ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第49話 強者との闘い、氷血の誓い

 

 決死の覚悟で立ち上がったフローラ。痛む脚を氷で覆い、無理矢理にでも直立の姿勢を取る。フローラの生み出した氷の具足を目にしたクリスは、場違いにも目を爛々と輝かせて、食い入るように見つめていた。

 

「うわー!? 何ですかそれ!? すごくカッコイいじゃないですか!!」

 

「……、」

 

 どうにも掴みどころの見えないクリスを相手に、フローラは理解する事を諦める。彼はそういった人種であるのだろう。そう思わなければ、こちらは疲れる一方なのだ。

 

「カッコイいなぁ~……。よし! お礼に僕もカッコイい技を見せてあげますね!」

 

 と、おもむろにクリスはコートの内側に手を突っ込む。すると、コートに隠れるようにして背負われていたであろう袋が現れた。中の物でパンパンになり、表面が角張りゴテゴテとしたその袋。彼は縛っていた袋の紐を緩めると、中から数冊の魔道書を取り出した。

 

「よっ、ほっ」

 

 それらを、先程レクスカリバーの魔道書を投げたのと同様に、宙へと浮かばせるクリス。そして、

 

「これは……!?」

 

 手に持たれた魔道書と浮いた魔道書、計4冊の魔道書が一斉に魔力を帯びて、そのページを自動的に捲っていった。

 

「僕、剣の才能はほとんど姉さんに取られちゃったようで、まるっきしなんです。でも、代わりと言っては何ですが、魔法の才能には恵まれたんですよね~」

 

 軽く言うクリスであるが、その異様な光景にフローラは目を見開き驚愕していた。1人で4冊同時に魔法を放とうとするなど、そうそう出来る芸当ではない。それは、普通ではないと言うしかないくらい、おかしな光景だった。

 

「さあ、行きますよ!」

 

 そして放たれる四種の魔法。炎、氷、雷、風の全て違う属性を持った魔法が、一気にフローラへと密集するかのごとく、撃ち出されていく。

 

「……っ!!」

 

 あらゆる方向から襲い来る敵の攻撃、それらを全て捌くのは不可能だとすぐさま判断したフローラは、飛んでくる一つの魔法のみに照準を定め、自らも氷の力を用いて吹雪を放つ。狙うは氷の魔法。吹雪を氷の魔法にぶつけたフローラは、それによって自分の力と繋がった氷魔法を一気に巨大化させ、爆散させるように砕き割る。大きな氷塊と化したそれらが、他の三種の魔法へとぶつかり、氷塊は妨害の役割を果たして魔法共々炸裂しながら霧散した。

 

「なんてデタラメな強さ……!」

 

「場数だけは踏んでますからね。そう言うあなたも、僕のとっておきにあっさり対応したじゃないですか。流石は王族付きのメイド……っと、これはさっきも言いましたね?」

 

 凌いだものの、フローラは変わらず窮地に立たされたまま。クリスは未だ余裕を持ち、フローラは逆に限界が近付いている。何か策を講じなければ、負けは絶対なものとなってしまうだろう。

 しかし、現状フローラにはそれが無い。このままジリジリと追い詰められていくのを待つしかないのか。そうなれば、スサノオが彼らに連れて行かれてしまう。それは絶対にさせないと、先程誓ったばかりというのに。

 

(………、誓い…?)

 

 ふと、自らの思考に引っ掛かる何かを感じたフローラ。昔、幼い頃に父から聞かされたはずの、その()()を、フローラは必死に思い出す。

 思い出の一つとして、心の奥底に沈んだその記憶。誓いという言葉がキーワードだったような、朧気なる記憶。

 

「スサノオ様を連れて帰るついでに、あなたも一緒に連れて行けば、アマテラス様やフェリシアさんも喜ぶかもですね。よーし! そうと決まれば、こちらの都合ですみませんが、あなたも捕縛させて頂きます!!」

 

「…フェリシア……、そうよ…」

 

 妹の名前を聞いて、フローラは誓いという言葉とそれを結び付ける。本当に幼い頃、まだ部族の村に居た頃の話。

 かつて、父から教えられた氷の部族についての説明の中に、それはあった。

 氷の部族には特有の能力がある。もはや言わずと知れた、氷を司る力だ。魔力を用いる事で、強力な吹雪や大きな氷塊を生み出す事が可能な他、日常においても魔力を使わずに冷気を発生させたり、物を冷やしたりと、冷凍人間のような事が出来る。

 しかし、それらは一般的な力の使い方。氷の部族にはまだ、外部の人間はおろか部族内ですら、あまり知られていない力の使い方がある。それは氷を発生させるのではなく、生み出した氷を操るという事。既に固まった氷に自らの血を吸わせる事によって、その氷が溶けるまでの間、まるで水を操るかのごとく自由自在に動かせる事が可能となるのだ。

 ただし、既に固まった氷を動くようにするという離れ業を為すには、それなりの血が必要となる。だからこそ、フェリシアと共に父に誓わされたのだ。自らを削ってまでその力を行使する条件、自分よりも大切な者が出来た時、その者を守る時のみに、その力を使っても良い、と。

 

 その当時は、フローラはフェリシアと互いに互いを守り合う時に使おうと語り合ったものだが、今がその条件を満たす時。フローラにとって大切な人、スサノオを守る為に、今こそ力を使う時。

 

「……ッ!!」

 

 フローラは迷いなく、自身の腕に氷で作ったナイフで傷を付ける。少し大きめに刻まれた切り口からは、紅い血液が溢れ出す。フローラの白い腕を伝って、真っ赤な血は彼女の足下に広がる氷の地面へと滴り落ち、透明な氷を紅く染めて広がっていく。紅水晶のような、妖しい輝きを放つそれに名前を付けるとするならば、それは───

 

「『氷血晶』!!」

 

 まるで生きているように波打ちながら、フローラの足下の氷が紅く蠢く。何かが胎動するような、そんな錯覚さえ起きる。実際、クリスでさえその異様な光景を目にして、不気味さを感じずにはいられなかった。

 

「…………、」

 

 今までのおちゃらけた顔を潜ませ、フローラに対して初めて見せる真剣そのものな表情。闘う者の顔を、彼はフローラへと向けたのだ。真に闘うに値する敵として。

 

「行きます…!!」

 

 傷口を氷で塞ぐと、フローラは負傷していない方の脚で、地面をダン! と強く踏みしめる。すると、フローラを中心として波紋が広がるように、氷が津波となってクリスへと襲い掛かる。

 クリスはそれを見てすぐに、ファイアーで氷を溶かそうとするが、

 

「何だって……!?」

 

 撃ち出された炎の塊を、氷の津波は幾重にも覆い被さって飲み込んでしまう。それにより、炎熱を上回った冷気のために少ししか氷は溶けずに済む。

 ほとんど勢いを殺せなかった氷の津波に、クリスは風の魔法、『エルウィンド』を地面に向かって撃ち出し、その勢いを利用して空中へと脱出する。そして浮いた状態でフローラへと向けて『サンダー』を放つが、瞬時にフローラの周りを紅い氷の波が覆い尽くして防いでしまう。その見た目はさながら、中身を守る卵の殻のようであり、はたまた閉ざされた氷結の牢獄のようだ。

 

「これでどうです!」

 

 フローラの叫びと共に、クリスの着地点から、腹を空かした獣のように大きな口を開け、氷の波が渦巻きながらクリスへと迫っていく。 

 

「『ファイアー』!!」

 

 先程も放ったファイアーを渦へと向けて撃ち込むクリス。しかし、今度はただ撃ったのではなく、渦に沿うようにして炎を這わせていく。炎の渦が氷の渦を溶かし、やがて地面へとたどり着くと、炎を纏った蛇のように、地面の氷を溶かしつつも標的であるフローラへと這って行き、その炎の牙を剥く。

 だが、その行く手を阻まんと氷の波が炎の蛇に何重にも覆い被さっていき、先程の火炎弾同様、その内に飲み込んで消火してしまった。

 

「その氷、攻防一体のようですね。これは厄介だなぁ……」

 

「はあ、はあ……」

 

 さっきまでとは打って変わって、フローラ優勢へと形勢逆転を遂げていたが、それとは反比例するかのように、攻めているはずのフローラの方が、防勢一方になりつつあるクリスよりも疲弊が色濃かった。そして、クリスはその要因に既に気が付き始めていた。

 

「どうやらその力、多量の血を必要とする他にも、何らかのリスクがあるようですね」

 

「……」

 

「ふーむ、コントロールに相当集中しないといけないんじゃないですか? それこそ、全神経を集中させるくらい」

 

 ずばり核心を突かれるも、フローラは黙ったままで手をかざす。この力の短所を見抜かれようと、それが直接的な弱点でないのなら、早期に決着をつけてしまえば関係ない話だからだ。

 しかし、フローラ自身も気付いていない欠点を、クリスは見抜いていた。

 

「しかも、もしかしてですが……それを使うの、今日が初めてでしょう? 分かりますよ。僕も新技の練習や開発する時、コントロールに必死で神経をすり減らしますから。初めて使う技って、慣れてないから扱い辛くて疲れるんですよね」

 

 経験則からの指摘。それをよく知るクリスだからこそ、見抜けた欠点。逆に、フローラは必死すぎたが故に、スタミナ消費量の激しさを見落としていた。まさか、思っていた以上に体力、精神力共に削られる事になるなど、想像もしていなかったのだ。

 

「そんな初めてさんに負ける程、僕も弱くはありません。僕には手数が多くありますから、あなたの限界まで防がせてもらいますよ」

 

「くっ……!!」

 

 荒れ狂う氷の津波から、クリスに目掛けて氷の棘がいくつも飛び出してくる。発射される氷柱群を、クリスは『トロン改』を用いた凪ぎ払いで全て打ち砕く。しかし、氷柱の群勢はまるで無尽蔵のごとく、次から次へと射出される。しかし、このままでは終わらないループに陥ると判断したフローラは、撃ち出す氷柱群の中に大きな氷塊を混ぜた。

 その氷塊を雷閃が切り裂いた瞬間、バラバラと拳大に砕けて、それらの一つ一つが鋭く尖った氷の飛礫(つぶて)となって、トロンを放ったばかりのクリスへと襲い掛かる。

 

「『レクスファイアー』!!」

 

 しかし、クリスは宙に浮いたレクスカリバーとファイアーの魔道書を同時に用いた混成魔法により、風の力で勢いの増した炎を以て、氷の飛礫を蒸発させた。

 

「はあ……はあ……ッ!」

 

 あらゆる手段で当たっても、クリスは対抗策をすぐさま、それもいとも簡単に割り出してくる。そして指摘された通り、フローラはもはや立っているだけでもやっとになりつつある。それでもどうにか立って持ちこたえているのは、ひとえにその強い恋心が故だろう。つまりは、恋心という名の根性で、フローラはクリスと相対し続けているのである。

 

「如実に疲れが見えますね。それ!」

 

 対して、さほど疲れの色すら見せぬクリスは、フローラへと向けて再びトロンを撃ち放つ。とっさに分厚い氷の防壁を作り出すが、それを物ともせずに雷閃は貫いた。

 

「イツッ!!?」

 

 ほとんど直感的ではあるが、フローラは氷壁に雷閃がぶつかる瞬間、横に体を逸らしていた事でどうにか直撃は避けるが、今度は腕を掠めてしまう。それも、先程自ら傷を付けた腕を。傷を覆っていた氷は無残に砕かれ、再び血が流れ落ちていく。すぐさま、その傷を氷で覆うが、氷血晶はもはや限界だった。紅い氷の海は脆くも、ボロボロと崩れていき、氷からは鮮血の紅が消えていく。

 

「どうやら、時間切れのようですね」

 

 その様子を見て、クリスは浮いた魔道書を回収していく。と言っても、魔道書が勝手にクリスの手元へと戻っていくだけであるが。

 そして、クリスはそれらを荷袋へと直して、手元に残ったのはトロン改の魔道書一冊だけとなる。

 

「勝負あり、です。投降するなら、これ以上の攻撃はしませんが、どうします?」

 

 負けを認めるなら、もう手傷は負わせない。クリスの申し出は、戦争という過酷な戦場を生きる者にしてみれば、この上ない救いの手であるのかもしれない。

 だが、フローラにはそれを認める事など出来ない。

 

「お断り、します……」

 

 既に疲弊困憊であるというのに、彼女は未だ諦めていなかった。闘う力はもう無くとも、その瞳はまだ燃え尽きてはいなかった。皮肉なもので、彼女は氷の部族の者でありながら、心は熱く燃えたままであったのだ。

 

 そんなフローラの意思を目で、耳で、心で感じたクリスは、困ったように笑みを浮かべた。

 

「頑固ですね…。まるで姉さんのようです。あなたを見ていると、母さんや姉さんを思い出してしまいます」

 

 ぽつりと、懐かしむように言葉を紡ぐクリス。生まれ故郷への哀愁を思わせるその口振りに、フローラは訝しく感じるも、口を挟まなかった。

 

「僕の姉さんや母さん、それと父さんも。僕の一家はみんな諦めが悪かったり、頑固なところがありましてね。息子の僕は誰に似たのか、飄々とした変わり者ですよ。まあ、頑固という点では立派に両親から遺伝していますが」

 

「変わり者と、自分で言うのですか? それと言っておきますが、今の私はスサノオ様やアマテラス様あっての私です。お二方からの影響は大きなものでしょうから、似ているというのなら、スサノオ様方でしょうね」

 

 2人共に頑固なところがある。そんな事を思い浮かべて、フローラはクリスへと言葉を返す。馴れ合いではないが、今までのやりとりから、クリス本人に悪意を感じなかったからこそ、フローラは会話を是としたのである。しかし、だからと言って、下るつもりは一切ないが。

 

「確かに、そうかもですね。スサノオ様とアマテラス様。僕の母さんに似た雰囲気を感じますから。それから僕の叔父さんにも」

 

 ぼそりと呟いた最後の言葉。それはフローラの耳には届かない。何故なら、呟きと共にクリスの手の先から雷光が迸ったから。

 

 『バチチチチ』、と鳥の(さえず)りのような音を鳴らして、黄金の輝きを放つ魔道書と、雷閃を放たんと構えるクリスの右手。高まる魔力の濃さが、目視で分かる程に濃厚になっていく。もしも、あれを放たれれば、きっと無事では済まないだろう。

 

「これで終わりです。あ、ご安心を! 命までは奪いませんから!」

 

 決定的だった。強者たるが故の自信、そして余裕。圧倒的なまでの実力差。これを埋めるには、付け焼き刃や小手先だけでは全く足りないのだ。相応の経験値を積まねば、彼やルディアのような域には届きすらしない。

 

 だが、それでも。せめて最後まで抵抗しようと、フローラは暗器に手を掛ける。今更通用しないと分かった上で、まだ武器を手にする。執念にも近い意思の強さに、クリスは苦笑した。

 

「やれやれ。本当に……諦めが悪いですね」

 

 そして、雷閃が空を走る。フローラを殺さぬように、なおかつ、完全なる無力化を狙って、フローラの四肢を穿たんと四つに枝分かれして、それらは走る。

 思わず目を瞑り、フローラは来るであろう痛みと衝撃に体を強ばらせる。

 

 

 

 その刹那。

 

 

 フローラは何故か風を感じた。雷による痺れではなく、()()

 

 

 

「はてさて、どうにか間に合ったか」

 

 ふと耳に入る凛とした女の声。その声をフローラは知っている。そしてクリスも───。

 

「何故お主がそちらに居るのか、じっくりと聞かせてもらおうか? クリス」

 

「ありゃりゃ……。どうやら時間切れはこちらのようですね、

 

 

 

アカツキさん」

 

 




 
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「さて、今日は皆さんにお知らせがあります」

カンナ「お知らせ?」

ベロア「次で暗夜編も50話に到達するという事で、ちょっとしたアンケートをしたいと思います」

カンナ「おお! アンケート! 久しぶりだね?」

ベロア「なんだかんだで、もうすぐ投稿から1年も経ちますし、キヌの方でも白夜編50話記念があるらしいので、記念にアンケート…なんて事が多くなるかもしれませんが」

カンナ「それで? どんなアンケートをするの?」

ベロア「アンケートは二つです。一つは、『今後もアンケートを行う時は、キヌとベロアが担当するかどうか』。もう一つは、『オリジナル兵種の募集をしてみるかどうか』ですね」

カンナ「最初のやつはアンケートのアンケートみたいだね」

ベロア「まあ、最近いろいろあって、活動報告の場が荒れてましたからね。わたしやキヌがアンケートを担当するという台本形式も怪しいところです。ですので、それについてのアンケートを取りたいというのが本音です」

カンナ「ふーん。じゃあ、二つ目は?」

ベロア「それに関しては、前から考えていたらしいのですが、アンケートの結果がよろしいようなら、採用してみようと思い立って、アンケートを決断したらしいですよ」

カンナ「そっか。それじゃ、アンケートは改めて活動報告の方に書くから、良ければ見てね!」

ベロア「ちなみに、アンケートが集まらなくても、オリジナル兵種の方はこちらでも案がありますので、出す予定ではありますので」

カンナ「それでは、次回もよろしくね! あと、アンケートの方もね!」

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