IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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幽霊屋敷はお嫌いですか? 〜または亡霊の輪舞曲〜

「エリナせんぱーい! 桐野さんをお連れしましたっす!」

「こんにちはー……じゃねえや、こんばんはー」

夜一時過ぎ、俺とエリスさんはエレクリット・カンパニーの本社の技術開発局に無事到着した。

けど、入ると中はシンと静まり返っていた。

「あれ? せんぱーい?」

 

「エリナさん、帰って寝ちゃったんじゃないですか? 結構夜だし」

 

「いやいや、そんなはずは……」

「エリスー? 帰ってきたのー?」

すると、奥の方の部屋からエリナさんが出てきた。

「あら瑛斗! よく来てくれたわ! 入って入って!」

「あ、はい」

言われるままに部屋に入る。そこには様々な書類が置かれた長机が一つと大型ディスプレイがあった。SF映画で見る作戦会議室のようだ。

「局長、彼が?」

一人の男性職員がエリナさんに耳打ちしている。

「そうよ。この子が私たちの希望よ」

「あ、あの、エリナさん? 俺に一体何をさせようと?」

「これを見て!」

「?」

ディスプレイを見ると、ここの近くの森を示していた。

「瑛斗、今からここに向かってちょうだい」

「今からですか? また急ですね。なんです? この森」

「この森にはエレクリットの放棄された研究所があるの」

「研究所?」

「まあ、研究所って言ってもエレクリットに所属していた研究員の一人が籠ってただけなんだけどね」

話の内容が見えない。だが、面倒そうな展開になることは予感できる。

「その研究所では、その……人体実験が…………ね」

「えっ!?」

俺は人体実験と聞いて声を荒げる。エレクリットまでそんなことを……!?

「ち、違うの。誤解しないで。この研究所ではその研究員が籠りっきりで何かを研究していたらしくてね。その研究内容っていうのが人体実験だったって噂があるの」

「噂? 『だった』?」

俺は首を捻る。過去形だったぞ?

「さすがに怪しいってなってその研究所に二年前にエレクリットの強制調査が入ったの。けど━━━━」

エリナさんは顔をずいっと近づけてきた。

「その研究所には人なんてどこにも見当たらなくて、しかも中も荒れ果てた状態だったのよぉ〜……」

 

エリナさんがわざとらしく低い声を間延びさせながら手首を顔のあたりでだらりと垂らした。

「え……」

「だからその研究所はこう呼ばれているわ。『ゴースト・ラボ』ってね」

「………………」

フリーズする俺。

 

「桐野さん?」

「ま、まま、まさか、そ、そこに俺、行くん、ですか?」

「そうよ。捜査に行ったエレクリットの社員も気味悪がって、ろくな捜査はされてないの。だから、今回は万全を期して事を進めたいの。会社でも知らない会社のことがあるなんて気味悪すぎるでしょ?」

「そうですけど……俺が行く必要、あるんですか?」

できれば遠慮したい。エリナさんだって元アメリカの代表候補生だったそうだし、専用ISも持っているはずだ。

 

だが、エリナさんは遠い目をした。

「……エレクリットの開発した実験武装、壊したの誰だったかしら?」

「うっ!?」

「謝ってくるとき、『本当にすいません! 何でもしますから!』って言ってきたの、誰だっけ?」

「………………」

確かに、福音事件でエレクリットから送られてきたあの『19連装ビーム砲搭載シールド』をオシャカにしてしまって、謝るとき、『何でもする』とは言ったが、まさかこんなことになろうとは思っていなかった。

 

「『何でもするって』言ったのは、誰だったかしらねー……?」

 

「……ああもう! わかった!わかりました! 行きます! 行きゃあいいんでしょ!」

俺が半ば自棄になりながら答えるとエリナさんは嬉しそうに声をあげた。

「よし! 話はまとまったわ! じゃあ瑛斗、外に出てG-soulでゴースト・ラボまで行ってちょうだい。地図はこっちから送るわ」

「……はい」

ゴースト……やだなぁ………。

「じゃ、いってらっしゃーい!」

「「「「「いってらっしやーい!」」」」」

 

エリナさんを含め、エレクリットの技術開発局の人たちに見送られながら俺は所定の場所まで向かった。

 

夜空には大きな月が煌々と輝きながら浮かんでいる。

「……アレか」

しばらく飛ぶと、森の中にぽつんと洋館らしき建物があった。

 

例の『ゴースト・ラボ』だ。

 

錆びついた洋館の門の前に立って、エリナさんの専用IS《ヴァイオレット・スパーク》にオープン・チャンネルを繋げる。

「エリナさん。こちら瑛斗です」

『オーケー。じゃあ中に入って。通信は切らないでね。何か変わったところがあったらちゃんと報告して』

「わかりました。じゃあ━━━━、入ります」

俺は門を抜け、荒れ果てた庭を横目に玄関らしき大きなドアの前に立った。

「……ん? 開いてる?」

ドアには鍵がかかっていると思い、一回試してダメならビームソードで切るつもりだったが、意外なことにドアは簡単に開いた。

「おじゃましまーす……」

一応人の家なので、挨拶は忘れない。窓から月明かりが差し込んでいて、中はそれなりに明るい。

『どう?』

「いえ、特に変わったところは━━━━」

ギイィィィィ……………バタン!

「ひぃっ!?」

『どうしたの!?』

「い、いえ、ドアが閉まっただけです。な、なんともありません」

怖えー……。映画でこんなシーン見たぞ?

 

『……瑛斗、もしかしてこういうの苦手?』

む! 失敬な!

これでも俺はIS研究をしてたんだ。こんな非科学的なことがなんだってんだ!

「ば、ばばばばバカ言っちゃあいけませんよ……! お、おお、俺が、こここっ、ここ、こんなことで音をあげますかってんです」

『いや、結構声震えてるわよ?』

「そ、そそそ、そんなことあるわけ━━━━」

うふふふ━━━━あはははは━━━━

「ひぎゃあ!?」

突如、子供の笑い声らしき声が洋館に響いた。驚いた俺はうわずった声をあげてしまう。

『なに!?』

「わ、わかりません。わ、笑い声が……」

『笑い声?』

しかし、すぐにその笑い声は止んだ。

 

「……あっちの方から聞こえたな」

 

俺は左手にビームガンを構え、廊下を進む。

 

(ホラーだけは、昔からどうもなぁ……)

自慢じゃないが、俺は最後までホラー映画は観れた記憶がない。いつも開始三十分で何かと理由をつけて観るのをやめていたんだ。

 

(うう、思い出したら怖くなってきた……)

 

全展開ではつっかえて入らないから、G-soulは左手だけ展開し、ビビり倒しながらもなんとか一番奥の扉に手をかけ、中へ入った。

「……………」

木製の床の部屋には誰もいない。

 

部屋の中央にぽつんと置かれた机に一冊の手帳が置かれていただけだった。

「手帳?」

俺はそれを手に取り、裏に名前が入ってないことを確認した。

 

「……読んでみるか」

 

ページを開こうとしたその時!

バキバキバキ!

「うわっ!?」

突然床に穴が開き、俺は地下に落ちた。

「くっ……!」

すかさずG-soulを全展開。スラスターで姿勢制御をして、ふわりと地面に着地した。

『どうしたの!? 大丈夫!?』

エリナさんの声が聞こえた。よかった。通信は途切れていない。

「だ、大丈夫です。床が外れて、地下室みたいなところに落ちたみたいです」

『そうなの?怪我はない?』

「はい。それより━━━━」

俺は右手の手帳に目をやった。

「それより、手帳を見つけました」

『手帳? 中は?』

「今、読みます」

 

ボロボロの表紙を開いて、最初のページを読み始める。

 

「えーっと、九月……ダメだ。字がつぶれてて読めない。日記か?」

『それより内容は?』

「はい。『私の研究もいよいよ本格的な段階に来た。これで上層部の連中を見返すことができる』」

『……次は?』

「十月……三日?『彼女の容態も落ち着いている。近々アレに乗せてみようと思う』」

『アレ? ISかしら?』

「十一月……読めないな。『同僚の研究員が彼女を引き渡せと言ってきた。冗談じゃない! 私には彼女が必要だ。彼女も私を必要としてくれている』……ページが破れてて途中がわかりませんよ」

『良いわ。続けて』

「一月一四日、『体に力が入らない。頭痛と吐き気がする。だが、私は止まるわけにはいかない! 彼女も私の期待に応えようとしてくれているんだ。彼女に心配をかけたくない』……」

 

そこから先は、何も書かれていない白紙の紙の連続だった。数ページパラパラと捲る。また読み取れる文字を見つけた。でも……。

 

「……次が最後みたいです」

手帳の残りのページからして、最後の日記だと判断できた。

 

『読んでみて』

「うわ……殴り書きだな。二月一八日、『ついに奴らが乗り込んできた! 私から彼女を奪う為だ! そんなことはさせない! 彼女は私が守って見せる!』……これで日記は終わりです」

『二月一八日……二年前にそこに強制捜査が入った日だわ!』

「この日記の彼、または彼女って、誰なんでしょう?」

『おそらく、研究所に籠っていた研究員ね。男だったわ』

俺は周囲を見渡した。前方に不自然な壁が立っていた。

「?」

怪しく思って触れてみる。

 

がこんっ。

 

「うおっ!」

 

すると壁は隠しドアになっていて、俺は壁の向こう側に入った。

「こ、ここは……なんだ?」

周囲を見渡すと、そこは石畳の床で、結構広い空間だった。

「あれは……?」

空間の中央に何かが立っていた。

 

見れば、それは無人展開されたISだった。

 

見たことのない型だ。全体が青と黒で塗り分けられていて、肩の装甲が大きくせり出し、手は指がクローのように鋭く尖っている。

うふふふふ━━━━あははは━━━━

「!」

またさっきの笑い声だ!

 

声の主はどこかと探して、首を巡らせる。しかし、どこにも見当たらない。

 

刹那、俺は我ながらとんでもない発想をした。

 

「………………まさか……!?」

 

視線の先には、無人展開のIS。

 

うふふふふ━━━━あはははは━━━━

 

間違いない。

 

笑い声は、そこから聞こえていた。

 

━━━━警告。エネルギー反応を検知。前方IS、起動します━━━━

 

「なんだと!?」

 

G-soulの報告に目を剥く。起動たって、あのISには操縦者が……!

 

そして突然その無人展開されたISの周りの床から何かが飛び出した。

「……ロボット?」

それは明らかにISとは違い、ロボットと言えるものだった。全部で四機。左アーム自体が大きめのビーム砲で、右アームはマニピュレーターに細身の剣を持っている。

アソボウ━━━━アソボウ━━━━

「女の子の……声?」

呟くと、突然四機のロボットの目が、ブォン……と光りだした。

「!?」

四機のロボットは無人展開のISを守るように並び、一斉に俺にビーム砲を向けてきた。

「くっ!」

BRFシールドでそれを防ぎ、ビームソードを構える、すると信じられないことが起こった。

「なんだとっ!?」

人は乗っていないはずのISが、まるで見えない何かが展開しているかのように………

ネエ━━━━アソボウ━━━━?

動き出したんだ……!




登場したゴーストISのイメージはエルピー・プル専用キュベレイMk-Ⅱです。

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