元天剣授受者がダンジョンにもぐるのは間違っているだろうか?   作:怠惰暴食

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12話、新たな階層での試し切りとデート

 サンッ、と子気味いい音と共に【キラーアント】の首が宙を舞う。

 

「……凄い」

 

 思わず戦闘中にそう呟いてしまうほど、神様から貰った【神様のナイフ】の使い心地が良かった。

 

 手の平に吸い付く感覚。まるでずっと一緒に居たかのように僕の手に馴染み、踊るように振るっただけで、硬い甲殻を持つと呼ばれているキラーアントの首を切断した。

 

 すごい、これがヘファイストスの武器!!

 

 神様が、僕のために贈ってくれたもの!

 

 クトネシリカとはまた違った切れ味に思わず高揚する。

 

『ギギッ』

 

 キチキチキチッ、と最初の個体とは別のキラーアントが口をもごもごと動かし歯を鳴らしている。

 

「あ、また増えた」

 

 ダンジョンでのキラーアントの特性は身に纏った頑丈な硬殻と攻撃力、そして仲間を呼ぶため【新米殺し】と呼ばれているらしい。僕からすれば嫌悪の対象としかいいようがない。一度、鉱山に宝物が眠っていないかと隠れて入ってみたら、通路の床、壁、天井にみっしりとこちらにむかって歩いてくるキラーアントの群れを見てから、思わず殺虫剤の代わりに衝剄で吹き飛ばした経験がある。

 

 それにその鉱山では【キラーアントクイーン】が人や動物を生きたまま肉壁としか言いようがない赤紫色に混ぜて、それを苗床としてキラーアントを産み出すという何とも形容しがたい負の感情を沸き立たされた。キラーアントを見た日は必ずと言っていいほど夢に助けを求める呻き声とか、殺してくれと嘆き叫ぶ肉塊に囚われた人達の夢を見る。

 

 そんな僕の思い出を知ってか知らずかキラーアントは四体増えた。

 

「試してみようかな」

 

 ナイフと体に剄を奔らせ、キラーアント達の攻撃を避けていく。

 

 横に避け、下に伏せ、上に跳びと何回か繰り返してから準備が整い、技を発動させる。

 

『『『『『ギッ!?』』』』』

 

 活剄衝剄混合変化、千斬閃。

 

 多数の僕の分身が現れ、キラーアント達の動きが止まる。今度は僕が攻撃する番だと言わんばかりに、僕は分身と共にキラーアント五体を解体した。

 

 バラバラにしたキラーアント達から魔石を取り出して、腰巾着にしまってから、再び神様のナイフを見る。

 

 剄の奔り方がクトネシリカよりもこちらの方が圧倒的に良かった。まさか、ルッケンスの秘奥である千人衝から自分好みに変えた千斬閃がこうも簡単に使えるとは思わず感心してしまう。

 

 クトネシリカがあるから副武装にしようと思っていたけど、これだけの威力を見せられると迷ってしまう。奥の手として温存するにはまだこのナイフでの戦いに完全に慣れていない。

 

 それにダンジョンは序盤だし、今の内にこのナイフの扱いに慣れておくのもいいかもしれない。

 

「ありがとうございます、神様」

 

 そう呟いてから、腰に差した鞘にナイフをしまい、七階層の探索を再開した。

 

 

 

 七階層に行った帰り道、僕はギルドへと赴いて、エイナさんに武器を用意する必要がなくなったことと近況報告をした。

 

 武器についてエイナさんはすんなりと「わかった」と言ってくれたが、近況報告で七階層に行った事がばれて怒られてしまった。四階層と最初報告したので余計に怒られた。

 

 何故、ばれたのか今でもわからない。

 

 エイナさんにリーリン並のスパルタ教育でダンジョンの脅威を叩き込まれそうになったけど、僕のステイタスがEにまで上がったことを伝えると、確認のためにエイナさんにステイタスを見せることになった。

 

 その時、成長スキルが発現してるかどうかエイナさんに聞いてみたけど、エイナさんは有言実行するタイプらしく、スキルスロットは見なかったようで、眷族守護者についても首を傾げられた。

 

 そして翌日の現在、僕はオラリオの北部で、大通りと面するように設けられた半円形の広場に一人立っている。

 

 エイナさんと待ち合わせをしているためだ。

 

(これって……デートなのかな?)

 

 僕の中でデートというと、一緒に買い物したり、一緒に食べ物を食べたり、一緒に人形を見て巡ったりという記憶がある。

 

 でも、昨日のエイナさんが持ちかけたのは、僕の防具を一緒に買いに行かないかというお誘いだった。

 

 僕のダンジョン攻略状況と現在の装備を照らし合わせて、今の防具では頼りないと判断をしたらしい。面倒見のいいあの人が、僕のためにわざわざ世話を焼いてくれたのだ。デートとは言いがたい。

 

(でも、冒険者同士ならデートになるのかも。あの防具、君に似合ってるね、とか。あの店のポーション、中身を薄めているね、とか)

 

 そんな事を考えながら広場の銅像前で立っていると

 

「おーい、ベールくーん!」

「!」

 

 エイナさんが来た。

 

 あの耳をくすぐる可憐な声の持ち主が、視界の中、小走りをして徐々に大きくなってくる。

 

「おはよう、来るの早いね。なぁに、そんなに新しい防具を買うのが楽しみだったの?」

「あっ、はい、でも防具よりも武器に目がいっちゃって」

「男の子だなぁ~」

 

 エイナさんに笑われてしまった。まぁ、この間のシルバーバックの時、耐久が低すぎて倒れたとき、耐久を補えるものを探そうと思っていたから、今回のお誘いは良い機会だと思っている。

 

「まぁ、実は私も楽しみにしてたんだよね。ベル君の買い物なんだけどさ、ちょっとわくわくしちゃってっ」

 

 そんな事を言うエイナさんの服装はいつもと装いが異なっていた。普段はギルドの制服でぴしっと決めているけど、今日はレースをあしらった可愛らしいブラウスに、丈の短いスカート。それによくかけているところを目にする眼鏡は外しているようだ。

 

 ギルドの制服を見慣れちゃっているせいか、大人びた雰囲気ががらっと変わったエイナサンを見ると、デートじゃないと頭ではわかっていてもドキドキしてしまう。

 

「装備品なんて物騒なものを買いにいくのにわくわくするなんて、私おかしいかな?」

「そんなことないです。他の国では神の恩恵を受けていない人がファッションとして服の上から軽い防具を組み合わせたりとかしてますし」

「そうなの? ベル君は物知りだね。でも、今回は実用品を買うから安心してね」

 

 エイナさんのウインクはとても魅力的で、ギルドの職員の中でも冒険者の人気が一、二を争うのも頷けてしまう。

 

 ハーフエルフって、どの人もエイナさんみたいなのかな……。

 

「コホン。それで、ベル君?」

「な、なんですか?」

「私の私服姿を見て、何か言うことはないのかな?」

 

 悪戯好きな子供みたいな瞳で、上目遣いをされてしまった。

 

「いつも、ギルドの制服を見慣れているので、今日のエイナさんは何と言うか、新鮮で……可愛いです」

 

 僕の言葉にエイナさんはキョトンとすると、気にいらなかったのか、ジト目で唇を尖らせている。

 

「まるで手馴れているみたいだね、ベル君」

「そう、ですか? 孤児院の子と一緒に買い物に行く時、結構聞かれたりしますけど」

 

 最初の頃はよく分からず怒られて、祖父に尋ねてみると、お下がりを自分なりにアレンジしたり、裁縫したりして自分を高めようとしてるのだから、忌憚のない意見をいいなさい、けれど、できる限り褒めることを忘れずにとのことを実戦してるだけなんだけどなぁ。

 

 また、僕の言葉にエイナさんはキョトンとした表情をしている。

 

「ベル君って孤児院に住んでいたの?」

「うーん、祖父と二人だけで暮らしてましたけど、それだと大変なときもあるだろうからとデルクさん……孤児院を経営している方が困ったことがあったら近所なんだし訪ねてきなさいと、かなりお世話になりました」

 

 本当にお世話になった。デルクさんにはサイハーデン刀争術や祖父の葬式など、様々なことを手助けしてくれた。孤児院では同じ両親がいない者同士で仲も良かった。

 

「……そうなんだ、えっと……」

「謝らないでください、僕にとって、あそこでの生活は幸せだったんです」

 

 エイナさんが沈黙してしまい、湿っぽい空気になっちゃった。

 

「さぁ、防具を買いに行きましょう、エイナさん。場所は何処ですか?」

 

 湿っぽい空気を吹き飛ばすつもりで僕はエイナさんに笑いかけた。

 

 

 

 バベル八階、ヘファイストス・ファミリアの店舗の一角。

 

 今、エイナの近くにはベルでも品によっては防具一式を揃えられる値段の防具が置いてある。

 

 ここに来る間、ベルに【バベル】や【ヘファイストス・ファミリア】について説明して(説明している最中、ベルの主神であるヘスティアがここで働いていたり、釘を刺されたり? と色々あった)、二人で広く探した方が良いものが見つかると言って別れたばかりだ。

 

 防具の値段を見ながらもエイナの頭の中ではベルについて考えられていた。

 

(ベル君って一体、何なんだろう?)

 

 いつもは頼りない少年であるが、昨日のエイナが頼み込んでベルのステイタスを見たとき、スキルスロットに目を向けて読めないと判断した時にベルから無機質な声で

 

『成長に関連するスキルは見つかりましたか?』

 と言われた時は、思わずギョッとしたものだ。

 

 彼の口から【眷属守護者】とスキル名を出されてエイナが本当にスキルを見ていないか確認した後、見ていないとわかるといつものエイナが見慣れたベルに戻っていた。

 

 そして、無用な疑いをしたお詫びに眷属守護者の効果内容を告げられた。条件を満たすと擬似ランクアップというレアスキルにエイナが目眩を起こしかけたのは言うまでもない。

 

 しかし、エイナは罪悪感に襲われた。何故なら、スキルスロットを見なかったのではなく、スキルが読めなかったのだ。それなのに、お詫びとしてベル自身が秘匿しなければいけない情報をエイナに教えた。思いがけず少年の信用を得てしまったことに罪悪感を抱かない訳がない。

 

 だからこそ、エイナはベルとここにいるのだろうか?

 

(それは違う。ここに居るのはベル君に死んで欲しくないから、それに罪悪感は結局、自分が自分を許せるか許せないかでしかない。ベル君に後ろめたいことがあるなら、満足するまで行動するしかない、それが誠意であり、けじめなんだから)

 

 そう結論を出し、エイナは数度軽く頷いてから、目に付いたプロテクターを見る、目の前にある防具をベルがつけたらどんな感じになるだろうかと思いを馳せる。

 

「あれ?」

 

 想像がつかない。一生懸命な表情で敵に立ち向かっていくベルが思い浮かぶと思ったら、昨日の無機質のようなベルの声を聞いて、どこか冷静沈着で相手を見極めて一閃で倒すようなベル、もしくはエイナの忠告を聞かずに下層に降りる姿から飄々として相手の周囲を跳びまわり翻弄してから一撃を与える道化師のようなベル等、様々なベルが浮かんでくる。

 

 思わず首を傾げてしまうが、ベルの戦闘スタイルは一撃離脱のはず、プロテクターは間違いじゃないはずだが……

 

 しばらく、考えていたがベルと一緒にここに来ていることを思い出して、エイナはベルのために防具を探すのだった。

 

 

 

「兎鎧(ピョンキチ)Mk-2かぁ」

 

 目に留まったライトアーマーの名前を見る。名前だけ見れば購入する気は起きないけど、実物を見て、手で触れてみると話は違う。

 

 これは良い防具で確かに掘り出し物だ。製作者の名前は【ヴェルフ・クロッゾ】っていうんだ……うん、覚えた。

 

 9900ヴァリス、この装備品としてはお手頃価格だと思う。

 

「これにしよう」

「おーい、ベル君! 私いいの見つけちゃったよ! プロテクターに皮鎧! ちょっと高いけど、どっちか一つは買っといた方がっ……あれ、ベル君も何か見つけたの?」

「はい」

 

 購入予定物を前に頷くと

 

「ベル君って本当に軽装が好きなんだね」

「かもしれません」

 

 返す言葉もないけど、僕の戦闘スタイルとしては動きを阻害されにくい軽装を選んでしまう。苦笑しながらボックスを抱える。

 

「購入してきますね、エイナさん」

 

 エイナさんは何か言いたそうだったが、ここで働いている神様を見ると早く買い物を済ませて、食事の下ごしらえをしなきゃいけない気持ちがある。

 

 カウンターで支払いを済ませると、やっぱり結構高いと感じてしまう。

 

「あれ……?」

 

 エイナさんがいない。辺りを見渡すと、僕の後ろに立っていた。しかも、ニコニコの笑顔で……。

 

「ベル君。はい、これ……」

 

 エイナさんから渡されたのはエメラルド色の細長いプロテクターだった。

 

「……これは?」

「私からのプレゼント、ちゃんと使ってあげてね?」

「!!!? い、いいです。 いらないです! 返します!」

「なぁに? 女の人からのプレゼントはもらえないって言うの?」

「お菓子とかならまだしも、防具は値段的に受け取れませんよ」

 

 待ち合わせの時には持ってなかったし、後ろに居たということはこれもヘファイトス・ファミリアにあった防具なのだろう。なら、安いことはないはずだ。

 

「僕なんかのために、そんな高いものを……」

「高くなんかないよ」

 

 僕の言葉をエイナさんはすぐに否定した。

 




 オリジナルモンスター
『キラーアントクイーン』:キラーアントを使役して動物を生きたまま攫い、その動物を特殊スキルによって生きたまま変質させ魔石を生成させたり、キラーアントを生み出す苗床にする。変質させられた動物は助けることはできず、ベルは死を与えることしかできなかった。
 神経に作用する毒と強力な酸を用いた攻撃を繰り出す。
 元ネタは映画『エ○リアン』シリーズに出てくるクイ○ンを参考にしました。

 次回も多忙なため、だいぶ期間があきます。

 FGOでアストルフォが欲しいのに天草が出てきた(涙目)

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