルも渋々といった様子で、ネネの後に続く。

 

「少しの間、海上での生活になると想定するなら、あまり腹に溜まりすぎないものがいいか」

 

「です。前に、ブレモンドが船旅でゲロゲロしてたですから。吐く前に何を食べていたか分かるとか、軽くトラウマものだったです」

 

 今は遠く、敵国に居るであろう顔馴染みを思い出す2人。あの大惨事を忘れてはいけないと、そしてあのような大惨事を再び起こしてはなるまいと、堅く決意する。

 

「……消化に良いものを主に見立てていくか」

 

「それなら、野菜はどうです? 緑は体に良いと言いますし、細かく刻めば消化の面でも解決です」

 

「ふむ、米をメインにした料理も良いな。刻んだトマトや芋を溶かしたチーズで覆ったものなんかは相性が良いからな」

 

「炊いたお米を丸めてボール状にするのも良いですよ。白夜では『オニギリ』と言うらしいです」

 

「ああ、聞いた事がある。丸めた米の塊の中に、具材として梅や鮭などが抜群に合うらしい」

 

「船酔いした人には、お粥も良いかもですね。あれなら、お腹に優しいですから」

 

「だが、粥だけでは味気ないからな、何か味付けをすれば、より美味しく食べられるはずだ……」

 

 2人の料理談議は終わる事を知らず、どんどんヒートアップしていく。ネネに至っては、話す毎に口からよだれが止めどなく溢れていた。

 

「きったないわね。ほら、これで口を拭きなさい」

 

「あ、ありがとうです」

 

「構想はある程度固まったし、材料探しを始めるか……、」

 

「…………、」

 

 ネネが口元を拭いている間、少しの沈黙が一同に訪れる。周りの街行く人々の声があるので、静寂からは程遠いが、今の彼らにとってそれらの雑音は些末な事。ほとんど耳には入っていなかった。

 そして、その沈黙は数秒の後に破られる事となる。

 

 

「「って、ルーナ!!?」」

 

 

 2人揃って、またミシェイルにしては珍しく、かなり驚いた様子で叫び声を上げてしまう。周りから奇怪な目で見られるが、もはや周りの事など意識が向かないので気にも留めない。

 

「うっさいわねー。そんな叫ばなくても聞こえてるってのよ」

 

 名を叫ばれた当人である、長い赤髪を二つに括ってツインテールにし、つり上がった目元は勝ち気な性格を思わせ、傭兵の意匠に身を包んだ女性───ルーナが、耳を押さえながらしかめっ面で答える。

 

「いや待て。何故、お前がここに居る? お前、カミラ様はどうしたんだ……?」

 

 ミシェイルの疑問はもっともだ。このルーナは、カミラ直属の臣下であり、常に行動を共にしていると言っても過言ではないのである。

 そのルーナが、何故一人でここに居るのか。それを疑問に思わない訳がない。

 

 当の本人はと言えば、彼の問い掛けに対し、目を逸らして言い辛そうにしながら答えた。

 

「その…あれよ。お買い物に夢中になってるうちに、はぐれたのよ……」

 

 歯切れ悪く、ルーナは唇を尖らせて不機嫌になる。自分の非を認めてはしたが、その理由が実に下らない事によるものだったからだ。

 

「という事は、カミラ様もこの街にいらっしゃるという事ですか?」

 

「…そうよ。カミラ様がガロン王から任された任務を、マークス様が内緒でこっそり引き受けてくれたの。レオン様も任務で遠方に出てたから、マークス様一人に負担を掛けちゃう形でね。で、私達はスサノオ様を追って、ここまで来たってワケ」

 

 ルーナがここに居る理由は、これで説明がついた。そして、カミラとはぐれてしまったという事も理解したミシェイルとネネ。

 それにしても、ルーナがこの2人を見つけられたのは運が良かったと言えるだろう。このままだと、延々とカミラを探してさまよっていたかもしれなかった。

 

「ま、これで一安心ね。アンタらと合流すれば、カミラ様とも合流出来るだろうし。憂いも無くなった事だし、あたしもアンタ達の買い物に付き合ってあげるわよ」

 

「え? あ、お財布!?」

 

 途端、機嫌の戻ったルーナはネネの手から財布をかっさらうと、スキップしながら露店へと向けて突撃を開始した。

 浪費癖のあるルーナが加わった事で、ミシェイルの頭痛の種がまた一つ増える事になったのは言うまでもないだろう。

 

「何故、俺ばかりこんな目に……」

 

「待つですよー! ルーナーー!!」

 

「よーっし! じゃんじゃん買って買って買いまくるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ミシェイル達がルーナに振り回されているのとほぼ同じ頃。とある食堂にて、探索の休憩をしているのは、

 

「うーん、あたしはパスタにしようかな」

 

「じゃあ、あたしはサラダの盛り合わせを頼もっと」

 

「ふーん……では、私は肉野菜炒めを注文しよう!」

 

「わ、私はスープだけでいいわ……」

 

 エリーゼ、アイシス、ハロルド、そしてノルンの4人だった。3人は別に珍しくない組み合わせだが、そこにノルンが加わるのは珍しいと言える。

 

「じゃ、お店の人呼んじゃうね。おーい! 店員さーん!」

 

 エリーゼの元気な声が店内に響き渡る。けっこう賑わっている事もあり、大きめの声でなければ届かない故に、エリーゼは元気一杯に声を上げたのである。なので、周りに迷惑などは一切ない。

 エリーゼの呼び声に応じ、店員がやってくると、それぞれ自身の注文を手早く済ませていく。店員も流すように注文を全て聞き取ると、一礼して店の奥へと戻っていった。忙しいのだろう事がよく分かる。人手不足なのだろうか?

 

「しかし、こうして暗夜を離れてみると分かるのだが、この街を見ていると、とても二国が戦争をしているとは思えないね」

 

「ホントだよね。ここの人達を見てると、闘いとは無縁な感じだし。ヒーローとしては喜ぶべきなんだろうけど、やっぱり違和感はあるかな」

 

 料理が来るのを待っている間、おもむろに口を開いたハロルドと、彼の言葉にアイシスは同意する。

 今日、街を見て回って思った事が、2人に共通した感想だった。

 

「戦争戦争って言うけど、あたしはおにいちゃん達の闘いに付いて行った事がないから、やっぱり実感が湧かないなぁ。でも、お城がいつもピリピリしてるのは、なんとなく分かるんだよね」

 

 エリーゼは2人の意見に、自分の思っている事を素直に口にした。実戦経験がなく、また、戦場に出た事もない。唯一、スサノオとアマテラスを無限渓谷で助けに行った事のみが、エリーゼにとっての初の戦場だった。

 だが、それも戦闘はほとんど終了していて、増援を相手にしていたのはマークス、カミラ、レオンの部隊のみで、エリーゼはすぐに後方へと下がったのだが。

 

「そういえば、エリーゼ様はよく城下に出ておられたようですが、それが原因でしたか。しかし、地下街にも危険な地域は存在します。なるべく一人での外出は避けて下さい! なんなら、このハロルド、エリーゼ様の命とあらば、いつでもお供致しますよ!」

 

「あ、うん、考えとくね」

 

 爽やかなハロルドの笑顔を前に、エリーゼは乾いた笑みを浮かべる。ハロルドと一緒に街へ出ようものなら、どんな不幸が彼を襲うか。

 そう、不幸に襲われるのは()()()()()、なのだ。彼と外出した先で、エリーゼは必ずと言って良い程に、その場面を間近で目撃させられ、時には命にすら関わるのではないかと思えるような事も起こるので、心労がマッハで溜まるのである。

 故に、エリーゼはハロルドと2人きりでの外出はなるべく避けている。ハロルドと出掛ける時は、必ず他に誰かを付けるようにして、エリーゼへの心労の一局集中を回避していたのだ。

 

「さっきの言葉に返すようだけど、本当に賑わってるわよね。戦時中にこれだけ繁盛してるのって珍しいと思うわ……」

 

 周囲を軽く見ながら言うノルン。疑問に思うのは、何故こんなに賑わえるのか──という事だ。

 

「多分、自分達には関係ないって思っているのよ」

 

「はひいぃぃ!!?」

 

 彼女の疑問に答えるのは、いつの間にかエリーゼ達が座っていたテーブルの脇に立っていたニュクスだ。

 音もなく──というか、音はこの喧騒で紛れてしまうのだが、ともあれ急に現れた彼女に、ノルンが素っ頓狂な悲鳴を上げて勢いよく立ち上がる。

 そんな彼女の反応に、渋い顔をしてニュクスは立ち尽くしていた。

 

「ありゃ? ニュクスじゃん。どうしたの?」

 

「ちょっと本を買いに来ただけよ。その帰りに、たまたま貴方達の姿がこの店の中に見えたから、少し寄ってみたの」

 

 アイシスはノルン程に驚いた風でもなく、「奇遇だねぇ~」程度にしか捉えていないようである。

 咳払い一つして、ニュクスは話をさっきのものへと戻す。

 

「国と国との争いは確かに大きいわ。だけど、当事者でない者からしてみれば、自分の住む土地が戦地にでもならない限り、あくまで余所事でしかない。流通の面での影響もあるにはあるでしょうけど、命に関わる程ではないし、関心を持たないのも無理はないわね」

 

 要は、自分とは関係ない。勝手に戦争をしているのはお前達だ。だから興味も無ければ関心もしない。

 どちらが勝とうが、負けようが、自分達の生活が何も変わらないのなら、それでいい───。

 

 それが彼らの立ち位置であると、ニュクスは言う。彼女もまた、つい先日までその内の一人だっただけあり、その言葉には強い説得力が宿っていた。

 

「戦争って……何なんだろうね?」

 

 その渦中真っ只中に居る王族であるエリーゼは、たまらずそれを口に出していた。

 

 何故? 何の為に? 何か意味があるのか?

 

「どうして、お父様は戦争なんてするんだろう……。仲良く手を取り合う事だって、出来たかもしれなかったのに」

 

「そうね。でも、もう戦争は起きてしまった。それを始めたのは他でもないガロン王。いくら悔いたところで、これは覆しようのない事実なのだから、貴方や私達は今出来る事を全力でしましょう?」

 

 起きてしまった事はもう変えられない。ならば、これから先の未来を、自分達の手で変えていく……。それこそが、自分達に出来る事。自分達にしか出来ない事なのだ。

 ニュクスの言わんとしている事を、朧気ではあるが理解したエリーゼは、頭を軽く横に振ると、華やかな笑顔を取り戻す。

 

「そうだよね! あたしに出来る事をせいいっぱい頑張る! 未来はあたし達が作っていくんだから!! さーて、そうと決まれば、まずはお腹いっぱいになって力を付けるぞー!!」

 

 暗き夜の続く国で、エリーゼがこのような天真爛漫な王女へと成長した事は奇跡に近い。この奇跡のような存在が、これからの暗夜を暖かな光で照らすのだと、この場に居合わせた者達は揃って感じていた。

 

「それじゃ、私は帰るわね」

 

「えー!? せっかく来たのに、もう帰っちゃうの!? どうせだし一緒に食べていこうよー!!」

 

 用事は済んだとばかりに帰ろうとしたニュクスを止めに掛かるアイシス。腕を掴まれ、困ったように眉を八の字にして、エリーゼ達に助けを乞うような視線を送るが、

 

「そうだよー! お食事は人数が多い方が楽しいもん。ニュクスも一緒にご飯食べようよ!」

 

 むしろエリーゼはアイシス派であり、ハロルドはうんうん、と頷くばかりで、ノルンは申し訳無さそうに俯いている。これでは、ニュクスを助ける者は居ないだろう。

 

「……分かったわ。でも、食事が済んだら帰らせてもらうわよ?」

 

「うん。あたし達も食べ終わったら帰るつもりだったし、問題ないね」

 

 変に粘るより、あっさり折れてしまう方がまだ楽だと判断したニュクスは、諦めて彼女達の提案を受け入れる事にした。

 テーブルは4人掛けだったので、手近な所に居た店員に声を掛け、追加で椅子を用意してもらう。

 

「はい、どうぞお嬢さん。子ども用の椅子ね」

 

 とても良い屈託のない笑顔で、店員のお姉さんが持ってきた椅子を前に、神妙な顔付きで固まってしまうニュクス。彼女用に用意された椅子は、どう見ても子ども用に高さや大きさが調整された、言うならば『お子様用チェア』であった。

 ヒクヒクと頬を痙攣させて、だけど店の忙しさを見るに、余計な手間は迷惑だろうと仕方なくその椅子に座らざるを得ない。

 周囲からすれば、別におかしな光景ではないが、本人からすれば恥ずかしい以外の何物でもない。

 

「……やっぱり、私はどこへ行っても子ども扱いされるのね。でも、それも仕方ない事。それこそが、私の罪の証なのだから……」

 

「むむ? ニュクス君が何故か落ち込んでしまったのだが、誰か理由が分かる者は居るかな?」

 

「……踏み込んだ話になるだろうから、あまり深く追及してあげないでね」

 

「ん? あ、ああ」

 

 疑問符を浮かべるエリーゼとアイシスを除き、ノルンだけは何か察しているらしいが、彼女なりに気を遣ってその話題は打ち切る。が、ニュクスはすぐに真顔に戻り、

 

「それはそうと、さっきの話なのだけど……。私の理想像とも言える容姿をした大人の女性から声を掛けられたわ」

 

 と、いきなり話題を切り替えた。そして、それに過剰に反応を示すのは、末妹王女ことエリーゼだ。

 

「大人の女の人!? 聞きたい聞きたい!! あたし、カミラおねえちゃんみたいな立派なレディを目指してるから、そういうのすっごく聞きたいよー!!」

 

「うーん……あたしはそういうのパスで。ヒーローに女の子らしさとかは要らないしね~」

 

「まあまあ、そう言わずにニュクス君の話を聞こうではないか! それで、一体どんな用件だったのかな? 何か困り事なら、場合によっては私も力を貸そう!」

 

 エリーゼのテンションに圧されて萎縮しているノルン以外が、それぞれに違う反応を返してみせる。

 片や、興味深々といった具合に身を乗り出し、片や、それとは真逆の反応を示し、片や、少しベクトルの違う方向に興味を示して。

 そして見事に、その内の一つが当てはまったのだった。そう───ハロルドだ。

 

「そうね。人探しをしていたみたいだから、人助けになれるかもしれないわね。女性の特徴は、長いウェーブの掛かった髪で、胸が大きいのにそこが開けた鎧を着てて、余裕のある女性って感じだったかしら」

 

「ふーん(なんかカミラ様の特徴に似てるなぁ~)。それで? その女の人が探してるっていう人の特徴は?」

 

「何でも、弟を探しているそうで、全体的に白い格好をしていて、美形で、格好良いのに可愛らしい顔付きで、それでいて凛々しく優しい性格の男性………、だったかしらね?」

 

「「「……あ」」」

 

 その説明に、3人はなんとなく察しがついてしまった。どうしてこの街に居るのかという理由は、はっきりとではないが分かるのだが、どうやって来る事が出来たのだろうという疑問。

 

 その女性が誰で、誰を探しているのか。もう答えは出ているだろうが、敢えてそれを明記しよう。

 そう、答えはズバリ───

 

 

 

『カミラがスサノオを探している』のであった。

 

 




 
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「……ハァ」

カンナ「どうしたの? 溜め息なんてついちゃって」

ベロア「え? ああ、別に溜め息じゃありません。感嘆の息ですよ」

カンナ「何でまた、そんな……」

ベロア「ふと気付いてみれば、この作品もUAが10万を超えていたので、つい。なんというか、感慨深いですね」

カンナ「メジャーかマイナーかで聞かれたら、間違いなくマイナーの部類に入る作品なのに、それだけ見てくれてる人も居るってことだもんね」

ベロア「作者がヒーローズにかまけている間に、そんな事になっていようとは、当に驚きだったそうですよ」

カンナ「嬉しいよね~。総数100話越えて、読むのもしんどくなってきてるはずなのに、付き合ってくれてるんだもん。よーし! あたしも頑張ってこのコーナーを盛り上げていくぞー!!」

ベロア「わたし達が頑張ったところで、特に何も変わりませんが……まあ、言わぬが花、とかいうやつですね。とにかく、次回もよろしくお願いしますね」

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