IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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新年、到来 〜または年明けの瞬間にありがちなこと〜

十二月三十一日。大晦日。

一年が残すところあと数分というころ、寮の食堂。

「やー、今年はいろんなことがあったな」

「そうだな」

「そうですわね」

「そうね」

「そうだね」

「うむ」

「うん……」

俺、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪は特別営業している食堂で年越しそばを食べていた。

設置された大型テレビでは歌合戦が行われていて、紅組白組がそれぞれトリの一組前の人が歌っている。

それを遠くに見ながそばをずずずー……

「一夏がいないのはちと寂しいが、まあアイツも畳み掛けるようにこの数日でいろいろあったから仕方ないか」

「むぅ……」

「そうですが……」

「そうは言うけど……」

俺が言うと、箒とセシリアと鈴は不満げだった。

「でも……楽しみ。初詣」

簪が言う。

「そ、そうだな!」

「そうですわよね!」

「そうよねっ!」

急に元気を取り戻す三人。謎だ。

「ふふっ」

「ふっ」

なぜかシャルとラウラまで笑う始末。謎だ。

「まあいいや。それで、その初詣には俺と一夏は羽織袴で行くんだけど、みんなはアレか? 着物か?」

『もちろん!』

六人同時の揃った返答をいただいた。

「お……おう」

あまりの息の合いっぷりに俺は少したじろぐ。

「羽織袴は俺が一夏の分も持ってるから、一足早くアイツん家に行って着替えることになってるんでよろしく」

「うん。わかったわ」

後ろから抱き着かれた。

「た、楯無さん」

抱き着いてきたのは生徒会長の楯無さん。

「女の子組は学園で着替えてから一夏くんの家に向かうわ」

「は、はい。わかりましたから、放してくださいって」

「むー、そう言われるともっとぎゅーってしたくなっちゃうな。ぎゅーっ」

「ちょ、ほ、ホント放して━━━━」

「………………」

「………………」

「………………」

こ、怖い。シャルとラウラと簪の視線が怖い……!

「楯無さん、マジ、マジで放してください」

「あら、ざーんねん」

何とか放してくれた。

「もう、瑛斗ったら……」

「お姉ちゃん……」

うぅ、年の暮れになぜか非難轟轟の視線を受けるハメになっちまった。

「………………」

ただ一人、ラウラだけが自分の胸のあたりをじーっと見ていた。

「……やはり、大きい方が好みか」

なんか聞こえた気がしたけど、聞こえないふりをしておいた方がいい気がした。

「ラウラ」

ラウラの隣に座っていた鈴がラウラの肩に手を置いた。

「いいのよ。小さくたって」

『………………』

……なんか、このテーブルの女子たちが自分の胸のあたりを見てるんだけど、何? この異様な雰囲気。

「ちょ、楯無さんのせいで変な感じになっちゃったじゃないですか……って、いねえし」

遠くの同じ二年生たちとおしゃべり始めちゃってるよあの人。場を散々掻きまわしておいて、トンズラするなって……。

「そ、そうだ! 一夏に『開けましておめでとうメール』送ってみようぜ!」

この現状を打開するために俺は少し大きめの声を出した。

「メール? あとで会うのにか?」

箒が声を上げた。

「いいじゃねえかよ。こういうのもやってみたかったんだよ。どうせだからみんなでやろうぜ」

全員俺の誘いに乗ってくれて、携帯を操作し始める。

「そうだ。みんな同時にアイツに送って、誰が一番に返事をもらうか勝負しましょうよ」

「「え!?」」

鈴の一言に箒とセシリアが顔を上げた。何をそんなに驚いてるのか知らんけど、面白そうだな。

「おお、いいなそれ。じゃあ年が変わった瞬間になったら送信な」

「「ちょっ!?」」

慌てる二人をよそに、俺たちはそれぞれメールの準備を進めた。

「……みんな、準備はいいか?」

「お、おう」

「よ、よろしくてよ?」

「いいわよ」

「僕も」

「準備完了だ」

「私も……」

全員準備ができたようだ。

「三……二……一! 送信!」

送信ボタンを押して、携帯を置く。

「はは。なんかワクワクすんな」

「ふふん。我ながら面白いこと考えたわ」

「僕、こういうの初めてだよ」

「私も……初めて」

「そこの二人は気が気じゃないみたいだがな」

「………………」

「………………」

箒とセシリアがすっごくソワソワしてる。

「……まあ、いいや。それじゃあ改めて、新年明けましておめでとう。今年もよろしくぅ!」

やっぱり新年の挨拶はテンション高くないとな!

「うん♪ こちらこそ。よろしくね。瑛斗。みんなも」

「ああ。よろしく頼む」

「今年もよろしく……」

「おめでとさーん」

「お……おめでとう……」

「よ、よろしくですわ」

まだ箒とセシリアがソワソワしとる。

「おいおい二人とも。そんなテンションじゃ一年乗り切れんぞ」

「う、うるさい!」

「そうですわ! こっちは気が気じゃ━━━━」

その時、全員の携帯に一斉に着信音が鳴った。

『!』

各々の目が、自分の携帯に向く。

「お、おお? 全員同時に?」

携帯の画面を見ると、受信メールが一件、と表示が出ている。

「じゃあ、『せーの』で開けよ?」

全員の顔を見る。みんな無言で頷いた。

「せーのっ!」

メールの内容はコレだ。

『現在、回線混雑中のため、お送りになったメールは送信できませんでした。まことに申し訳ございません』

えーっと……あれ? え、ええ~?

みんな、そんな感じの表情だ。

つまりこれは……

『まさかのエラー!?』

新年、初ずっこけだった。

 

 

一月一日は、天気予報では雲一つない快晴と言っていた。

「もうすぐかな……」

呟く俺の頭を、冷たいが少し心地良い風が撫でた。

俺は学園のシンボルとも言えるタワーの頂上部分の平面なところに腰かけている。

何をしているのか、と聞かれればこう答える。

『初日の出をこの目で見る!』

と。

「瑛斗。そんなところで何してるの?」

「初日の出をこの目で見る!」

そうそう、こんな感じで……って、ん?

振り返ると、専用機《ラファール・リバイヴ・カスタムⅡ》を展開したシャルがいた。

「おお、シャルか。お前こそどうした? こんなところに」

俺が言うと、シャルはクス、と笑った。

「瑛斗のことだから、何するのかなんてすぐ分かるよ」

言いながら展開を解除し、俺の隣に座る。

「初日の出かぁ。日本の文化って、面白いよね」

「確かにな。あと初夢とかもなるよな。『一富士二鷹三なすび』だっけ」

「あ、瑛斗も知ってるの?」

「まあな。ツクヨミで毎年チャレンジしたんだけど、結局みるのはISの夢だった」

「あはは。瑛斗らしいね」

「シャルはなんか見たのか? 初夢」

「えっ!? う、うん。見たよ」

「マジで? どんな夢?」

聞くと、シャルは顔を赤くして俯いた。

「そ……その……」

「うん?」

「え……瑛斗と、キ━━━━」

「瑛斗! シャルロット!」

「!」

大声で呼ばれて振り返る。

「そんなところで、しかも二人で何をしている!」

「二人だけで……ずるい……」

《シュヴァルツェア・レーゲン》を展開し、手を腰にやるラウラと《打鉄弐式》を展開した簪がさっきのシャルと同じように浮遊していた。

「あ、ラウラ」

「か、簪……」

二人ともぷっくー、と頬を膨らましている。

「嫁よ。正直に答えろ」

「瑛斗、なに、してた」

「い、いや。これから初日の出を見ようと思ってな。なあ?」

シャルに顔を向ける。

「う、うん。二人も一緒にどうかな?」

俺とシャルの話を聞いて、なぜかラウラと簪はほっと息を吐いた。

「そういうことか……」

「よかった……」

「?」

「な、なんでもないっ! そういうことなら私も混ぜてもらおう」

「わっ、私……も!」

展開を解除した二人も、俺たちの横に座る。

「さて、もうすぐだぜ」

東の空が明るみを帯びはじめ、地平線から太陽が見え始めた。

「おぉ……」

「わぁ……」

「美しいな……」

「綺麗……」

それぞれ感想を言う。

「よし!」

俺はいてもたってもいられず《G-soul》を展開して空中で直立姿勢をとった。

「瑛斗?」

シャルが首をかしげる。俺は思いっきり息を吸い……。

「今年も! みんなと楽しいことがありますようにっ!!」

叫んだ。腹の底から。そして振り返り、ニッと笑う。

「じゃあ、僕も!」

シャルもラファールを展開して俺の右横に来る。

「今年も、来年もずっと……ずーっと!! 瑛斗やみんなといれますように!!」

「わ、私も……!」

簪も再び弐式を展開して、俺の近くを飛ぶ。

「いいことが……たくさん、ありますように!」

「では、私もやるか」

ラウラも同じように俺の左横に来た。

「嫁! たくましい男に成長しろー!」

「いや、それなんか違う!」

ラウラの太陽への叫びにツッこむ。

そして、最後は四人で、大声で笑った。

 

 

「これで……よし!」

羽織を着て、鏡を見る。

「おお、時代劇~」

羽織袴を身に着けた自分の姿を見て少しテンションが上がる。

「うん。似合ってる似合ってる」

隣で頷く一夏も俺と同じ服装だ。

時刻は午前八時半。

 

場所は織斑家、一夏の部屋。

 

初日の出を拝んだあと、俺はそのまま学園を出て、一夏の家で楯無さんに言われた和装に変身していた。

 

「いやー、助かったよ。まさかお前が和服に着方を知ってるとは思わなかった」

「へへ。そりゃどーも。下に行こうぜ」

一夏と一緒に部屋から出て一階へ。

「お、おお? 歩きづらい?」

「そうか? 慣れれば全然平気だぞ?」

初めて身に着ける袴に四苦八苦している俺をよそに、一夏は普通に歩きやがる。

「っつか、なんで慣れてんだよ。お前」

「ん? いや、剣道習ってたから。そういうのの応用だよ」

「ふーん」

そんな会話をしてたら、リビングについた。

「マドカ、千冬姉。着替え終わったよ」

「あ、来た」

「おう」

テレビを見ていたマドカと織斑先生がこっちに顔を向けた。

「ほう。そこそこ様になってるじゃないか」

「二人とも似合ってるよ」

「そ、そうか?」

「そう言ってもらえるとありがたい」

俺と一夏は散々したはずの着くずれがないかのチェックをまたする。

「そう言えばマドカも振袖だな」

「どうかな? 似合う?」

見れば、それは白をベースにした落ち着いた感じの振袖だった。

「あ、ああ。似合ってるよ」

目を逸らしながら言う一夏。ISスーツ姿を見た時といいこれといい、こいつはいったい何を━━━━

 

瞬間、頭の中で閃きが走った。

 

(……はっはーん、なるほどね)

 

少しばかりからかってみたくなったぞ。

「おやぁ? もしかして妹の着物姿にドキドキしてるのかぁ?」

「ばっ!? ち、違う!」

「そうか? にしては顔が赤くなってるぞ? マドカ、よかったな。いい着物買ってもらえて」

「違うぞ桐野。マドカが着てるのは昔私の着ていたものだ」

「え? そうなんですか?」

「ああ。だから一夏がそんなことになってるのは━━━━」

「わーっ! わーっ! なんでもねえって! 本当になんでもないから!」

「おいおい。妹の着物姿を見て、なんでもないってことはないだろ?」

「え~? お兄ちゃんひどーい」

織斑先生とマドカがニヤニヤと一夏を見る。

「瑛斗ぉ……助けてくれ」

「こればっかりは無理」

一夏に救援を要請されたが、俺は苦笑しながら断った。この世界最強の姉妹には勝てる気がしない。

ピンポーン♪

「どうやら、ほかの連中も来たみたいだな」

インターホンの音が聞こえ、俺たちは家の外に出た。

「おーっす。みんな、新年あけましておめでとう」

織斑家の表札の前には、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、楯無さんの姿があった。

もちろん全員めかし込んだ振袖姿。

「い、一夏が羽織袴……!」

「なんて凛々しいんですの……!」

「け、結構似合ってるじゃない……!」

箒とセシリアと鈴は一夏の姿を見た途端に顔を赤くした。

「この人たちが、お兄ちゃんのお友達?」

一夏の隣に立っているマドカが一夏に聞いた。

「ああ。左から箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、それと、生徒会長の楯無さん。この前会ったろ? 簪と楯無さんは姉妹なんだ」

「そうなんだぁ。なんだか国際色豊かなお友達さんたちだね」

「学校が学校だからな。マドカ、挨拶しろ」

「うん」

言われたマドカは箒たちの前に立って、ぺこりと頭を下げた。

「初めまして。千冬お姉ちゃんと一夏お兄ちゃんの妹の織斑マドカです」

マドカの過去を知る箒たちの表情が少しこわばる。

一瞬ヒヤリとしたが、俺からもみんなには色々話しておいたので、すぐにマドカを受け入れて新年のあいさつをした。

「………なんとかなったな」

「ああ。悪いな。何から何まで」

一夏が若干申し訳なさそうに礼を述べてきた。

「いいってことよ。新米お兄さんへのささやかな応援だよ」

へへ、と笑って俺たちも門の外に出る。

「三人とも、明けましておめでとう。今年もよろしくな」

「あ、ああ。おめでとう」

「よ、よろしくお願いしますわ」

「べ、別によろしくしてあげてもいいわよ?」

なんか、三人とも一夏から目をそらしたままなんだけど、やっぱり俺らの恰好が変なのか?

「なあ、シャル。俺たちの恰好おかしいか?」

「え? そんなことないよ? とっても似合ってる」

ニコッと笑顔とセットで返事をされた。

「よ、よかった。ありがとな」

「うん……そ、それでね、瑛斗」

「うん?」

「ど、どうかな? 僕のも、似合ってる?」

恥ずかしそうにするシャルの振袖は、オレンジ色の生地に華が刺繍された綺麗なものだ。

「………………」

「え、瑛斗?」

「え? あ、ああ。悪い。見惚れた。よく似合ってる。綺麗だぞ」

「えへへ♪ ありがとっ」

「教官。新年、明けましておめでとうございます」

なぜか最敬礼で織斑先生に新年のあいさつをしているラウラ。

「おう」

「今年もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

「ああ。手加減などしないからな?」

そう言う織斑先生は、どこか嬉しそうだ。

「……ところで教官」

「なんだ?」

「いかがでしょうか。私の着物姿は」

「特に変わったところはないぞ?」

「いえ……そうではなく」

「なら、なんだ?」

「これなら私の嫁を誘惑できるでしょうか」

「ぶっ!」

聞いてるこっちが吹いてしまった。

「誘惑できるかどうかは知らんが、いいんじゃないか?」

「ちょ、なに真面目な顔で答えてるんですか!」

「ちょうど本人もいることだ。直接聞いてみるといい」

「わかりました」

先生の言葉をすんなり受け入れるあたりとてもラウラらしい。

「どうだ嫁。私に欲情するか?」

自信満々な表情でそんなことを聞いてくるからとても困る。

「えっ……あ、あの……まあ、その……」

戸惑いつつもラウラの振袖姿を見る。上半身は黒い色だが、グラデーションで徐々に白く色が変わっているその着物はラウラによく似合っていた。

だけどアイツの求めている答えは欲情するか否かだ。似合ってるし、可愛いけどなぁ……。

━━━━可愛い? そうだ!

「どうした。お前が見てみたいと言っていたのだぞ」

 

「ああ。綺麗だし、可愛いぞ」

「!」

去年の夏に、俺と一夏がラウラの水着姿を見て『可愛い』と言ったらアイツは少し変になった。今回もそれが起こると予想して、対策をとることにする。

「か……可愛い……?!」

案の定ラウラは白い顔をかぁぁっと赤くし、頭から湯気まで出した。

「桐野、ラウラのやつはどうしたんだ?」

織斑先生がラウラの反応を見て少し驚いた様子で聞いてきた。

「えっとですね。ラウラは『可愛い』って言われるとああなるんです」

「ラウラ……まだ瑛斗からの『可愛い』に耐性ができてなかったんだね」

シャルも苦笑しながら言う。

「そういうことか」

織斑先生はニィと笑うと、赤くなって俯くラウラの肩に手を置いた。ま、まさか……。

「……可愛いぞ。ラウラ」

「!!」

おお、ラウラの頭からより勢いの強い湯気が。

「きょ、きょきょ……教官まで……! ……はうぅ」

ラウラはそのままシャルの背中に隠れてしまった。

「ふふ。なかなか面白い発見だな」

「心底楽しそうですね。織斑先生……」

「えーいっとくん♪」

「おわっ」

ぐっと引っ張られ、無理矢理振り向かされる。

「どうかしら? うちの簪ちゃんの着物姿は」

「お、おねえちゃん……! わ、私のタイミングが……ある、のにっ」

楯無さんに肩を掴まれ、逃げられないようにされている簪がいた。

「だって簪ちゃんのタイミングに合わせたら、いつまで経っても見せようとしないじゃないの」

「うぅ………」

なぜか涙目の上目使いでこっちを見てくる簪。簪の振袖は白と水色を基調にしたもので、簪はばっちり着こなしていた。

「へ……変……かな」

「いや。とっても綺麗だ。なんかもう、お前にしか似合わないんじゃないかってくらい」

「ほ……本当に?」

「本当だよ」

「……! あ、ありが……とう……!」

嬉しさ半分恥ずかしさ半分といった感じの簪とは対照的に、楯無さんは純粋に嬉しそうに頷いた。

「さて、それじゃあ行くか。箒、道案内してくれ」

「ああ。引き受けた」

一夏と箒を先頭に、いよいよ俺たちは初詣へむけて歩き出した。

 

 

「へー。それじゃあ、篠ノ之神社って箒の叔母さんの雪子さんって人が管理してるのか」

歩きながら箒の話を聞く。

「ああ。私の実家でもある」

神社がもうすぐそこなのか、だんだんと人の流れも増えてきた。

「わ、見て見てあれ! みんなすっごい綺麗! モデルさんかな?」

「おー、外国人も混ざってるな。レベル高けぇー」

「いいなぁ。わたしもあんな風に着てみたいなぁ」

それにつれて俺たちに向けられる視線が増えてくる。俺たちを見た参拝客であろう人たちからは感嘆の声があがる。

「でも、あの男二人はずりぃ……」

「リア充め……」

「爆発しろ……」

だけど、俺と一夏には男性たちからの殺人的な視線が飛んでくる。

「い、一夏、なんか……爆発しろとか聞こえたんだけど……」

「……俺も聞こえた。怖えな」

一夏が言うと鈴が、何言ってんのよ、と鈴が一夏の隣に立った。

「こんくらいの視線、ドーンと受け止めるのよ」

「そ、そうは言うがな鈴……」

「情けないこと言ってんじゃないの。まったく……きゃっ!?」

鈴が小さな段差に躓いた。

「鈴!」

咄嗟に一夏が鈴を支えた。

「あっぶね~。気をつけろよ?」

「う、うん……」

一夏の羽織をぎゅーっと掴みながら鈴は小さく頷いた。

「……一夏に、抱かれた……」

「うん?」

「な、なんでもないっ」

鈴はすぐに一夏から離れた。

「ぐぬぬ……! 鈴めぇ……!!」

「ずるい……! いえ、羨ましいですわ……!」

箒とセシリアが鈴をジトーと見る。

後ろで保護者として同伴している織斑先生が小さく笑った。

「……前言撤回。今あの子を抱きかかえた方だけ爆発しろ」

遠くの方でそんな声が聞こえた。どうやら俺の爆発は免れたようだ。

篠ノ之神社。

箒の実家であるここは、夏祭りや初詣などの催し物の時はどこの神社や寺院と変わりなく人がやって来る。だが人が来る時間のピークはもう一時間ほど後。まだ朝と言うこともあって人の数はまばらだ。

「困ったわ……。どうしましょう……」

神社の境内の入り口付近で、そんな独り言を呟きながら短い距離を行ったり来たりする巫女の姿の四十代の女性が一人。

箒の親戚の雪子である。

「困ったわ……。どうしましょう……」

彼女は今、まったく予想もしていなかった事態に遭遇している。

「まさかこんなことになっちゃうなんて……」

打開策も閃かず、同じ場所行ったり来たり行ったり来たり。

「雪子おばさーん」

「あら?」

ふと名前を呼ばれ、声のした方向を向く。

「雪子おばさん、新年明けましておめでとうございます」

やって来たのは箒。その紅い振袖姿に雪子は息を呑んだ。

「あら、箒ちゃんおめでとう。綺麗な振袖ねぇ」

「あ、ありがとうございます」

照れたように言う箒を見て微笑む雪子。

「おい! 早くおみくじ引こうぜ!」

「待てよ瑛斗。ちゃんと挨拶してからだ」

一夏に引き留められる見知らぬ青年の顔を見て、雪子は箒に聞いた。

「箒ちゃん、あの子は?」

「ああ。クラスメイトの桐野瑛斗と言います。友人です」

「あら、お友達なの」

「はい。その後ろにいるのも友人です。一緒に来ました」

「まあ、たくさんお友達連れてき……」

そこで雪子の言葉は止まる。

「雪子おばさん?」

「……一、ニ、三、四、五、六、七、八」

そしていきなり数を数えはじめる。

「お、おばさん? どうされました?」

突然の雪子の行動に驚く箒。

「━━━━あら」

そして雪子は、ぱあぁっと笑みを咲かせた。

「?」

「あらあらあら、まあまあまあ!」

手を合わせて、にっこり微笑む雪子。

「え? え?」

何がなんだかわからない箒は、ただ目をパチクリさせるだけだった。


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