IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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臨海学校、開始 〜または色とりどりの水着の楽園〜

「海っ、見えたぁっ!」

 

  バスがトンネルを抜け、視界が開けると女子が声をあげた。今日から待ちに待った臨海学校だ。天気は快晴。海の波は穏やか。最高のロケーションだ。

 

「見ろよシャル! 海だぞ!」

 

「う、うん? うん、そうだね」

 

  テンションが高い俺とは反対にシャルは景色を見ずにずっと自分の左手首を見ている。正確には手首についている銀色のブレスレットを見ている。

 

「気に入ってくれたのか?それ」

 

「うん! とっても! 瑛斗からのプレゼントだもん、すごくうれしいよ」

 

「そ、そうか。気に入ってくれたらなら、何よりだ」

 

  シャルがつけているそれは、水着を買いに行った帰りにふらりと立ち寄ったアクセサリーショップで買ったものだ。買い物に付き合ってくれたお礼に俺がシャルにプレゼントしたのだ。

 

「うん、瑛斗からのプレゼント。えへへ……」

 

  実を言うと安物なのだが、こんなに喜んでもらわれると少し申し訳ない気がする。

 

「おい、ラウラ」

 

「…………………」

 

  呼んでも返事がない。

 

「ラウラ? おーい」

 

「うわぁっ!? か、顔が近い!」

 

 どてっ。

 

  俺が顔を覗き込むと鼻の頭をラウラに押され、俺はバランスを崩して尻餅をつく。

 

「いててて…………」

 

「す、すまん。大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

  俺はラウラに手をかしてもらって立ち上がる。心なしかラウラの顔が赤い。どうしたんだろう? 今朝、合流してからというものずっとこの調子だ。もしかして具合でも悪いのだろうか?

 

「お前こそ大丈夫か? 顔が赤いぞ?」

 

「なっ、なな、なんでもない! なんでもないぞ。心配するな」

 

「えっ、でも━━━━」

 

 ガスッ!突然俺の頭に衝撃が走った。

 

「席に着け。もうすぐ目的地に到着する」

 

 振り返ると織斑先生が立っていた。持ってきてたんすね、その出席簿……。

 

「は、はい」

 

 俺が席に着くと、間もなくして目的地の旅館に着いた。俺達はバスから降りて整列する。

 

「さて、今日から三日間お世話になる『花月荘』だ。全員、従業員に迷惑をかけないようにな」

 

「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」

 

  俺達が挨拶すると、その旅館の女将さんのような人が丁寧なお辞儀を返した。

 

「はい、よろしくお願いします。今年の一年生さんも元気いっぱいですね」

 

  その人は年齢は三十くらいだろうか? いや、もしかするともっと若いかもしれない。なんだろうか、エリナさんとは違う、大人の雰囲気があるな。

 

「……では、各員荷物を置いたら自由行動だ。ただし、あまり羽目を外しすぎないようにな」

 

  おっと、そうこうしている間に説明が終わった。えーっと、海に行く人は別館で着替えるんだっけ?

 

「よし、一夏。俺達も行こうぜ」

 

「おう、そうだな」

 

  俺と一夏は荷物をもって歩き始めた。

 

「おりむ~、きりり~ん」

 

  うん? この声はのほほんさんか?振り返ると案の定のほほんさんがこっちにやって来た。しかし、尋常じゃない移動速度だ。眠たそうな顔は多分、素だ。バスでも完全に寝てたし。

 

「ね~ね~、二人の部屋ってどこ~? 一覧に書いてなかったから聞いておきたいな~」

 

「ふむ、部屋割りか。部屋割り、部屋割り……う~ん」

 

「そう言えば、俺達も聞かされてなかったな」

 

  そんな会話をしていると

 

「織斑、桐野、何をしている。さっさと来い」

 

  織斑先生に呼ばれた。もしかすると例の部屋割りのことかもしれない。

 

「じゃ、そういうことだから、また後でな」

 

「うん~、またね~」

 

  そんなわけで俺と一夏は織斑先生に続いて旅館に入り、奥の方のブロックに着いた。

 

「では、お前ら二人の部屋割りを教える。織斑、お前は私と同じ部屋。桐野はその隣の部屋を一人で使え。部屋割りの都合でこうなってしまったが、まあ、上手くやってくれ」

 

「え」

 

「は、はあ」

 

  一夏の部屋割りは分からなくはないが、どうして俺は一人部屋なのだろうか? ……まあ、別にいいか。

 

「わかりました」

 

「よし、では私は少し用がある。お前たちも海に行ってこい。あまりはしゃぎすぎるなよ?」

 

「「はい!」」

 

  そうして俺と一夏はそれぞれの部屋に入った。

 

「おお! スゲー!」

 

 ドアを開けると、大きな窓から景色が一望できる立派な部屋だった。IS学園の寮、いや、それ以上かもしれない。窓も東向きだから、朝日も最高だろう。

 

「いやぁ、こんないい部屋を一人で使わせてくれるなんて、気前がいいな」

 

  俺は鼻歌交じりに荷物から小さなリュックサックを取り出し、中にタオルと代えの下着、そして水着を入れて部屋を出た。

 

「お」

 

「あ」

 

  それと同じタイミングで一夏も部屋から出てきた。

 

「じゃあ……」

 

「ああ……」

 

「「行こうか!」」

 

  俺と一夏は走り出したい気持ちを抑えながら更衣室のある別館に向かって歩き始めた。

 

 ◆

 

「「「…………………」」」

 

  俺と一夏は、途中で箒と合流した。それは良い。問題は俺達の足元にある、謎の『ウサ耳』だ。不思議だ。このウサ耳、見覚えがある。

 

「なあ、これって」

 

「ああ。箒━━━━」

 

「知らん。私には関係ない」

 

  そう言って箒はスタスタと行ってしまった。取り残された俺達はこのウサ耳をどうするか考えた。

 

「どうする? なんか『引っ張ってください』って張り紙もあるんだが」

 

「うーん、このままにしておくわけにもいかないだろ」

 

「それもそうだな」

 

  そんなわけで俺と一夏は片方ずつウサ耳を持って、せーの、と腰に力を入れた。

 

 すぽっ。

 

「のわっ!?」

 

「どわっ!?」

 

  中にあの人が埋まっていると思って力を入れたのだがそうではなかった。ただ、ウサ耳のついたカチューシャのようなものが出てきただけだった。

 

「何をしていますの?」

 

「「ん?」」

 

  見ると、セシリアが俺達を見下ろしていた。………これを変換すると、俺と一夏はセシリアを見上げている。ってことはつまり……。

 

「!? おっ、お二人ともっ!」

 

  俺達は慌てて立ち上がって弁解する。

 

「す、すまん! 不可抗力だ!」

 

「怒るなら俺達じゃなくウサ耳を怒ってくれ!」

 

「? 何をおっしゃって━━━━」

 

 キィィィィィィィィィン

 

  なんだ? 空から何かが……。

 

 ドカーーーーーーーーーーン!

 

「「「!?」」」

 

  突然の飛来物に身構える俺達。土煙が晴れると、そこにあったのは……。

 

「「「に、にんじん?」」」

 

  オレンジ色のコーン型、いわゆるにんじんだった。しかも特大。

 

「あっはっはっは! 引っかかったね、いっくん!」

 

  ばかっと人参が割れ、ある人が出てきた。そう、あの人。

 

「お、お久しぶりです。束さん」

 

  そう、ISの発明者。そして箒の姉。篠ノ之束博士だ。

 

「この前はミサイルに乗って来たんだけど、どこかの偵察機に危うく撃墜されそうになっちゃってね! そこでこのマシンを造ったんだよ! 私は日々進化を続けているのだ!」

 

「そ、そうですか」

 

  一夏は抱きついてくる博士を相手ににオロオロしている。そう言えば箒と一夏は幼馴染なんだよな。なら博士と知り合いなのも納得だ。

 

「………!えっくん!? えっくんなんだね!?」

 

  俺と目があった博士は勢いよく俺に飛び込んできた。

 

 どたたっ。

 

「えっくんだ~! 生えっくんの匂いだ~! すりすり~」

 

「は、博士、すりすりしないでください………」

 

  倒れている俺の胸にほおずりをしてくる博士を優しく押し上げ、なんとか立ち上がる。

 

「や~、ツクヨミが崩壊したって知った時は私ショックだったよ~! あまりのショックでえっくんたちのお墓を自作してしまうほどだったんだよ!」

 

「縁起でもないことしないでください……ってか自作ってあの墓ですか? 墓石?」

 

  相変わらず規格外のことをしてくれる人だ。 一年会ってないのに全く変わってない。

 

「ところで箒ちゃんはどこかな?さっきまで一緒にいたよね? トイレ?」

 

「あ、ああー……」

 

  言いよどむ一夏。まあ、博士を避けてどっか行きましたとは言いずらいよな。

 

「まあでも! この箒ちゃん探索機があればあっという間に見つかるよ!待っててね~、箒ちゃん!」

 

  そういうと博士は俺達が引っこ抜いたウサ耳を装着。

 

  するとウサ耳はピコピコとダウジングマシンのように動き、その指し示した方向に博士はダッシュ。スゲー速い。ISかなにかつけてるんだろう。そしてどこかに行ってしまった。

 

「な、なんだったんですの……。今の人は」

 

  呆然とするセシリア。

 

「束さんだよ。箒のお姉さん」

 

「IS発明者の篠ノ之博士だ」

 

「え……ええええええ!? あ、あの篠ノ之博士!?」

 

  セシリアは心底驚いた様子で叫んだ。まあ、初対面じゃわからないよな。

 

「それにしても規則を破ってあんな堂々と来るとはな。ビックリしたぜ」

 

  この臨海学校はただはしゃぐだけではない。様々な企業から送られてくる新装備、および新開発の武装の試験的運用もプログラムに入っている。二日目以降はそうした時間が増える。

 

  それはそれとして、この武器たちは船でまとめて運搬され、部外者の立ち入りは禁止だ。まあ、それを破ってくるのはあの人らしいと言えばあの人らしい。

 

「さ、早く海行こうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

「あ、一夏さん! 先ほどの約束、忘れないでくださいね!」

 

「お、おう」

 

  そうして俺達はセシリアと別れて更衣室に向かった。何か約束をしていたようだがなんだったんだ?

 

  男子の更衣室は一番奥にある。一番奥と言うことは女子たちが使っている更衣室の前を通り過ぎる必要がある。分かりやすく言うと、

 

「わ、ミカってば胸おっきー。また育ったんだじゃない?」

 

「きゃあっ!? も、揉まないでよぉ……」

 

「ティナの水着ってば、だいたーん」

 

「そう? アメリカでは普通だと思うけど」

 

  ってな具合の会話がいやでも聞こえてきてしまう。男としては少し困ってしまう。そんな困難を乗り越えて、俺と一夏は無事更衣室に到着。そしてあっという間に着替えを終えて更衣室を出る。すると、

 

「わ、織斑君と桐野君だ!」

 

「ウソッ!? 私の水着変じゃないよね? 変じゃないよねっ!?」

 

「お~、二人とも鍛えてるね~!」

 

「ま、まあな」

 

「いつでも重力圏に行けるように体は鍛えておかないとってことでな」

 

「へ~、あ、そうだ! あとでビーチバレーしようよ!」

 

「おう、良いぞ」

 

「わかった」

 

「じゃ、あとでねー!」

 

  そんな会話をして、俺と一夏は夏の日差しが照りつける砂浜に向けて歩き始めた。

 

  いざ! 海へ!

 

 ◆

 

「こ、これが、海……! 感動だ……!!」

 

  ざざぁん、ざざぁんと音をたてる波、キラキラと光る水面、ぎらぎらと照りつける太陽。

 

「ホント、地球ってすごい!」

 

「はは、オーバーだな」

 

  横で一夏が笑う。失敬な!

 

「オーバーなもんか、こうして宇宙から見下ろすんじゃなくて同じ目線で見るってことがどれほどのことか━━━━」

 

「わかったわかった。そんなことより準備運動しとけよ? 溺れたら大変だからな」

 

「わ、わかってるって」

 

  俺と一夏は準備運動を始める。すると、

 

「い、ち、か~~~~~っ!」

 

「ん? のわっ!?」

 

  いきなり鈴が後ろから一夏に飛びついた。

 

「アンタら準備運動なんてしちゃって真面目ねー。ほらほら、終わったんなら早く泳ぐわよ」

 

  ちなみに鈴の水着はオレンジに白のラインが入ったタンキニタイプ。活発的な鈴によく似合っている。

 

「おいおい、お前も準備運動しろって。溺れても知らないからな?」

 

「平気よ、へーき。私、生まれてこの方溺れたことなんてないんだから。前世は人魚ね。きっと」

 

  両手を腰に当て、胸を張る鈴。ちなみに一夏に肩車をしてもらっている状態だ。

 

「あ、ああっ!? な、何をしてますの!?」

 

  おや? 今度はセシリアがやって来た。手には簡単なビーチパラソルとシート。そしてサンオイルを持っている。水着はブルーのビキニ。腰に巻いたパレオが優雅で格好いい。水着に強調された胸が少し目のやり場に困らさせる。

 

「なにって、肩車、あるいは移動監視塔ごっこ」

 

「ごっこかよ」

 

「まあ、ライフセーバーの資格持ってないし。でも溺れてる人がいたら助けるけど」

 

「わ、私を無視しないでくださる!?」

 

  一夏と鈴が上下で会話していることに腹を立てたセシリアが大きな声をあげる。

 

「とにかくっ! 鈴さんはそこから降りてください!」

 

「ヤダ」

 

 即答かよ。

 

「そ、そんな子供みたいなことを言って……!」

 

  ざくっとパラソルを砂浜に突き刺すセシリア。こ、怖いぞ。

 

「なになに? なんか揉め事?」

 

「って、あー! お、織斑君が肩車してる!」

 

「ええっ! いいなぁっ、いいなぁっ!」

 

「きっと交代制よ!」

 

「そして早い者勝ちよ!」

 

「そんでもって桐野くんも可よ! きっと!」

 

  まさか俺までカウントされているとは。恐るべき誇大解釈っぷりだ。

 

「り、鈴、早く降りろ。誤解が生まれる」

 

「ああ、俺からも頼む」

 

「む、しょうがないわね……」

 

  とたた、と慣れた体捌きで一夏から降りる鈴。

 

「り、鈴さん……?今のはいささかルール違反ではないかしら?」

 

  セシリアはひくひくと引き攣った笑みを浮かべている。ちなみに俺と一夏はやって来た女子たちに『そんなサービスはやってません』と説明するので忙しい。まったく、鈴が一夏に肩車なんかやらせるからこうなったんだ。

 

「そんなこと言って、セシリアだってどうせ一夏に何かしてもらうんでしょ? じゃあいいじゃん。でしょ?」

 

「いえ、それは……」

 

「え、何もしてもらわないんだ。じゃ、アタシが━━━━」

 

「し、してもらいますっ! 一夏さん、さっそくサンオイルを塗ってください!」

 

「「「「え!?」」」」

 

  俺も含めて、一同は声をそろえる。さっき言ってた約束ってこのことだったんか。

 

「私サンオイル持ってくる!」

 

「じゃ、私はシート!」

 

「私はパラソル!」

 

「私、サンオイル落としてくる!」

 

 おい、一人サンオイル落としに行ったぞ。二度手間だなオイ。

 

  ま、何はともあれ、鈴のおかげで集まった女子たちはセシリアの件で解散となった。

 

「コホン。そ、それではお願いしますわね」

 

 しゅるりとパラオをほどいたセシリア。その動作が妙に色っぽくて少しドキッとしてしまった。

 

「え、えーと、背中だけでいいんだよな?」

 

 一夏は少しオドオドしながらサンオイルを手に塗る。

 

「い、一夏さんがされたいのなら前も結構ですわよ?」

 

「いや、その、背中だけで頼む」

 

「でしたら━━━━」

 

  セシリアは首の後ろで結んでいたブラの紐をほどき、水着の上から胸を押さえながらシートに寝そべった。あ、こんなの映画で見たことがある。

 

「さ、さあ、どうぞ」

 

「お、おう」

 

  ゴクリと唾を飲んだ一夏。確かに今のセシリアはかなり、その、あれだ。セクシーだ。

 

「じゃ、じゃあ塗るぞ」

 

「ひゃっ!? い、一夏さん、サンオイルは少し手で温めてから塗ってくださいな」

 

「そ、そうか。悪い。なにせこういうことするの初めてだからさ、その……すまん」

 

「そ、そう。初めてなんですの。それでは、し、仕方ありませんね」

 

 うん? 心なしかセシリアの声が嬉しそうだったような……?

 

「ここ、こうか?」

 

「ん、良い感じですわ。一夏さん、もう少し下の方も」

 

「せ、背中だけでいいんだよな?」

 

「い、いえ、せっかくですし、手の届かないところ全部お願いしますわ。脚と、その、お尻も」

 

「うえっ!?」

 

  一夏が困ったように声をあげる。まあ、いきなりそんなところにサンオイル塗ってくれって言われたら誰だって焦るよな。

 

「はいはい、アタシがやったげる。ぺたぺたっと」

 

「きゃあっ!? り、鈴さん!何を邪魔して━━━━つ、冷たっ!」

 

「いいじゃん、サンオイル塗れればなんでも、ほいほいっと」

 

「ああもうっ! いい加減に━━━━」

 

 ガバッ!

 

  起き上ったセシリア。すると水着がはらりと落ちた。っとと、危ない危ない。危うく見えるところだったぜ。

 

「きゃあああっ!?」

 

 しかしセシリアは顔を耳まで真っ赤にしてうずくまってしまった。ま、そりゃそうだよな。

 

「あー………ごめん」

 

「い、い、今更謝ったって……鈴さん! 絶対に許しませんわよ!」

 

「うん、じゃあ逃げる。またね」

 

  そう言って鈴は一夏を連れて海に向けて走り出した。

 

「おい鈴! 俺まで巻き込むな! ああ、まったく……セシリアすまん! その……見てはいないからな!」

 

  去り際にそう言って一夏は鈴と共に海に入って行った。

 

「じゃあ俺も行くとしますか! セシリア! 俺も見てないから安心しろ!」

 

  俺も一夏たちに続いて、待ちに待った海に入った。

 

「あそこに浮かんでるブイまで競争ね! 負けたら@クルーズでパフェおごんなさいよ!」

 

「だってよ、瑛斗」

 

「いや、明らかにお前だろ」

 

「じゃあ三人でやろうぜ。それなら俺が損する可能性が低くなる」

 

「へっ、俺を負かそうって腹かそう簡単には行かないぜ?」

 

  バチバチ、と一夏と火花を散らせてにらみ合う。

 

「ねぇ、二人とも?」

 

「「?」」

 

  ふと、一人の女子に話しかけられた。

 

「凰さん、行っちゃったよ?」

 

「「ちくしょう、待ちやがれ!」」

 

  一夏と俺、同時スタート。なんだか知らないが、負けたら駅前の@クルーズという店のパフェをおごらされてしまうらしい。一番安くても二五〇〇円と聞いたことがある。負けられん。

 

「くっ! 鈴のやつ、結構、速い、じゃねえか!」

 

「そういや、あいつ、中学の、時も、水泳、得意、だった!」

 

  お互いクロールで鈴を追いかける。しかし陸上でもすばしっこいだけのことはある。泳ぎもすごく速いぞ。仕方がない。かくなる上は……!

 

 ブォォォォォン!

 

「「…………な?!」」

 

  バカな! 一夏と同タイミングでISを脚部展開しただと!? こいつも考えてることは一緒か!

 

  『ばれない反則は正攻法』そんな言葉をどこかで聞いたことがある。水中にある足に、まさかISを装備しているとは夢にも思うまいという見事な作戦だったのに! まさか一夏に看破されるとは!

 

「「おおおおおっ!」」

 

  こうなったら性能勝負だ! 俺と一夏はぐんぐんとブイに近づく。

 

  ………待て、なにかおかしい。

 

「……あれ?」

 

  俺は展開を解除し、動きを止める。

 

「どうした?」

 

  一夏も同じように動きを止めた。

 

「鈴がいない……」

 

「ええっ!? ま、まさか溺れたのか!」

 

「かもしれない!」

 

  俺と一夏は水中に潜った。すると、苦しそうにもがく鈴の姿が見えた。俺と一夏はすぐさま鈴の腕を掴んで浮上した。

 

「おい鈴! 大丈夫か!」

 

「鈴! しっかりしろ!」

 

「ごほっ! けほっ! だ……大丈夫………!」

 

「まったく、言わんこっちゃない。だから準備運動しとけって言ったんだ」

 

「ち、違うわよ。これはアンタのせい……」

 

「何言ってんだ? ……まあ、仕方ない。一回砂浜に戻るぞ。瑛斗、鈴を俺におぶらせてくれ」

 

「え?」

 

「あいよ。よいしょっ」

 

  俺は一夏に鈴を背負わせて一緒に砂浜まで同行することにした。

 

  鈴を一夏が砂浜までおぶって泳いで戻ると、鈴はぱぱっと一夏から離れた。

 

「あ、ありがと……」

 

「おう、気をつけろよ?」

 

「うん……………」

 

  顔を赤くする鈴。

 

「大丈夫か? 他にどっか怪我したんじゃねえか?」

 

  俺が聞くと、鈴は手と首をブンブン振って否定した。

 

「ぜっ、全然平気よっ! な、なんてったって前世は人魚なんだからっ!」

 

 その前世が人魚の人が今さっきまで溺れてたんだが。

 

「じゃ、じゃあアタシはちょっと向こうの方で休んでるから!」

 

  そう言って鈴は別館の方へ行ってしまった。やっぱり恥ずかしかったんだろうか?

 

「大丈夫なのか?」

 

「まあ、本人は大丈夫だって言ってるから、心配ないだろ」

 

「……そうだな」

 

  俺と一夏はそう考え、再び海に入ろうとした。

 

「あ、瑛斗、ここにいたんだ」

 

「?」

 

  振り返ると、シャルがいた。シャルの水着は前日の買い物で俺と一緒に買ったものだ。そして手首には俺が買ったブレスレットがついている。

 

 それは全然いいんだが……。

 

「シャル」

 

「なにかな?」

 

「そのお前の横にいるバスタオルの精霊は誰だ?」

 

  そう、シャルの横にはバスタオルで全身を包んだ何かが立っているのだ。頭部らしきところから、銀色の髪ようなものが見えている。

 

「あー……これはね………」

 

「わ、私だ……」

 

  ふと、バスタオルの精霊が声を出した。

 

「その声は、ラウラか?」

 

「う、うむ……」

 

「いったいなんでそんな事に……」

 

  一夏がシャルに聞いた。するとシャルは困ったように笑いながら答えた。

 

「ラウラってば、着替え始めたときは『瑛斗に私の水着姿を拝ませてやろう』って言ってたのに、水着に着替え終わって自分の姿を見た途端に赤い顔して全身にバスタオルを巻き始めて……」

 

「なるほど、それでこんな姿に………」

 

「うん」

 

「……………」

 

  ラウラはバスタオルで包まれた体を恥ずかしそうに動かした。

 

「ほらラウラ、瑛斗に水着みせるんでしょ?」

 

「た、確かにそうだが………うぅ……」

 

「じゃあ、僕と瑛斗と一夏で遊んできちゃおっかなぁ?」

 

  シャルがラウラの耳元でそんなことを言う。するとラウラはビン! とその身を真っ直ぐに伸ばした。

 

「そっ、それは……! ……………ええい!」

 

 ババッ!

 

  腹を括ったラウラはバスタオルを取った。

 

「わっ、笑いたければ笑うがいい……」

 

「「…………………」」

 

  俺と一夏は思わず息を飲んでしまった。ラウラの水着は、黒い大人の下着のようで、フリルがついている。何と言うか……セクシーだ。

 

「どうした……? な、何か言わんか…………」

 

  それと対照的な恥じらうラウラの姿に、こう……ぐっとくるものがある。可愛いなこれは。

 

「い、いいんじゃないか? その、すごく似合ってる……」

 

「しゃ、社交辞令はいらん……」

 

「世辞じゃないさ。なあ? 一夏、シャル?」

 

「ああ。とっても良い」

 

「うん。ラウラの髪は僕がセットしてあげたんだけどね、似合ってるって言っても全然信じてくれないんだ」

 

「いや、これはスゲー可愛いぞ」

 

 俺がそういうと、ラウラは赤かった顔を更に赤くした。

 

「か、かわっ……可愛い!?」

 

「ああ、可愛いぞ」

 

「………………………はうぅ」

 

 うん? 今度は動きが止まったぞ? 一体どうしたんだ?

 

「おーい! 二人ともー!」

 

「さっきの約束! ビーチバレーしよー!」

 

「わ~、おりむ~ときりりんの対戦だぁ、ばきゅんばきゅーん」

 

  すると先ほどビーチバレーの約束をした女子と、その友達とのほほんさんがやって来た。のほほんさんの水着、もはや水着と言うより着ぐるみだな。首以外をすっぽり包んだ黄色い着ぐるみ。何と耳まで完備だ。

 

「おー、そういえばそんな約束したな」

 

「よし、やろうぜ。シャルとラウラもやるよな?」

 

「うん。やるやる。ねっ? ラウラ」

 

「か……可愛い………へっ!? え、あ、ああ! 良いだろう!」

 

「? 変なラウラ」

 

  そんなわけでビーチバレーをすることになった。チームは俺、のほほんさん、そして俺達とビーチバレーの約束をした人の友達、たしか……冴木さん、だったけ?

 

  対戦チームは一夏、シャル、ラウラ、そして俺達をビーチバレーに誘ったえっと……ダメだ。思い出せん。三対四だが、まあ何とかなるだろ。

 

「行くわよー! 七月のサマーデビルと言われた私のサーブ! 受けてみなさい!」

 

  その人のサーブでゲームは開始した。ふむ、なかなか回転がかかっている。

 

「おらっ!」

 

  俺はそれを受け、上にあげる。

 

「八月のサマーエンジェルと言われた私の実力! 思い知りなさい!」

 

  そして冴木さんがスパイクを叩き込む。ってかサマーエンジェルって、明らかに向こうのを食いにいってるだろ。しかも八月って、もう少しあと━━━━ま、良いか!

 

「よっと!」

 

  一夏がそれを打ち上げ、こちら側のコートに飛んでくる。

 

「あわあわ、えい!」

 

  ぽーんとのほほんさんがそれを打ち上げる。よし、俺のスパイクだ!

 

「くらえっ!」

 

  バンッ!

 

「行ったぞ! ラウラ!」

 

 一夏がラウラに指示をする。

 

「か、可愛い……私が可愛い………かわ━━━━ぶっ!?」

 

  バシッ!

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

  俺の放ったスパイクはラウラの顔面にクリーンヒット。そのままラウラは仰向けに倒れてしまう。

 

「ラウラ! 大丈夫か!?」

 

  慌てて俺は駆け寄る。

 

「か、かわ、かわわ………」

 

  あらら、目ぇ回してる。ちっとばかし強すぎたかな?

 

「おい、ラウラ、おい」

 

「ラウラ、大丈夫?」

 

  シャルが声をかけ、俺がラウラの頬をペチペチと叩く。

 

「う、うぅん……」

 

「お、気がついた。大丈夫か?」

 

  俺が顔を覗き込むと、ラウラは普段なら白い顔を耳まで真っ赤にして立ち上がった。

 

「か、可愛い…………う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「あっ、おい、ラウラ!?」

 

  引き留める間もなく、ラウラは海へ走って行ってしまった。

 

「ど、どうしたんだろう、ラウラ……」

 

「さ、さあ?」

 

  シャルと俺は首を傾げる。

 

「まあ、後で様子を見に行こう」

 

  そう決めて、俺達は再びビーチバレーを再開しようとした。

 

「あ、そういえば結局おりむ~ときりりんの部屋ってどこなの~?」

 

「あっ! それ私も気になる!」

 

「私も私も!」

 

 おーおー、女子がどやどやと集まってきた。そんなに気になるのか。

 

「あー、一夏が織斑先生と同じ部屋で、俺はその隣の部屋だ」

 

 ピシッ

 

 うん? 女子たちが凍りついた。

 

「そ、そっかー! 織斑君、織斑先生と同じ部屋なんだー!」

 

「あ、ああ。だから夜中に忍び込むなら瑛斗の部屋だぞ?」

 

「ちょっ、おまっ!?」

 

  いきなり俺を売りやがった。おのれ一夏!

 

「そうだねっ! 織斑君とは昼に会えるしねっ!」

 

「そーよねっ! 何も鬼の寝床にわざわざ入り込まなくても━━━━」

 

「誰が鬼だ。誰が」

 

  カチーン。あ、いよいよ女子たちが凍った。振り返ると、織斑先生が立っていた。

 

「あ、先生。どうも。先生方も海水浴ですか?」

 

「おう。我々も少ない自由時間を満喫させてもらうさ」

 

  織斑先生の水着は、俺が前日見せてもらったものだ。ラウラのとはまた違う大人っぽさがある。それにしても先生のプロポーションは凄いな。そこらのモデルなんかよりはるかに良い。

 

「…………………」

 

 おや? 一夏が顔を赤くしてそっぽを向いている?

 

(ははあ……)

 

「一夏、お前の好みって織斑先生みたいな人?」

 

「なっ……!?」

 

 耳元でささやくとフルスイングでたじろいだ一夏。おもいっきり図星のようだ。いい気味。

 

「ふーん。そうかー。先生みたいなのがタイプかー。よぉし、箒に言おうっと」

 

「だあぁ! 待て待て!」

 

 慌てる一夏。ケケ、ざまぁ。

 

「さて、お前たちも昼食をとってこい。体調管理をしろよ? 明日の運用試験に響くからな」

 

「「「「はーい」」」」

 

  俺達は昼食を取りに別館の方に歩き出した。

 

 そして、俺達は昼食を食べ終わった後も、時間が許す限り海で遊んだ。

 

  そう言えば、結局箒を見なかったな。どこ行ってたんだろう?


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