南の島での暗殺旅行が1週間後に迫り、今日はその訓練と計画の詰めに集まった。
勝負の8月殺せんせーの暗殺期限まで残り七ヶ月だ。
「夏休みの特別講師のロヴロさんだ、今回の作戦にプロの視点からアドバイスをくれる」
烏間の言葉に生徒たちは驚いた。イリーナの師匠が自分たちを鍛えてくれると言うのだから。
「それで、殺せんせーは今絶対に見てないな?」
「ああ、予告通りエベレストで避暑中だ。部下がずっと見張っているから間違いない」
「ならばよし、作戦の機密保持こそ暗殺の要だ」
烏間とロヴロが入念なチェックを行ってくれているようだと、生徒たちは安心した。
そしてロヴロが言うには、今回はプロの暗殺者は使用されないらしい。
つまりは生徒たちが殺さなければならないということである。
それを知った生徒たちは俄然やる気をだしている。
「作戦は、先に約束の8本の触手を破壊し、間髪入れずに攻撃して奴を仕留める。それはわかるがこの最初の『精神攻撃』というのは何だ?」
ロヴロの問いかけに渚が答えた。
「まずは動揺させて動きを落とすんです。殺気を伴わない攻撃には…殺せんせーもろいとこあるから」
さらに前原も続く。
「この前さ殺せんせーエロ本拾い読みしてたんスよ。クラスの奴らには言うなってアイス1本配られたけど…、今どきアイスで口止めできるわけねーだろ!!クラス全員でさんざんにいびってやるぜ!!」
「他にもゆするネタは幾つか確保してますからまずはこれを使って追い込みます」
「残酷な暗殺法だ」
ロヴロは思わず生徒たちをおそれた。
「…で、肝心なのはトドメを刺す最後の射撃。正確なタイミングと精密な狙いが不可欠だが…」
「不安か?このクラスの射撃能力は」
「いいや逆だ、特にあの2人は素晴らしい。」
「そうだろう、千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶものは無いスナイパーだ。速水凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留めるのに優れたソルジャーだ。どちらも主張が強い性格ではなく、結果で語る仕事人タイプだ」
烏間が千葉と速水のことを褒める。
「ふーむ、俺の教え子に欲しいくらいだ。他の物も良いレベルに纏まっている、短期間でよく見出し育てたとのだ。人生の大半を暗殺に費やした者としてこの作戦に合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある」
「ロヴロさん」
「…?」
渚がロヴロに問いかける。
「僕が知ってるプロの殺し屋って…今のところビッチ先生とあなたしかいないんですが。ロヴロさんが知ってる中で……1番優れた殺し屋ってどんな人ですか?」
「あ、それ俺も興味ある」
話を聞いていたのかカズキも便乗してやってきた。
「(よくよく見れば2人とも素質があるフフフおまけに)興味があるのか?殺し屋の世界に」
「あ、いいやそういう訳では」
「俺はちょっと…色々と?」
「そうだな…俺が斡旋する殺し屋の中にそれはいない。最高の殺し屋、そう呼べるのはこの地球上にたった1人。この業界ではよくある事だが………彼の本名は誰も知らない、ただ一言仇名で呼ばれている。曰く《死神》と」
渚とカズキは息を呑む。
「ありふれた仇名だろう?だが死を扱う我々の業界で《死神》と言えば唯一絶対奴を指す。神出鬼没冷酷無、夥しい数の屍を積み上げ、死、そのものと呼ばれるに至った男。君たちがこのまま殺しあぐねているのなら…いつかは奴が姿を現すだろう。ひょっとすると今でも、じっと機会を窺ってるかもしれないな」
2人は思った。そんな人がいるのならうかうかしてられない。南の島のチャンスは逃せない!
「……………では背の小さい少年よ君には《必殺技》を授けてやろう」
「!?ひっさつ…?」
「そうだプロの殺し屋直接教える…《必殺技》だ」
「ロヴロさん、俺にはなんにもないの?」
「君には何故か必要がない気がしてな、言うなれば君の中に眠る物が目を覚ました時、その意味がわかるはずだ」
「??わかりました」
渚は期待し、カズキはなにやら不思議そうにしている。
そして南の島の暗殺ツアーが幕を上げる。