IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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第九章 震駭! 年末年始編!
クリスマス企画会議 〜または近づく復讐者の足音〜


IS学園生徒会室。

 

放課後のそこにはIS学園の生徒会を構成する面々が揃っていた。

「「「「……………」」」」

布仏本音、布仏虚、桐野瑛斗、織斑一夏。

各自の席に着くその四人はIS学園最強の称号を持つ生徒会の長、更識楯無の言葉を待っている。

「………………」

四人の視線を受ける楯無は、口元に扇子を置き、じっと沈黙を保ち続けている。

「みんな……、ついにその時が来るわ……」

そして楯無はその口で沈黙を破った。

「「━━━━はい」」

布仏姉妹は神妙な面持ちで頷く。しかし、瑛斗と一夏は未だ押し黙ったままだ。

「この学園で……いえ、ほぼ全ての人類が待ちわびていた日……」

楯無は立ち上がり、ホワイトボードに手を置く。そして一気に反転させた白板には、デカデカと『メリークリスマス!!』の文字。そして色々なイラスト。

「そう! クリスマスよっ!」

「「わぁーっ!!」」

沸き立つ生徒会女子三人。

「「………………」」

そして、ぽか~んと拍子抜けしたように口を開いている生徒会男子二人。

「あり? おりむー、きりりん、どったの?」

二人の様子に気づいた本音が声をかけると、瑛斗がやや遅れて反応した。

「あ、や、あの、楯無さん━━━━」

「ストップ!」

何かを言おうとした瑛斗の前に『そこまで!』と達筆に書かれた扇子が突きだされる。

「瑛斗くんが言わんとしていることは良く分かってるわ」

「は、はあ」

「先生の許可はちゃんと取ってあるわよ」

 

「ち、違いますよ」

俺が言いたいのはですね、と言って瑛斗は続けた。

「緊急会議って言うから何事かと思って来てみたら、その議題は『クリスマスのイベントを生徒会で企画しよう』ですか?」

「あら? 拍子抜けだったかしら?」

「そうじゃないと言えば嘘になりますね」

「俺は何となくそうなんじゃないかと思ってましたよ」

一夏が声をあげる。

「最近、女子たちの話題もクリスマスのことですし、今回の招集の時も、もしかしたらなんて」

「そうだと思ったなら教えてくれよ……。いらん心配したじゃねえか……」

額に手をやり、やれやれと頭を振る瑛斗。

「桐野くんは、クリスマスに何か良くない思い出がありそうですね?」

そこで本音の姉、布仏虚が瑛斗に聞いた。

「そうなんですよぉ」

瑛斗は肩を竦めて答えた。

「クリスマス……、それはツクヨミクルーにとってはそれ相応の覚悟が必要なイベントでしたから」

口調が変わった瑛斗に、虚は目をしばたたかせた。

「い、一体なにが……?」

「答えはただ一つ! はしゃいで酔っぱらった所長の介抱の押し付け合いがあるから!」

どどーん! と背中に効果音を響かせ、瑛斗は声高に言った。

「普段の酔っ払いならいざ知らず、クリスマスの酔っ払い振りは洒落になりません! しかも!」

「し、しかも……?」

「その押し付け合い、万年俺が敗北します……」

ガックリと肩を落とす瑛斗。そんな一人だけお通夜ムードの瑛斗の肩に楯無は手を置いた。

「だ、大丈夫! IS学園は未成年が多いから、間違っても酔っ払いの介抱なんてしなくていいわ!」

「そ、そうですか……」

瑛斗の目は少しばかり光を取り戻した。

それよりも、と一夏が発言した。

「その生徒会企画のイベントって、具体的になにするんですか?」

「いい質問ね!」

ビシッと、一夏に畳んだ扇子を向ける楯無。

「今年クリスマスは夜から学食でパーティーをするの! そこで生徒会は……」

「生徒会は?」

「特大ケーキを作るわ!」

「「特大ケーキ?」」

「そ。みんながビックリするくらいおっきいの。そんなケーキを生徒会メンバー総出で製作するの」

内容を聞いた瑛斗と一夏は首を楯無の方向から移動させた。

「俺達は全然……」

「構いませんけど……」

二人の視線は、本音に向けられる。

「ふぇ? なになに?」

「「一人だけ心配な人が」」

「「ああ……」」

それを見て楯無と虚は納得した。

「あ~! もしかして私がつまみ食いするとおもってる~!? ひどい~! 私そこまで子供じゃないない~!」

ようやく理解した本音はダルダルの袖をブンブン振りながらプンプンと怒った。

「まあ、ケーキ作りはパーティー前日からするから、そのつもりでね。じゃあ、どんなケーキを作るか話し合うわよー!!」

「「おー!!」」

「「お、おー…………」」

ノリノリで拳を上に挙げる女子三人に、男子二人は少々遅れ気味にノッた。

「………………」

そこは、とある施設の地下深く。

 

様々な計器が無造作に置かれたその空間で、千冬と同じ顔を持つ少女、自称『織斑マドカ』━━━━コードネーム『エム』が一つの装置の上に仰向けになって寝転んでいた。

ブゥン………

装置たちに光が灯り、起動する。

 

辺りに置かれた計器たちが一斉に起動する。

「……んぅ」

マドカは不快そうに顔をしかめる。彼女の頭には、ヘッドギアのような機械がつけられ、それから伸びる数本のコードが大きな装置につながっている。

「あっ、あぅ……んっ」

現在、彼女が施されているのは、脳内のナノマシンのメンテナンス。一定の周波数の電波を送り、システムに異常が無いかを調べているのだ。

「ん……くっ……」

時折ピクピクと手足が動いて短い声が出るのは、電波の影響で一時的に脳の伝達能力に異常が発生するからだ。

「ひっ……んっ……」

しばらくして、装置の稼動は終わった。

『……これでチェックは終了よ。エム、お疲れ様』

天井の隅に配置されたスピーカーから、スコールの声が聞こえた。

「………………」

起き上るマドカは無言の返事を寄越すだけである。

『もう。少しくらい愛想を良くしてくれてもいいのよ?』

「………………」

おどけた口調でスコールは言うが、マドカは一向に返事をしない。

『……相変わらず、可愛い喘ぎ声ね』

「……………ッ!」

カァッと顔を赤らめたマドカは、声のする方向へ《サイレント・ゼフィルス》の小型マグナムを向けた。

ガオンガオンガオンッ!!

放たれた弾丸はスピーカーを見事に破壊した。辺りにはザー……とノイズが響く。

「………………」

ドアを開けて部屋の外に出ると、困ったように笑っているスコール本人がいた。

「まったく……照れ隠しにいつもいつもスピーカーを壊すのはやめてって言ってるじゃない」

「懲りないお前が悪い」

「あなたがいつも反応してくれるからよ」

 

「……………」

 

もはや言葉もなく、ギロリとスコールを睨んでから、マドカはスタスタと歩き出す。

「ああ。エム、近々『任務』が入るから、準備は怠らないようにね」

「わかっている」

背中越しに答え、マドカは去って行った。

 

 

「と、いうわけで」

楯無さんがまとめの声をあげる。

「生徒会によるケーキ製作はスポンジは一夏くんと本音、そして私。クリームと飾り付けは虚と瑛斗くんでやるわ。いいわね?」

確認する楯無さんの声に全員はーいと返事をした。

「じゃ、今日は解散!」

楯無さんの扇子には『おつかれ!』と書かれていた。

「ん〜……疲れたぁ~」

俺が伸びをしてつぶやく。そして時計を見て時間を確認する。

「ん、こんな時間か。一夏ー、飯食いに行こうぜ」

「ん? ああ、そうだな」

一夏を誘って、生徒会室を出る。

「それにしても、まさかこんなに時間がかかるなんてな」

「ああ。ケーキの種類とか、どんな飾り付けにするかとか色々話し合ったからな。おかげでもう夕飯時だ」

話しながら廊下を歩くと、ある人とバッタリ会った。

「あ、織斑先生」

「おう、お前たちか」

曲がり角で会ったのは一夏のお姉さんの織斑千冬さんだった。

「生徒会の仕事か?」

「ええ。まあそんなところです」

「…………………」

うん? 一夏がバツが悪そうに黙っている。

「一夏? どうした?」

「えっ、ああ、いや━━━━」

取り繕おうとした一夏が何かを言おうとすると、織斑先生はすでに歩き始めていた。

「仕事熱心なのは構わんが、あまり根を詰め過ぎるなよ?」

「あ━━━━」

言って織斑先生は行ってしまった。

「どうしたんだよ一夏。織斑先生となんかあったのか?」

一夏の織斑先生への反応はいつもと明らかに違っていた。

「いや……その……」

「なんだよ。はっきり言えよな」

「……実はさ、この前、千冬姉に家族のことを聞いたんだよ」

「家族のこと?」

「ああ。俺に妹とか、いるのかって」

「……それで?」

「結局……何も教えてくれなかった」

「……そうか」

一夏と千冬さんの間には家族の話はしないという決まりがあるらしい。

一夏も小さいころからその決まりに従って生きてきたが、あの少女、織斑マドカが現れてからは色々疑問を持ち始めているようだ。

「で、そんなことがあった手前、気まずいと?」

「うん……」

「ふーん。ま、他人様のお家事情に首を突っ込む気はねえよ。飯でも食って、気分転換と行こうぜ」

「そうだな……。そうするか」

納得したように頷く一夏と寮の食堂赴いた。

「なーににしよっかなぁー? ……よし、今日はハンバーグ定食だ!」

「じゃあ、俺は……カツカレーかな」

「ほお、珍しく一夏くんガッツリいくねえ」

「そんくらい食べたい気分なんだよ」

「はは、そうですか」

出てきた料理の載ったトレーを持って席を捜していると、

「あ、瑛斗、こっちこっちー」

「一夏さん、こちらですわ」

シャルや、セシリア。要するにいつものメンツがいた。

「お、みんないるみたいだな」

シャルの向いに座ってみんなの顔を見る。

「うん。僕たちも今食べ始めたところだよ。ね?」

「うむ。そうだな」

シャルの今日のメニューはロールキャベツ定食、ラウラはカルボナーラ。

「一夏さん、ここ、空いてますわよ」

「あ、ああ」

一夏に自分の隣の席に座るように言ったセシリア。ちなみにメニューは鶏と野菜のスープだ。

「そう言えばアンタたち、放課後に放送で生徒会室にすぐ来るように言われてたけど、何かあった?」

鈴が回鍋肉定食を食べながら聞いてきた。

「いや、特に大したことは無かったぞ。なあ、瑛斗?」

「そうだな。特に何も」

「ふーん。そう」

言っておくと、今回の生徒会によるケーキ作りは関係者以外には秘密だ。理由は楯無さん曰く『クリスマスだもの。サプライズは多い方が良いに決まってるわ』だ。

「あ……瑛斗……みんな……」

「ん? おお、簪」

振り返ると、後ろに簪が立っていた。手にはきつねうどんが載ったトレーがある。

「あ、簪。簪も座って座って」

「う、うん……」

シャルに促され、簪は遠慮がちに俺の隣に座る。

あの一件以来、簪は少しずつ周囲の人と打ち解けるようになり、シャル達とも親しくなってこうして夕飯を共に食べるほどの仲になっている。

「そろそろクリスマスだけどさ、みんなはどうするんだ? やっぱり国には帰らないんだな?」

「うん。それにこっちのクリスマスの方が楽しそうだもん」

「我が軍でもクリスマスの催しがあるらしいが、そちらは黒ウサギ隊の隊員たちに任せるつもりだ」

「そうですわね。あちらに戻っても、退屈な仕事があるだけですし」

「私も戻らないわ。まあ、戻っても面倒なことしかないから」

やっぱりみんなクリスマスは日本で過ごすらしい。

「それにしてもクリスマスかぁ。ってことはもう年末だな」

「おいおい、気が早いな」

俺が言うと一夏が苦笑した。

「そうか? クリスマスの一週間後だぜ? あっというまだろ。いろいろあったよなー」

「確かにそうだけど、こういうのは大晦日に言おうぜ」

「? なんでだよ」

「いやぁ、このタイミングで言うと、またとんでもないことが起こったりするかもしれないだろ?」

「それはない。……と思いたい」

「な? だからギリギリまでやめとけ。あ、そうだ。みんな年末年始は国に帰らないんだったらさ、初詣行こうぜ」

一夏が提案すると俺も含めてみんな首を縦に振った。

「俺除夜の鐘突いてみたいんだよ。ゴーンって」

「うーん……でも、近所に寺は無いんだよなぁ。俺の家の近くだと……やっぱり箒んところの神社だよな。な、箒」

「へっ!? え、あ、ああ! そうだな。うん、お前の家の近所だと、私の家の神社が一番近いな」

焼きサンマ定食を黙々と食べていた箒は、突然声をかけられて驚いたように声を上げた。

 

「だよなぁ。よし! じゃ、少し気が早い気もするけど、初詣は篠ノ之神社にしようぜ」

反対する人は、現れなかった。

「………………」

月明かりが差し込む部屋。自分以外誰もいない薄暗い部屋で、待機命令を受けたマドカはナイフを研いでいた。

(私の復讐の完遂は、もうすぐそこまで来ている……)

鏡のように研ぎ澄まされたナイフに顔を写しながら、マドカは思う。

(それからのことなど……私にはどうでもいい……)

全てはその時のため。

マドカはただ自分の目的を果たすためだけに生きてきた。『それから』などという言葉は彼女には必要がない。意味がないのだ。

ふと手を止めて、光るナイフに写る顔を見た。

強奪し、そのまま自分の専用機としている《サイレント・ゼフィルス》が、待機状態の左耳のイヤリングとなって月の光に照らされている。

(サイレント・ゼフィルス……お前との付き合いもこれきりかも知れないな)

感慨深げにイヤリングに触れて、ハッと我に返る。

(……この私が、こんなことを考えるとはな)

そんな自分を笑い、今度は真剣な表情でナイフの中の自分の顔━━━━織斑千冬の顔を見据える。

「待っていろ……ねえさん」

壁に向かって研ぎ終えたナイフを投げる。

 

ナイフは真っ直ぐ飛び、貼られていた千冬の写真に深々と突き刺さるのだった。


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