IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「よーし、みんな揃ったわね? それじゃ、しゅっぱーつ!」
クリスマスパーティーがいよいよ近くなった今日。楯無さんを筆頭にする我ら生徒会メンバーは駅前のショッピングモールに来ていた。
目的は生徒会プレゼンツの特大ケーキ製作の材料を買うためである。
「今日買うものは小麦粉と卵と牛乳、バターと砂糖と生クリーム、あとはフルーツ類ですね」
虚さんがメモに書かれた買い物リストを読み上げる。
「じゃあ、二手に分かれて動きましょう。本音と虚と瑛斗くんは小麦粉と卵と牛乳。私と一夏くんでバターと砂糖と生クリーム、それとフルーツをそれぞれ買いに行くわよ」
「わかりました」
「らじゃ~」
「はい、会長」
「了解です」
「うん。ああ、それと結構な量になると思うけど、頑張ってね? 男の子たち☆」
楯無さんが星が出るウインクをした。
「あの……楯無さん」
「その『頑張って』って……」
「ええ、荷物持ちよ」
「「ですよねー……」」
やっぱり男ってこういう仕事をやらされるんだな。別に嫌じゃないけど、なんか納得いかない……
「ほらほらきりり~ん。はやくはやく~」
のほほんさんがクイクイと袖を引っ張ってくる。生徒会の活動ということでみんな制服姿なので、相変わらず彼女の袖はダルダルだ。
「わかってるって。今行く」
のほほんさんにせがまれ、俺は歩き出した。
「ここのモールには色々なものがありますからね。買えないということはまず無いでしょう」
「虚さんもよく来るんですか?」
「ええ。一年生のころからそれなりに通ってます」
虚さんと歩きながら話す。
「ね~ね~、おね~ちゃ~ん」
「なに? 本音?」
「残ったお釣りでお菓子買っていい~?」
「………………」
のほほんさんの言葉を聞いて虚さんはハァとため息をついた。
「ダメよ。生徒会の費用から落としてるんだもの。私的な事に使ったら怒られるわ」
「えぇ~、買って買ってぇ~」
なおも食い下がるのほほんさん。
「ダメったらダメ。早く買い物を済ませましょ」
「ぶ~、ケチ~」
少し語勢を強めて言われて、ようやくのほほんさんは諦めたようだ。
(この二人って、姉妹って言うより親子に近いな……)
二人のやり取りを見ながらそんなことを思った。
「あ、きりりん今、私たちのこと姉妹って言うより親子に近いなとか思った~?」
「え……あ……まあ」
のほほんさんが俺の考えていたことをズバリ言い当てた。
「そう思うでしょ~? お姉ちゃんってば、いっつも私のあれこれ言ってくるんだよ~。参っちゃうよね~」
ゴンッ!
虚さんの鉄拳がのほほんさんの脳天にヒットした。相変わらず容赦ない。
「何言ってるの。それもこれも本音がしっかりしないからでしょ」
「うぅ……いった~い!」
頭をさすり、微妙に涙目になるのほほんさん。
「まったく……私が卒業したらどうなるのか、心配……」
「………………」
「………………」
そうだ。虚さんは三年生。三月にはIS学園を卒業する。進路は当然更識家に仕えるメイドだが、まだまだ妹のことが心配のようだ。
「や、まあ、のほほんさんもやる時はやってくれますし、なあ?」
「う、うん。そーだよ。私だってやる時はやるんだよ~」
慌てて俺は妹を心配する虚さんをフォローし、のほほんさんもそれに乗っかる。
「そうならいいけど……」
「そうそう! のーぷろぶれむだよ! さ、いこいこ~!」
のほほんさんはタタタッと走り出した。
「あ、本音、待ちなさい!」
それを追うように虚さんも走り出した。
「あ、ちょ、ちょっと!」
慌てて俺も走り出すが、一歩目で誰かと肩がぶつかった。
「っとと、ごめんなさい」
「………………」
ぶつかった相手は何も言わずに人混みに消えていく。
(━━━━ん?)
どこかで見たような気がして振り返るが、あるのは大勢の人が行き交う光景だけだった。
「?」
不思議に思ったが、はぐれては困るので、探すのを諦めた俺はのほほんさん達の後を追うことにした。
◆
「あ、あの……楯無さん……」
『ん? なにー?』
「これ、大丈夫なんですか?」
楯無と行動している一夏は目的とは全く違う場所にいた。
場所はモール内のファッションショップ。もっと言えば試着室前だ。
「いいんですか? 思いっきり目的を忘れてる気がするんですが……」
不安そうな一夏の声を聞き、試着室の中にいた楯無はカーテンから顔を出した。
「大丈夫よ。これも重要な目的の一つなんだから」
「え? 企画って、ケーキだけじゃないんですか?」
頭に疑問符を浮かべる一夏に楯無は二ッと笑って再びカーテンの中に顔を引っ込め━━━━
「ジャーン!」
勢いよくカーテンを開けた。
そこにはサンタクロースの衣装に身を包んだ楯無が立っていた。
「どうかしら?」
「ど、どうと言われても……」
一夏は困ったように視線を逸らした。
それも無理はない。
サンタの格好と言っても、それは上半身だけ。楯無は下半身に真っ赤なミニスカートを穿いている。要するにミニスカサンタと言うヤツだ。
(め、目のやり場に困る……!)
バッチリ似合っている。似合っているが、楯無の抜群のスタイルと相まって、その姿はどこか扇情的な雰囲気を醸し出している。特に脚から。特に脚からである。
「い、良いんじゃない……ですか?」
「でしょでしょ! 当日は本音と虚にもこの格好させようと思ってるの!」
「そ、そうなんですか」
「ね? ね? いいアイデアでしょ?」
楯無は満足気にカーテンを閉めた。
「楽しみよねー。きっとみんな驚くわ!」
声を弾ませながら着替える楯無。その声を聞きながら一夏は考えていた。
(クリスマスか……そう言えば千冬姉と一緒に鈴のところに行ったっけ……)
自分がまだ中学生のころ、姉の千冬と共に鈴の両親が営んでいた飲食店にクリスマスになると二人で行って料理を食べていた。
鈴が中国に帰ってからはクリスマスは特にイベントらしいことはしていなかったので、一夏個人としては、今度のクリスマス企画はとても楽しみであった。
(………………)
しかし、一夏の表情はすぐに陰る。
千冬のことを考えると、あの少女━━━━織斑マドカのことを思い出してしまうからだ。
一夏は千冬に、タブーとされる家族についてのことを聞き、言葉にして言われこそしなかったが、明らかに千冬の機嫌を損ねている。
(アイツはどうして、千冬姉と同じ顔なんだ? アイツはいったい何者なんだ……?)
確かめる術を、一夏は持ち合わせていない。
できることなら、会って話がしたい。しかし、そうやすやすと会うことなど到底できないだろう。
一夏は肩を落とす。
「織斑マドカ……か……」
「……呼んだか?」
「!?」
後ろから声をかけられて振り返ると少女が立っていた。
千冬と同じ顔をした、織斑マドカを名乗る少女が。
「お前は━━━━!?」
言おうとしたところを布で口を押えられた。一夏の鼻腔を異臭が貫く。
(意識……が……?)
「一緒に来てもらうぞ」
その言葉が聞こえたのは、気を失う直前だった。
「お待たせーって……あれ?」
制服に着替え終えた楯無は、試着室から出るとすぐに異変に気づいた。
「一夏……くん?」
首を巡らせて周囲を見渡すが、前に立っていたはずの一夏は、どこにもいなかった。