ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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幕間 破壊神 仮面とヒーローと巨乳とメガネと

 

 こっそりと白夜兵達を城の外に逃がすには、城が静まり返る夜しかない。なので、それまでの間、アマテラスとスサノオは時間を潰す必要があった。

 

「父上からのお達しはいつになるか分からないからな。北の城塞に戻るわけにもいかないし」

 

 かといって、不慣れな城内を歩き回って迷子、なんて事になれば王族としては恥ずかしいを通り越えて情けないので、時間を潰すにも手詰まりのスサノオとアマテラスなのである。

 

 マークスやレオンは、白夜兵を逃がすための手配を整えるために、既にここには居らず、頼みの綱はカミラとエリーゼのみだった。

 

「私としても、機嫌の悪いお父様が居るこの城で、可愛いあなた達と過ごすのは居心地が悪そうだし、こうしましょう」

 

 ポンと手をたたくカミラ。そして次に、エリーゼに視線を送ると、こしょこしょと耳打ちをする。するとエリーゼはみるみるうちに満開の笑顔を咲かせ、

 

「わーい! それいい! カミラおねえちゃんさいこー!!」

 

 飛び上がって喜ぶエリーゼが、スサノオとアマテラスの手を掴んで、笑顔で言う。

 

「おにいちゃん、おねえちゃん! 私のお家に遊びに来ない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリーゼとカミラの住む離宮は、城の地下道を通って行く事が出来る。どうやら、ここは王城の関係者しか知らない秘密の道らしく、外にも続いているそうだが、街の人間は誰も知らないらしい。

 

「私のお家へようこそー!!」

 

 暗い通路を進んで行き、ようやく着いた外には、少しばかりの煌びやかさと華やかさのある、王族にしては派手すぎない館が建っていた。

 

「ここが、エリーゼの住んでる所か……」

 

 ズンズン先を行くエリーゼが、元気よく扉を開く。続いて、スサノオとアマテラス、お供として来ていたギュンターを除く従者達も中に入る。

 しばらくの間、シーンとしていた館内だったが、

 

「エルフィー!! ハロルドー!! 帰ったよーー!!!」

 

 元気いっぱいにエリーゼが叫ぶと、1階のとある扉が開く。

 

「お帰りなさい、エリーゼ様」

 

 髪を頭の後ろで一纏めにした少女が、ドスン、ドスンと床を振動させながら歩いてくる。

 決して、彼女の体重によるものではなく、彼女が手にしている巨大な鉄球が原因だとだけ言っておこう。

 

「あー! また訓練してたの?」

 

 エリーゼの様子から、どうやら日常茶飯事の事らしい。それにしても、あれほどの大きな鉄球を平気な顔で持ち上げているのは、なんとも異様な光景である。

 

「か、怪力なんだな……」

 

 スサノオは思わず言葉に出してしまうが、それにより、ようやくエルフィの注意が訪問者達へと向いた。

 

「こちらは……?」

 

「うん! スサノオおにいちゃんとアマテラスおねえちゃんだよー!」

 

「!」

 

 正体を知った彼女は、すぐさま礼の姿勢を取り、

 

「お初にお目にかかります、スサノオ様、アマテラス様。私はエリーゼ様に仕えております、エルフィと申します。お見知りおきを……」

 

 鉄球を持ったままの姿勢で頭を下げる彼女に、苦笑いを浮かべる一行。

 

「あれー? ハロルドはいないの?」

 

 キョロキョロと辺りを見回して言うエリーゼに、エルフィが鉄球を上下させながら答える。

 

「彼でしたら、ふん、地下街の巡回に、ふん、行っていますよ、ふん」

 

「そっかー。せっかくおにいちゃん達を紹介しようと思ったのになー……」

 

 残念そうにイジケるエリーゼだったが、すぐに調子を取り戻して、

 

「エルフィ、エルフィ! お茶会を開くよ! 今は自分の離宮に行ってるけど、後でカミラおねえちゃんも来るからねー!」

 

 エリーゼは嬉しそうに、スサノオとアマテラスの手を取って屋敷の中を進んでいく。行き先はエリーゼの部屋だった。

 

 

 

 

 

「スサノオ兄さん、本当に大丈夫でしょうか……?」

 

 部屋に着くこと数十分、アマテラスは心配していた。何を隠そう、あのフェリシアがお茶会の準備を買って出たからだ。

 

「大丈夫、だと信じたい。ジョーカーも居る事だし、そこまで心配しなくてもいいんじゃないか?」

 

 エリーゼの館には珍しいことに、召使いがほとんど居ない。なんでも、エリーゼは下町へ繰り出すことがよくあったそうで、自分でなんでもすることの大切さを学んできたとのこと。

 

「あの、フェリシアさんはそんなにドジなのですか?」

 

 物怖じせずに聞いてくるエルフィ。ぼやっとした見た目に反して、なかなかに大柄な性格をしているらしい。

 

「ドジで済むレベルじゃない。……ほら、噂をすれば、だ。耳を澄まして聞いてごらん?」

 

 その言葉に、知っているアマテラス以外の2人は目を閉じ、ソッと耳を澄ませてみる。すると、

 

 

 ガッシャーン!

 

『きゃー!? カップを落としちゃいましたー!?』

 

『バカ!! 何やってんだ!』

 

『ご、ごめんなさーい!!』

 

 バリーン!

 

『あー!? 今度はお皿がー!?』

 

『お前! ここはエリーゼ様の館だって事を忘れてないか!?』

 

『だ、だってだってー! あ、手が滑って……!!』

 

『アツッ!? お前! 焼きたてのクッキーをブン投げるとか!? 火傷するってどころの話じゃねーぞ!!』

 

『ごめんなさいー! すぐに治療しますからー!』

 

『こんな所で杖を振り回すバカがいるか! 痛!? おい、杖が当たってんだよ!!』

 

『ご、ごめんな……、きゃー!? 滑りましたー!?』

 

『アホか! こんな所で暗器落とすとか、危ねーんだよ!!』

 

 

 

 少し距離が開いているとはいえ、台所の騒ぎがここまで聞こえてくる事に、エリーゼとエルフィは乾いた笑いしか出なかった。

 

「ああ…。フェリシアさん、やっぱりですか……」

 

 

 

 

 

 

「これはまた…、すごいわね……」

 

 しばらくして、到着したカミラも共にエリーゼの部屋で待っていたのだが、紅茶が出てくると、砕けたクッキーにボロボロのティーセット。この少しの間に、どれだけ風化してしまったのだと疑いたくなるような荒れようだ。

 

「すみません…。手は尽くしたのですが、クッキーは材料が底を尽きまして、形は悪いですが、味はまともなものをお出ししようとした結果、これしか残っておりませんでした」

 

「ど、ドジでごめんなさい……」

 

 シュンとうなだれるフェリシア。見ているこちらが辛くなってくるので、思わずアマテラスはフェリシアの頭を撫でて慰める。

 

「フェリシアさんが頑張ってくれた事は、ここにいるみんなが分かっています。だから、そんなにガッカリしないで。これからもっと頑張って上手になっていきましょうね?」

 

「アマテラス様~……!!」

 

 キラキラと目を輝かせて、アマテラスを見つめるフェリシア。どうやら、ひとまず落ち込みからは立ち直ったらしい。

 

「さて、スサノオ、アマテラス。可愛いあなた達に、プレゼントがあるの」

 

 カミラが手をパンパン、と叩くと、扉をノックする音が。続いて「失礼します」という声と共に扉が開かれ、入ってくる者達がいた。

 

「紹介するわ。今度からあなた達に仕える事になった者達よ。自己紹介をお願いね」

 

 と、室内に入ってきた4人が、順番に名乗り始める。

 

「はじめましてー!! あたし、アイシスって言いまーす! 暗夜じゃ珍しい、ペガサスナイトだよ! あ、白夜じゃ天馬武者だっけ? まあ、細かい事は良いよね! ヒーロー目指して頑張るよー!!」

 

 薄いグレーの髪を二つに結んでお下げにした彼女は、とにかく元気なハツラツ娘、という印象を受ける。

 

「……ミシェイルだ。竜騎士をしている。相棒のミネルヴァの世話が趣味だ。……、本当にこんな事まで言う必要があるのか……?」

 

 薄い赤髪をオールバックにし、目許を仮面で覆い隠す青年は、仮面で表情が分かりにくいが、どうやら不機嫌らしい。

 

「の、ノルンと言います……。趣味、趣味…、えっと、弓が得意、です…。あ、あと、お守りを作ったり…? ひいぃぃ!! そ、そんな奇妙なものでも見るような目で見ないで……!?」

 

 黒髪に髪飾りを付けた少女は、その場で怯えるようにミシェイルの後ろへと隠れてしまう。

 

(でかい……)

 

 ただ、その豊かな胸だけは見逃さない女性陣(カミラを除く)は、羨望の眼差しを、ミシェイルの背後に隠れる少女へと向けていた。

 

「さてと、最後ですね。僕の名前はライル。見ての通り、魔道士です。それと、少しばかりですが様々な学問をかじっていますので、多少は知恵をお貸しできるかと。よろしくお願いします」

 

 赤みがかった髪は、いわゆる七三で、印象としては生真面目キャラ、といったところだろうか。メガネにこだわりがあるのは、その『クイッ』と何度もメガネをかけ直すような仕草から、まず間違いない。

 

「彼らは私やマークスお兄様、レオンの臣下からの紹介なの。だから信頼に値する事は保証するわ」

 

「カミラ姉さん達からのお墨付きなら、心配はいらないな」

 

「皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 2人は笑顔で、新たな臣下達を歓迎する。その様子に、4人は不思議そうにしていた。

 

「何か…?」

 

「いや、あなた達が、私達の知っている恩人によく似ているから、少し驚いただけだ」

 

「あれだよね。顔とか声が似てるんじゃなくて、なんていうの? 雰囲気? みたいなのが同じなのかなぁ?」

 

「わ、分かる気がするわ…。あの人と同じ、不思議な安心感を、スサノオ様達から感じる気がするもの……」

 

「不思議な事もあるものですね。これもまた、縁、という事なのでしょうか」

 

 とにかく、スサノオとアマテラスは喜んで、彼らを受け入れるのだった。

 

 

 

 

「おい、フェリシア。今度、俺がみっちり従者としての基本を叩き込んでやるから覚悟しておけ」

 

「はわわ!? ジョーカーさんがいつになく怖い顔で睨んで来ますーー!!??」

 

 

 


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