IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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フェスティバルを行く 〜または新たな刺客を全力スルー〜

「ほえ~……」

 

 IS学園正門前には、瑛斗から招待状を受け取ったエレクリットカンパニー技術開発局局員のエリス・セリーネが学園のにぎやかさに圧倒されていた。

 

(先輩は休暇ついでに行ってきなさいって言ってたっすけど……、本当に自分で良かったんすかね?浮いてないっすかね?)

 

 服装に乱れがないかを確認し、ソワソワしながら瑛斗を待っていると、隣に一人の男がやって来た。

 

「ふっふっふっ……」

 

「?」

 

 いきなり笑い始めたその男は、一夏の中学の友達の五反田弾である。しかしそんなことは知る由もないエリスは少し警戒する。

 

「ついに、ついに、ついにっ!女の園、IS学園へと……きたぁぁぁぁぁっ!!」

 

「!?」

 

 そしていきなりシャウトされて、さらにビビりまくるエリス。

 

(や、ヤバいっす……!ヤバい人が隣に立ってるっす……!あわわわわ……)

 

 いきなり尋常じゃない状況に置かれてしまいテンパっていると、ふと弾が声をかけられた。

 

「そこのあなた」

 

「はい!?」

 

(うわぁ……。声が上ずってたっす)

 

 弾に声をかけたのは生徒会役員の布仏虚であった。虚の姿を横目でそれとなくエリスは見る。

 

(お仕事ができそうっすねぇ。先輩とはちょっと違うっす)

 

「チケットの配布者は……あら? 織斑君ね」

 

「し、知ってるんですか?」

 

「ええ。この学校で彼を知らない人はいないわ」

 

「は、はあ」

 

「それと、そこのあなたも」

 

「はいっす!?」

 

(あちゃあ、声が上ずっちゃったっす……)

 

「あなたも誰かの招待ならチケットを見せてもらえますか?」

 

「あ、どうぞっす」

 

 エリスは鞄の中から瑛斗から送られてきたチケットを虚に見せる。

 

「配布者は……まあ? こっちは桐野君ね」

 

「お知り合いっすか?」

 

「いいえ、そういうわけじゃないけど、知り合いと言えばそうかも」

 

「そうっすか」

 

「じゃあ、私はこれで」

 

 そう言って虚はエリスと弾に背を向けて歩き始めた。

 

(あっちの人は織斑さんの招待っすか……古いお友達っすかね?)

 

「━━━━あの」

 

 そんなことを考えているとエリスは弾に話しかけられた。

 

「はいっす?」

 

「……ここは行くべきですか?」

 

「ふえ? そ、そうなんじゃないっすか?」

 

 わけがわからずとりあえず適当に返事をする。すると弾は意を決したような表情になった。

 

「そうですよね!あの!」

 

「はい?」

 

 そして弾は少し離れたところにいた虚に近づいて声をかけた。

 

「きょ、今日はいい天気ですね!?」

 

「そうね」

 

 会話終了。虚はそのままスタスタと行ってしまった。

 

「………………」

 

 どんよりとした空気を帯びて弾がエリスの隣に戻ってくる。

 

「……はぁ、やっぱ俺はダメだ」

 

 口から魂が出そうなくらいの深いため息をつく弾。

 

(やっぱり、この人ヤバいっす……)

 

 そんな弾の姿を見て、エリスはそう確信するのだった。

 

 

「あ、いたいた。おーい!弾!」

 

「エリスさーん!お待たせしましたー!」

 

 一夏と一緒に正門に向かうと、エリスさんが立っていた。作業着姿しか見たことがなかったが、私服も結構おしゃれだった。

 

「桐野さん!どもっす」

 

「おー……」

 

 ……えーと。

 

「一夏、これ、お前の知り合いか? えらくどんよりしてるが……」

 

 一夏の正面に立つ、この男は何者なのだろうか?

 

「あ、ああ。こいつは俺の中学の友達の五反田弾。普段はこんなやつじゃないんだけど……。どうした?」

 

「弾……? ああ!前に一夏が鈴と話してた時に出てきたあの『弾』か! で、その一夏の旧友がどうしてそんなにどんより?」 

 

「なんでもない……俺はセンスがないんだ……」

 

「なんだ。そんなことか」

 

「そんなことってお前なぁ!」

 

「暴れるな。追い出されたいのか?」

 

「ぐっ……!ここは大人しくしていよう」

 

 仲の良さそうな二人だ。さて、こちらも。

 

「エリスさん。待ちました?」

 

「いえ、そんなことないっす。ところでお二人とも」

 

「「?」」

 

「その格好は何すか?」

 

「あ、それ俺も気になる」

 

 ………………。

 

「エリスさん、喉渇いてませんか?」

 

「弾、鈴のところは飲茶だってよ」

 

「おい、話を逸らすな」

 

「返事になってないっすよ」

 

「いいだろ!俺のことは!」

 

 一夏が五反田君に強めに言うと

 

「まあそういうことにしといてやろう」

 

 と鼻を鳴らしながら五反田君は言った。

 

「じゃあ、ここで立ち話もアレだから、そろそろ行きましょうか」

 

「あ、はいっす」

 

「じゃあな。一夏とそのお友達君。そっちはそっちで楽しんでくれよ?」

 

「お、おう」

 

「ああ」

 

 俺とエリスさんは一夏達と別れ、学園内を回ることにした。

 

「あ!桐野君だ!おーい!」

 

「後で絶対喫茶店行くね!」

 

「桐野君の執事姿撮ったどー!」

 

「一緒にいるお姉さんみたいな人も可愛いかも!」

 

 行く先々で女子に声をかけられ、それに対応して手を振ったりしていると、エリスさんが感心したように口を開いた。

 

「人気者っすね。桐野さん」

 

「そんなことありませんよ。エリスさんも可愛いって言われてますよ?」

 

「いやいやいや!じ、自分なんてとんでもない!」

 

 エリスさんは顔を赤くして手と首を横に振る。

 

「はは、どこ行きます?」

 

「そ、そうっすねぇ……。あ!あれやりたいっす!」

 

 そう言ってエリスさんは美術部の部室を指差した。

 

「美術部かぁ、そういえば何やってんだ?」

 

「行ってみましょうっす!」

 

 エリナさんに手を引かれ、美術部の部室に入る。

 

「芸術は爆発だ!」

 

 あ、ヤな予感……。

 

「そんなわけで、美術部では爆弾解除ゲームをやってまーす!」

 

「あ!桐野君だ!」

 

「お姉さんかな? そんな感じの人も連れてる!」

 

「じゃあはいコレ!早速レッツトライ!」

 

 左腕に『部長』と書かれた腕章をつけている三年生の先輩から時限爆弾を受け取る。

 

「わぁっ!?ば、ばば、爆弾っすか!?」

 

 爆弾を目に前にして驚くエリスさん。俺はそれを横目に爆弾を観察する。

 

「あ、なんだ。これ複雑に見えるけど普通にケーブル繋いでるだけだ」

 

 なら簡単だ。俺はペンチとピンセットを取り出して早速解除行程に入る。

 

「……随分と手馴れてるっすね」

 

 エリスさんが横から俺の作業を見てつぶやく。

 

「この学園では万が一の事態に対応できるようにあらゆる訓練をしますから。それにうちのクラスメイトには危険物処理のプロがいますしね」

 

 ラウラにはこういうことに関しては良く教えてもらったもんだ。今では俺もアイツには負けてないけどな。

 

「おっと桐野君、早くも最終工程に入ったー!」

 

 実況の美術部部長さんの言う通り、俺は最後の行程の伝達ケーブル切断作業に入った。まあ、簡単に言えばよく映画で見る『赤か青のケーブルを切る』っていうアレだ。

 

「ふーむ……エリスさん。赤と青どっちがいいですか?」

 

「ふえ!?ここで自分に振るっすか!?」

 

「ええ。一応ゲームですし。パチっとやっちゃってください。パチっと」

 

「え、え~……」

 

 俺からペンチを受けとり、赤と青のケーブルと睨めっこを開始するエリスさん。

 

「う~んう~ん……」

 

 悩むエリスさん。

 

「う~ん……赤っすか?いやいや、やっぱり青?」

 

 さらに悩むエリスさん。

 

「うー……どっち切っても爆発しそうっす」

 

 悩み倒すエリスさん。

 

「あの、エリスさん。あと十秒しかないんですけど」

 

 一応これは時限爆弾だ。早く決めないと爆発してしまう。

 

「ええい! ままよっす!」

 

パチッ

 

 エリスさんは赤のケーブルを切った。

 

ピンポンピンポーン!

 

「お、成功だ」

 

「おめでとうございます!見事!爆弾解除成功です!」

 

「……へ?え?あ、や、やったっす!」

 

 爆弾解除に成功し、エリスさんは嬉しそうに息を吐く。

 

「し、心臓に悪いっす~!」

 

「うふふ、はいどうぞ。解除した景品ですよ」

 

「あ、ど、どもっす」

 

 部長から手渡された賞品は、なんとも形容しがたい手作り感がひしひしと伝わる珍妙なフォルムの人形のストラップだった。

 

「あ、あの~、これは一体何すか?」

 

「それは美術部のマスコットキャラクター『ペイント・ペイヤくん』!可愛いでしょ?」

 

「そ、そう……っすね……。あは、あはははは……」

 

 エリスさんは微妙に引き攣った笑みを浮かべる。これの可愛さを理解するのは結構難しい。下手すりゃ時限爆弾の解除の方が簡単かもしれん。

 

「あ、桐野君はいる?ペイヤくんストラップ。いろんな種類があるわよ?」

 

「いや、俺はいいです」

 

 そう言って俺とエリスさんは美術室を出た。

 

「時限爆弾を解除したご褒美がまさかこの謎の生命体のストラップだったとは……」

 

「そうですね……」

 

 廊下を歩きながら二人でペイヤくんストラップを見る。ダメだ。やっぱりこいつの可愛さを理解できないぜ。

 

「緊張したら喉乾いちゃったっす」

 

「あ、じゃあ二組の中華喫茶行きましょうよ。俺の知り合いもいますし」

 

「はいっす」

 

 てなわけで俺とエリスさんは鈴のいる一年二組の教室に向かった。

 

 

「いらっしゃ……って、何よ。瑛斗じゃない」

 

 接客に来た鈴は俺の姿を見て少し残念そうな目をした。

 

「おう、来てやったぞ。一夏じゃなくて悪かったな」

 

「べっ、べべ、別にあんな奴……!」

 

 鈴は顔を真っ赤にして手に持った盆で顔を隠した。やれやれ。

 

「そらそら、早く案内してくれよ。こっちにゃ連れの人がいるんだからさ」

 

「わ、分かってるわよ!ついて来なさいっ!」

 

(客に向かって『ついて来なさい』って……)

 

 軽く苦笑しながら俺とエリスさんは鈴についていった。

 

「で、注文は?」

 

 俺とエリスさんを席に案内した鈴はメニューを見せた。

 

「あー、俺はウーロン茶で」

 

「自分もっす」

 

「ウーロン茶二つね。かしこまりましたっと」

 

 鈴はそのままキッチンに向かい、すぐにウーロン茶の入ったグラスを持ってきた。

 

「はい、お待ちどうさま。ごゆっくり」

 

 鈴は円テーブルにグラスを置いて再び入ってきた別の客の接客に向かった。ここもだいぶ賑わってるから、忙しいんだろう。

 

「んぐんぐ……。ふぅ、美味しいっすねこれ」

 

「そうですね。何せ本場の中国のヤツがいますから」

 

「さっきのあの子っすか?」

 

「ええ。凰鈴音って言うんですよ。中国の代表候補生で専用機持ち」

 

「へえ!それは凄いっすね」

 

「外見と中身はさっきの通りです」

 

「そこ。聞こえてるわよ?」

 

 鈴がギロリと睨んできた。怖いって。接客業だろ?

 

「それにしてもアレっすね。みんな自分のことを桐野さんのお姉さんだって勘違いするっす。確かに歳はそんなに離れてないっすけど」

 

「え?そうなんですか?」

 

「はいっす。最近二十歳になったばかりっす」

 

「え!?」

 

「なんすか。その驚きようは?」

 

「い、いや、意外だったもんで……。でも二十歳で大企業のエレクリットで働いてるなんて、ご両親も鼻が高いでしょ?」

 

「いえ、自分のパパとママは……」

 

「え……?」

 

 エリスさんの顔が曇った。ヤバい。地雷を踏んでしまった気がする。それもとんでもないヤツを。

 

「自分のパパとママはエレクリットに勤めてたっす。でも、交通事故にあって、二人とも……。それが自分が十五の時でしたっす」

 

 エリスさんはテーブルに置いた手をモジモジと動かしながら話しはじめた。

 

「エレクリットの技術開発局で働いていたパパとママはエリナ先輩の知り合いで、よく先輩も家に来たりして、一緒におしゃべりしたっす。自分に身寄りが無くなったときも先輩は無条件で自分を先輩の家に迎えてくれて、あの時の感謝の気持ちは今でも忘れてないっす」

 

「そうですか……ごめんなさい。なんか」

 

「いえいえ!桐野さんは何も悪くないっす。あ、そうだ。これ」

 

 エリスさんは鞄から写真を一枚取り出し、俺に見せた。

 

「これは自分がエレクリットの技術開発局で働くことになった初日の写真っす。記念にって先輩ってば勤務中に近くにいた局員とお酒飲んで、当時の局長に大目玉食らって」

 

「はは、あの人らしいですね」

 

「全くっすよ」

 

「……似てますね。俺達」

 

「え?」

 

「俺も、初めてツクヨミに行った日に、所長がクルー全員に酒飲まして。俺の最初の仕事は酔っぱらった所長の介抱でしたよ」

 

「そうっすか……。お互い、酒好きの上司を持つと苦労するっすね」

 

「ははは!ホントホント」

 

 笑い合っていると、ポケットの中に入れていた携帯に電話がかかった。

 

「ん?シャルから?」

 

 発信者を確認し、通話ボタンを押す。

 

「もしもし?どうした?」

 

『瑛斗?今どこ?お客さんが瑛斗と一夏はどこだってクレームの嵐だよ。すぐに戻ってきて。一夏近くにいる?』

 

「一夏?」

 

 きょろきょろと辺りを見回す。

 

「あ、いた!」

 

『本当!?じゃあ一夏も連れてすぐに戻ってきて!』

 

「了解。隣の教室だからすぐに行ける」

 

 電話を切ってエリスさんに顔を向ける。

 

「ごめんなさい。すぐに店に戻んなきゃいけないみたいで」

 

「ああ。全然かまわないっす。お仕事、ファイトっす」

 

「はい!」

 

 俺はエリスさんと別れ、一夏に事情を説明してすぐに一組の教室に戻るのだった。




さりげなく、巻紙礼子が登場です。

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