IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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進撃の生徒会長 〜または蒼涙の新装備〜

「……ってなわけなんだよ」

「ふぅん、セシリアがねぇ……」

翌日、食堂で朝食をとりながら俺は鈴に昨日の夜のことを話していた。

「ISの改良に協力してほしい。でも理由は言わない。どうしてだ?」

俺は味噌汁をすすりながら首を捻る。

「……ねえ、瑛斗。ちょっといいかしら?」

「うん?」

「それをなんでアタシに話したの?」

鈴が箸を動かす手を止めて聞いてきた。

「え、そりゃお前、お前が一番セシリアと仲がいいと思ったからだけど?」

普段からよくセシリアと話をしている鈴だ。何か知っているかもしれないと思ったのだが。

「まあ、仲がいいのは認めるけど、そこまで深くは知らないわよ。でも……」

「でも?」

「セシリアはプライドが高いところがあるから、きっと言いずらい理由があんのよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ。ところで瑛斗」

ずいっと鈴が顔を近づけてきた。

「な、なんだよ」

「アンタの話聞いてやったんだから、今度はアンタがアタシに話しなさい」

「え、話って何を?」

「生徒会長よ生徒会長!あの二年の先輩が一夏にちょっかい出してるって聞いたの!」

「生徒会長? ああ、楯無さんのことか」

昨日は大変だった。気絶した一夏ぶつけられてこっちも気絶したし。

「で、アンタ一緒に行動してたんでしょ?なんか情報ないの?」

「情報って言われてもなぁ……」

俺もいまいちあの人の事はわからない。なんて言うか、掴めない人だ。雲みたいな人?ってなところ。

「うーん……あ」

「?」

「胸はお前よりあったぞ」

ガンッ!

あれ? おかしいな? 左頬が痛い。どうやら鈴が俺の左頬にグーを叩きこんだらしい。

「ってえ!」

「知ってるわよそんなこと! いや、これ言ってて悲しいけど!」

鈴は目をつり上がらせて睨んできた。できれば、殴らないでほしかった。

「そ、そんなに情報が欲しいんなら、今日第三アリーナに行ってみろよ。今日も楯無さんが一夏に教えるってさ。日曜日だってのに、大変だよな」

「教えるって何を?」

「訓練だよ。一夏の。『手取り足取り教えてあげる』って楯無さん言ってたし」

「何時から?」

「さあ? アリーナの解放が十時だから、多分一番乗りで行くと思うぞ」

「そう、わかったわ」

そう言って鈴はスタスタと行ってしまった。やれやれ。

「………………」

すると、近くにいた箒もそれに続いて食堂を出て行った。一夏、また大変だろうな。

「おっと、そろそろ俺も行かなきゃ!」

時間を確認し、俺も食堂を出てセシリアと待ち合わせをしている第一整備室に向かった。

 

「よう、待たせたか?」

「いえ、大丈夫ですわ」

第一整備室の前に行くとセシリアが待っていた。どうやら俺より先に来ていたらしい。

「さっそく始めようぜ」

整備室の中に入り、作業机の上に工具を並べる。

「こっちはいつでもオーケーだ」

「はい、お願いしますわ」

セシリアは《ブルー・ティアーズ》を無人展開させ、ハンガーに設置した。

「さぁて、どんな改良を施せばいいかな? ビーム出力アップ? 機動性向上?」

ペンチを片手にセシリアに聞く。するとセシリアは意外なリクエストをしてきた。

「その……実弾武装の装着をお願いしたいのです」

「実弾? そりゃまたどうして?」

ティアーズ型はビーム攻撃メインのISだ。それに実弾武装とは。

「確かにティアーズのビームは強力ですわ。ですが、ビームを無効化する能力を持った相手との戦闘ではわたくしはインターセプターと四基の小型ミサイルビットでしか戦闘が行えませんし……」

「なるほど……」

確かにセシリアの言い分はもっともだ。俺のBRFシールドや一夏の零落白夜でビームを押さえられては、セシリアの攻撃手段は一気に減って━━━━ん?

「あ、要するにセシリアは俺や一夏にも勝てるように、ティアーズを強化したいと?」

「うっ……! み、認めたくありませんが、そうですわ……」

俺の疑問は一気に解消された。そういうことだったのか。鈴の言葉にも納得がいく。

「俺は別にそれでも構わねえけど、実弾装備となると改良どころか改造の域に達する。勝手に改造していいのか?」

イギリスから文句を言われるのは少々、いや、結構面倒だ。

「それに関しては問題ありませんわ。確かにわたくしは本国からBT兵器の稼働実験のサンプリングを命じられてますけど、それに支障をきたす程でない改造ならしてもよいと話をされていますの」

「そうか。なら安心だ! 久々に腕がなるぜ!」

俺は持ってきたノートパソコンをブルー・ティアーズに接続し、拡張領域を確認する。

「お、拡張領域には余裕があるな。これなら新しい武器も一つや二つは装備可能だ」

「あの、瑛斗さん。わたくしは何をすれば?」

セシリアが遠慮気味に聞いてきた。

「そうだな、特にしてほしいことは無いから、改造が終わったら携帯で呼ぶ。それまで待っててくれ」

「わ、わかりましたわ。あ! せっかくですから何かお食事を作っ━━━━」

「イヤ、本当に大丈夫だから」

俺ははっきり、聞こえるように言った。

「そうですか? では、お願いします」

「おう、期待して待っててくれ」

セシリアを見送り、目前のブルー・ティアーズに向き合った。

「へっへっへ……! ツクヨミの研究員の実力、見せてやるぜ!」

俺は上着を脱いでシャツを捲り、手にレンチとドライバーを持ち、久しぶりのIS改造に心躍らせた。

時間は経って午後三時半。

 

「で……で……で……!」

 

俺は額に流れる汗を拭ってつぶやいた。

「できた!」

俺はポケットから携帯を取り出し、セシリアに電話をかける。

(セシリアのやつ、きっと驚くぞ!)

そんなことを考えながら携帯の呼び出し音を聞く。

『はい?』

「セシリア! できたぞ!」

『本当ですの!? すぐ行きますわ!』

セシリアは電話を切って二分ほどでやって来た。

「瑛斗さん!」

「おうセシリア! 見ろ!」

俺は無人展開のブルー・ティアーズをセシリアに見せた。

「まあ………!」

セシリアはサファイアブルーの瞳をきらめかせて、感嘆の声をあげた。

「この背中のウイングがマシンガン搭載ビット《バレット・ビット》。銃弾の装填数は一基につき二百発だ。それを左右に四基ずつ計八基積んでるから総弾数は千六◯◯発。そう簡単に弾切れは起きない。ビームビットと併用すればちょっとした弾幕だって張れるから、実質的には攻撃と防御の性能を同時に引き上げることができた」

「素晴らしいですわ!」

セシリアの声は弾んでいる。

「それだけじゃない。このウイング状態なら、以前の一・二倍のスピードで動くこともできるぞ」

「想像以上ですわ……。本当に綺麗」

セシリアはうっとりしたようにブルー・ティアーズの装甲に触れた。

(よしよし。満足してもらえたみたいだ)

俺はうんうんと頷く。

「瑛斗さん、これ、もう使えますの?」

「もちろん。それじゃあ一つ、稼動テストと行ってみるか」

「はい!」

俺とセシリアはアリーナに向かった。

「じゃあ、移動標的を的にしてビットを動かしてみよう」

「わかりました」

第四アリーナには射撃訓練もできる場所があり、そこでテストをする。

「数はニ十機。出すぞ」

飛び出したのは円盤状の移動標的。四方八方に飛び交う。

「行きます!」

ブルー・ティアーズを展開したセシリアは八基のバレット・ビットを射出し、砲門を縦横無尽に移動する標的に向ける。

「はぁっ!」

ダダダダダダダッ!

勢いよく発射された弾丸は次々と標的を撃墜していく。

(いい具合だな。なら!)

俺は画面を操作して標的の設定を『回避』から『攻撃』に変更した。

残った標的たちがフォーメーションを組み、セシリアを取り囲む。

(さらに追加だ!)

新たに十機の標的を発進させ、セシリアの逃げ場を無くす。

「このくらいっ!」

セシリアは腰部のビームビットを全て射出。計十六基のビットがセシリアを守るように展開する。

発射された弾丸とビームは次々と標的を撃墜していく。本来ならば標的からも低出力のレーザーが発射されるはずなのだが、それすらも発射できないほどの速度で撃墜されていく。

「最後の一機!」

バレット・ビットの弾丸が最後の標的を撃ちぬいた。

見事にすべての標的を撃墜したセシリア。俺は拍手をする。

「凄いなセシリア。初めての操作で完全に使いこなすなんて」

「いえ、瑛斗さんこそ、素晴らしい新装備をありがとうございます」

「いいってことよ。次の模擬戦訓練も頑張れよ?」

「当然ですわ! わたくしはセシリア・オルコットですのよ!」

セシリアは腰に手をやり、少し自己表現の過ぎる胸を張った。

「知ってるよ」

そう言って俺は笑った。

(楯無さんが言っていた『競争心に火をつける』って、あながち間違ってないのかもな)

ふと、楯無さんの言葉を思い出し、俺は第三アリーナの方を向くのだった。

 

 

「では、今日はありがとうございました」

「おう。じゃあな」

セシリアと新装備『バレット・ビット』(俺が造った)の稼動テストを終えて、セシリアを部屋まで送ってから俺は自分の部屋へと歩き始めた。

「そうだ。これどうすっかな?」

俺はあることを思い出し、ポケットに二つ折りにされていた一枚の紙を手に取る。

(誰を誘おうか……………)

IS学園で行われる学園祭でIS学園の生徒には一般客を招待できるチケットが一人一枚配布される。

親を誘うヤツもいれば、旧知の間柄の人を呼ぶヤツもいる。しかし俺に親はいないし、ましてや地球に古い知人がいるわけでもない。したがって選択肢は必然的に狭まっていく。

「ここはやっぱり……」

俺は携帯を取り出し、お世話になってるエレクリット・カンパニーの技術開発局長エリナさんに電話をかける。

Prrrrrrrrrr

『もしもし?』

「エリナさん。俺です。瑛斗です」

『あら、どうしたの? 何かあったかしら?』

「いえ、別にこれと言った用があるわけじゃないんですけど、もうすぐIS学園で学園祭をやることになってまして」

『おー、いいじゃない。それで?』

「実は一般客として誰か一人を生徒が呼べることになってて、エリナさん、来ます?」

『……あー…………』

おや? 予想とは違うリアクションだ。絶対に来ると言うと思ったんだが?

『瑛斗、ごめんなさい。ちょっと行けそうにないわ』

「そうですか……。ま、無理にとは言いませんから」

『でも、せっかく誘ってもらったことだし……代わりに誰か━━━━』

『せんぱーい。作業、やっと終わりましたっすー』

エリナさんの言葉の間に誰かが割り込んできた。今の声はエリスさんだな。

『エリス! 丁度いいところに来たわ!』

『ほへ?』

『瑛斗、ちょっと待ってて!』

「あ、はい」

エリナさんに言われ、しばらく待つと、再び電話から声がした。

『もしもし? 桐野さんっすか?』

声はエリナさんではなくエリスさんだった。

「エリスさん。どうも」

『はいっす。今、先輩からその学園祭に自分が行ってこないかと言われたんすけど、それでもいいっすか?』

なるほど。どうやらエリナさんはエリスさんに事情を話したらしい。俺としてはチケットが無駄にならなければそれでいいので別段断る理由があるわけでもない。

「はい。全然オッケーです」

『おお、マジっすか』

「じゃあ、日時をいますね。日時は━━━━」

日時を説明し、来場手続きの説明をして確認を取る。

「━━━━以上です。わかりました?」

『了解っす! 楽しみにしてるっす! それじゃあ先輩と代わりますね」

「はい」

『じゃあ瑛斗、そういうことだからそっちにはエリスを向かわせるわ。企業からはエレクリットの上層部のヤツが一人か二人行くらしいけど、気にしないでね?』

「わかりました」

『じゃあねー』

「失礼します」

電話を切り、携帯をポケットにしまう。技術開発局長のエリナさんもその気になれば来れると思うが、あの人は社長と仲はいいけど、その下の幹部の中にはそれを面白く思ってないヤツもいるらしい。

(大人って大変だねぇ……)

そんなことを考えながら歩いていると、一夏とばったり会った。

「お、一夏」

「おう、瑛斗か」

目の前の一夏は明らかに疲れている。こりゃ楯無さんに相当しごかれたな。

「どうだった? 楯無さんとの訓練は」

「大変だったよ。鈴が来ていきなり実戦訓練で例のシューター・フローを使わされて何度も壁にぶつかっちまってよ」

「はは、一夏が壁に激突する様が目に見えるぜ」

「どういう意味だよそれ」

一夏がジト目で睨んできた。

「悪い悪い。愚痴はお前の部屋でお茶でも飲みながら聞いてやるよ」

鈴の件は俺にも責任が数パーセントあるから愚痴くらいは聞いてやろうとそのまま一夏の部屋に向かった。

ガチャ

「お帰りなさい。私にする? 私にする? それとも、わ・た・し?」

「…………………」

「…………………」

バタン

……えーと、あれ? おかしいな? 部屋間違えたか?

「瑛斗」

「ん?」

一夏が尋常じゃないくらい汗をかいている。俺もだけど。

「俺の頬を一発殴ってくれ。楯無さんにしごかれ過ぎたせいで幻影が見えちまった」

「そうか。じゃあ殴るからその後で俺も殴ってくれ。最近疲れがたまってるみたいだ」

「わかった」

「いくぞ……」

バキ!

「ぐ……! おらぁっ!」

ドゴッ!

「がっ……! へ、中々、良いパンチじゃねえか」

「ふ、お前こそ」

「じゃあ」

「ああ」

俺と一夏は意を決して再びドアノブを捻り、扉を開けた。

「おかえりなさい。私にする? 私にする? それとも、わ・た・し?」

バタン

再度ドアを閉め、俺達は膝から崩れ落ちる。

((なんでだぁぁぁぁぁぁ!?))

なぜ? どして? なんで一夏の部屋に楯無さんがいて、んでもって裸エプロン!? しかもあの発言、選択肢が一つしかない!

「んもう、早く入ってきてよ。おねーさん、待ちくたびれちゃうぞ?」

フリーダム生徒会長、楯無さんがドアから顔を出して唇を尖らせる。

「た、楯無さん……」

「なんつーカッコしてるんですか……」

俺達は呆れかえりながらなんとか部屋に入る。できるだけ楯無さんを見ないように心掛けながらだ。

「あれあれ? 二人ともどーして顔をそむけるのかなぁ? あ、わかった。まだまだ刺激が足りないってことなんだね?」

違う! と言おうしたときにはもう、楯無さんはエプロンを外しにかかっていた。

「だああああっ!」

「待て待て待て待て! 待ってください楯無さん!」

俺達の必死の制止も空しく、楯無さんの体を隠していたエプロンがハラリと落ちた。

「なーんちゃって、実は水着でしたー☆」

「「………………」」

「残念だった?」

「「んなわけないでしょ!」」

俺と一夏のダブルツッコミ。

もう、なんなのこの人……!

「……で、なんでここに?」

楯無さんインパクトから立ち直った一夏が俺と共通の疑問を楯無さんにぶつける。

「んっとね、今日から私、ここに住もうと思うの」

「「は?」」

何を言ってるんだこの人は? ここは一年生寮だぞ? 二年生の楯無さんが来るなんて━━━━

「瑛斗くん、その疑問はたった一言で一気に解消だよ? そう。『会長権限』」

「いきなりジョーカー!?」

っていうかなんで俺の思ったことが分かったんだあの人は。

「それに、もう準備は万端だよ。ほら」

「「?…………!」」

一夏の部屋には楯無さんの私物と思われるものがすでセッティング済みだった。

 

(ホント、俺の部屋じゃなくて良かった……!)

俺はポンと一夏の肩に手を置いた。

「一夏。もう、何を言っても無駄みたいだ」

「はあああああ……」

一夏は深い深いため息をついた。楯無さんはそれとは対照的にニッコニコの笑顔を浮かべてこっちを見ている。

「じゃあ、グッドラック」

俺は一夏の肩をパンパンと叩いて部屋を出た。この動作は『脱出』、もしくは『逃亡』と思ってくれても構わない。

部屋に戻る途中、上機嫌の箒とすれ違った。手には包みを持っている。この先には一夏の部屋がある。

「……ん?」

上機嫌な箒。

 

一夏の部屋の方向。

 

一夏は楯無さんと同棲……。

「箒ぃー、今は行かない方が━━━━」

振り返るが、箒はもう結構遠くにいた。

「……………ま、いいか」

俺は頭を掻き、自室に戻った。

 

部屋に戻って数分後、メールが来た。一夏から。

 

『HELP!』

「………はぁ」

俺はベッドからよっこらせと起き上り、一夏の部屋に向かい、日本刀を構える箒の説得にあたるのだった。


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