IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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特大ケーキ製作! 〜またはバレないうちは安い代償〜

「………………」

ダメだ。結局全然眠れなかった……。

昨日の夜、ラウラの突然の行動のあと、何とか寝ようとしたけどまったく寝つけなかった俺は、こうしてぼーっとした状態で朝の食堂に来て

いる。

「あ、瑛斗。おはよう」

「お、おは…よう……」

「おー……シャル、簪」

食堂の入り口でシャルと簪と会った。

「……瑛斗、どうした、の?」

簪が俺の顔を見て首をかしげる。

「ホントだ。なんだか眠そう」

シャルも首をかしげた。

「いやな。昨日の夜、ラウ━━━━」

そこまで言って俺は口をつぐむ。それと同時に昨日のことがフラッシュバックする。

鮮明に思い出せる、あの柔らかい感触……。

(は、恥ずかしくて言えんわ…… !)

「「『ラウ』?」」

二人とも頭の上に疑問符を浮かべている。な、なんとか誤魔化さねば!

「ラウ……ラに、面白いからって貸してもらった本を読み耽っちまってな。は、ははは」

「そうなんだ」

「夜更かしは……体に悪い……」

「お、おう。気をつけるよ」

よかった。二人とも納得してくれたみたいだ。

「そ、それより朝飯食おうぜ。俺眠いけど腹減ってるからよ」

「そうだね」

 

「行こっか……」

そして俺は学食の扉を開けた。

「あ」

「む」

ばったり、券売機のボタンを押そうとしているラウラと会った。

「よ……よう」

俺はややぎこちない感じで挨拶する。

「うむ、おはよう。いい朝だな」

ラウラは小さく笑って返事し、ボタンを押した。

「ラウラ……おはよう」

「よかった。ラウラに追いつけたよ」

シャルと簪もラウラに声をかける。

昨日のことなど全く気にしていないようなラウラの様子に、俺は自分が恥ずかしくなった。

(そ、そうだ。こいつは前からああいうことを平然とやるヤツだ。今更何を慌ててたんだよ……)

そう考え、心の中で自分で自分にビームガンをぶっ放した。

「瑛斗? 瑛斗ったら」

「ん?」

シャルの声を聞いてハッと顔を上げる。すると、ラウラもシャルも簪も全員各々が注文したメニューの料理が載ったトレーを持っていた。

「何をしている。全員お前待ちだぞ」

「わ、悪い」

ラウラに言われ、俺は慌てて食券を買い、焼き鮭定食を受け取った。

「あっちの席が……空いてる」

簪が見つけてくれた席に移動して椅子に座る。

 

シャルはサラダとコーンスープとパン。簪は目玉焼き定食。

 

ラウラは……

「ラウラ凄いね。今日も朝からがっつりって感じだよ」

「ああ。朝はしっかり食べねばな」

というわけで生姜焼き定食である。まあ、本人がそれに決めているんだから、俺は何も言わない。

「そう言えば、シャル。今日は夕方からスタートだぞ」

「あ、うん。わかってるよ」

ふと俺は思い出してシャルに言っておく。主語はないがシャルは言わなくてもわかるだろう。ケーキ作りの話だ。

「シャルロット? 何が夕方からスタートなのだ?」

あ、ラウラが食いついた。

「気になる……」

簪も食いついてた。

「あー……えっと、ね」

二人に詰め寄られ、目を左右に泳がせるシャル。

「………………」

あ、見られた。うーむ、できれば内緒にしておきたい。

「………………」

俺は声を出さず人差し指を口に持っていく。

「……ご、ごめんね。こればっかりは言えないなぁ」

あは、あははは、と微笑を湛えながらシャルは二人に手を合わせた。

「むぅ、ならば━━━━(瑛斗)に聞くとしよう」

「それがいい……」

クルッと首をこっちに向け、ラウラと簪が詰め寄ってきた。

「で、何がスタートする?」

「あの新番組は……まだ先……」

「い、いやぁ……」

さぁて困った。どうしよう。

「「………………」」

「ち、近い。二人とも、近い近い」

「「………………」」

「ちょ、た、倒れるって! ━━━━おわああっ!?」

バッターン!

そして、とうとう俺は椅子と一緒にひっくり返る。周りに女子たちがいなくて良かった。不可抗力で見えてしまう可能性があったし。

しかし大きめの音だったので、周りの座席から他の女子たちの視線が向けられる結果になった。

「っててて……」

「え、瑛斗。大丈夫?」

シャルが心配そうに声をかけてくる。

「あ、ああ。なんとか」

俺はよっこらせと起き上がり、椅子に座りなおした。

「よかった。もう、ラウラ、簪ちゃん。あんまりしつこく聞いてると、嫌われちゃうよ?」

シャルの少し怒った感じの声にラウラと簪はシュンと小さくなる。

「す、すまん……」

「ごめんなさい……」

「大丈夫だよ。二人とも気にするなって」

俺は笑って二人をフォローする。

「でも、さっきのことは悪いけど教えられないな。ちょっとしたサプライズだからよ」

釘を刺すのも忘れずに。

二人は素直に頷いてくれた。

「うん。二人ともわかってくれて何より━━━━」

『続いてのニュースです。昨日のお昼頃、住宅街で車が爆発炎上するという事件が発生しました』

食堂のテレビで流れていたニュース番組でアナウンサーがニュースを読み上げる。

しかし、問題はそこではない。流れている映像が、一夏の家の近所なのだ。

「………………」

「………………」

「………………」

俺は口に運ぼうとしていたごはんが再び茶碗の上に落ち、ラウラは箸を皿の上に落とし、シャルは千切ったパンをスープの中に落としてしまった。

「……?」

ただ一人だけ、簪が首をかしげている。

(昨日のアレだ……!)

俺は背中の汗が尋常じゃなかった。ラウラも顔がテレビ画面にくぎ付けで額に汗が。事情を知っているシャルも動きがフリーズしている。

『━━━━車を運転していた男性は、全治二週間の火傷を負う重症です』

だよなぁ。逆にあの爆発でそんだけで済んだからラッキーか?

『幸い、乗っていたのは運転していた男性のみで、周りの住宅にも被害はありませんでした。さて次の━━━━』

……何?

おかしい。確かあの車には三人乗っていたはずだ。どうして一人なんて━━━━!

そこで俺は思い出す。

 

楯無さんに言われた、事後処理は任せろとの言葉。

 

まさか……それがアレなのか!

「……簪」

「な……なに?」

「更識家って、凄いな」

「え……? ど、どう……も?」

首をひねり続ける簪に、俺たちは尊敬の眼差しを送った。

 

 

「あ、来た来た。おーい、一夏ー!」

午後三時四十分。俺は校門で一夏を待っていた。

「悪い! 遅れたか?」

走ってきたのか、一夏は少し息が荒い。

「いや。まだ少し時間に余裕があるよ。ギリギリセーフってとこだな」

「良かった……こっちもギリギリまでマドカといたからさ」

一夏は長く息を吐いた。

「そういや、織斑先生は一緒じゃないのか?」

「ん? ああ。千冬姉はしばらく家にいるよ。マドカにISのことをいろいろ教えなくちゃいけないからさ」

「ふぅん。もしかしたらお前より飲み込みが速かったりしてな」

「………………」

軽い冗談で言ったつもりだったんだが、なぜか一夏は気まずそうに右頬を指でポリポリ。

「い、いや……結構進んでな。なんか、俺たちが三か月くらいかかった理論学習がもう完璧に終わってる」

「へ、へ~……」

織斑先生の指導がいいのか、それともマドカのセンスが素晴らしいのか。はたまたどちらもなのか。この分だと冬休み中にはマドカは俺たちに学習面では追いつきそうだ。

「そ、そうだ! こんなとこで油売ってる場合じゃなかった! すぐに行くぞ!」

「お、おう」

そして俺は一夏を連れて調理室に向かう。

「あ、織斑くんと桐野くんだ!」

途中で写真部、そして整備班のエースの黛先輩に会った。

「どうしたのかしら? そんなに慌てて」

「ああ、ちょっと生徒会の仕事で」

「生徒会の? あは、もしかしてたっちゃんに振り回されてる?」

黛先輩のメガネがキランと光る。

「ええ。まあそんなところです」

「匂う……匂うわ! スクープに匂い!」

ああ、この人って本当にスクープに目がないな。

「じゃ、じゃあ俺ら急いでるんで」

「黛先輩、また」

そして俺たちはまた歩き出す。

「ほいほ~い。あ、桐野くん! 例のブツ! 三枚でいいのね?」

去り際、先輩が俺を引き留めた。

「はい! お願いします!」

俺が走りながら答えると、

「毎度あり~♪」 

と先輩は手をひらひら振った。

「瑛斗、先輩とどうかしたのか? 例のブツって……」

「ま、まあ色々とな。ほらほら! 急がねえと遅れる!」

俺は軽い感じで話を流し、調理室を目指した。

「よーし! 生徒会プラスワンで頑張るわよー!」

「「「「「おー!」」」」」

楯無さんの号令の下、俺、一夏、のほほんさん、虚さん、そしてプラスワンのシャルが高らかに返事をする。

俺たちの目の前には、スポンジケーキが置かれている。

しかしそのスポンジケーキはとんでもないビッグサイズなわけで、貸切の調理室の天井に届かんばかりなのだ。

「でか~……」

エプロンを身に着けた一夏はそれを見上げて呟く。

「昨日は大変だったんだよ~」

その隣で同様にエプロンを着けたのほほんさんが笑う。

「お姉ちゃんに私がつまみ食いしないかって、めちゃ鋭い目で見られたし~」

「あ、そっち?」

「そっち~」

「まあ、本音のことは置いといて、シャルロットちゃんには昨日は助けられたわ~。さすが料理上手」

一夏とのほほんさんの会話に楯無さんも混ざる。

「い、いえ。僕はそんな……」

「もー照れちゃってー! 今日も頼むわよー? 期待してるわ」

「は、はい!」

楯無さんに言われ、シャルも元気な返事をする。

「よし! シャルロットちゃんと瑛斗くんはフルーツの準備! 虚と本音は生クリームの準備! 一夏くんは私とプラスチックチョコの準備! デコレーションは最後に全員でやるわ!」

楯無さんの指示で、俺たちはそれぞれ持ち場につく。

「よっしゃ! シャル! 気合い入れてやるぞ!」

「うん!」

シャルもやる気満々だ。

「……瑛斗と一緒に料理……えへへっ♬ 瑛斗! 頑張ろうね!」

「お、おう!」

よく分からないが、シャルのやる気は凄まじいものだった。

それから、ケーキ作りは夜遅くまで続いた。

「……これで……よし!」

虚さんがサンタクロースの形のプラスチックチョコをデコレーションされたケーキに載せて、生徒会企画の特大ケーキが完成した。

「うん! みんなお疲れ様! これで明日のパーティーはばっちりよ!」

楯無さんの弾んだ声が俺たちのケーキ完成の喜びを代弁している。

「明日が楽しみ~!」

「そうねぇ」

のほほんさんと虚さんもキラキラした目で完成したケーキを見る。

「あ、でもこれどうします? パーティーは明日の夜ですよね? ずっとここに置いておくのは……」

「ああ、生ものだしな」

シャルと一夏がうーむと唸る。

「ふっふっふっふ……」

そこで楯無さんが意味深な笑いを浮かべる。

「楯無さん?」

「先輩?」

「二人とも、忘れてないかしら? この生徒会には優れた技術者がいることに……」

「技術者?」

「そう。それは━━━━」

「俺だぁっ!!」

楯無さんの前に出て、俺は胸を張る。

「実は造ってあるんだよ! 特大ケーキ用冷蔵庫!」

今年一番のドヤ顔と共にガラガラとローラーを転がして奥の方からデッカイ冷蔵庫を運んでくる。

「「「「おぉ~!」」」」

ああ、気持ちいい。この感嘆の声が気持ちいい!

「さあ! 早く入れるんだ!」

「わ、わかった!」

一夏と協力して、台に載っているケーキを慎重かつスピーディーに冷蔵庫に入れる。

「ドヤァ……」

扉を閉め、俺が余韻に浸っていると、シャルがおずおずと話しかけてきた。

「え、瑛斗、こんなのいつの間に……?」

「ん? 一週間くらい前かな。まあツクヨミの技術力を舐めちゃあいかんぜ」

「う、うん」

「しっかしスゲーな。これ」

一夏も感心したようにぽんぽんと冷蔵庫の横を叩く。

「だろだろ? もっと褒めてもいいんだぜ?」

「でもスゲーでかいから、スゲー電気代かかりそう」

「……一夏くーん、そういう夢のないことを言わんでくれよ」

一夏の家庭的発言でちょっぴりテンションが萎む。

「さ、何はともあれ、みんな今日はお疲れ様。明日に備えてゆっくり休んでね」

楯無さんのその一言でこの場は締まった。

 

「明日はクリスマスイブか……」

寝る準備を終えた俺は、今からワクワクが止まらなかった。

「所長の介抱がないのはいいけど、それはそれでちょっと寂しいな……」

窓の外を見ながらふと呟く。

「……ん?」

窓の向こうの遠くの景色がキラリと光った。

「んん?」

目を凝らして見ると、何かが高速でこっちに飛んできていた。

ツノが生えた茶色いボディに、真っ赤な鼻。

 

三十センチ大のトナカイ型のロボットが高速で飛んできた。

「と、トナカイ!? うわあっ!」

反射的に窓から離れる。

ピトッ

そのトナカイは脚に着いた吸盤で窓に張り付くと、赤く発光している鼻を押し当てた。

ジュウゥ~……!

 

その鼻を窓に押しつけて円を描くように動いた後、コンと窓を脚で押した。

するとちょうどそのトナカイロボが通れるくらいの穴が開いた。

「………………」

突然の超展開に呆気にとられる俺。

『ふぅー。着いた着いた!』

なんとトナカイロボは直立に立ち上がった!

ってかもう面倒だから言うな。

「博士……ですね」

『おお! えっくん!』

トナカイロボに内蔵されたスピーカーから、篠ノ之博士の弾んだ声が聞こえる。

『めりぃくりすまーす! 今年も残すところもう少しだねっ!』

「そうですね」

『と言うわけで、束さんにちょっと早めのクリスマスプレゼントぷりぃーず!』

ぴょんぴょん跳ねるトナカイロボ。

「はいはい。ちょっと待ってください」

俺は机の上に置いてあった封筒を手に取る。

中には、黛先輩から購入した箒の写真が三枚入っている。

ちょっとばかり大きい出費だったが、マドカの安全を確保するためと考えれば諦めもつく。

「どうぞ」

『うんっ! 約束を守ってくれるえっくんはいい子!』

トナカイロボは封筒を受け取ると、胴体から出てきたアームで封筒をがっちりとホールド。

『それじゃあ、いいクリスマスとお年を!』

窓辺を飛び降りたトナカイロボが一瞬視界から消える。

 

しかし、背中から出てきたバーニアが火を噴き、そのままトナカイロボは冬の夜空に消えて行った。

「……ま、あの人にいちいち驚いてちゃあ敵わんよな」

とりあえず小さな穴の開いた窓にガムテープを張って、寝ることにした。


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