IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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銀の福音 〜または蒼穹に響く戦慄の旋律〜 ①

「では、状況を説明する」

 

  旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷、『風花の間』では、俺達専用機持ち全員と教師陣が集められていた。

 

  照明が落とされた薄暗い室内にぼうっと空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》が制御下を離れて逃走。監視空域よりロストしたとの連絡があった」

 

「何っ!?」

 

  俺は声を荒げた。

 

「どうした?」

 

「……銀の福音はツクヨミも少なからず技術提供をしてるんです。あくまで非公式なんですけど、機体のエネルギー分配、および稼動システムの基盤はこちらで開発して、それをアメリカとイスラエルが独自改良を施したと聞いています」

 

「……すると、大分前からこれの開発は始まっていたと?」

 

「はい。こっからは口外禁止です。皆も守ってくれよ?」

 

  一夏達に確認を取ると、みんなしっかりと頷いてくれた。

 

「……このISは広域殲滅を目的として、ティアーズ型……セシリアのIS同様オールレンジ攻撃が行えて、攻撃力、速度ともに、開発開始時点から他のISを遥かに凌いでいました。でもそれはあくまで開発開始時点での話。このISの開発は二年前から始まっていました」

 

「二年? 二年前からあらゆる第三世代型を凌駕していたのか?」

 

  ラウラが俺に問いかける。

 

「ああ。スペック上はな。しかも、その二年の間に福音をさらに発展した。見てくれ」

 

  俺はディスプレイにアップで映し出された福音の羽根のような部分を指差した。

 

「この羽根のような武装。特殊装備と表示されてますが……開発当初はこんな装備は()()()()

 

『!?』

 

「だから、今のこの銀の福音は俺の知ってる福音じゃない。まったく別次元。性能としては計り知れません。はっきり言って、めちゃくちゃ強くなってる」

 

「そ、そんな凄い機体が暴走……!」

 

  シャルが驚愕したように呟く。

 

「だからことの収束は迅速に行わなければならない。この画像のブレからも分かるようにヤツは超音速飛行を行っているため偵察もできない。一撃必殺の攻撃を確実に当てなければ勝機は無いだろう」

 

  織斑先生がされに付け加える。

 

「一撃必殺の……」

 

「攻撃……」

 

「……………えっ?」

 

  俺達は全員で一夏の方を見る。そして鈴が口を開いた。

 

「一夏、アンタの《零落白夜》で落としなさい」

 

  皆もそれに続く。

 

「それしかありませんわね。ただ問題は━━━━」

 

「どうやって一夏を運ぶか、だね」

 

「ゲイルスっつー高速巡航モードが取れる武装がGメモリーの中にあるけど、それじゃあ一夏を運んでる間に下手すりゃあ一夏がGで気絶しちまう」

 

「超高感度ハイパーセンサーを使う必要もあるだろう」

 

「ちょ、ちょっと待て、待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

 

「「「「「当然」」」」」

 

  五人の声が見事に重なった。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら無理強いはしない」

 

  織斑先生の言葉を受け一夏は自分を奮い立たせたようだ。

 

「……やります。俺が、やってみせます」

 

「良く言った一夏! 安心しろ! 俺も援護でお前に追従するからよ!」

 

  俺は一夏の首に腕を回した

 

「あ、ああ、サンキュ」

 

「よし、では具体的な作戦内容に移る。この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「俺のG-soulのゲイルスは、加速には少し時間を食いますね。初速が一番速いものとなると━━━━」

 

「それならわたくしの《ブルー・ティアーズ》が。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも持っています」

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「二十時間です」

 

「ふむ……。それならば適任━━━━」

 

 ガラッ!

 

「はっはー! ここは《紅椿》の出番なんだよー!」

 

  突然天井から篠ノ之博士が顔を出した。び、びっくりした……!

 

「……山田先生、室外に強制退去を」

 

「えっ!? は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください」

 

「とうっ★」

 

  くるりんっと一回転して着地した博士。なんかもー、何でもアリだな。この人は。

 

「ちーちゃんちーちゃん! 今! 私の頭脳にはもっといい作戦がナウ・プリンティングなんだよ!」

 

「出ていけ」

 

  頭を抱える織斑先生。そして言いつけどおり博士を捕まえようとしてひらりと躱されて転ぶ山田先生。やれやれ……。

 

「織斑先生。ここは聞いておかないと。聞かないとあの人、絶対帰りませんよ?」

 

「おお! さっすがえっくん! 話がわかる~! ほれ、ご褒美のすりすり~」

 

「はいはい、分かりましたから抱きつかないでください。で、その博士の作戦っていうのは?」

 

「そうそう! みんな! 紅椿のスペックデータを見て!」

 

  そういうと博士はどこからともなくディスプレイを開き、俺達に見せた。

 

「紅椿はね! 展開装甲を使えばパッケージなんかなくても超高速移動モードなれるのだー!」

 

「展開装甲?」

 

  一夏が首を傾げる。ああ、そういやさっきの説明、こいつは聞いてなかったな。

 

「さっきもえっくんに説明したんだけどね。展開装甲っていうのは、私が開発した第四世代型のISの装備なんだよ~!」

 

  ビシリ、と俺と箒以外の専用機持ちが凍りつく。そりゃ、第三世代型の開発に躍起になってるのに、いきなり第四世代の話なんてされたらそうなるよな。

 

「で、俺が聞いた話だと、一夏、お前の雪片。それにも展開装甲が使用されてるらしいぞ」

 

「そそ。私が無理矢理突っ込んだのだ~! ぶい!」

 

 ビシビシ! さらに凍りつく一同。中でもトップクラスの凍りつきを見せているのは一夏だ。

 

「それでうまくいったからなんとなんと紅椿の全身のアーマーを展開装甲にしてのだ~! システム最大稼動時は性能はさらに倍プッシュだ!ぶいぶい! ぶいぶいぶいぶい!」

 

  我に返った一夏が質問する。

 

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください。え? 全身? 全身が雪片弐型と同じ? それって……」

 

「うん、無茶苦茶強いね。一言でいえば最強だね。あんな銀色のやつなんか目じゃないよ」

 

  いよいよ凍りつきを通り越してぽか~んとする一同。

 

「じゃあ、博士。自慢はさておき、説明の方を……」

 

「いやぁ~、それにしてもこの銀ピカ、海で暴走なんて乙だね~。白騎士事件を思い出すね~」

 

  突然そんなことを言い出す博士。その横では織斑先生がピクッと反応している。

 

 白騎士事件……。

 

  俺はツクヨミの資料で読んだだけだが、確か十年前、IS発表から一か月たった日に世界各国のミサイル制御システムコンピュータがハッキングされて、のべ二三四一発のミサイルが日本に飛来し、誰もが混乱と絶望の中にいた時に、突如として日本近海に白銀のISを身に纏った女性が現れ、ミサイルを全機撃墜したそうだ。

 

  そしてそれを調査に向かった各国の最先端技術で開発された戦闘機をだれ一人殺さず撃墜した。これはもはや戦力差を知らしめるためのものであると誰もが気づき、今のIS開発は行われている。

 

  現在のISのコアは四六七個。その内の三二二個はISとして実戦配備されている。残りの一四五個は各国の組織、企業が有している。エレクリットも確か四個ほど持ってた気がする。ちなみにG-soulのコアはそのエレクリットから受け取ったコアからできている。

 

「んっんん! 束、話を戻すぞ。紅椿の調整には何分かかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

  セシリアが驚いたように声をあげる。どうやら高機動パッケージを自分だけが持っているから作戦参加はできると思っていたのだろう。

 

「やめとけセシリア。またさっきの二の舞になる気か?」

 

  俺はセシリアの肩に手を置いて制する。またさっきみたいになるのはこいつも嫌だろう。

 

「うぐっ……」

 

「ここはアイツらに任せようぜ」

 

「わ、分かりましたわ……」

 

  素直に引き下がってくれたセシリア。悔しいだろうがこればかりは仕方がない。

 

「ウフフ~、そだね。調整は七分あれば十分かな」

 

「よし。では本作戦は三十分後に始める。内容は織斑、篠ノ之の二人による目標の追跡および撃墜だ。そして援護として残りの全機を投入する。以上だ。各員準備に取り掛かれ」

 

『はい!』

 

  そして、俺達は作戦の準備に取り掛かった。


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