「俺の命…か…それはまた物騒だね」
『何故そこまで冷静でいられる?死ぬやもしれんのだぞ?良いのか?』
「自分の体の事は自分が一番よくわかってる。このまま蒼魔凍を使い続ければ死に至る。逆に使わなければ暫くは安全ってことじゃない?」
『吐血しておいて安全も何も無いがな。余のチカラで普段通りの生活を送れるよう最低限のストッパーはかけておく。主は周囲に悟られぬよう心がけよ』
厳かな声が伝える警鐘に和生は静かに頷くと裏山の更に奥へと歩みを進めていく。
そんな彼の様子を陰で見ていた速水はというと、彼に言葉をかけることも出来ずにその場に立ち尽くしていた。
「和生が死ぬ…?嘘だよね…?だってまだ15歳よ?そんなのってあんまりよ…だけど…和生の様子は普通じゃなかったし…私の存在にも気付いてなかったし…あの血の量は…と、取り敢えず和生には見てたことをバレないようにしなきゃ!」
ドカァーン!!
速水が踵を返すと校舎の方から爆発音が聞こえて来る。
嫌な予感を感じ取った彼女は急いで校舎へと走って戻る。
そんな彼女に気付かずに裏山の奥へと進んでいる和生。
彼の足取りは重く、とてもゆっくりだ。
「取り敢えず体をある程度動けるまでは戻さないと…何があるかわからないし…でも校舎の方で大きな音もしたし…フリーランニングで戻れば良いトレーニングになるか」
彼は普段の感覚を取り戻すべくフリーランニングの基礎である木を軸にした移動を繰り返したのだが…
「はぁ…何でこんなに早く着いちゃうかなぁ…普通に普通に…いつも通りのスピードで…」
自然と蒼魔凍が発動してしまいあっと言う間に校舎まで辿り着いてしまった。
そんな彼のすぐ後ろから名前を呼ぶ声が聞こえる。
「和生!何処行ってたの!」
「凛香…?あはは、ごめんね?ちょっと頭を冷やしててさ」
和生と速水、お互いに相手に悟られぬよう笑顔を作る。
速水は和生の笑顔が引き攣っているのに気が付いているが和生は速水の作り笑いに気付かない。
戻った2人を待っていたのは荒れ果てた校舎を修理するクラスメイト達の姿であった。
「あれ?皆何してるの?」
「あ、桜井!お前どこいってたんだよ!理事長が来てこっちは大変だったんだぞ!?」
「理事長が?何があったのかはわからないけど、大変そうだね」
「だからお前も早く手伝えよ!」
「はいは〜い♪」
和生は飄々とした様子で校舎の修復に参加する。
時間をかけて修理を続ける中、倉橋が殺せんせーに問いかけた。
「そういえば殺せんせー!テストの褒美に弱点教えてくれるんでしょ?」
「ヌルフフ、そうでした。頑張ったから決定的弱点を教えてあげます。実は先生意外とパワーが無いんです。スピードに特化しすぎていますので…特に静止状態だと触手1本なら人間1人でも押さえられます」
「なるほど!つまり皆でそっと近寄って押さえれば動きが止まる!」
「よし!」
「えいっ!」
生徒達全員が殺せんせーの触手を掴もうと忍び寄るが殺せんせーはことごとく躱してしまう。
「それが出来たら最初から苦労してねーよ!」
「不可能なのわかってて教えただろ!」
「ふーむ、ダメですかねぇ?」
殺せんせーはキョトンと首をかしげながら生徒達の攻撃を回避し続ける。
A組との校内抗争には決着が着いても暗殺にはまだまだ着かなそうだ。
「演劇発表会かぁ〜…よりによって二学期期末のこの時期になぁ」
「冬休みの暗殺の準備したいのにね」
期末テストから1週間、椚ヶ丘中学校名物のクラス対抗演劇発表会。
生徒達はその準備に取り掛かろうとしていた。
「例によって俺らだけ予算は少ないし、セットもここから運ばなきゃいけないわ…おまけに昼飯食ってる時にやるとか…酒の肴じゃねーんだぞ?」
「まぁまぁ、俺も委員会で浅野に文句言ったけどさ?『お前らなら何とかするだろう』って言われちゃったよ」
「言うじゃんあいつ」
「じゃあお望みどーり何とかしてやっか!劇なんてパパっと終わらそーぜ!」
「とっとと役と台本決めちゃおう!!」
「取り敢えず監督は三村で…脚本は狭間だな。…で?主役はどうする?」
生徒達が話し合っていると殺せんせーが触手で頬を撫でながら照れ臭そうにこう言った。
「先生…主役やりたい」
「やれるわけねーだろ!国家機密が!!」
「そもそも大の大人が出しゃばってんじゃねーよ!」
「だ、だって先生劇の主役とか、一度やってみたかったし!皆さんと同じステージに立ちたいし!」
「いーわよ?書いたげる。殺せんせー主役にした脚本をね。桜井兄妹と速水で脇を固めてもらうわ。まぁ、この2人なら変に恥ずかしがる事も無いでしょ」
「あ、うん」
「しょうがないか…」
「ふふっ!楽しみです♪」
3人も渋々ながら了承している。
生徒達はまさか狭間が了承するとは思っていなかったので驚いている。
「標的やら暗殺仲間の望みを叶える。それ位なら国語力だけの暗殺者にも出来ることよ」
「よっしやるか!本校舎の奴等を興奮の渦に叩き込んでやろう!」
「「「「「「おぉー!!」」」」」」
気合の入る生徒達、彼らはどんな演劇を作り上げたのだろうか…とうとうやって来た発表会当日。
本校舎の生徒達が昼食をとる中彼らの発表が始まった。
『ある所に早くに両親を無くして親戚に引き取られた少女、シンデレラ(速水)がいました。彼女は働き者でとても良い娘だったのですが、引き取られた先の叔母(中村)、長女(矢田)、次女(倉橋)に腫れ物の様に扱われ雑用ばかりされていた。そして今夜は国の王子の婚約者を探すパーティーがあるのだが、彼女は1人家で留守番をしていたのでした』
「シンデレラ?あなたは今日はここに残り掃除をしていなさい」
「私たちが代わりに王子様にあってきてあげるわ♪」
「貴方のように穢れた女は王子様のお目汚しよ?」
「「「おーっほっほっほ!」」」
「はぁ…どうして私は連れて行ってもらえなかったのでしょう…人目でいい…王子様にお会いしてみたい…」
『顔を伏せながら悲しそうに床を拭いている彼女の元になんと魔女(ルウシェ)が現れました』
「あぁ…可哀想なシンデレラ…そんなに可憐なのに不遇です…そんな貴方には幸せをプレゼントしてあげましょう!」
「あ、貴方は?」
「私はしがない魔女!貴方の姉妹と叔母をこの世から葬り去って差し上げます!」
ぶふっ!!会場の生徒達が一気に口に運んでいた食べ物を吹き出した。
そんな様子を無視して物語は進む。
「そ、そんな…そこまでは…私は王子様に会えればそれで…」
「ではここにあるカボチャ(殺せんせー)に魔法をかけて王子様に会わせてみせましょう!ボビデボビデバー!」
『魔女が杖を振るうと…なんと…美しい金髪の王子様が現れました』
「「「「「カボチャに何の変化も起きてねぇじゃねーか!!」」」」」
会場から避難の声がステージに飛び交う。
しかしそんなことはお構い無し、魔法使いの独壇場が続く。
「王子様!この少女を婚約者にしてどうでしょう!?顔も可愛らしく家事もこなせる!こんな優良物件は出会い系では会えませんよ!?」
『この魔女、可愛い顔をしてえぐい事を平気で口にしている。すると何という事だろうか、王子様は跪いてシンデレラの手を取った』
「君は…なんて美しいんだ…僕の物にならないかい?」
「そ、そんな…私なんて釣合いません…」
「身分なんか捨ててもいい!僕は君が欲しいんだ!」
『熱烈な告白をする王子様、しかしその後で魔女は悪い笑みを浮かべている。どうかしたのだろうか?』
「アーッハッハッハッハッハッ!お前達の愛がこのジャックランタンを育てるのだ!お前達の愛が尽きた時!このカボチャが貴様らを喰らい尽くすだろう!!」
「なっ!?やはり出会い系はダメなのか…」
『出会い系…そこには魔女が潜んでいる…皆さんもその魔女に捕まらぬよう気をつける事だ…めでたしめでたし』
「「「「全然めでたくねーよ!!食事中の中学生になんつー話してくれてんだ!?」」」」
「ふふっ、こう言うのは爪痕残してナンボなのよ」
E組の生徒達はそそくさとセットをバラシ始めて退散した。
会場から飛んでくるペットボトルや空き缶を躱しながら舞台袖へと隠れ、荷物をまとめて自分たちの校舎へと戻っていった。
「桜井とはやみんがキャスティングされたから普通に恋愛かと思いきや…やっぱり狭間ちゃんは狭間ちゃんだったなぁ…」
「もう…何でこんなことに…」
「俺達は楽しかったよね?」
「はい!お兄様♪」
「…はぁ」
速水は微笑み合う桜井兄妹を見てため息をついた。
あの日以来和生は普段通り、辛そうな様子は全く見せていない。
「渚?ちょっといい?」
「茅野?別にいいけどどうかした?」
「ルウシェちゃんの魔法で使ったビーズ零しちゃって…かたすの手伝ってくれない?」
「あ、うん!いいよ」
茅野に呼ばれた渚は彼女の後について物置へと歩いていった。
そして教室に残った生徒達はというと…
「冬休みにやりたいことは山ほどあるんだ!皆!暗殺頑張ろうぜ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
冬休みの暗殺に向けて意気込んでいた。
しかしそんな中で2人俯いている人物が…
「和生…」
「お兄様…」
このクラスで一番に和生のことを愛している人物、速水とルウシェだけは彼の方を心配そうに見つめていた。
そして渚たちのいる物置では…
「最期まで気付かなかったね殺せんせー、大好きだったよ。死んで?」
一人の少女が超生物に忌まわしい武器で襲いかかろうとしていた。
感想等お待ちしています。
そして高評価してくださった
神崎刹那さん!ありがとうございます!
この場を借りて御礼申し上げます。