IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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力の代償は重過ぎて 〜または遠い追憶の世界〜

「…………………」

旅館の一室、もとい救護室では、二つ並べられたベッドに一夏と瑛斗が横たわっている。

 

掛けてある時計は午後四時前を指し、二人は三時間以上目を覚まさないでいる。

「………………」

そのベッドの横では箒が俯きながら椅子に座っている。あのあと旅館に戻ってきた箒たちに千冬から告げられた指令は

『状況に変化があれば招集する。それまでは各自現状待機』

それだけだった。

 

千冬は二人の手当の指示をしてからすぐに作戦室へと戻ってしまい、箒は責められなかったことが一層辛かった。

(私が……私がしっかりしていれば、こんなことには……)

俯きながら自分の拳を握りしめる。白く、その色を失うほど強く。

 

自分を戒めるように。

(どうして私は……いつもいつも……)

力を得ればそれを使いたくて仕方がなくなる。力に流される。とめどなく溢れる暴力への衝動を、自分では押さえられなくなる時が、箒にはある。

(何のために修行して……何のために……!)

再び、視界がぼやける。

 

「うっ……うぅ……っ!」

 

堪えようとするが、とめどなく溢れる涙。

 

拭う気力すら箒にはなかった。

(………私はもう……ISには………)

バンッ!

突然ドアが乱暴に開き、聞きなれた声が聞こえた。

「あーあー。あーあーあーあー! 分かりやすいわね、全く!」

「ちょ、ちょっと鈴……」

どかどかと入ってきたのは鈴。

その後ろから遠慮気味にシャルロットが入ってきた。

「……………」

「……あのさあ」

箒は入ってきた鈴に返事をしない。返事が、できない。

「一夏と瑛斗がこんなになったのって『アンタのせい』でしょ?」

「ッ!」

「一夏はアンタを庇うために、瑛斗は動けなくなったアンタと一夏を守るために。それでこうなった。どう? 違う?」

「…………………」

箒は反論できずにいる。事実そうなのだから。

「で? 落ち込んでますってポーズ? ━━━━っざけんじゃないわよっ!」

ガタン!

鈴に胸倉を掴まれ椅子を倒しながら箒は立ち上がる。

「ちょっと鈴。落ち着いてよ」

シャルロットの制止など鈴は聞かない。

「やるべきことがあんでしょうが! 今! 今戦わなくてどうするのよ!」

「わ、私は……は、もうISは………使わない」

「━━━━っ!」

鈴は箒の頬をはたいた。

 

「………………!?」

「甘ったれてんじゃないわよ! ISは使わない? いい加減にしなさいよアンタ! 専用機持ちっていうのはね、そんなわがままが許されるような立場じゃないのよ! 瑛斗だって! 一夏だって!! そんくらいの覚悟があってアレと戦ったんでしょうが! それがアンタには無いの!? それともアンタは━━━━!」

鈴の瞳が真っ直ぐに箒の瞳を見る。

 

闘志、怒りにも似た、真っ赤な感情を込めて。

「それともアンタは━━━━戦うべき時に戦えないただの臆病者なの?」

臆病者。

 

その言葉が箒の瞳の奥底の闘志に火をつけた。

「ど………」

口から漏れたか細い声。しかしそれは大きくなる。

「どうすればいいんだ! もう敵の居場所も分からない! 戦えるなら! 私だって戦いたい!!」

「「……………」」

箒の心の叫びに、鈴とシャルロットは、ふっと笑った。

「やっと……もとに戻ったみたいだね」

「全くよ。あーもう、ホントはこーゆーキャラじゃないんだけどな。アタシ」

「な、なに?」

「場所なら分かるよ。今、ラウラが━━━━」

「分かったぞ。ここから三〇キロ離れた沖合に目標を確認。ステルスモードは搭載されてないようだ。衛星による目視で発見できた」

携帯端末を片手にラウラが部屋に入ってきた。それを鈴は笑みを浮かべながら迎える。

「お。ジャストタイミングじゃない。さすが軍人」

「ふっ、これくらいできて当然だ」

「じゃあ後は皆のパッケージのインストールが終われば━━━━」

「それも終わりましたわ!」

今度はセシリアが揚々と入ってきた。揃った専用機持ち達は箒に視線を向ける。

「で、アンタはどうするの?」

「わ……私は……」

箒は一度、一夏、瑛斗の顔を横目で見て、そして真っ直ぐに鈴に顔を向けて答えた。

「戦う! 戦って……勝つ! 今度は負けられん!」

「よし! それじゃあ作戦会議よ! ついてきて!」

一行は部屋を出た。

「ねえ、箒」

「?」

部屋を出ると、箒はシャルロットに声をかけられた。

「一夏も瑛斗も、きっと箒を責めたりなんかしないよ。だから……」

そこでシャルロットは言葉を切った。

「だから、二人が起きたころにはこの事件を終わらせちゃおう!」

「━━━━ああ!」

箒は笑顔で答え、鈴達の後を追った。

 

(……ここは?)

懐かしい。

靴の音を響かせて歩きながら俺はそう感じていた。

(ああ……そうだ。ここはツクヨミの中か………)

窓の向こうの宇宙、コーヒーの匂い、空気循環器の駆動音、大型のディスプレイに表示されるISのデータ。全てに見覚えがある俺の、家。

(あれ……? どうして、俺はここにいるんだっけ?)

俺の格好はIS学園の制服。いつも通りの服装だ。

(あ…………)

気がつけば、俺は所長と二人でアイツを造った、開発室の前に立っていた。

(…………………)

そしてドアノブを捻り、中へ入る。そこでは、一人の少年と、一人の女性が俺に背を向けてパソコンを操作している。その二人の横に目をやると、まだ部分的にだが、ISと分かるものが置かれていた。

(…………ふむ)

俺は近くにあった椅子に座り、二人のIS製作をぼんやりと眺め始めた。


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