IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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振り回す生徒会長 〜または柔らかなまどろみの中で〜

(出たい……ここから出して……)

俺は、どこかに閉じ込められている。

 

体が動かない。どんなに出ようとしても、体は石のように微動だにしない。

(もう……ここは嫌なんだ……誰か……)

自分でもわからないが、俺はひどく怯えている。

(あ……)

突然、俺を閉じ込めていた何かの蓋が外れて、中を満たしていた液体と共に俺は外に押し出された。

(……誰が…………?)

俺を出してくれた人の顔を見ようと頭を上げる。その人の顔が見えそうになって━━━━

 

「ん~♪ んん~♪ ん~♪」

誰かの鼻歌を聞いて目が覚めた。どうやら場所は保健室のようだ。

「……あれ?」

「あ、気がついた?」

声が上から聞こえたので見ると、楯無さんと目があった。

 

えっと……確か、一夏が飛んできて、俺はそれをもろに食らって気絶。うん、ちゃんと憶えてる。

 

さて、それはそれとして。

「……あの、何をやってるんですか?」

「え? 何って、ひざまくら」

「それはわかりますよ!」

俺はガバッと起き上った。

 

見れば、眠っている一夏も楯無さんのストッキングを穿いた左の太ももに頭を乗せている。

「あら、良いじゃない。そう遠慮しなくていいのよ?」

「わっ」

グイと引っ張られ、俺は否応なしに右の太ももに頭を乗せてしまう。一夏と楯無さんの太ももをシェアしている。この状態を人に見られたら色々とマズイ。

「ふふ、瑛斗くんったら、気持ちよさそうに寝ちゃって。寝言も言ってたなぁ。あれは笑ったわ」

「ええっ!?」

なんだ? 俺、寝言で何言ったんだ?!

「なーんて、嘘嘘。冗談よ。慌てちゃって、かーわいっ♪」

「………………」

もう、ため息すら出ない。クスクス笑う楯無さんは下手すると酔っぱらったエリナさんより厄介かもしれない。

「うぅん……?」

すると俺達の話し声のせいなのか、一夏が目を覚ました。

「楯無さん……?」

「そうね。楯無っていうのは更識家当主の名前。私は十七代目楯無」

「楯無さん? い、いきなり何を言い出すんですか」

一夏の声に、まったく別方向の返答を返した楯無さん。謎だ。

「あれ? 瑛斗? って……ええ!?」

一夏が起きた直後の俺と同じリアクションをする。そりゃそうなるよな。

「瑛斗!」

ガラッ!

ドアが開いて、そこからラウラが入ってきた。

 

え、何このド級の超展開。

「あ……」

「ラウ、ラ……」

俺と一夏はもう、気が気じゃない。

 

ほら、もうラウラ無表情じゃん。今の俺達の状況見て、無表情になってんじゃん!

「……任務了解。目標を排除する」

指先からISを展開し、AICを発動。一切迷いのない動きと共に、プラズマ手刀で切り込んでくる。ぎゃあああ!?

「ふふっ」

しかし楯無さんは笑みを崩さない。それどころか閉じた扇子をラウラに向けて投げた。展開がまだ完了していなかったラウラは未展開の部分に衝撃をうけて一瞬怯む。

それをチャンスとばかりに楯無さんは移動して扇子をキャッチ。パンッと音を立てて開き、はりつめた紙をラウラの頸動脈にそっと近づけた。

「なっ………!?」

あまりの手際の良さにラウラも手も足も出ない。敗北を認めたラウラは展開を解除した。

「うむ。素直でよろしい」

そう言ってぽんぽんとラウラの頭を撫でると、楯無さんは俺達の方を向いた。

「じゃ、話もまとまったし、行こうか」

「え? 行くってどこに?」

「第三アリーナ」

どうやら一夏のレッスンが始まるらしい。

「ラウラ。今のはしょうがない。相手は楯無さんだ。今の俺達じゃ太刀打ちできない」

「………ああ」

慰めるつもりだったが、さほど効果は無かったみたいだ。

 

「あれ? 瑛斗に一夏? ラウラも?」

「今日は第四アリーナで特訓と聞きましたけど?」

第三アリーナに行くと、そこにはシャルとセシリアがいた。二人とも訓練の途中だったのか、ISは展開していないがISスーツは着ている。

「そちらの方はどなたですの?」

セシリアが少しムッとした表情で一夏に聞いた。

「せ、セシリア。生徒会長だよ」

「ああ、道理で見たことのある顔ですわ」

不機嫌なセシリアをシャルが焦りながらフォローする。シャル、苦労人だな。

「まあそう邪険に扱わないで。今日から私も一夏くんのコーチをやるから、よろしくね」

「え━━━━」

「それはどういうことですかっ!」

シャルの声が聞こえなくなるくらいの大声をセシリアがあげた。

「あ、その、しょ、勝負の結果でな、うん」

「負けたら言いなりになるっていうね」

「な、な、な……!」

セシリアがワナワナと震えている。すると一夏が俺の肩に手を置いた。

「瑛斗、チェンジ。頼む」

「えー……しょうがねえな。今度なんか奢れよ?」

「わかったよ」

「はぁ……。実はかくかくしかじか……」

説明して納得してくれるまで十分かかった。

 

あれ? 何しに来たんだっけ?

「さて、みんな納得してくれたみたいだね。それじゃあ始めよう」

楯無さんが扇子を開いてそう言った。そうだった。訓練しに来たんだ。

「じゃ手始めにシャルロットちゃんにセシリアちゃん。『シューター・フロー』で円状制御飛行(サークル・ロンド)をやってみせてよ」

ん? シューター・フロー?

「楯無さん。それって射撃型の戦法ですよ? 一夏の操縦の役に立つんですか?」

「第二形態に遠距離攻撃━━━━射撃武装が追加されたからか」

「あ、なるほど」

ラウラの一言で合点がいく。そういうことなら話は別だ。

「そう。鋭いね。でもそれだけじゃないんだ」

楯無さんは扇子で手のひらをトントンと叩きながら続ける。

「射撃能力で重要なのは面制圧力だよね。けれど連射ができない大型荷電粒子砲はどちらかと言えばスナイパーライフルに近い。つまり一撃必殺の突破力。だけど一夏君の射撃能力はご覧のとおり。射撃戦に向いてない」

ほほう。そういうことか。

「だからあえて近距離で叩き込む。的が近けりゃ近いほど当たりやすいのは道理だな」

「正解。さすがIS研究者。分かってるね」

楯無さんが開いた扇子には『見事』と筆字で書かれていた。いつの間に変えた?

「じゃ、二人の準備もできたみたいだから、早速見てみよう」

見ればシャルとセシリアはアリーナフィールドで浮遊しながら向かい合っている。

『それじゃあ始めます』

『一夏さん。しっかりご覧になってくださいな』

二人は動き出した。だが、当然円軌道で動いているため二人は向かい合ったままだ。

そして射撃が始まり、動きが速くなるにつれて射撃も激しくなる。

「これは……」

どうやら一夏にも凄さがわかったようだ。

「そう。二人は射撃とマニュアル制御を同時に行っているんだよ。しかも回避と命中の両方に意識を割きながら、だからね」

「あの動きは機体を完全に自分のものにしないとできない動きだ。あ、すいません。説明横取りしちゃって」

「いいのいいの。気にしないで」

楯無さんは笑顔で答えてくれた。やっぱりISの操縦や攻撃パターンの考察となると研究者としての血が騒ぐ。つい我慢できなかった。

「じゃあ、続きも言えるかな?」

当然じゃないか。

「一夏の《雪羅》。あれはさっきも言った通りスナイパーライフルと同じだ。だからあの二人のように動くには、心身を常に冷静に保つ必要がある」

「じゃ、こっからはまた私ね。だから、一夏くんには経験値も必要だけど、マニュアル制御も必要なんだよ」

一夏のうなじをなぞりながら話す楯無さん。

『!』

それに気づいたセシリアはこちらに注意を向けた。

「あ」

一方の射撃が止まったため、シャルの攻撃がセシリアにヒットする。

「ああっ!」

被弾したセシリア。発射直前だったんだろう。姿勢をくずして誤射された《スターライトmkⅢ》のビームがこっちに向かって飛来した。

「━━━━おっと」

《G-soul》の右腕だけを展開してBRFシールドでビームを打ち消す。

「セシリア、大丈夫?」

心配になったシャルが壁に激突したセシリアに声をかける。

「え、ええ。平気ですわ」

「よかった。……もう、一夏、僕らが真面目にやってるんだから、ちゃんと見てよ」

「そうですわ」

「す、すまん」

シャルとセシリアから非難される一夏。ドンマイ。

「…………………」

「?」

ふと、セシリアが浮かない表情なのが見えた。どうしたんだ?

「うーむ、やっぱり難しいな。俺にできるかな」

この日の夜、俺の部屋には一夏とシャルが来て、一夏の動きについて話し合っていた。

「雪羅は反動もデカいからな。シャルたち以上の慎重な制御が必要だぞ」

俺はノートパソコンで《白式》のデータを見ながら言った。

「そうなんだよなぁ……」

「一夏、いい考え方があるよ」

この中では一番射撃が上手いであろうシャルが一夏に話しかけた。

「スケートってしたことある? 滑る氷の上をつま先で流されながら、しがみつくようにしつつ滑るんだ」

「なるほど、わからん」

一夏が首を捻る。俺は椅子を回転させて一夏達の方を向いた。

「遠心力を利用しつつ、制御する。って言いたいんだよ」

「なるほど、やっぱわからん」

「おいおい……」

俺は苦笑いを浮かべた。

「まあでも、楯無さんが教えてくれるって言ってるから、すぐできるよ。一夏、いいセンスしてるからね」

シャルがニッコリと微笑みながら言った。

「ありがとなシャルロット。そう言ってもらえると幾分気が楽だ」

それから数分談笑して、一夏とシャルは自室に戻って行った。

「さて……歯も磨いたし、寝るか」

ベッドに向かう。すると

「瑛斗さん、よろしくて?」

誰かがドアをノックした。この口調は……セシリア?

「おう。開いてるぜ」

「失礼しますわ」

部屋に入ってきたセシリアはやはりどこか落ち込んでいるようだ。

「どうした? 何かあったか?」

俺はとりあえずお茶を手渡す。両手でそれを持ったセシリアは顔を俯かせ、目を泳がせている。

「あ、あの……実は……その……」

「?」

「ISの、わたくしのティアーズのことなんですの」

「ん? ティアーズがどうかしたのか?」

「瑛斗さん、《ブルー・ティアーズ》の……えっと……」

「なんだよ? 歯切れが悪いな」

そう言うと、セシリアは覚悟を決めたような顔を俺を見た。

「ブルー・ティアーズの、か、改良に協力していただきたいんですのっ!」

「なんだ、そんなことか。いいぜ」

セシリアはきょとんとした。

「……え? そ、そんな即答でよろしいんですか?」

「ああ。特に断る理由もないからな。まあでも」

「?」

「理由くらい聞こうかな?」

「……………………」

む、沈黙してしまった。そんなに言いずらいんだろうか。

「いやいや、無理にとは言わねえけどさ。今日はもう遅い。この話は明日にしよう」

「は、はい!」

急に元気になったセシリアは俺に一礼し、そのまま軽やかな足取りで部屋から出て行った。

(それにしても急に改良をしてくれなんて、一体どうしたんだ?)

俺は頭に『?』マークを浮かべつつ、ベッドに入った。


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