IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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ユア・マイ・ヒーロー 〜またはただ、それだけ出来れば〜

「お、織斑先生!」

廊下を走っていた真耶はやっとのことで千冬を見つけた。

「山田先生! 状況は!?」

「敵襲です! こ、これを見てくださいっ!」

真耶は携帯端末を取り出し、千冬にアリーナカメラに映った『敵』の姿を見せた。

「こいつは……!」

その襲撃者の姿を見て、千冬は驚愕した。

「は、はい! 以前現れた無人機と同型━━━━いえ! 発展型と思われます!」

「……数は?」

「六機です! 各アリーナのピットの上空から超高速で降下。待機中だった専用機持ち達を襲撃しています!」

そこまで真耶の言葉を聞いて、千冬は忌々しげに呻いた。

「くそ……早すぎる。まだ『アレ』は出せない……!」

「え?」

聞き返してきた真耶に、千冬はそれ以上何も言うことはなかった。千冬本人も、おもわず口にしたことだったのだ。

「そ、それで、私たちはどうしたら!?」

真耶はすがるように千冬を見上げる。

「そうだな、教師は生徒の避難を最優先。同時にシステムにアクセスして各セクションの最高レベルロックを解除しろ。戦闘担当の教師は各員突入用装備で待機だ」

「りょ、了解です!」

指示を受けた真耶は廊下を走り去っていった。

「やってくれたな……」

それを見送り、千冬はぽつりとつぶやいた。

「だが……甘く見るなよ……!!」

そして、その眼に静かな怒りの炎を燃やし、壁に拳を叩きつけるのだった。

「簪がいるピットは……!」

俺は簪がいるはずのピットの周辺まで来ていた。周囲からはけたたましい警報音が鳴り響いている。

(アイツに何かあったら、俺は━━━━!)

俺は自分を許せなくなる。

 

そしてそれは、一生の傷跡になるだろう。

 

だから駆ける。がむしゃらに。ひたすらに。

『━━━━桐野くんっ!!』

「!」

今、声が聞こえた。間違いない。簪の声だ!

「《G-soul》!!」

俺が叫ぶと、それに応えるようにG-soulは第二形態の《G-spirit》にその姿を変えた。

右腕部装甲と接続したビームメガキャノンで壁を殴りつける。

「簪ぃぃぃぃぃ!!」

崩壊する壁に突っ込み、漆黒のISらしきものをビームメガキャノンの砲身で殴り飛ばした。

「き……りの……くん」

「簪! 無事か!?」

簪を守るように前に立ち、ビームメガキャノンを分裂させ、左手にビームブラスターを構える。

 

「無事なんだな!?」

「う、うん!」

打鉄弐式を展開こそしていないものの、簪の体に目立った外傷はなかった。

「━━━━━━━━」

殴り飛ばされたISは、起き上るとライン・アイ・センサーをギランと光らせた。

「ゴーレム……Ⅲ?」

その漆黒のISは胸部装甲に『ゴーレムⅢ』と掘られていた。おそらくこいつの名前だろう。

「まさか、鈴の時のヤツの発展機か!」

そう判断するが早いか、ゴーレムⅢは左腕を持ち上げ、その先端部分から超高密度圧縮熱線を発射する構えに入った。

「こいつっ!」

俺はBRFアーマーを起動。熱線を真正面から受け止める。

「くっ……! 結構な威力じゃねえか!」

俺はビームウイングを展開。そのまま前進を始める。

「簪! 《打鉄弐式》を展開しろ! 二人で相手をする!」

「は、はい!」

簪は返事をして打鉄弐式を展開する。

「らあああっ!」

熱線を受け切り、ゴーレムⅢに体当たりし、ピットの壁を突き破る。

外に出ると、ゴーレムⅢを蹴り飛ばして距離を取り、それに続いて簪も俺の後ろに立った。

「接近戦で畳み掛ける! ……やれるか?」

「だ、大丈夫!」

簪は弐式の近接戦闘用武装の《夢現》を構えた。

(どうやら、心配はいらなかったみたいだな……!)

簪も戦える状態だと分かって、俺はこんな時なのに安心していた。

「行くぜぇっ!」

ビームブレードを発振させ、一気にゴーレムⅢに肉薄。ビームと実体のブレードが激しい閃光を散らせる。

「はああっ!」

簪も夢現を構え、横一線に薙ぎ払う。だがその攻撃は無人機特有の、人体では絶対にできない腰部の湾曲という手段で躱された。

「!」

そして戻る反動を利用して俺に蹴りを入れてきた。

「ガハァッ!!」

相当な威力の蹴りを受け、俺は地面に叩き付けられる。

俺の全身を激痛が駆け巡った。

(妙だ……。こんなに簡単に絶対防御が破られるなんて…………まさか!?)

━━━━敵ISから、正体不明のエネルギー反応をキャッチ。システムが正常に稼働しません━━━━

G-soulがディスプレイでそう告げる。思った通りだった。

(あいつ……()I()S()()ISか!)

「Gメモリーセカンド! セレクトモード!」

すぐに起き上り、Gメモリーセカンドを起動する。

「セレクト! ヴェスガルド!」

━━━━コード確認しました。ヴェスガルド発動許可します━━━━

バスターブレード《ヴェスガルド》と背部大型ブースターが特徴の接近戦特化のGメモリー《ヴェスガルド》を発動し、再び浮上する。

「桐野くん!」

「まかせろっ!」

ヴェスガルドのブレードの片側部分がレーザーを放出する。

「でやああああああっ!」

「━━━━━━━━」

ゴーレムⅢは至近距離でシールドユニットを配置し、俺の攻撃を迎え撃つ。

ブレードとシールドがぶつかり合う。だが今度はさっきとは違う!

金属が高温によって溶解していく音が響く。

ぶつかり合っているゴーレムⅢのシールドユニットが溶けはじめたのだ。

ヴェスガルドの刃は高熱レーザーを放つことで敵装甲を溶かし、実体剣で叩き割ることができる。ゴーレムⅢのシールドユニットはみるみる溶け、真っ二つになった。

「━━━━」

状況を把握したのか、ゴーレムⅢは熱線を発射する左腕で俺の顔面を殴ろうとしてきた。

「っと!」

首だけを動かしてそれを躱す。そしてゴーレムⅢはそのまま後ろに下がる。

(狙い通り━━━━!)

「簪っ!」

「やあああああっ!」

後方に控えていた簪が夢現をゴーレムⅢの土手っ腹に突きたてた。

「私……だって!」

その声とともに夢現を横に払うと、腹を抉られたゴーレムⅢはふらふらと姿勢を崩した。

(このまま━━━━)

ドガァァァァンッ!!!

「!?」

後方から爆発音が聞こえた。反射的に振り返る。

「もしかして、箒や楯無さんが!?」

「桐野くん……!」

「うわっ!」

簪に引っ張られて姿勢を崩す。すると、俺の頭があった場所を熱線が通り過ぎた。

「あの野郎……! まだ動けんのかよ!」

「私が……!」

「簪!? 無茶すんな!」

「桐野くんは、向こうの……ゲートに……! 私は大丈夫……だから……っ!」

「わ、わかった!」

簪がゴーレムと斬り合いを始める。俺はヴェスガルドを解除し、もうもうと煙の立ち込めるゲートへと向かった。

(箒、楯無さん、無事でいてくれよ……!)

ゲートに接近すると、ISの反応があった。

「無事か!?」

━━━━しかし、煙から出てきたのは、ゴーレムの漆黒の巨大な左腕だった。

「ガッ……!?」

腹部に重たい衝撃が走る。一瞬意識が遠のいた。

「……っのお!」

ビームブラスターを構え、ゴーレムの立っているはずの場所へ銃口を向ける。

(いない!?)

しかし、そこにゴーレムはいなかった。

━━━━背後にロックオン反応!━━━━

「しまっ━━━━━━━━」

目の前に、熱線が迫って……。

 

「……あれ?」

おかしい━━━━

確かに目の前に熱線が迫っていたはずだった。だが、俺の体はどこもダメージを受けていない。

「だ……だい……じょう……ぶ?」

「!?」

顔を上げると、そこにいたのは━━━━!

「たてなし……さん……?」

俺が名前を呼ぶと、楯無さんはニッと笑い、俺に覆いかぶさるように倒れた。

「楯無さん! どうして……どうして俺なんか!?」

「えへへ……当然じゃ……ない。あなたは……大切な━━━━」

楯無さんが視界から消えた。

「……!」

ゴーレムが、左腕を横に振った形で止まっていた。

 

「あ……!」

 

俺の身体の奥底から、ざわめきとともに何かが膨れ上がって、それはざわめきから鼓動へと変わっていく。

「…………たな」

G-spiritが姿を変えて、ボルケーノを発動する。

「やったなあああああああっ!!」

俺は《ボルケーノクラッシャー》を起動し、ゴーレムに突進した。

「━━━━━━━━」

ゴーレムは超高密度圧縮熱線を最大出力で放ってきた。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

熱線とボルケーノクラッシャーがぶつかり合う。

━━━━ボルケーノクラッシャーのエネルギー吸収率が百二十パーセントを超えました。このままでは飽和によってボルケーノクラッシャーが崩壊します━━━━

ディスプレイにそんな表示が出た。

(知るか! その前にこいつを叩き壊す!)

ボルケーノクラッシャーが音を立てて指先からひび割れ始める。

「おおおおおおおおおああああああああっ!!」

(届け! 届いてくれ!)

絶叫。そして、爆発が起こった。

 

爆心地は━━━━俺。

「ハァ……ハァ……!」

煙が晴れる。俺の手は確かにゴーレムに触れていた。だが、ゴーレムに触れていたその手は、何の装甲も着けていない、ただの人の手だった。

「━━━━」

「ぐぶっ……!?」

腹を殴られ、血が口から噴き出す。よろけたところで頭を掴まれて、俺は投げ飛ばされた。

(意識が……もう……)

地面に転がった身体が動かない。視界がぼやける。息をしているかどうか自分でも分からない。

(ごめん、みんな……。俺……)

頭をもう一体のゴーレムに掴まれた。反抗する力もなく、俺は動けない。

(はは、俺……こんなところで……)

目を閉じかけた。

「━━━━ちゃん」

(ん……?)

「お姉ちゃん!」

簪の声が聞こえた。

(お姉ちゃん……? ああ、楯無さんも一緒か……)

「あは……そう呼ばれるの……いつ以来かしら……」

「どう、して……こんな……!」

「姉が妹を助けるのに……理由が……いる?」

「だって……もう……もう無理なんだよぅ……!」

「無理……じゃ、ない……わ」

(そうだ……諦めるな……)

俺は、露わになっている右手をギリと握りしめた。

「無理だよ! この世に……ヒーローなんていない……ヒーローになんて、なれない!」

「そうかしら……?」

「でもっ……でもぉ!」

「少なくとも彼は……諦めてないみたい……よ……?」

(ここで振ってくるか……。困った人だな……!)

俺は、頭を掴まれたまま言葉を紡いだ。

「……いねえよ」

「え………?」

「この世界にヒーローなんて━━━━完全無欠のヒーローなんて……どこにもいねえよ」

体から痛みが引いていく。それどころか、右手に力が集まっていくのが分かる。

「完全無欠のヒーローは、泣きもしなけりゃ、笑いもしない……。ただの戦闘マシーンだ。こいつみたいにな」

━━━━ボルケーノクラッシャーの戦闘経験値が溜まりました。《ボルケーノブレイカー》に進化します━━━━

右腕が光を放つ。それに続いて、全身が眩い金色の光に包まれた。

 

しかし、ただ眩しいだけじゃない。その光は温かく、優しい光でもあった。

「だから……だから俺はっ!!」

ゴーレムⅢの胸部装甲が弾け飛び、そのまま金色のキューブ状のISコアが露出する。

 

「━━━━━━━━!?」

 

突然の衝撃にゴーレムは動けない。

俺はボルケーノブレイカーでコアを掴んだ。

「俺は人間だ! 転んだりもすれば、泣きもする! 大切なものだって失う! それでも! 立ち上がって! 涙を拭いて!! 前を向いて歩き出す……人間なんだあああああああああああ!!!!」

裂帛の気合いの叫びとともに、コアを引き抜く。無理やり引き剥がされたケーブルから火花が迸る。

 

「おおおおおおおおおおっ!!!!」

 

光り輝く結晶体を、高く、高く天に掲げた。

「━━━━……」

コアを引き抜かれたゴーレムは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなる。

「はあ……はあ……! うぐっ!」

突然足から力が抜けて、地面に膝をついてしまった。G-spiritボルケーノモードもG-soulに戻ってしまう。

「桐野くん!」

簪が涙を流しながら駆け寄ってきた。

「簪……無事だな?」

「うん……! うん……!」

俺はポンポンと簪の頭を撫でてやった。

「えいと……くん」

「楯無さん……」

俯せになって動かない楯無さんに近寄る。

「向こうで、一夏くんと……箒ちゃんが戦ってる……わ。助けに………行って……あげて………」

「わかりました。すぐに行きます」

「それと……これ……」

楯無さんは震える手を伸ばし、俺にあるものを渡した。

「レイディの……アクア・クリスタル?」

「お守り……」

「……了解です。形見の品ですね。楯無さん、あなたのことはずっと忘れません」

「瑛斗くん……これが終わったら……絶対……ぜーったい、ボコボコにするから……」

「へへ、そんだけ言えたら、まだまだくたばりませんね」

「ん」

楯無さんはグッと拳を突きだした。

「頑張れ。一年生」

「はい」

俺はその拳に自分の拳をコンとぶつけた。

「簪」

「は、はい!」

俺は簪の方を向いて、笑って見せた。

「一緒に、行こう」

「う、うん!」

頷く簪の瞳には、もう、迷いも、怯えも、ありはしなかった。

簪と共に飛び立ち、箒と一夏に合流した。二人が対峙していたゴーレムは、厄介な左腕が無くなっている。

「一夏! 箒ッ!」

「瑛斗!?」

「ば、馬鹿者! そんなボロボロな状態で何で来た!?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」

一言、二言言葉を交わして、俺達はおそらく最後のゴーレムⅢに向き合う。

「簪」

「なに?」

「ヤツのシールドユニットが面倒だ。お前の打鉄弐式で、ヤツに隙を作ってくれ。その隙をついて、俺と一夏と箒が決める」

 

「………………」

簪は少しだけ自信がないような目をした。

「……できるな?」

「や、やってみる……ううん。やってみせる!」

「ああ! まかせたぞ! ……一夏! 箒!」

俺は一夏と箒を呼び、簪とは別の方向に飛んだ。

(信じてるぜ……簪!)

俺達三人は三方向に散らばった。

「紅椿! お前の力を見せてみろ!」

「行くぞ白式!」

箒は《雨月》と《空裂》で、一夏は《雪片弐型》でゴーレムⅢに攻撃を仕掛ける。

「さあ、行こうぜ! 《G-soul》!」

スラスターを噴かし、アクア・クリスタルを手にゴーレムに突進。

「簪ぃっ!」

俺が信頼を込めた叫びを上げる。

「━━━━力を貸して! 打鉄弐式!」

打鉄弐式の四十八発のミサイル『山嵐』が文字通り嵐のごとくミサイルを発射する。

「━━━━!」

簪の攻撃を捌き切れず、ゴーレムは被弾してよろける。

「一夏ぁっ!」

「うおおおおおおおっ!!」

一夏が《零落白夜》を発動した雪片弐型をゴーレムⅢに全身全霊を込めて叩き付けた。

装甲が砕け、その奥のコアが露わになる。

「箒っ!」

「任せろおっ!!」

アクア・クリスタルを箒に投げ渡し、箒がそれを全力でゴーレムに向かって投げる。

「━━━━」

しかし、ゴーレムはそれを簡単に躱した。

「「瑛斗!!」」

「よっしゃあああっ!!」

残り三秒のG-spiritのビームウイングによる加速で、アクア・クリスタルに追いつく。

「いっっっけぇええええええ!!」

アクア・クリスタルをゴーレムのコア蹴り込んだ。コアに、透明な結晶がめり込む。

そのままの勢いでゴーレムは地表に激突した。

「━━━━……!!」

 

なおも立ち上がろうとするゴーレムⅢ。ISのコアはそんな簡単には壊れない。けど━━━━!

「「「楯無さんっ!!」」」

「お姉ちゃんっ!」

「……ふう」

名前を呼ばれ、楯無さんが震える手を掲げる。

その手はスイッチでも握っているかのような形だった。

「━━━━かちん」

ぐっと楯無さんがスイッチを押した。

すると、ゴーレムは内側から爆発し、跡形もなく消し飛んだ。

「いえー……い」

そして、楯無さんは親指を立てた。

「「「「……………」」」」

俺達四人は数秒間沈黙し、顔を見合った後、やれやれと親指を立てて━━━━笑った。


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