IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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部活動貸出キャンペーン 〜または実験シーンのお約束〜

月曜日、その放課後。俺は憂鬱な気分で化学室の椅子に座っていた。

というのも、ついに今日から始まっちまったからだ。『生徒会執行部・織斑一夏、桐野瑛斗貸出キャンペーン』が。

「はぁ……」

全部活動の代表者で行われた大ビンゴ大会。

 

それで一位を獲得したのセシリアが所属しているテニス部。そして第二位になったのが化学部で、一夏はテニス部に、俺は化学部に駆り出されたわけだ。

「はーい、それじゃあ今日は桐野君が一日入部したので特別実験をしたいと思いまーす」

「「「「はーい!」」」」

部長さんの明るい声に部員たちが元気に返事をする。

「それじゃあ桐野君、私たちは薬品の準備をするから、そこの棚からビーカーとガラス管を取ってきてくれる?」

「あ、はい」

俺の役目は雑用、マネージャーなんでもありなわけで、こういう指令も当然飛んでくる。

「えーと、ビーカービーカーっと……」

棚からビーカーとガラス管を取り出して机に運ぶ。

「じゃあ、準備ができたから今日の実験の内容を説明するわ。みんなこっちに集合」

部長さんが中央の机の前に立ち、部員たちに囲まれるような形になる。

「まず、水を入れたビーカーにこの薬品を入れて、ガラス棒でかき混ぜて溶かします。そしたら、ガラス管にゆっくり注いで、次は別のビーカーにこっちの薬品を入れて同じように水に溶かしてもう一本のガラス管に注ぐ」

部長さんは手際良く薬品の溶液を作り、それらが入ったガラス管を両手に持った。

「そして、こっちの溶液を一滴だけこっちの溶液の中に入れると……」

ぽたっと透明な緑色の溶液が透明な青い溶液に落ちた。すると青かった溶液が赤く変色した。

「おお」

俺は思わず声を上げる。

「凄いのはここからよ。桐野くん、カーテンを閉めて来て」

「? 分かりました」

言われた通りカーテンを閉める。化学室を照らすのは電気の明かりだけになった。

「じゃあ、電気も消して」

「?」

そしてスイッチを切って電気を消す。

 

すると赤い溶液が淡く光りを放っていた。

「おお! スゲー!」

俺は周囲を気にせず目をキラキラさせる。

「これを振るともっと光るのよ」

部長さんがガラス管を振ると、ガラス管の中の液体はペンライトのように光った。

「じゃあ、みんなもやってみて」

明かりを点けた部長さんの一声で他の部員たちもそれぞれ実験を始める。

「いいなぁ。やりてえなぁ」

俺は後ろの方の机でみんなの作業を眺めている。

「どう? 桐野くんもやってみたい?」

部長さんが俺のところにやって来て、話しかけてきた。

「はい。スゲーやりたいです」

「じゃあ、あっちが空いてるから一緒にやってきたら?」

「いいんですか!?」

「もちろん。だって桐野くんが来たからこの実験やってるんだもの」

「ありざっす!」

俺は早速部長さんが教えてくれた机に向かう。

「あ、桐野くん桐野くん! 一緒にやろうよ」

同じクラスの白城夕子(しらぎゆうこ)さんが右に一歩動いて俺にスペースを空けてくれる。

眼鏡を掛けた知的な彼女の得意科目はもちろん理科だ。

「溶液の準備はできてるから、後は一滴たらすだけだよ。はい」

「ああ。サンキュ」

俺は白城さんからガラス管を受け取る。

「ゆっくり、慎重に……」

一滴ということを意識して、俺は慎重にガラス管を傾ける。

「あ、一つ言い忘れてた」

白城さんが声をあげる。

「な、何?」

「この実験、前にもやったことあるんだけど、一滴ってところが重要なんだって」

「なんで?」

聞き返した瞬間、俺は鼻が急にむずむずし始めた。

「一滴以上入れるとね、ば━━━━」

「へっくし!」

ぽたたっ

「あ」

ヤベ、結構入っちゃった。

「いけね。くしゃみが出ちまった。そういえば、何か言いかけてたけど、一滴以上入れるとどうなるんだ?」

「ば、ば……」

「『ば』?」

変だな? 白城さんの額の汗が尋常じゃない。

「爆発……したり、しなかったり………」

「ば、爆発!? えっ!?」

俺は手に持っていたガラス管を見る。すると溶液の赤い光が激しさを増して……

カッ! ドカーンッ!!

閃光が視界を覆って、大爆発が起こった。至近距離にいた俺はもの凄い衝撃でひっくり返る。

その勢いで俺は床に頭を強打した。

「う……あぅ………」

段々意識が遠のいていく。そんな俺の周りに化学部の部員たちが集まってきた。

「「「「「「……マンガみたい」」」」」」

気絶する前に俺が聞いたのは化学部全員のその言葉だった。

「はぁぁ……貸出初日からとんでもない目に遭った……」

保健室から出た俺は化学部の部長さんから今日の部活は終了という話を聞いて部屋にもどる途中だ。

「いててて……」

後頭部はまだ触ると痛い。

 

俺が気絶したあと、散乱した実験道具やらの片付けに追われて実験はあれで終了になったそうだ。

「申し訳ないことしたなぁ……」

落ち込み気味にトボトボと歩いていると、一夏が反対側から歩いてきた。

「よう」

「おう、一夏……」

どんよりとした俺の雰囲気を察してか、一夏が首をかしげる。

「どうした? なんかあったのか?」

「いやな、化学部で実験中に爆発を起こしちまってな……」

「あ、もしかしてマンガみたいな展開か?」

「お前まで言うかっ!」

「図星かよ……。でもこっちはこっちで大変だったんだぜ」

「へえ、どんな風に?」

「いきなり優勝したら俺のマッサージが受けられるっていうのが賞品の部内戦トーナメントが始まってさ、そりゃもうみんな凄い気迫だった」

「あー、お前のマッサージか。お前上手だもんな」

かく言う俺も新しいGメモリーのフラスティアを製作していた頃に一度だけ一夏に肩を揉んでもらったことがある。あれは気持ちよかった。

「で、誰が優勝したんだ?」

「セシリアだよ」

「へえ、セシリアか。……ん? そういやアイツ、臨海学校の時にもしてもらってたよな?」

あのときは勘違いした俺が真っ赤になって一夏を止めたんだよな。

「ああ。アイツ凄かったんだぜ。もの凄い速くて威力のあるボール打ったり。で、俺の部屋でマッサージすることになった」

「そっか。お互い大変だったな」

「ああ。でもまあ、こういうのも悪い気はしないよな」

「そうだな」

そんな会話をして俺は一夏と別れ、部屋に戻ったのだった。


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