ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第55話 屍との演武

 

 天蓋の森と似たような状況ではあるが、今回はあの時とは決定的に違う。今回は最初からフルメンバーで、全員のコンディションも整っていた。不意打ちでもなければ、待ち伏せですらない、単なる遭遇戦と何ら変わりないノスフェラトゥとの戦闘。

 ただ、あの時と決定的に違うとするなら、守らなければならない存在───闘う力を持たないエリーゼなどといった非戦闘員がこの場に居ない事、そしてスサノオが竜の力の扱いに慣れ始めてきていた事だろう。

 スサノオがその身に宿す竜の力。それは白夜の手練れの将兵であったハイタカとの戦闘を経て、更に上の段階へと昇華された。

 

 ───この力は、仲間の為に。

 

 祖国の兵であろうとも、()()()()()()仲間達を守る為なら容赦なく斬り捨てる。慈悲もなく焼き尽くす。遠慮なく討ち滅ぼす。

 

 ───この力は、その為に。

 

 ならばこそ、ノスフェラトゥ如きに遅れを取る訳にはいかない。こんなところで、足踏みしている訳にはいかない。

 意思もない怪物を相手に、その手を緩めなどしない。むしろ、機能停止(殺す事)こそが、怪物へと変えられてしまった彼らへの救いであるだろう。

 

 ───この力は、何かを、誰かを救う為にこそ、振るうべきなんだ。

 

『グウゥゥゥゥウウウオォォォォォォォオオオオ!!!!!!』

 

 咆哮は木霊する。山でもなく、峠でもなく、峰でもない、平坦な森の中であっても、その轟きは大地の彼方にまで届く勢いで、世界に浸透するように響き渡る。

 哀れなる屍の兵。彼らに救いを与えんと、それはどこか悲しい竜の叫びでもあった。

 

 

 

 

 黒竜の咆哮は敵に対し、威嚇と注目を集める効果だけには留まらない。敵への威嚇だけではなく、それは同時に味方への鼓舞にもなっていた。

 

「やれやれ…僕達の主君があそこまで張り切っていては、臣下たる僕達も負けてはいられませんね。では、屍の兵達よ…焼き尽くしてあげましょう。『ボルガノン』!!」

 

「グルルグァ!!?」

 

 ライルは若干の苦笑を自身の主たる黒竜に一瞬だけ向けると、すぐに正面へと振り返り様に爆炎の魔法を撃ち放つ。今にもライルに殴りかかろうとしていたノスフェラトゥは、訳も分からないといったように短い悲鳴を上げて、その悲鳴ごと炎の渦へと呑み込まれた。

 炎の渦は隕石が如く勢いを以て、周りのノスフェラトゥすらも巻き込み、そして飲み込んでいく。その炎の渦が通った跡は、文字通り、焼け野原となっていた。

 

「おいおい、アブナいねぇ。俺までノスフェラトゥと一緒にアツイのでイッちまうところだったじゃないか」

 

 と。そんな炎の渦に、闘っていたノスフェラトゥごと巻き込まれそうになったゼロが、わざとらしい文句を口にする。わざとらしいだけあって、その口振りには怒りの感情はまるで込められてはいなかったが。

 

「何を今さら。貴方なら避けると計算込みで放ってますので、言うならば“知れた仲故の信頼”ですよ」

 

 ゼロの言葉に乗るように、ライルも軽口を返してみせる。互いにどういう性分か知れているからこそ、こんな軽いやりとりが出来るのだが、無論ながら彼らもそれを理解していた。

 

「へぇ…言ってくれるねぇ。だが、信頼してくれてるってのは素直に嬉しいぞ。色々シ甲斐があるってもんだ」

 

「僕に対して何をしようとしているのかは追及しないでおきましょう。藪をツツいて蛇が出るのは勘弁ですから」

 

 2人は他愛ない会話を続けていたが、互いにその手を休める事はない。絶え間なくノスフェラトゥに攻撃を続けながらも、互いに顔を合わせる事もなくただ敵を倒す。それは相応の実力が伴わなければ不可能な芸当だ。

 そして、それはこの2人に限った話ではない。

 

「フハハハハハ!!!! もっとだ! もっとその脳天から血をぶちまけるがいい!! もしくは脳に直接火矢を射てやるわ!!! ライル、もっと派手に炎を放てェェ!!」

 

 もはや狂気じみた恐ろしい顔付きで、ノルンはノスフェラトゥの頭部へと正確に矢を射ていた。ノスフェラトゥの頭部に装着されたメットの付け根を狙っては、見事にその頭部からメットを外させて、露出したノスフェラトゥの眉間を矢が撃ち抜く。

 時には、ライルが放った炎の魔法の側面から、燃えにくい材質で作られた、先端に油を塗った矢を放って火矢へと変えるなど、器用に攻撃の種類を増やしたりもしていた。

 

「さあ、遊んでやろうノスフェラトゥども!! 潔くあの世に逝くがいい!!!!」

 

 戦闘が始まる前とは打って変わって、ノルンは率先してノスフェラトゥを次から次へと討伐していく。その見慣れた変貌ぶりに、しかしそれでもゼロは納得のいかない顔で、

 

「……相っ変わらず頭がイッちまってる女だぜ、全くよ」

 

「…それがノルンの良さであり、魅力ですからね。……恐らくはですが」

 

 ライルもまた、自信無く口にする。確かにそこがノルンの個性なのだが、果たして本当に良さ、ひいては魅力と言えるのかは、それを見た個々人で違ってくるのだろう。

 

「ともあれ、彼女の奮戦は嬉しいものですね。そろそろこのノスフェラトゥとの戦闘にも興味が失せてきましたので。では、一気に片を付けます!」

 

 ライルの魔道書を開く手に力が籠もる。ノルンに負けてばかりはいられない。この軍の参謀的存在として、自分が知能に長けただけの存在ではないという事を証明しようとばかりに、盛大かつ確実に炎塊を以て、屍より作られし怪物達を駆逐していく。

 

 プライドなんて大層なものでもないが、それでも、仲間の活躍ぶりを前に、自分も頑張らないのはどことなく悔しかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はえ~……ノルンすごいなぁ…」

 

 手綱を引く手を緩めずに気の抜けた声を出すアイシス。遊撃手と癒し手を兼任している彼女は、戦闘のみに集中する他の者とは違い、戦場全体を視野に入れやすい。故に、必然的に『どこで、誰が、どんな状況』かを把握出来ていたのだ。

 

「……今思ったけど、変身するヒーローってカッコいいよねぇ。前にカタリナから見せてもらった絵本(?)にもあったけど、ヒーローとして活躍する時だけ変身して、普段は正体を隠して一般人を装う…。ん~! 世を忍ぶ仮の姿…!! ちょ~カッコいい!!」

 

 戦闘中でありながら、理想のヒーロー像を夢想するアイシス。普通、そんな状態でまともに闘えるはずがないのだが、アイシスは特例と言うべきだろう。

 ニマニマと気の抜けるような笑みを浮かべながらも、彼女の手から力が抜ける事はなく、むしろ正確無比に救援の必要な所へは文字通り空を駆けて飛んで行き、現れたばかりのノスフェラトゥには率先して攻撃、即座に後退するというヒット&アウェイ戦法を繰り返していた。

 

「でも、ヒーローたる者、仲間と協力出来ないとヒーロー失格だもんね! ……、」

 

 仲間の状況を把握し、如何に彼ら彼女らを援護するのか。つまりは、どうすれば“仲間を守れる闘い方”が出来るのか。それがアイシスの戦闘を行う上での基本的な方針だった。

 どんな戦場でも、どんな戦況でも、どんな戦闘でも、その方針が変わる事は決してない。

 

 だって、そう教わったから。父や母に次いで、自分にとってのヒーローであり、憧れであった人から。

 

 

 

『ひとりで戦うだけじゃなく、みんなと協力していくことも…君には必要なんじゃないかな? その方が結果的にみんなを守れることに繋がるはずさ。そうなれば○○○○だって、みんなに、もっと認めてもらえる。みんな「○○○○は更に格好いい」って思ってくれるはずだよ!』

 

 

 

 かつて貰ったその言葉。それは、今もアイシスの心の中で爛々と太陽よりも熱く、眩く、激しく輝いている。彼女を構成する、欠けてはならない柱として、根強く息づいている。

 

「見てて……って、いうのは変だけど。でも、あたし頑張るよ。仲間はあたしが守ってみせるから!!」

 

 ──往くよ、カティア!!

 

 思い出を胸に、決意を込めて手綱を握る手に力が入る。愛馬と共に、天の騎士は空を舞う。その姿こそが、既に正義の味方(ヒーロー)の風格を持っている事を彼女自身はまだ知らない───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が奮戦ぶりを見せる中で、殊更変わった奮戦ぶりを見せている者が一人いた。その人物とは───

 

「ハーッハッハッハ!! さあ来たまえ、ノスフェラトゥよ! この私が相手だ!!」

 

 スサノオ軍一の暑苦しくも爽やかである、庶民のヒーロー。そう、エリーゼの臣下でもあるハロルドだ。

 

「正義の鉄槌を下そう!」

 

 と言っては手から得物である斧はすっぽ抜け、

 

「その程度では私は倒せないぞ!」

 

 と言っては攻撃を受ける瞬間に図らずも泥濘に足をとられて転倒、頭部にダメージを蓄積させ、

 

「まだまだ! どんどん来るのだ!!」

 

 と言っては眼前のノスフェラトゥだけでなく、周囲のノスフェラトゥまで寄ってきて。

 とまあ、このようにハロルドの気合いは空回り気味であったのだが、それが何故、奮戦ぶりを見せているのかと言えば、不運も廻り廻って敵にすら襲い掛かっていたのである。

 例えば、すっぽ抜けた斧はたまたま隣でアカツキの闘っていたノスフェラトゥの頭にザックリと刺さって倒したり。

 例えば、転倒の際に倒れる上体に引っ張られる形で振り上げられた腕と、手にしていた斧が眼前のノスフェラトゥに深々と傷を与えながら振り上げられたり。

 例えば、自身の周りに集まってきたノスフェラトゥの円陣を、見かねたニュクスが炎の魔法によるサークル状の火柱でまとめて焼き払ったり。

 

 彼の不運は意図せずに敵に影響すら与えていたのだ。不幸中の幸いとはよく言ったものである。

 だが、それも実力が伴ってこその活躍だ。不運だけで生き残ってこられる程、この世界、ひいては戦争とは甘くはない。そして、その実力もさることながら、不運にめげないその精神力こそが、彼の長所と言えるだろう。

 だからこそのヒーロー。前向きな彼の姿は、不運に見舞われようとも、その姿を見た者に負の感情すら与えないのだ。むしろ、笑い物になる時があるくらいである。

 自分の不運が誰かの為になるのなら。自分が不運を被る事で誰かが笑顔になるのなら。喜んで不運を受け入れてみせよう───。

 

 それが、ハロルドという男の在り方なのだ。

 

 

 

「本当に、どんな星の下に生まれてきたのかしらね」

 

 そして、そんな男の闘う姿を見ていたニュクスは、呆れながらも感心せざるを得ない。

 普通、あれだけ不運が続けば卑屈な人間になってもおかしくはない。いや、むしろそういう人間になりやすいだろう。

 だがしかし、ハロルドはそれとはまるで真逆の、素晴らしい程に良い人格者なのだ。でなければ、不運にまみれた人生を送ってきて、その上で正義の味方を名乗るなんて、しかも体現出来ているなんて、彼以外では不可能ではないのかとさえ思えてしまう。

 

「……いいえ。そんな星の下に生まれた()()だったからこそ、皆から慕われる『庶民のヒーロー』なのね」

 

 少し前の事だ。とある街に滞在───否、隠れ住んでいた頃、ニュクスは風の噂に聞いた事があった。

 曰わく、暗夜の軍には、軍内でただ一人の正義のヒーローが居る、と。(後日、新たに加わった女ヒーローについては、この時はまだ噂になっていなかった)

 最初は何の冗談かと思った、いや、今まで思っていた。暗夜王国と言えば、力で支配する事を是とする実力主義の治世を敷いている。そんな、正義など力の前では淘汰されるのだと証明しているような王国なのに、ヒーローなんて存在する訳がない……と。

 

 しかし、実際に噂の当人であると推測されるハロルドを目にして、その噂は真実なのだと信じざるを得なかったのだ。こんなにも正義感に溢れ、あまつさえ実行に移してしまえる彼をヒーローと呼ばずして何と呼ぶ。

 

 不運にめげず、そればかりか笑って受け止めてみせる彼だからこそ、暗い影の差す暗夜王国であってもヒーローで居続けられるのだろう。

 

 そして、その彼が仕えるエリーゼ王女の人柄も、ニュクスは短い間であるがある程度は理解している。天真爛漫で人懐っこい、ガロン王の娘とはとても思えない程に心優しく暖かな王女。

 彼女や、そして自らを仲間に招き入れたお人好しのスサノオのような王族が居るのなら、暗夜王国もまだ捨てたものではないかもしれない。

 

「もしかしたら、ここで彼らの力になる事で、暗夜王国の未来が変わるところを、この目で見る事が叶うかもしれない……。そう思うと、こうして誰かと一緒に居るなんて私には許されない罪も、帳消しに出来るのかもしれないわね」

 

 罪を犯した自分でも、闘う事で償いが出来るのなら。誰かの為になれるのなら。

 人と交わる事を避けてきた彼女の心にも、スサノオ達と関わる事で変化が生じ始めていた。

 

「ぬあ!? しまった、斧がどこかへ飛んでいってしまった!! 仕方ない、素手であろうと私は闘い続けてみせる!!」

 

 感傷に浸る余裕もなく、ハロルドが再び斧をどこかへすっぽ抜かせて飛ばしてしまう。呆れた事に、本当にそのまま素手で闘おうとしているのだから、無謀というか勇敢というか。この場合、蛮勇とでも言うべきか。

 

「まったくもう……。手の掛かるヒーローが居たものね。ハロルド、私が魔法でノスフェラトゥを止めている間に斧を拾ってきなさい!」

 

「ん? おお! 恩に着るぞニュクス君!!」

 

 ダッシュで斧を取りに行くハロルドと入れ替わりに、ニュクスが彼を追おうとしているノスフェラトゥの前に立ちはだかる。仲間を守るなんて、今まで柄でもなかったけれど、スサノオ達に影響されてしまったのだろう。それを理解している自分が居る事に、内心では小さく笑っていた。

 

「グギギィイアア!!!」

 

「さあ、掛かってらっしゃい。同じ怪物が相手になってあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 実を言えば、今まで述べてきた誰よりも戦果をあげているのは、最初こそへたり込んでいたエルフィその人だった。

 こう言っては何だが、守るべき存在とは、ある意味で足手まといだ。守らなくてはならないために、防衛に集中しなくてはならず、防戦一方で打って出る事が叶わないから。

 だが、それが無ければその分エルフィは敵に向かう事だけに集中出来る。そうなったエルフィが如何に敵を蹂躙してみせるか、云うに語らずとも簡単に理解、想像出来る事だろう。

 

「……っせい!!!」

 

 その手にした槍を、エルフィは遠慮なく横に殴りつけるように振り回す。それこそ、暴風のごとく。怪力の持ち主であるエルフィ用にあしらえられた大槍は、根こそぎノスフェラトゥ達の胴体を引きずりながら一閃された。

 

「ゴグルグァ!!」

 

 大きなモーションにより隙が生じた彼女に、好機とばかりに一体のノスフェラトゥが拳を振り下ろすが、彼女は動じる事なくその場で動かない。

 

 それも当然である。何故なら、それはわざと見せた隙だったから。

 大きな盾を地面に刺すように突き立てると、エルフィは真正面から迫るノスフェラトゥの大きな拳を、その女性らしく小さな手で受け止めた。

 そう、()()()()()()()()。人間が、改造されて筋力の強化されているであろう死したる兵士の剛撃を、片手でだ。もはや人間離れしたその力。一体彼女の華奢な身体の何処に、そんな力が秘められているというのか。

 だが、それは紛れもなく彼女が長年掛けて培った、彼女の実力に他ならない。紛う事なきエルフィの努力の現れだ。

 

「流石はノスフェラトゥ……でも、軽いわ!!」

 

「ギギギャ!!?」

 

 エルフィのノスフェラトゥの拳を掴む手に力が入る。メキメキと骨の軋む音は、明らかにノスフェラトゥからのものだった。痛みを感じないノスフェラトゥではあるが、理性ではなく本能に近しいものによって動くノスフェラトゥではあるが、今の状況を正しく処理出来ていないのだろう。

 自分よりも遥かに小さき人間が、自らの拳を受け止めたどころか、逆に自身の身動きすら封じられ、掴まれた拳はうんともすんとも動かない。

 

「ハアアァ! せやぁ!!」

 

 エルフィは掴んでいた拳ごと、ノスフェラトゥの巨体を砲丸投げの要領で振り回すと、最大限の回転力へと到達した瞬間に手放した。

 砲丸ならぬ砲弾の如き勢いで解き放たれたノスフェラトゥは、その巨体に違わぬ物理的な威力を持って、他のノスフェラトゥの集団へと投げ放たれる。

 まさしく肉弾とでも言うべき暴威が、同じ死者達へと襲い掛かる。エルフィは知る由もないが、ボウリングと呼ばれるスポーツ競技のピンのように、ノスフェラトゥ達は四方八方へと散らされる。もしくは、泉に投じた一石により生じた波紋が波打つように。

 

 エルフィの快進撃はそれだけに止まらない。彼女は自分や仲間が倒したノスフェラトゥの残骸に手を伸ばすと、同じように肉塊砲弾と化したノスフェラトゥによる砲撃を行ったのだ。

 近寄るノスフェラトゥは、回転する彼女の持つノスフェラトゥによって軒並み蹴散らされ、止める事すら叶わない。遠距離攻撃や知恵を持たないノスフェラトゥの軍隊には、エルフィによる猛威を止める術は存在しなかった。

 

「おい、エルフィ! お前は加減というものを考えろ!!」

 

 しかして、その活躍ぶりに苦言を呈するのは、ミネルヴァと共にあちこちを飛び回るミシェイルだ。押されている仲間を助けるという都合上、せわしなく動く彼らにとっては、エルフィの砲撃のような攻撃は、窮めて危険かつ迷惑他ならないのである。

 

「ごめんなさい…。でも、早く片付けてエリーゼ様の所に行きたいし、それにアカツキにも叱られたし……」

 

 謝るものの、あまり反省の色の見られないエルフィに、ミシェイルは頭が痛むのを堪えて溜め息を吐く。彼女のこういう一直線な部分を変えられないという事を、彼はすっかり忘れていた。

 

「むう。これは少し発破をかけすぎたやも知れぬ」

 

 と、一旦ノスフェラトゥから距離を取るべく下がってきたアカツキが、ミシェイルへと申し訳なさげに視線を送る。

 

「…まあいい。早く片付けたいというのは、こちらとしても同じだからな。こちらが気を配れば良いのなら、さっさとこの下らない戦闘を終わらせられて楽だろう」

 

「それもそうか。さて、私ももう一踏ん張りするとしよう。こんな所で無駄な時間を費やしてはおれぬのだ。ああ…今頃カタリナはどうしているのか。お腹を空かせていないか? 私と離れて寂しい思いをしていないだろうか? もしや危険な目に遭っていないだろうか? ああ……ああ……ああ! 心配でならぬ!!」

 

「…………」

 

 ミシェイルは頭が更に痛くなるのを我慢する。そういえば、忘れていた。アカツキが極度の妹過保護であったという事を。普段の凛々しい彼女からは想像も出来ないシスコンに振り切ったその姿。彼女をよく知らぬ者からすれば、恐ろしい程の変貌ぶりだが、昔から彼女を知るミシェイルとしては、見慣れてはいるものの、面倒な状態であるのに変わりない。

 何せ、この状態の彼女はエルフィ並みに周りが見えなくなりがちだから。

 

「俺は何故、こう疲れる役回りばかりなんだ……」

 

 そして、口にはしないが心の中でアカツキの言葉に反論を述べる。

 

 ───多分、その心配の全ては無駄だろう。

 

 決して口には出さない。だって、後が面倒だったから。無理矢理に気を取り直し、再び彼らは飛翔する。今度はエルフィという暴風が如きノスフェラトゥ大車輪に注意して、自らに与えられた役割を果たさんが為に……。

 




 
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「このコーナーもずいぶんと久しぶりですね」

カンナ「だね~。若干作者さんが失踪疑惑すらあったけど、ちゃんと更新されて良かったよ」

ベロア「そうですね。わたしとしても、報酬が貰えないのは困るので、安心しました」

カンナ「さてと、それじゃ今日のゲストを早速呼ぶよ!」

ベロア「はい。では、ゲストさんどうぞ」

シグレ「どうも皆さん。今日は俺が来させてもらいました」

カンナ「あ! シグレだ!」

シグレ「どうにも、今日のお題に関連して俺が呼ばれたみたいですね」

ベロア「えっ…もう今回のお題を知ってるんですか?」

シグレ「えっと、逆にベロアやカンナは知らないんですか?」

カンナ「うん。あたし、なんにも聞いてないよ?」

ベロア「わたしもです」

シグレ「そうですか…。じゃあ、俺からさっくりとお題について話しますね。今日のお題は『「笑顔の影」という楽曲について』です」

ベロア「それは、確か……『if~ひとり思う~』のシングルに収録されている曲でしたか?」

カンナ「あ、あたしも知ってるよ。お父さんも良い歌だっていつも言ってるもん」

シグレ「はい。その曲です。今回は、作者がそれを聴いていて、ふと感じた事があったらしく、お題として取り上げられたんですよ」

ベロア「なんという作者の勝手な都合でしょう…。それはそれとして、その感じた事とは何でしょう?」

カンナ「感想…とか?」

シグレ「カンナの答えが正解に近いですね。あの歌を聞いて、歌詞を改めて読んでみれば、ふと思えてくるんです。あの歌詞は、母さん……いいえ、『アクアから主人公へ向けてのもの。または主人公からアクアへ向けてのもの』としても当てはめられる、と」

カンナ「…言われてみれば、なんとなく、そんな気がするね」

ベロア「曲自体はファイアーエムブレムifと全く関係ないですが、確かになんとなく当てはまる気はしますね」

シグレ「歌詞の細かな箇所すべてがそうであるとは言いません。ですが、ところどころで母さんとスサノオさん、この場合は主人公ですね。2人のどちらか一方が相手に贈る歌のようにも聞こえるんです」

カンナ「アクアさんとしての立場でも、お父さんやアマテラス叔母さんとしての立場でも、それぞれが互いの事を歌っているようにも聞こえるんだね。不思議だなぁ…」

ベロア「ですが、これはあくまでも作者が感じた単なる感想です。人の見方によっては、そう思えない、そう聞こえない人も当然いるでしょう」

シグレ「ですので、これは作者が勝手に決めた事だとお思い下さい。『笑顔の影』という歌は、アクアが主人公の事を歌っている、もしくは主人公がアクアの事を歌っているかのような歌詞である事から、互いへと贈る歌と見ても良いのだ、と」

カンナ「みんなも一度聞いてみてね。歌詞をよく踏まえた上で、アクアさんやお父さん、アマテラス叔母さん…主人公達の境遇を考えると、そう聞こえてくるかもしれないよ」

ベロア「まあ、作者にとっての『アクアと主人公のアンサーとなる歌』なのでしょうね」

シグレ「それを抜きにしても素晴らしい楽曲なので、是非聴いてみてくれると嬉しいです」

カンナ「それじゃ、今日はこの辺でお別れだよ! 次回もよろしくね!」

ベロア「まあ、その次回が何時になるかは不明なのですが……。次回もよろしくお願いします」

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