桜井和生と暗殺教室   作:トランサミン>ω</

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修羅場が続きます。ご了承ください。


破壊の時間

「俺は誰かを幸せに出来るような人間じゃなかった。そんな事まで忘れてたのか…」

 

 

和生は冷たい夜風が頬に突き刺さる中、E組校舎に来ていた。

忘れていた自分を思い出した彼は教室に来てきた。

和生は保管してあった放課後の自主練用レイピアを取り出して裏山へと出ようとした。

そこへヌルフフフという奇妙な笑い声とともに担任が現れる。

 

 

「今から自主練ですか?こんな遅い時間に外へ出るのは感心しませんねぇ」

 

 

「あぁ、殺せんせー。大丈夫だよ、不審者なんかレイピアで一刺し、自分の身ぐらいは守れるさ」

 

 

殺せんせーは和生の声を聞いて違和感を感じとった。

彼の声は言わば沖縄でロミオにトドメを刺そうとしていた時のものであったからだ。

 

 

「和生君…なにかありましたか?」

 

 

「殺せんせーには関係ないよね?一人にしてよ」

 

 

「にゅや!?それはなりません!私は君の先生ですから!」

 

 

殺せんせーはこのまま彼を行かせてはならないと察知し制止の声をかける。

 

 

「一人にしてって言ってるだろ?」ギロリ

 

 

「にゅ…ですが」

 

 

和生から放たれる殺気、そして金色に染まった冷たい瞳に殺せんせーは言葉をつまらせる。

 

 

「じゃあ行くから。付いてくるなら明日からは学校には来ないよ」

 

 

「仕方ありませんね…ですが遠くからは見させていもらいますよ?」

 

 

「いいよ、成層圏からね」

 

 

「にゅ、にゅやぁ…」

 

 

ひどく冷たい声でそう言う彼に殺せんせーは頷いた後、宣言通り成層圏へと飛んでいった。

恐らくそこからでも自分のことが見えるのだろうと感じた和生は裏山へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃和生の自宅、クラスメイトたちはリビングでクラス会議を行っていた。

 

 

「ごめんね…凛香ちゃん」

 

 

「有希子…何であんなことしたのよ」

 

 

「うん…あのね」

 

 

神崎はすべてを話した。

彼に好意を寄せている訳では無いこと、ゲームのキャラに似ていた彼故にやってしまったこと。

そしてこんな事になってしまったことへの謝罪をした。

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

「「「…」」」

 

 

彼女の誠心誠意で行われた謝罪に彼らは黙るしかなかった。

さらに言えば許すかどうかを決めるのは速水だからだ。

 

 

「じゃあ和生とそういう関係ではないんだね?」

 

 

「うん…2人の幸せそうな顔を壊しちゃってごめんね…」

 

 

そう謝る神崎の顔をよく見れば泣いているではないか、恐らくは先程の和生の殺気を思い出したのだろう。

いつも日々を幸せそうに過ごしていた彼の殺気、あれ程までのものとは思っていなかったようだ。

 

 

「いいよ…私は許す。浮気じゃなかったんだし…」

 

 

「凛香ちゃん…」

 

 

「でもね?有希子。和生がいいって言っても簡単にやっちゃダメ。優しすぎるんだもん…和生はっ…」

 

 

そういった所で今度は速水が涙を流し始めた。

渚に呼び止められた時に振り返った和生の顔は絶対零度という言葉が相応しかった。

怒り、苦しみ、悲しみ、寂しさ。

全てが凍りついたかのような表情。

再び彼にあんな顔をさせてしまったことへの罪悪感と彼を信じられなかった自分への嫌悪感で涙が溢れてくるのだろう。片岡と中村が速水と神崎に寄り添って慰め始めた。それに続いて女子たち全員がふたりを取り囲む。

 

 

「渚、和生がどこに行ったか心当たりはあるか?」

 

 

「うーん…そうだなぁ」

 

 

磯貝たち泊まりをやる組は和生の居場所を特定しようと話し合いを進める。

寺坂たち泊まらない組は親が心配するだろうと磯貝と渚が帰宅させた。

 

 

「おい、磯貝やばいそろそろやばいぜ?探しに行くにも補導される時間だしよ」

 

 

岡島の言う通り、現在の時刻は21:30。

和生が出ていってから1時間が経ち、あと30分で中学生は補導対象となる。

既にE組である彼らにとってはこれ以上校則違反などは出来ないのである。

 

 

「一つだけ心当たりがあるよ」

 

 

「「「よくやった渚!」」」

 

 

「いや僕まだ何も言ってないよ!?」

 

 

そんな一連のくだりが終わったあと、渚が自分の推測を話し始めた。

 

 

「裏山じゃないかな?あそこなら頭を冷やすにはもってこいだよ。体も動かせるしね」

 

 

「よし、行くか」

 

 

「本気か磯貝!?」

 

 

渚の言葉の後に即決した磯貝、そんな彼に前原が口を開く。

 

 

「棒倒しで繋がった首を何でまた切ろうとしてんだよ!俺らが行く。お前は待ってろ」

 

 

「親友があんな顔して出てったってのに黙って待ってられるか!棒倒しだってあいつが居なきゃ勝てなかっただろ!?」

 

 

磯貝の言葉に黙る男たち。

そんなとき、律が衝撃の発言をした。

 

 

「和生さんからメールです」

 

 

「「「…っ!?」」」

 

 

全員が息を呑む中、律は内容を音読し始める。

 

 

「『絶対に探そうとするな。もし来ようものならクラスメイトだろうが友人だろうが容赦はしない。それに今は誰とも顔をあわせたくないんだ。出来れば俺も友人たちを傷つけたくはないんだ、わかってくれ』だそうです…」

 

 

「傷つけるたってアイツは丸腰で出てっただろ?素手ならカルマが抑えられるんじゃないか?」

 

 

「まぁ素手の勝負なら俺の方が上だと思うよ」

 

 

「なら」

 

 

「無理だよ」

 

 

菅谷とカルマの会話を渚が遮る。

 

 

「何〜?渚くん。俺が負けるってこと?」

 

 

口調は怒っているようだが脳天気な声でカルマが問う。

 

 

「和生くんは放課後の自主練用にレイピアを1本持ってる。ピッキングも多分出来ると思うし、裏山に行ってるなら持ってるはずだよ」

 

 

「ピ、ピッキング?」

 

 

三村の間の抜けた声がリビングに響く。

 

 

「一応僕もできるよ。ロヴロさんに教わったんだ」

 

 

渚の言葉で男たちは納得する。

放課後に和生と渚が頻繁に自主練をしているのを知っているからだ。

どうやら烏間だけでなくロヴロにも教えられているようだ。

 

 

「じゃあ朝になるまでほっとくしかねぇのかよ!?」

 

 

岡島が言うようにそうするしか道はない、しかしここで磯貝が起死回生の一手を出した。

 

 

「でもアイツ。速水には切っ先を向けられないだろ」

 

 

「何言ってんの磯貝?」

 

 

「さっきのメールにあったけど、クラスメイト、友人には容赦はしないらしいけど恋人って書いてなかったろ?つまりアイツは速水には何も出来ないはずだ」

 

 

磯貝の一言で僅かな希望が見えてきた。

しかし…

 

 

「それはやめといた方がいんじゃね〜?」

 

 

「カルマ?」

 

 

起死回生の一手をカルマが潰す。

 

 

「もしそうだとしても、和生のことだこんな時間に彼女を出歩かせるなんて許さないでしょ?なにより和生は速水さんに嫌われたって思ってるでしょ?」

 

 

「「「あっ…」」」

 

 

速水を溺愛していた和生の事だ、たしかにこんな時間に出歩かせることは許さないだろう。

彼が嫌われたと思っている。これは確信を持って言えることだ。

 

 

「明るい時間まで待つ方が得策だと思うね〜俺は。あの和生があんな顔したんだ、きっと殺せんせーも止められてない。これ以上アイツを傷つけたくないなら大人しく従った方がいい」

 

 

その言葉に黙ってしまう男子たち、さらに言えば速水も今は出歩ける状況では無いのだ。

 

 

「寝る部屋は作ってあります。皆さんは1度休んでください」

 

 

現在の時刻は22:00を過ぎたくらいだ。

体育祭の疲れもあって彼らは限界だろう。

気を遣った律が就寝を促す。

 

 

「でも律!」

 

 

片岡が律に異論を述べようとする。

 

 

「いいから休んでください!今のあなた達が行っても無駄です!皆さんは忘れましたか!?和生さんの過去を!和生さんはっ…うっ…誰よりも繊細でっ…優しくてっ…周りの目を気にしてる人でしたっ!皆さんは向けたんですよっ!?和生さんが最も恐れていた『視線』をっ!」

 

 

泣きながら叫ぶ律の言葉に全員が押し黙った。

蔑むような視線を向けてしまったという事実は変えられない、向けていなかった者もいるが彼の心情を理解してやれなかったのだから。

 

 

「わかったら今日は休んでください。烏間先生に頼んでおきましたので」

 

 

烏間という言葉に生徒たちは何故か安心する。

いつも生徒を気にかけ、理解している烏間なら見つけてくれるような気がしたのだ。

自分たちの役目は見つけることではない、連れ戻すことだと理解した生徒たちは律に促されるまま客間へと連れていかれる。

しかし速水だけは律に止められた。

 

 

「律っ…?」

 

 

未だ泣き止まない彼女に律が自分も泣き止んでいないというのに飛びっきりの笑顔を向けた。

 

 

「速水さんはこちらですよ」

 

 

手を引かれるままに連れてこられたのは和生の部屋。

 

 

「どうして…?」

 

 

「もし夜中に和生さんが帰ってきた時、きっと一番最初に部屋に来るはずです。きっとボロボロでしょうから。その時最初に速水さんが目に入った方がいいと思うんです」

 

 

「ありがとう…律…」

 

 

「それに和生さんの布団は和生さんに包まれてるみたいで安心しますよっ」

 

 

「わっ」

 

 

トン、と律に押された速水は和生のベッドに倒れ込む。

 

 

「それではおやすみなさい」

 

 

そう言って律は扉を締めていった。

部屋に残された凛香は和生のベッドにおとなしく入った。

 

 

「和生…ごめんっ…ごめんねっ…うっ…うぅぅぅぅっ…大好きなのに…あんな顔させちゃって…ごめ…ひっく…うわぁぁぁぁ…」

 

 

「速水さん…」

 

 

扉の向こう側で速水の泣き声を聞いた律は辛そうに階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜井君。こんな時間に外出は校則違反だ。君は暗殺者である前に生徒だぞ」

 

 

裏山でひたすら気を刺突し続けていた和生の元にあの人物が現れた。

 

 

「烏間先生ですか。何のようです?」

 

 

「律から話は聞いた。勘違いとはいえ大変だったようだな」

 

 

「俺が全部悪いんですよ。だからこうして悪いところを治してるんだ」

 

 

和生身体は既にボロボロ、とても中学生の姿とは思えない。

 

 

「君を家に届ける。それが俺の仕事だ」

 

 

「嫌だと言ったら?」

 

 

「無理やりでもだ」

 

 

「じゃあ殺りましょうよ」

 

 

そういって和生はレイピアの切っ先を烏間に向けた。

 

 

「そんな体では俺には勝てんぞ」

 

 

「やって見なきゃわからないですよっ!」

 

 

そう言って和生の刺突が烏間を襲った。

和生VS烏間

死闘が今始まる!!!




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