IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「瑛斗! 四番テーブル! 急いで!」
「了解!」
「一夏さん! 六番テーブルのお嬢様がお呼びですわ!」
「今行く!」
俺達が休憩を終えて営業に戻ってから小一時間ほど経った。店ではシャル、ラウラ、セシリア、箒がメイド服を翻しながらせっせと動いている。
かく言う俺や一夏も殺到する客の対応にてんてこまいだ。
(忙しいな。……だが悪くない!)
何かを皆でやるっていうのは楽しいものだ。俺は疲労よりも高揚感を感じていた。
「じゃじゃん! 楯無おねーさんの登場です!」
「一夏ぁっ! 職場放棄人間が現れたぞ! コマンドはわかってるな!?」
「逃げる! 逃げる! 逃げる!」
「だが逃げられない!」
「だぁっ!?」
「進路妨害しないでください!」
「まあまあ、そう言わずに。ときに二人とも。君たちの教室手伝ってあげたんだから、生徒会の出し物に協力しなさい」
「疑問形じゃないだと!?」
「うん。決定だもの」
「あの、俺と瑛斗の意志は……」
「勝手に決めてもいいじゃない。生徒会長だもの」
「「み〇をっぽく言わないでください!」」
ダブルツッコミを決めてから、一夏はため息をつく。
「……………で、俺達は何をすれば?」
「あら、無抵抗ね」
「もう無駄だっていうのはわかってますから」
同居までしている一夏だ。楯無さんには敵わないと分かったのだろう。
「あら、おねーさんのこと分かったつもり? まだまだダメよ一年生くん?」
つんと一夏の鼻先を押さえる楯無さん。
「あの、話が進まないんで、早いとこ何やるのか教えてください」
俺が続きを促すと楯無さんは扇子を口に近づけた。
「うふふ、何だと思う?」
「うーん……」
「演劇よ」
「答えさせてもらえない!?」
話を振っておいてなんていう所業……。恐るべし。
「それはまた予想に反して結構普通ですね」
「演劇は演劇でも、観客参加型演劇」
「「はい?」」
観客参加型……? どゆこと?
「とにかく、おねーさんに着いて来なさい。はい決定」
ぴっと扇子を俺達に向け、威風堂々宣言する楯無さん。
「あのー、先輩? 今二人を連れて行かれると、困るんですが……?」
おお! シャル! グッドタイミングだ!
「シャルロットちゃん。あなたも来なさい」
「ふえっ!?」
「おねーさんが綺麗なドレス着せてあげるわよ~?」
「ど、ドレス……」
ヤバい! 揺れてる! シャルが女の子の憧れ、ドレスに揺れている! 耐えろ! 耐えてくれ!
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」
シャル、陥落。なんてこったい。
「ん~。素直で可愛い! じゃあ箒ちゃんとセシリアちゃんとラウラちゃんもゴーね」
「「「え!?」」」
聞き耳を立てて様子をうかがっていたであろう三人が同時に声をあげる。
「三人にもドレス着せてあげるから」
「そ、それなら……」
「まあ、付き合っても……」
「ふ、ふん。仕方ないな……」
箒、セシリア、ラウラまでもが陥落。
「で、演目は?」
「ふふん」
ぱっと扇子を開く楯無さん。その扇子には『迫撃』の二文字が。
「シンデレラよ」
◆
「ふたりともー。ちゃんと着たー?」
「……………」
「……………」
シャッ
「開けるわよ」
「開けてから言わんでください!」
「なんだ。ちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」
「どういう意味ですか……」
第四アリーナの更衣室。普段はISスーツに着替える場所に俺と一夏はいた。客席は満員なのか、ここまで観客の声が聞こえてくる。
服装はというと、一夏は王子様。どっからどー見ても王子様。それはいい。それはいいが……。
「あの、なんで俺はスーツにマント? おまけにシルクハットまで」
「え? 怪盗だからだよ」
怪盗が登場するシンデレラなど聞いたことがない。
「はい、一夏くん。これ王冠」
「はあ」
「うれしそうじゃないわね。シンデレラ役の方が良かった?」
「嫌ですよ!」
「うふふ、さて、そろそろ始まるから、一夏くんはこっちに来て。瑛斗くんはそこの階段を上って特設ステージに上がっといて」
「あの、俺達台本も脚本も一切見てないんですけど、いいんですか?」
「大丈夫大丈夫。基本的にアナウンスするから、台詞はアドリブね」
なんとも無茶な。
「さあ! 幕開けよ!」
ブザーが鳴り響き、照明が落ちた。
「むかしむかしあるところにシンデレラという女の子がいました」
楯無さん自らのナレーションが始まり、俺は特設ステージ、一夏は舞踏会のセットに向かう。
(こうなったらやるっきゃないか……)
腹を括ってステージに立つ。まだライトがあがっていないので俺の姿に誰も気づいていない。
「否。もはやそれは名前などではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の戦士たち。彼女らを呼ぶにふさわしい称号。それこそ、それこそ!
……あ?
「今宵も血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王子の冠に隠された軍事機密を狙い、舞踏会という死地に少女たちが舞い踊る!」
「━━━━もらったぁぁっ!」
照明がつくとともに一夏がシンデレラの衣装を着た鈴に襲撃された。鈴は飛び道具を一夏に投げ、一夏はそれを紙一重で躱す。
(な、なんだ? え? 何がどうなってるんだ!?)
想像以上の急展開に俺のキャパシティは一瞬で振り切れる。
「うおっ!?」
今度は一夏のすぐ横のセットの一部が吹き飛んだ。
(ポインターの光? スナイパーライフル? ……セシリアか!)
こんな芸当ができるのはアイツしかいない。楯無さん、一夏を殺す気か?
「しかぁし! この舞踏会はある人間の罠だった! この混乱に乗じ、シンデレラたちの家に代々受け継がれる伝説の秘宝、『ガラスの靴』のオリジナルを盗むため、舞踏会をでっち上げ、本物のガラスの靴を盗んだ真の黒幕! その名は!」
バン! ババン! と三つのライトが俺に光を当てる。
「桐野瑛斗だぁぁぁぁぁ!」
「なんで俺だけ本名!?」
俺のツッコミは観客の大歓声にかき消された。
「「「「!」」」」
シンデレラの衣装を着た鈴、ラウラ、箒、セシリアがステージの陰に隠れた一夏に代わって俺に殺意のある目を向ける。怖ぁっ!?
「え?」
続けて、突然俺の立っているステージからスロープがせり出し、そのスロープが下のステージに着くと、俺の立っている足場が傾き、俺はスロープを滑り落ちることになった。
「うわああぁっ!?」
めちゃくちゃ広いステージに立ち、周囲を見渡す。鈴、セシリア、ラウラ、箒が俺を狙っている。
「よこせえぇぇぇぇっ!」
「ぎゃああああっ!?」
鈴が中国の手裏剣こと飛刀を俺に向かって投げてきた。このままでは命に関わる。なんとかしなければいかん!
「ま、待て! 俺はガラスの靴なんて持ってな━━━━」
「問答無用!」
箒が日本刀を振り下ろした。俺は身を逸らして咄嗟に躱す。前髪にかすって髪の毛がハラリと三本ほど散った。
「ちっ!」
後ろ飛びで距離を取り、動き回ることでセシリアの狙撃の対象にならないようにする。だがいつまでも保つわけではない。
(このままだとジリ貧か……!)
「瑛斗!こっちだ!」
「瑛斗、早く来て!」
「!」
一夏とシャルがセットの隅から俺を呼んだ。俺は急いで二人のもとへ向かう。
シャルもほかのシンデレラ同様ドレス姿だが、防弾シールドを持っている。
「どういうことなんだこれ!? 楯無さんは俺たちを亡き者にしようってのか!?」
「わからないけど、俺も多分そうだと思う!」
パァン! パァン!
「うわっ!」
「危ねっ!」
立ち止まったせいでセシリアの狙撃の対象になってしまう。壊されたセットから出ると、武闘派三人衆が各々の得物を構えていた。
「僕が食い止めるから、二人は逃げて!」
「わ、わかった!」
「すまん!」
俺と一夏は走り出そうとする。
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
だがシャルに引き留められた。
「できれば王冠とガラスの靴を置いて行ってもらいたいな?」
「え? 別に良いけど」
一夏は王冠に手をかける。すると再びナレーションが響いた。
「王子様にとって国とはすべて。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によっと、電流が流れます」
「「「え?」」」
聞いた時にはもう遅く、一夏は王冠を外してしまっていた。
バリバリバリバリ!
「ぎゃあああああああっ!?」
一夏が痺れまくっている。服がところどころ焼き切れてしまっていて、すこし露出度が高い王子様になった。
「ああ! なんということでしょう。王子様の国を思う心はそれほどまでに重いのか。私たちはそれを見守ることしかできません。なんということでしょう」
「二回言うな!」
一夏は王冠を再度頭にのせてツッコむ。
「え、瑛斗は? ガラスの靴は?」
「だから、俺は何も持ってないって━━━━」
「怪盗桐野瑛斗はガラスの靴のオリジナルをすでに体のどこかに隠してしまっていた。それを奪い返すには、彼の力の根源である、あの衣装を奪わなければならない! つまり!彼をほぼ裸にしなければならないのだぁっ!」
アナウンスがとんでもないことを言っている。え? 何? ほぼ裸?
「は、はは、はだ、裸……!?」
シャルの顔が真っ赤になる。
「瑛斗の身ぐるみを……剥ぐ……だと……!?」
ラウラまで真っ赤になる始末。
「そんなの楽勝よ!」
一番に動いたのは鈴だった。俺を押し倒してマウントポジションを取って剥ぎ取りにかかる。
「ちょ、お、落ち着けって!」
「これも報酬のためなの! 我慢しなさい! いいじゃない! 減るもんじゃなし!」
「意味が分からんし、俺の大切な何かが減るんだよぉっ!!」
ワーキャーと騒いでいると、突然地響きがした。
「さて! ここからはフリーエントリー組の参加です! 皆さん! 王子様の王冠、怪盗のセミヌード目指して頑張ってください!」
観客席の方を見ると、どんどんと観客達が立ち上がり、その立ち上がった観客達はみんなシンデレラ姿だった。
「織斑くん! 大人しくしなさい!」
「桐野くん! 二人で幸せになりましょう!」
「せ、セミヌード……ウケ、ケケケケケケ」
「そいつを、よこせえぇぇぇぇっ!」
どんどんと増えいくシンデレラ。怖い。ホラー映画の域だ。
(もうダメだ! こうなったら……!)
「《G-soul》!」
俺はG-soulを展開。鈴を振り落して浮遊する。
「ちょっと瑛斗! アンタそれは━━━━」
「反則だってか!? バカ言うんじゃねえ! 捕まえたきゃお前も展開すればいいだろ! 俺はセミヌードになる気なんて毛頭ないからなっ!」
鈴が悔しそうに睨んでくるのを尻目に俺は第四アリーナの外に直接つながっている入場ゲートへ突き進む。
そしてやっとの思いで外に飛び出し、アリーナの上空で止まる。
「あ、危なかった~……!」
荒い息を整えながら胸を撫でおろす。
「そういえば、あの時どうして鈴のヤツは追ってこなかったんだ?」
鈴の《甲龍》ならば追って来れないはずがない。何故なんだ?
ピッ
「ん?」
G-soulのウインドウに文字が表示された。
「IS反応あり?」
やはり誰かが追って来たのかと思ったがそうではなかった。
「距離……八時方向、二千四百メートル?」
離れすぎている。明らかに学園の外から飛来してきている。
「……怪しいな」
俺はスラスターを噴かし、反応の正体が何なのか確かめに向かった。
◆
「そろそろランデブーポイントだな………」
計算で出された接触地点に近づき、俺はビームガンを構えた。
「一体、何者なんだ?」
ギュン!
「!?」
俺の真横を何か、ISが通り過ぎた。
(な……!?)
超高速で移動しているIS。
「くっ! 待て!」
それにビームガンを向けて威嚇の為に一発撃った。
「………………」
操縦者は無言のままISを停止させ、こっちを向いた。バイザーで顔は見えないが、そのISは見たことがある機体だった。
「《サイレント・ゼフィルス》……!?」
セシリアの《ブルー・ティアーズ》のデータを引き継ぎ、シールドビットを試験的に装備したBTシリーズの二号機、《サイレント・ゼフィルス》だった。カタログでは見たことがあるが、実物を見るのは初めてだ。
だが、どうやら訳ありのようだ。
「テストパイロットにしちゃあ、ちょっと常識がないんじゃないか? この先はIS学園だ。無断で横切っていいわけないぜ?」
「…………………」
「シカトかよ、おい」
「…………………」
「ちっ、調子狂うな。とにかく! こっから先に行きたいなら学園に連絡━━━━」
「その必要はない」
「!?」
操縦者はビットを射出し、砲門を俺に向けた。
「貴様には、ここで退場してもらう」
ビットからビームが発射される。
「食らうかよっ!」
俺はBRFシールドを起動させ、ビームを受け止める体勢になる。
「…………………」
すると、操縦者はニッと笑った。そして信じられないことが起こった。
ドォン!
「ぐあぁっ!?」
ビームが曲がったのだ。BRFの有効圏内を避け、俺の背後にビームが直撃した。
(ビットの操縦技術はセシリアがトップのはずだ! それがどうして!?)
「ふん、他愛のない」
操縦者はライフルを構えた。明らかな、交戦の意思表示だ。
「どうやら……意地でも通りたいみたいだな」
俺はビームソードを左手に持ち、謎の操縦者と対峙する。
「っ!!」
「はああっ!」
バチィッ!!
サイレント・ゼフィルスのレーザー攻撃をBRFシールドで打ち消しながら接近し、ビームソードを振り下ろす。
「………………」
だが、シールドビットに妨害され、攻撃が届くことは無い。
シールドビットが俺の動きを止め、さらに小型レーザーガトリングが弾幕を張って、俺の接近を許さない。
(こいつ、使いこなしている……!)
射撃ビットとビームの弾丸の二段構えのせいで迂闊に近づくことができず、円周飛行で攻撃のタイミングをうかがう。
(ビームが曲がるからBRFの防御はあまり意味がない……それなら!)
「《G-spirit》!」
G-soulの第二形態であるG-spiritに移行し、さらにGメモリーセカンドを起動する。
「Gメモリーセカンド! セレクトモード! セレクト! エルドラス!」
━━━━コード確認しました。エルドラス発動許可します━━━━
装甲が変化し、遠距離特化の《エルドラス》に変化する。
「最初から全力で行かせてもらう!」
装甲に走るライン部分が開き、六十門の小型ビーム砲がその砲口を出す。
(防御が追いつかない量の攻撃なら━━━━!)
「いけぇぇっ!」
放たれるビームがサイレント・ゼフィルスを飲み込む。
そしてエルドラスを解除し、G-spiritノーマルモードに戻り、一気に上昇する。
サイレント・ゼフィルスの操縦者がシールドビットを散開させて周囲を見回している。
「俺はここだぁっ!」
ビームウイングを展開し、超高速でビームブレードで切りかかる。
「………ほう」
しかし、サイレント・ゼフィルスはそこから動かなかった。
代わりにシールドビットを俺の脇腹に激突させた。
(なっ━━━━!?)
ドンッ!
「ぐうぅっ!」
質量弾と化したビットをぶつけられて、シールドエネルギーを大きく削られる。そして俺自身も全く予想外の攻撃方法を受けて、姿勢を崩してしまい、攻撃を外してしまった。
「…………………」
その隙を見逃さずサイレント・ゼフィルスは俺に背を向けて、高速で戦闘区域からの離脱に入った。
「くっ……! 逃がすか!」
ビームウイングをはためかせて姿勢を立て直し、俺も後を追うように飛行する。
(背中ががら空きだ!)
高速で追跡しながら、俺はビームブラスターを構える。ロックオン・カーソルがサイレント・ゼフィルスを捉え、ロック完了の表示が出る。
「当たれぇっ!」
直撃コース、のはずだった。
「お前の動きなど手に取るように分かる」
サイレント・ゼフィルスはガクンと飛行高度を下げ、ビームの下を飛ぶ形になった。
それだけではない。武装であるレーザーライフルを後ろ向きに構え、俺に向かって撃ってきたのだ。
(後ろに目がついてるってのかよ……!)
俺は驚愕しながらBRFアーマーでそれを防ぐ。
(これほどまでの操縦技術……ヤツは何者なんだ?)
レーザーを躱し、打ち消しながらなんとか追いすがるが、徐々に距離を離されていく。
ギュン!
「?」
突然、サイレント・ゼフィルスが高度を大きく下げ、地表に向かって降下し始めた。
(あれは……?)
目を凝らすと、サイレント・ゼフィルスが目指す地表には、IS僚機反応があった。
(《ブルー・ティアーズ》と《シュヴァルツェア・レーゲン》! セシリアとラウラか!)
さらに地表に近づくと、見覚えのある姿の女性も見えた。
(巻紙さん? どうしてあんなところに?)
エリスさんを迎えに行く途中で一夏と俺に声をかけてきた巻紙礼子さんが仰向けに倒れていた。あの動きの停止のしかたはAICだな。
「!」
いきなりサイレント・ゼフィルスの操縦者は小型レーザーガトリングとレーザーライフルのビームを地表、ラウラ達のいる地点へと斉射した。
「ラウラッ! 上だ! 避けろっ!」
オープン・チャンネルでラウラに通信を送り、攻撃を躱すように指示する。
『くっ!』
眼帯を外し、『越界の瞳』を発動したラウラは後ろに飛ぶ。
「セシリア! 撃つんだっ!」
セシリアに攻撃の指示を出すが、飛来するレーザーはシールドビットに遮られて決定打にはなりえなかった。
『それならっ!』
セシリアは動きを止めて新装備のバレット・ビットを全機射出する。しかし、サイレント・ゼフィルスは高速で移動しながら、セシリアの移動中制御可能な三機を超えた六機のビットでそれを撃ち落としていく。
あっというまにバレット・ビットは全機撃墜され、サイレント・ゼフィルスの標的はセシリアへと移った。
「やらせねえっ!」
サイレント・ゼフィルスのレーザーライフルの射線上にたち、BRFアーマーを起動する。
「…………………」
サイレント・ゼフィルスはならばとばかりにビットのビームを六機同時に発射した。
BRFの有効圏を避けるように曲がったビームは途中で再び直線に戻り、セシリアに襲い掛かった。
「セシリアッ!」
「━━━━ッ!」
ラウラがセシリアを突き飛ばし、右肩に被弾する。黒い装甲の破片が散らばる。
「ふん」
サイレント・ゼフィルスが地表に降り立った。
俺はサイレント・ゼフィルスのすぐ後に地表に着地した。
「迎えに来たぞ。オータム」
「てめえ……遅えんだよエム! それと私を呼び捨てにすんじゃねえ!」
『エム』と呼ばれたサイレント・ゼフィルスの操縦者はレーザーガトリングで弾幕を張りながら、ピンク色に光るナイフでAICを切り裂き、巻紙さんの自由を確保する。
先程会った時とは百八十度違う巻紙さんの言動に俺は面食らう。
「……その程度か。ドイツの
バイザー型ハイパーセンサーで隠れて見えないが、口元は嘲笑の笑みに歪んでいた。
「貴様……なぜそれを!」
「答える必要はない。ではな」
エムは巻紙さんを抱えて浮遊を始めた。
「待て。まだこっちの話は終わってねえんだよ」
俺はビームメガキャノンをエムに向けた。
「チャージはとっくに終わってる。その状態で直撃を食らったらタダじゃすまないだろ?」
俺は引き金をかけている指に力を少し込めた。実はこれはプラフで、今さっき接続したばかりだからチャージはざっと五、六パーセントと言ったところだ。
「ふっ……」
「私たち『
巻紙さんはネックレスをむしり取って、地面に叩き付けた。
カッ!!
「「「!?」」」
視界が閃光に塗りつぶされ、俺達は目を覆う。目くらましか!
閃光が収まると、エムたちははるか上空を飛行していた。
「く! ラウラさん! 急いで学園に連絡を! わたくしと瑛斗さんは追撃を!」
「ダメだ! 今行ったところで返り討ちに遭うだけだ!」
「ああ。それに、セシリア。お前もお前で結構ボロボロだぞ?」
「………………!」
ラウラと俺の制止を受けたセシリアは悔しそうに唇を噛み締めていた。
「ラウラ大丈夫か?」
右肩を損傷したラウラに声をかける。
「ああ。この程度なら問題ない」
「アイツらは何者なんだ? 亡国機業って?」
「軍にほんのわずかだが情報があった。巨大な秘密結社で、第二次世界大戦後から存在するらしいのだが、それ以外は何も知られていない」
「そうか……」
「だが、あの長髪の女。アメリカの第二世代型の《アラクネ》というISのコアを所持していた。おそらく盗んだものだろう」
「ISの強奪………相当な力を持っているってことだな」
俺はアイツらが飛翔していった方向を見た。
「なあ、二人とも。これで終わりだと思うか?」
「いいえ」
「まだ、これから先も戦うことになるだろうな」
俺達は、新たな敵の登場に胸をざわつかせたのだった。