ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

100 / 113
第47話 黒闇を纏いし竜の御子

 

 対峙するスサノオとハイタカ。どちらも、互いにどう動くのかを見てから動こうというのか、固まってしまったように微動だにしない。ただ、スサノオの揺らめく漆黒のオーラのみが、時間が止まっているのではないという証明であるかのように、スサノオとハイタカの2人だけは静寂に包まれていた。

 

「………」

 

「………」

 

 周囲でフローラが白夜兵を押し止めている声や音ですら、聞こえていないのではと錯覚させる静けさ。それだけ、彼らの集中力が研ぎ澄まされているのである。

 そして、

 

「……!!」

 

 場は動き出す。スサノオへと絶えず意識を傾けていたハイタカの眼前から、突如としてその姿が消え去った。否、消え去ったのではなく、黒き閃光のごとく、オーラによる軌跡を残しながらハイタカの背後へと瞬時に回り込んだのだ。まさしく、神速、瞬間移動とでも言うべき超スピードでの移動を可能としたスサノオ。突然上がったスサノオの速度に、ハイタカは急ぎ背後へと振り返る。

 

「ぎゃあ!?」

 

「うが!?」

 

 そこには、超スピードによって鞭と化した尾で白夜兵達を巻き込みながら、ハイタカへと黒く染まった夜刀神を振り下ろすスサノオの姿があった。

 咄嗟に薙刀の柄でそれを受け止めるハイタカだったが、

 

「!!?」

 

 夜刀神は薙刀の柄をいとも簡単に、スパッと切り裂き、その勢いのままハイタカの左肩へと夜刀神の刃が食い込んでいく。

 

「ぐうぅ……ヌン!!」

 

 左肩に食い込んだ夜刀神を、ハイタカは後ろへと体を反らす事によって抜き取る。その際、ノコギリで身を削られるような痛みに襲われる。その痛みは壮絶なものであろうに、ハイタカは悲鳴すら上げず、歯を食いしばって切れた薙刀を持ち直した。刃の付いていないもう半分を投げ捨て、すぐに次に対応するべく、同士が落としたであろう下に転がる刀を手に取り、スサノオへと視線を戻す。

 

「あの速度を凌いだか。流石は白夜の将兵だけはある」

 

 感心したように言ってのけるスサノオ。その言葉には一切の嘲笑や侮蔑は込められてはいない。ただ純粋に、心の底からハイタカへの敬意を以ての言葉だった。しかし、ハイタカ当人には皮肉に聞こえてしまうのも仕方のない事。

 

「黙れ! 貴様、今まで手を抜いていたのか! それだけの力を持って、何故最初からそれを出さなんだ!」

 

「別に最初から使えた訳じゃない。さっき初めて、これを使えるようになったんだ。だから、お前を侮ってなどいないさ」

 

 敵が想定を越えた強さを持ち、焦りを隠せないハイタカと比べて、余裕を持って受け答えをするスサノオ。ここにきて、2人の実力の優位性が変化を迎えたのだ。

 特別な力なんて持たないハイタカと、その身に神の力を宿したスサノオ。絶え間なく努力を積み重ねて将にまで上り詰めたハイタカであったが、スサノオはそれを簡単に乗り越えてしまった。無論、それにはリスクが伴うのだが、それでも、スサノオがハイタカを越えたという事実は変わらない。

 選ばれた者、そうでない者。この差はとても大きい。そして、選ばれた者であっても上を目指す事を蔑ろにしないスサノオを相手に、ミコトへの盲信の徒であるハイタカでは届くべくもない。

 亡き者の為だけではなく、今を生きる者の為に───。それがスサノオとハイタカの決定的な差となって表れたのである。

 

 左肩から血を滴らせながらも、ハイタカは二刀の構えを取る。油断や慢心は無く、敵への最大限発揮しうる戦意をたぎらせ、スサノオを迎え撃つ。

 余計な思考は今は要らない。ミコトへの信仰心でさえ、スサノオの動きを捉える為に今は邪魔だ。ただ無心に、一人の武士(もののふ)として、取るべき行動のみを体の隅々にまで浸透させる。そうでもしなければ、スサノオの神速を追うなど到底不可能だったから。

 

「……!!!」

 

 再び、スサノオがハイタカの視界から姿を消す。しかし、今度はその軌跡をはっきりとその目で捉えていた。

 今度は真後ろからではなく、真横から。スサノオが夜刀神を刺突の構えで打ち放つが、動きを把握したハイタカが後ろに軽く飛び退いて、その攻撃をかわした。

 

「!!?」

 

 当然ながら、ハイタカが神速の動きに対応出来た事に驚きを隠せないスサノオ。そして、少しの混乱によって生じたその隙を、ハイタカは逃がさない。

 何も考えないが故に、ただ目前の敵を倒す事だけに傾倒したが故に、回避直後からの無理な攻撃への姿勢変換も、難なく移してしまえる。

 軽く飛び退いただけだったハイタカは、着地したと同時、脚のバネを限界ギリギリまで使って、全力でスサノオへと飛びかかる。右手に持った半分に切断された薙刀と、左手に持った同士の落とした刀で、獲物の首を穿たんと、クロスさせるように左右同時に二つの刃が振り抜かれる。

 

「スサノオ様!!!」

 

 主の首が切り裂かれようとする光景を前に、フローラの必死な叫びが。叫んだとて、フローラではどうしようもないと分かっているというのに。

 だけど、

 

「……、」

 

 そんな悲痛な叫びも虚しく、二つの凶刃はスサノオの首へと触れた。

 

 

 

「………、」

 

 

 

 呆然と立ち尽くす獣と武士(もののふ)。スサノオの首の左右では、欠けた刃が二つ。一気に切断しようと迫っていたはずの刃は、触れたと同時にそこで止まっていた。その首筋に一切の傷を刻めずに。

 

 そう。フローラの悲痛な叫びは、()()()()()虚しく霧消したのだ。

 

 無論、ハイタカとてこの結果を、信じられないとでも言わんばかりに、眼前の獣の紅く光る双眸を見つめて呆然としていた。

 驚愕に満ち、そして諦念を抱き、静かにその結果を見つめていた。がら空きの胴体、隙だらけの体。それに引き換え、スサノオはまだ未行動で敵が目前間近に居るというこの状況。次のスサノオの一手が、ハイタカにとって致命的なものとなる。それは目に見えた現実だった。

 

「白夜の将、ハイタカ」

 

 そして無慈悲にも、スサノオからの宣告が下される。

 

「お前の負けだ」

 

 言葉と共に、スサノオは夜刀神をハイタカの腹へと突き刺した。ズブズブ、という肉を抉る感触、ブチブチ、という肉を裂く感触。どちらも不快感を煽るものだが、スサノオはオーラに下に隠した顔色を、いっぺんたりとも変えていない。

 闘う道を生きる以上、命を奪う上でそれらはずっとつきまとってくる。それを嫌悪するなど、命を奪う者として奪われる者に無礼であるだろう。それも、武人が相手ならば尚更に。

 

「ガハッ……!」

 

 傷口だけでなく、口からも吐血するハイタカ。ドクドクと絶え間なく流れ落ちる血液は、今はまだ夜刀神が刺さっている事で少ない量ではあるが、抜いた途端に大量に流血するのは必至だ。

 しかし、それをすぐにしないのには、理由があった。

 

「お前に聴きたい事がある。母上の天啓と言ったな。あれはどういう意味だ?」

 

「ぐ……貴様に…言う事、など……無い……!!」

 

 スサノオの問いに対し、やはりと言うべきか、ハイタカは答えようとはしない。意地でも吐くつもりはないらしい。

 

「……そうか。なら、もう話す事も無いな」

 

「ウグオォォォ………!!?」

 

 スサノオが一息で夜刀神を抜き取ると、ハイタカの傷口から大量の血が溢れ飛び散る。このまま放っておいても、やがて出血多量で死ぬに違いない。だが、別にそんな苦しみを与えてやる事もないだろう。ならば、一思いに討ってやった方が良い。

 スサノオはオーラを消すと、もはや武器を持つ事もままならず、震える手で傷口を押さえるハイタカに、夜刀神を静かに向ける。

 

「じゃあな。妄念に取り憑かれた白夜の槍兵よ」

 

「ぐ……無念……」

 

 そして、ハイタカの心臓に向けた夜刀神を、スサノオは突き刺し───

 

 

 

 

 

「『レクスカリバー』!!」

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 その瞬間、突如として響いた若い男の声。スサノオは咄嗟に夜刀神を引き、後方へと大きく回避行動を取る。すると、寸前までスサノオの立っていた所に大きな風の刃が発生し、それだけでなく地面を削りながらスサノオへと追尾を開始した。

 

「チィ!!」

 

 追尾する風の刃を、部分的竜化で飛び出させた竜翼の風圧で相殺するスサノオ。しかし、勢いを殺し切れず風圧だけとなったレクスカリバーの煽りを受けて、フローラの控える地点まで押し戻される。

 

「スサノオ様! お怪我は!?」

 

「ああ、大丈夫だフローラ……。それよりも、何者だ……?」

 

 自身を襲った風の刃が来た方向へと視線を送るスサノオ。そこでは、今にも倒れそうなハイタカの腕を取って支える一人の男が居た。

 黒いボロボロのローブを纏ったその姿。どこか暗夜の衣装と似ているそれを着た人物は、空いた片手に一冊の魔道書を持って、スサノオ達の動きに警戒する様子を見せる。そして───

 

 

 

 その顔は、スサノオの見知ったものだった。

 

「さて、僕が来た以上、これより先は軍の犠牲を無くしてみせますよ。さあ、戦局を変えます!!」

 

 その人物とは、白夜王国の客将の一人。立派な軍師を目指す少年。クリスその人だった。

 

「クリス……」

 

「こんな形で再会するなんて、皮肉なものですね、スサノオ様」

 

 スサノオとクリス、彼らが最後に会ったのは、スサノオが暗夜へと戻る少し前。白夜王都の城下町を襲ったあの惨劇のすぐ後だった。あの時は話す暇も無かったが、今のスサノオにとってクリスは無視出来ない存在だ。何故なら、

 

「お前には感謝してる。白夜と暗夜、どちらに与するか悩んでいた俺に、お前の言葉が荷を軽くしてくれたからな」

 

「ハイタカさんを急ぎ後方へ! すぐにブレモンドに治療してもらって下さい! さてと……スサノオ様。僕としては、こちらに残って頂きたかったですよ」

 

 ハイタカを部下に託して、クリスはスサノオへと体ごと対面する。その声が悲しげなものであるのは、決して気のせいなどではない。

 

「それは無理な話だ。どちらにせよ、俺は暗夜を選んでいただろうしな。お前に感謝しているのは、心の荷が降りたという意味だ」

 

「……やっぱり、兄妹なんですね。アマテラス様も同じ事を言ってました。スサノオ様なら、僕の言葉が無くとも暗夜を選んでたって」

 

 クリスの口から出た、『アマテラス』という名前。そして、妹が何をクリスに言ったのか。それを聞いたスサノオは、自然と笑みを浮かべていた。どうあっても、袂を分かつ事になろうとも、やはり双子なのだ。どこかで通じ合っている部分があるのだろう。運命ですら引き裂けない絆が。もしくは、因縁がスサノオとアマテラスの間には存在しているとしか思えなかったのだ。

 

「そうか…アマテラスがそんな事を言ったのか……」

 

「感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、僕はスサノオ様を倒しにきた訳ではありません。今から僕らは撤退戦に移行しますので」

 

「そう簡単に逃がすと思うか?」

 

「あはは、もちろん思いませんよー! ()()()()()ね」

 

「何を……」

 

 その言葉の意味を尋ねるまでもなく、答えはすぐに分かる事となる。

 

「また会ったわね、スサノオ様。ここから先は、一歩たりとも通しはしないわ」

 

「ルディアか…!」

 

 重厚な鎧を着込んだ小柄な女性が、大きな槍を手にクリスの隣へと並び立つ。思えば、ルディアやクリスが得物を持っている姿を見るのは、これが初めてだった。

 魔道書を携えた軍師と、自身を優に越える大きな槍を手にする重騎士が、黒き竜の御子の行く手を阻む。久方ぶりの再会だというのに、和やかさなど欠片も無く、あるのはただ闘争のみ。馴れ合いは不要。勝つか負けるか、闘って決めるというシンプルなもの。

 この場合、スサノオにとっての勝ちは敗走する白夜軍への追撃を為し得る事。そして負けは当然、白夜軍の撤退が成功する事だ。

 当初の目的としては、マクベスの勢力を削る事だったが、それも成功したであろう今、白夜軍へのダメージを与えるチャンスを逃す手はない。

 

「やるしかないか…、フローラ! 俺は彼女と闘う! お前はローブの男を頼む!」

 

「かしこまりました!」

 

 ルディアは見るからに武人然とした実力主義者。同じ女とは言え、ルディアはフローラの手に余る。ならば、近・中距離の攻撃を得意とする魔法、暗器を扱うクリスとフローラが闘った方がまだ良いだろう。

 そして、それは互いに後方支援をさせないというメリット、逆に後方支援に期待出来ないというデメリットでもある。しかし、そうでなければ目の前の相手に集中出来ないであろう事もまた事実だった。

 

「さあ、掛かって来るのねスサノオ様! 一度手合わせしたいと思っていたのよ。でも、女と思って侮れば、勝ち目は無いわよ」

 

「侮る気なんて無いさ。何せお前たちは母上のお墨付きだからな」

 

 夜刀神を構え、ルディアへと意識を傾けるスサノオ。ルディアもまた、槍とこれまた大きな盾を手に、スサノオへと対峙する。ハイタカとは違った武士(もののふ)が、再びスサノオへと立ちはだかるのだった。

 

 

 

 そして、フローラも……。

 

「あれ? よく見れば、なんだかフェリシアさんに似ているような……?」

 

「!! あなた、妹を知っているの?」

 

「知ってますよ。アマテラス様の従者さんでしたよね。と言いますか、お姉さんですか!? なるほど道理でフェリシアさんに似ている訳ですね!」

 

 朗らかに笑う顔とは裏腹に、クリスは魔道書に手をかける。ペラペラと、魔道書のページが勝手に捲られいくのは、魔道書に魔力が通っている証拠。

 フローラも、妹の名前が出たとて油断は一切せずにクリスを警戒する。いつ魔法を放ってきてもおかしくないのが現状だから。

 

「まあ、だからって手加減なんてしませんけどね!」

 

「それはこちらとて同じ事。スサノオ様の道を阻むというなら、排除します」

 

 従者と軍師、本来は戦闘に適したはずのない彼らが、得物を手に取り敵へと向かう。

 

 戦況の変わった二組の第二ラウンドが、今まさに始まる。

 




 
「ベロアの『くんくん、がルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「うおぉぉぉ…」

カンナ「…どうしたのベロア? 急にガッツポーズして唸りだして」

ベロア「なんとなく、言いたい気分になりましたので」

カンナ「ねえ、それって絆の白夜祭で特定のお母さんじゃないと通じないネタだから、分かるようにしないと分かり辛いよ?」

ベロア「……なかなか痛いところを突いてきますね、カンナ」

カンナ「あのねー、ひさしぶりのお仕事なんだよ? 待たせすぎだよ! あたし、いつだろういつだろうって、ずっと待ってたのに!!」

ベロア「それは…忙しいんですから、仕方無いと思いますが。わたしは逆にありがたいですし」

カンナ「む~! ベロアはノリが悪いよー!」

ベロア「うぅ…わたしだけでは今日のカンナは手に負えません。ゲストに助けを求めましょう。それではゲストさん、どうぞ」

オフェリア「うふふ…再び降臨したわ。私は宵闇のオフェリア……時は満ち、悠久を経てこの地に舞い降りたの!」

ベロア「あ、そういう御託はいいので、早く本題に入って下さい」

オフェリア「冷たい!? もっと構って!?」

カンナ「オフェリアってエッチな格好してるよね」

オフェリア「え!? 今関係なくない!? というか、ニュクスさんだって同じような格好だし、シャラだって黒タイツで美脚で胸も大きくてエッチな格好してるよね!?」

カンナ「軍の男の人はみんな言ってるよ。オフェリアは露出強の変わった子だって」

ベロア「はい。完全な露出ではないので、露出狂ではなく、露出『強』ですが」

オフェリア「こ、この姿はダークマージの正装なんだから、仕方無いじゃない! なんか私への当たりが強い気がするよ今日!!」

カンナ「ふぃー。スッキリしたし、お題を読んじゃおう!」

オフェリア「ぐぬぬ…し、釈然としないけど、仕方無いわね。コホン! しかと聞きなさい、我が言霊を! 『クリスとルディアが来たのは何故?』よ!」

ベロア「本編でも触れるかもしれませんが、先に言ってしまいましょうか。簡単な事です。暴走したハイタカを止めに来たんです」

カンナ「来たは良いけど、ハイタカさんは負けて白夜軍も押され始めてたからね。だからクリスさんとルディアさんが足止めを買って出たんだよー!」

オフェリア「カッコいい……! 仲間を逃がすために、自分達が敵を引き受けて闘うなんて! 乙女心が躍動するわ!!」

ベロア「……。(オフェリアのパパも前作で似たような事をしたというのは、黙っておきましょう)」

カンナ「でも、実力あってこその事だよね。まあ、そこは心配要らないか。だって、アカツキさんやライルさん達の幼なじみだし」

ベロア「それだけ潜ってきた修羅場の数が違うという事ですね」

オフェリア「私もいつか、伝説のサーガに語り継がれるような存在になってみせるわ! 選ばれし者、宵闇のオフェリアとして!!」

ベロア「熱くなっているオフェリアは置いておいて、そろそろお別れと致しましょう。それでは次回もよろしくお願いします」

カンナ「ばいば~い!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。