ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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レオン様誕生日記念回。しかし、内容は少々短め。
ちょっとしたオマケ回でございます。

 


番外編 赤き果実の誘惑

 

 とある日の事。その日、彼は初めて目にする食材に興味を引かれていた。

 

 

 今日は暗夜王国第三王子、レオンの生誕祭。王子の誕生日という事もあり、王城では盛大にレオンを祝うための催しが為されていた。

 曲芸、大道芸、宴会芸……と、様々な芸人を呼び寄せて、レオンを含む王族達の前で一組ずつ芸が披露されていく。

 しかし、それらを見て笑っているのはエリーゼただ1人。マークスはいつもながらに眉間に皺を寄せ、

 

「何が可笑しいのだ…?」

 

 とでも言わんばかりの顔で彼らを眺め、カミラはカミラで、

 

「ああ……ご馳走がたくさん…。どれを持って行ってあげればスサノオとアマテラスは喜んでくれるのかしら? いいえ、出来る事なら全て持って行ってあげたいわ……。でも、お父様からは5品までと言い付けられているし…。悩ましい……とても悩ましいわ…」

 

 芸には目もくれず、遠くに見える料理の軍勢を眺めて、北の城塞で過ごす弟と妹の事で頭がいっぱいだった。

 無論、ガロン王は表情一つ変えずにただただ入れ替わりやってくる芸人達を、つまらなそうに見つめているだけ。その冷たい視線を浴びて芸を披露する彼らが、哀れに思えてならないのは決して気のせいではないだろう。

 

 そして、祝われている当の本人であるレオンはといえば、

 

「……………」

 

 これまた面白くも無さそうに、むしろ眠たそうにすらしている程である。もはや、芸人達が滑稽でしかなかった。まさしく『道化師』とでも呼ぶべきか。

 しかし、そんな彼らにも救いはある。エリーゼだけでも笑ってくれているだけ、まだ良いというもの。彼らにとって、唯一ウケているエリーゼがまるで天使かのように見えていたのだった。

 

 

 

 

 一通りの出し物も終わり、さあ食事に移ろうという時、レオンは食卓のとある一角に奇妙なものがある事に気が付く。

 全体が真っ赤で、丸々と肥えた何かの果実らしきもの。その赤い果実が山のように銀のボウルに積まれていた。不思議と魅力を感じてしまうその果実に、レオンの足は自然とそちらへと向かい始める。

 そして目前まで辿り着いた彼の目に映ったのは、珠のような水滴を表面に浮かべた、とても瑞々しい果実。

 

「これは……?」

 

 一つを手に取り、しげしげと眺め回すレオン。正面から、上から、下から……と、様々な方面から観察していた彼だったが、

 

「あら? そのトマトがどうかしたの?」

 

「カミラ姉さん…」

 

 ずっと果実…『トマト』を見つめていたレオンの横から、カミラが声を掛けてきたのだ。

 

「ああ…。初めて見たから、少し興味深くて。これはトマトと言うんだね? 何というか…色合いが良いね。真っ赤なところとか、気に入ったよ」

 

「あら、レオンはまだ食べた事が無かったのね。それはシュヴァリエ公国近くの農村で作られている作物で、果物のように見えるけど、野菜の一種だそうよ。私も、その赤い色が好きね。だって敵が血飛沫を上げた時の鮮血みたいで綺麗でしょう?」

 

 簡単な説明に、自身の嗜好を交えてくる姉に、苦笑いを浮かべて、なんとなく頷きを返すレオン。カミラからの説明を聞いて、レオンは改めて手に持ったトマトと、山積みのトマトに視線を送る。

 

「うん……確かに、血のように赤い。カミラ姉さんの表現は少し物騒だけど、僕も鮮血の赤は嫌いじゃない。となると、今度は味わいがどうかなんだけど…」

 

 血のような赤さから、刺激的な味がするのかと想像を巡らせるレオン。そんな彼に、姉は自分もトマトを手に持って見せる。

 

「トマトは少し酸味があって美味しいわ。中は黄色っぽい色合いで、種がたくさん入っているのだけど、食べても大丈夫だそうよ。瑞々しさで言えば、野菜の中ではかなり上位に入るんじゃないかしら?」

 

 言うと、カミラは近くに待機していたシェフにトマトを手渡し、一口大に斬り揃えさせる。包丁を入れた瞬間、トマトの中から汁が溢れ出す。なるほど確かに、中は相当水っぽいようだと、レオンは密かに、それでいてガッツリと観察していた。

 

 シェフに斬らせたトマトをフォークで器用に掬うカミラ。それをレオンの目の前に持って行き、トマトがどのようなものかを教える。

 

「酸味があるって言ったけれど、甘酸っぱさもあって、シュヴァリエの女性にも人気があるんですって。騎士達の間でも、トマトを食べれば力が出るっていう話もあるらしいわ」

 

「へえ……。それは益々、」

 

「興味深いな」

 

 と、レオンの言葉に被せるように台詞を放ったのはマークス。レオンは自分の台詞が奪われて、恥ずかしいような悔しいような気持ちになる。

 

「私は父上の為にも、暗夜王国の為にも、強くあらねばならない。食べる事で力が付くというのなら、食べん道理も無いからな。古より、人は食事から力を得ていたという話もある。下らない伝説や真実かも分からん噂を信じるよりも、よっぽど価値があるだろう」

 

 マークスはトマトを手に取ると、そのままガブリと口に含んだ。もちろん、汁が零れないように受け皿を片手に。

 

「うん…。やはり旨いな。普段から食事に取り入れるように父上にも打診してみるか……?」

 

「さ、流石に私は毎日トマトが出るのは辛いわ、マークスお兄様……」

 

 本気で言っているのか分からない兄に、カミラは困ったようにトマトを口に運んだ。

 

 

 兄と姉のやりとりを横目で見ながら、レオンは手に持っていたトマトを、自らもマークスと同じようにかぶりついた。

 

「……これは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、僕とトマトの出会いだったんだよ」

 

「そ、そうだったんですね……。い、良い話ですね~……」

 

 そんな話を、ふと思い出したように語るレオンから聞かされたオーディン。というのも、レオンが食べようと持っていたトマトを、オーディンがジッと見つめていたからである。

 まさか、「いつもトマト食べてるけど、好きなんだな~」などと考えて眺めていただけなのに、こんな話を聞かされる事になるとは思ってもみなかったオーディン。多少なりとも長い昔話に、どう反応すべきか悩んだ末の結論が、さっきのアレである。

 もはやいつもの『自称カッコいい話し方』ですらないところを見るに、よっぽど答えに苦労したのだろう。

 

「トマトは僕の一番の好物さ。あの甘酸っぱさ、食べた時に口の中に広がる酸味……。そこに水っぽさが無ければ、ただのすっぱい果実でしか無かっただろう。だが、全てが揃っているからこそ、トマトを完璧たらしめているんだろうね」

 

「あ、あはは…そ、そうっすね~……」

 

 どうにか話題をトマトから変えたいオーディンは、何か新たなネタは無いかと思案する。しかし、わざわざ話題のネタを探すまでも無かったらしい。

 

「! レオン様! 見えてきましたよ!」

 

 彼らの正面、少し離れた所に、彼らの目的地が目に映ってきた。

 

「ああ。暗夜王国を出てから数日。距離を短縮するために無限渓谷も渡ったけど、ようやく到着だ。さて、父上からの任務も大事だが、きちんと始末は付けないとね」

 

「ゼロの奴もしっかり働いてると良いですけどね」

 

「そこは心配要らないさ。仕事に関してはゼロに心配なんて必要ない。毎回、きちんとこなしてくれるからね。さあ、気を引き締めておけよオーディン。僕らが何のためにここに来たのかを忘れるな」

 

「ふっ…! 俺は闇の戦士オーディンですよ? 油断はすれども慢心はしませんよ!」

 

「なんだか心配だね…。出来れば油断もしないで欲しいところだけど」

 

 

 彼らの行く先、そこは神秘に満ち溢れた国。神々が住まうとされている土地。そう、そこは───

 

 

 

 

 神々の坐す国、『イズモ公国』である。

 

 

 

 




 
前書きで述べた通り、ただのオマケ回です。17時にレオンの誕生日と知り、急ピッチでとりあえず2時間で仕上げたものなので、内容は薄いです。
現在、白夜編と暗夜編の50話を両方書いているところなので、オマケ回は手抜きとなってしまい申し訳ない限りです。

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