IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「いやー、晴れて良かったな」
日曜日。天気は快晴。素晴らしい。
あ、今のなんか俳句っぽかったぜ。五八五だったけど。
来週から始まる臨海学校の準備もあって、俺はとある女子と二人で街に繰り出していた。その女子と言うのが━━━━。
「……………」
なぜか仏頂面のシャルロット……もといシャルだ。
「僕は夢が砕ける音を聞いたよ……」
と、良く分からんがさっきからずっとこの調子だ。ずーんっていうか、どよーんっていうか、とにかくこんな調子なのだ。
ちなみに、シャルの服装は半袖のホワイト・ブラウス。その下にはスカートと同じライトグレーのタンクトップを着ている。ふわりとしたティアードスカートはその短さもあって健康的な脚線美を十二分には演出していた。
ん? どうしてこんなに詳しいかって?
それはな、数日前にこんなことがあったからさ。
◆
『ちょっと瑛斗』
『ん? 鈴か。どうした?』
『アンタ、地球に降りてきたって言ってたけど、服とか持ってたりするの?』
『服?』
『私服よ、私服。アンタ制服ばっか着てるじゃない』
『あー、服ねぇ……あ、ツクヨミにいたときの作業着があるぞ』
『……それだけ?』
『あー、ちょっと待て……あ!』
『!』
『そう言えば、シャツとジーンズがあったぞ! あと、パーカー』
『……それだけ?』
『それだけ』
『……はぁ』
『なんだよ、そのため息』
『やっぱアンタに当たって正解だわ。ほら、コレ』
ドサッ
『あん? なんだ? 雑誌か? しかも大量に』
『これ読んで少しは勉強しなさいよ。アンタ、ファッションに疎過ぎ』
『疎っ……!?』
『そんなんじゃ、地球の流行に乗ってけないわよ? ま、せいぜい頑張るのね』
◆
━━━━ってなことが。
俺は鈴からもらった雑誌を読んで最近の流行を学んだのだ。
その過程で女の人が着る服の特集がある本とかも読んだりして、そういうのから知識を得た。鈴には感謝しないとな。
「どうした、シャル? 具合でも悪いのか?」
心配になって顔を覗き込むと、ぐいいっと押し返された。
「……………」
しかも無言。しかしその視線は非難囂々を告げている。
「シャル、なあ━━━━」
「瑛斗」
「お、おう?」
「乙女の純情をもてあそぶ男は馬に蹴られて死ぬといいよ」
こ、怖い……! とりあえずここは反論しない方が賢い選択だな。
「あ、ああそうだな。俺もそう思う」
「鏡を見なよ」
ん? 寝癖でもついてるのか?いかん。それは格好悪い。
「どうせ、どうせね、こんなことだろうとは思ったよ……。この前も一夏が箒さんにそんなことしてたし。……はぁぁ~~」
うお、いきなり深いため息をつかれた。いったい全体どうしたっていうんだ。まさか無理に付き合わせちまってるのか?
「いや、その、悪い。でもあれだぞ? 無理しない方が良い。なんだったら帰るか?」
「………………」
無言のプレッシャー。うぐぅ……なんだ? この真綿で首を絞められたような気持ちは。どうしよう?
どうしようもないので、俺はいろいろ策を講じてみる。
「そうだ! 付き合ってくれたお礼に他の女子たちが美味しいって言ってた駅前の専門店でパフェおごる!」
「パフェだけ?」
「よし分かった! ケーキとドリンクも付ける!」
自分でハードル上げてるような気がするけど……まあ良いか!
「それと……ん」
そう言ってシャルは手を差し出してきた。
「手、繋いでくれたらいいよ」
「なんだ、そんなことか。お安い御用だぜ」
そう言えばお互いにあまり知らない街だ。それに今日は日曜日。人も大勢いるだろう。なるほど。はぐれないための予防線か。シャルは機転がきくな。
「…………………」
うん? なんで急に黙りこくるんだ?それにさっきよりも顔が赤い。
「大丈夫か?」
「ひゃあっ!? な、なにが!?」
「いや、シャルが。やっぱ帰るか?」
「ううん! 大丈夫! さ、行こう!」
「わ、お、おい!」
シャルに手を引かれ、俺は街の雑踏の中に足を踏み入れた。
◆
「……大丈夫かな。アイツ」
時間を戻して五分ほど前、中国の代表候補生の鈴は物陰から瑛斗とシャルロットを見ていた。
「まさかこんなところで会うなんて……」
実は数日前に鈴が瑛斗に渡した雑誌というのは、自分が読み終えて、処分に困ったものである。理由を作って誰かに渡してしまおうと考え、瑛斗にそれを渡したのだ。
「まあ、アイツにも少しくらいは借りがあるから━━━━」
「何をしてらっしゃいますの?」
「ひゃあっ!?」
振り返るとそこにはイギリスの代表候補生であるセシリアがいた。
「何だ、セシリアか」
「何だとは何ですの?!」
「シッ! それより、アンタ何しに来たのよ」
「うっ! ……そ、それは、あっ、新しい水着をと思って……」
「ふーん? ま、いいわ。それよりあれ見て」
「? 瑛斗さんと、シャルロットさん?」
「デートかしらね? でもそれにしてはシャルロットは不機嫌そう……」
「そうですわね……」
じっと物陰から二人を見る鈴とセシリア。二人とも十代の女子。他人の色恋沙汰に興味がないと言えばウソになる。
「見てっ! 手握った!」
「本当ですわ!」
「追うわよ!」
「ええ!」
立ち上がりかけたその時、後ろから声をかけられた。
「ほう、楽しそうだな。私も交ぜろ」
「「!?」」
そこにいたのは先月、自分たちをコテンパンにしたラウラだった。
「なっ! アンタいつの間に!」
「そう警戒するな。お前たちに危害を加えるつもりはない」
「し、信じられるものですか! 再戦というのなら受けて立ちますわよ!?」
「あのことは、まあ、許せ」
しれっと言われて絶句する鈴とセシリア。
「許せってアンタねぇ……!」
「はいそうですかと言えるわけが……!」
「そうか、では私は瑛斗を追うので失礼する」
すたすたと歩き始めるラウラを止める二人。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「そうですわ! 追ってどうしますの!?」
「決まっているだろう。私も交ざる。それだけだ」
度ストレートに言われ、自分たちももう少し押しが強ければと悔やんだり、羨ましがったりする二人。
「ま、待ちなさいよ。未知数の敵と戦うにはまず情報収集。基本でしょ?」
「ふむ、一理あるな。ではどうする?」
「ここは追跡ののち、二人の関係がどこまでのものなのか見極めましょう」
「なるほどな。では、その作戦で行こう」
ここに英中独追跡同盟が結ばれた。
この際だから言っておこう。
鈴とセシリアは今日、一夏がここに来ると、有力な情報屋(クラスの女子)から聞き出し、待ち伏せ、あわよくば一緒に買い物をと考えていたのだ。
◆
「水着売り場は……あった。ここか」
俺達は駅前のショッピングモール『レゾナンス』の二階にいる。
交通網の中心であるここは地下鉄や電車、バスなんかでも来ることができる。女子曰く、ここには様々な衣服店や食事処があり、品ぞろえが豊富なことから『ここになけりゃ市内のどこにもない』のだそうだ。スゲーことである。
「ところでシャル。お前も水着買うのか?」
「そ、そうだね。……瑛斗は僕の水着姿、見たい?」
うん? 変わった質問をするな。俺が見たいかどうかじゃなく、泳ぎたいかどうかじゃね?
「そうだなぁ、せっかくだし泳ごうぜ。俺、海で泳いだことなんてねえからさ。まあ、飽きるほど見てはいたけどな。ツクヨミで」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあせっかくだから新しいの買おうかなっ」
そう言って繋いだ手に軽く力を込めたシャル。シャルも俺と同じくらい海を楽しみにしてるようだ。
「じゃあ、売り場が違うから、いったんここで別れようぜ」
「あっ…………」
ぱっと手を離したら少し残念そうな顔をされた。一人では心細いのだろうか?
「大丈夫だよ、三十分経ったらまたここで会おうぜ」
「う、うん。わかった」
シャルといったん別れた俺は、早速水着選びに入った。金はエリナさんからもらった物が結構残ってるから心配はない。さーて、どれにしようかな……。
奇抜な色の水着に驚きながら、俺は至って普通そうな青いボクサーパンツタイプの水着を買った。少し時間が余ったけど、まあ、良いか。先に待っていよう。そう思って待ち合わせの場所に行くと、もうシャルが立っていた。
「あれ? もう終わったのか? 随分早いな」
「う、うん。その、瑛斗にも一緒に選んで欲しくて……」
「そうか、じゃあ一緒に見ようぜ」
俺とシャルは女性用水着売り場に足を踏み入れた。普通の男なら尻込みしてしまうところなのだろう、が、俺はそういうのを気にしないタイプだ。
しかし、いざ入ってみるとほかの女性客の視線が俺に集中した。
「そこのあなた」
「ん?」
きょろきょろと辺りを見回すが、ここにはシャルと俺しかいない。
「男のあなたに言ってるのよ。そこの水着、片付けておいて」
と、名前も知らない相手からそんなことを言われる。
「断る。自分でやりやがれ」
俺はこういうのが嫌いだ。ISが男女のパワーバランスを逆転させたのは分かる。だが、その理由に託けて男を小間使いのように扱うヤツが嫌いだ。
「ふうん。そういうこと言うの。自分の立場が分かってないみたいね。すみませぇーん、あのぉー」
そう言って女性は警備員を呼ぼうとする。ちっ、面倒なことを……!
「この━━━━!」
「あの、これくらいでもういいでしょう? 彼は僕━━━━私の連れですから」
俺が声を荒げそうになったところで、シャルが割って入った。
「し、シャル?」
「あら、あなたの男なの? 躾くらいしっかりしておきなさいよ。まったく………これだから男は」
ぶつくさ言いながら女性は店を出ていった。ちなみに今のようなのはごく一部だ。大多数の女性は男の社会的立場というものを認めてくれている。エリナさんや所長がいい例だ。
「瑛斗、ゴメンね。いやな思いさせちゃって」
「ん? ああ。別に構わねえよ。それより、かばってくれてサンキューな」
「そんなの当然だよ。えっと、水着見てくれるかな?」
「おう」
そんなこんなで俺とシャルは女性用水着を見て回った。そして今、シャルが水着を取って試着室に入った。
……俺を連れて。
「あの……シャル? ロットさん?」
「なにかな?」
「何故に俺も入れられたのだろうか」
「す、すぐ着替えるから待っててっ」
「そ、そうか。じゃあ俺は外に出て━━━━」
「だ、ダメ!」
ダメってなに!? どないせーゆーんじゃ!?
「大丈夫。すぐ、終わるからっ」
そしていきなり上着を脱ぎ始めたシャル。って、ええええっ!?
俺はあわてて背を向ける。
(やばいやばいやばい。流石にこれはマズイだろ。やっぱり出るか? いやいや、そしたら一瞬でも半裸の、下手したら全裸のシャルが公衆の面前に……それはマズい! しかしこの状況も限りなくマズい! どうする!? 一体どうすればいいんだ!)
「え、瑛斗?」
「どうする!?」
「ええっ!?」
「あ、ああいや。何でもない。どうした?」
「お、終わったよ? み、見てくれる、かな?」
ええい! こうなったら拝んでやる!俺は意を決して振り返った。
「…………………」
「ど、どうかな?」
ヤバい。スゲー可愛い。なんつーか、こう、スゲー可愛い。あ、ダメだ。さっきと同じこと考えてる。
鮮やかな黄色でセパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれているそれは背中でクロスに繋がれている。その、なんだ、スゲー可愛い。
「あ、あの、一応もう一つもあって━━━━」
「いや! それで良い! それが良い! それにしよう! うん! すごく似合ってるぞ!」
これ以上先ほどのようなことを繰り返したくはない。頼むから勘弁してほしい。
「じゃ、じゃあ、これにするねっ」
弾む声のシャル。よし、今がチャンスだ! 俺は引き留められる前に試着室を出た。
ガチャ
「え?」
「えっ?」
「ええっ?」
なんとドアを開けると、そこには俺達のクラスの副担任の山田先生が立っていたではないか。
その後ろには、顔を引きつらせている一夏と頭を押さえてため息をつく一夏の姉で俺達の担任の織斑先生。
「何をしている、バカ者が……」
次の瞬間、プチパニックを起こした山田先生の悲鳴がこだました。
◆
「はあ、水着を買いに、ですか。でも試着室を二人で使うのは感心しませんよ。教育的にもダメです」
「すみません」
ぺこりと頭を下げて山田先生のお説教を受けるシャル。最近怒られてばっかだな。たぶんほぼ俺のせいだ。申し訳ない。
「そういえば、なんで先生方と一夏は一緒に?」
話題を逸らし、疑問点を解消する。うん、ファインプレーだぞ、俺。
「私たちも水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は勤務中ではないので無理に先生と呼ばなくていいですよ?」
なるほど、疑問①は解消だ。して、疑問②の方。
「一夏とは今さっき会ったばかりだ。なに、少し弟の意見も参考にしようかと思ってな。見ろ。こいつが私に選んだ水着だ」
そう言って、織斑先生は俺に黒の大人っぽい水着を見せた。
「へえ、一夏もなかなか良いセンスしてるじゃねえか」
「うるせえ。良いだろ、別に」
うん? なぜ頬を赤くしてそっぽを向くんだろうか? せっかく褒めたのに。そしてなぜ織斑先生は今ちょっと笑ったんだろう?
「わかりました。ところで━━━━」
俺はそこで言葉を切る。
「もう、出てきていいぞ?」
ギクッという音が聞こえた気がしたが、まあ、気のせいってことで。
「そ、そろそろ出てこようかと思ってたのよ」
「そ、そうですわ」
出てきたのは鈴とセシリアだ。
「それ、お前らが隠れてましたって言ってるのと同じ━━━━」
ズンッ!
ものすごい速さで脛を蹴られた。痛ぇ。すげえ痛ぇ。
「うごおぉぉ……!?」
「じゃ、じゃあアタシはコイツに用があるから!」
「そ、それではまた!」
「え、ちょ、お、おい!」
そしてものすごい速さで一夏を連れてどこかへ行った。もはや拉致じゃね? あれ。
「で、お前はどうなんだ?」
ふと、織斑先生に話しかけられた。
「な、何がっすか?」
脛をさすりながら答える。
「ラウラとのその後だ。どうだ?少しは進展はあったか?」
いきなり何を聞いてくるかと思えば、そんなことか。進展、うーん、進展ねぇ……。
「ま、まあ、あるっちゃあるけど、無いっちゃ無いですかね?」
アイツの場合は進展と襲撃の差が良く分からない。
「そうなのか? キスをした仲だろう?」
「うぐっ……」
「あいつはあいつで良いと思うぞ。ああ見えて結構一途だ。容姿だって悪くない」
「その一途っぷりに困ってるんですけどね。まあ、確かに、ラウラは可愛い、と思いますよ。………ん? いや、何を言わせるんですか!」
この人は何かと人で遊ぶのが上手だ。一夏の苦労も絶えないだろう。
「すまんすまん。ではな」
そう言って織斑先生はレジの方へと向かった。あの人には敵う気がしない俺であった。
◆
時間は十分ほど前にさかのぼる。
鈴、セシリアと行動をともにしていたラウラだったが、瑛斗がいつも通りなのを確認し、ならばこれ以上今にもばれそうな尾行をする必要はないと判断。色とりどりの水着が並ぶ売り場へと移動していた。
(ふむ、そう言えば私も水着を持っていなかったな)
しかしまあ、学校指定のものがあるからいいか。そう考え、冷めた瞳で水着を眺めるラウラ。しかし、次の瞬間、その白い肌はボッと赤くなった。
「ラウラは可愛い、と思いますよ」
いきなり、瑛斗の声が━━━━その言葉が聞こえたのだ。
千冬と話しているというのは把握していたがのだが、盗み聞きは趣味ではないので意識していなかったところへのこの言葉だ。
普段から『褒めろ』と言ってはいるが、実際褒められたことは無かった。しかしそこに来てこの言葉だ。
ラウラの心拍数は上昇の一途を辿る。
(か、可愛い? 私が、可愛い……可愛い……)
テンパったラウラは普段なら使わない集中方を使い、コールする番号を何度も間違え、ISのプライベート・チャンネルを開いた。
◆
それと同じころ、ドイツの国内軍施設。そこは現在、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』、通称『黒ウサギ隊』が訓練を行っていた。
ちなみにこの部隊の隊長はラウラだ。この部隊の隊員全員が肉眼へのナノマシンを移植しており、肉眼の保護と部隊の誇りとして、ラウラと同様に眼帯を装着している。
「何をしている! 現時点で三十七秒の遅れだ! 急げ!」
と、怒号を飛ばしているのは黒ウサギ隊副隊長のクラリッサ・ハルフォーフであった。年齢は二十二。十代が多いこの部隊では最高齢で、面倒見がよい『頼れるお姉さま』である。
その専用機《シュヴァルツェア・ツヴァイク》に緊急暗号通信と同義のプライベート・チャンネルが届いた。
「━━━━受諾。クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」
『わ、私だ……』
本来ならば階級と名前を言わなければならないのだが、向こうの声が妙にそわそわと落ち着いていないのに気づき、クラリッサは眉をひそめた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長ですね? どうしました?」
『あ、ああ。重大な問題が発生した……』
その様子がただ事ではないことから、クラリッサはハンドサインで訓練を中断させ、緊急招集を指示した。
「……部隊を向かわせますか?」
『い、いや、部隊の必要はない。軍事的な問題では、ない……』
「では、いかがいたしましたか?」
『く、クラリッサ……………』
「はい。隊長」
『……わ、わたっ、私は、か、かか、可愛い、らしいぞ?』
「………………」
沈黙。
クラリッサは十秒ほど沈黙し、何かの暗号なのかと推測をした。しかし、『私は可愛いらしい』などという暗号には、覚えがない。
「…………はい?」
結果として、突然そんなことを言われて、声が半オクターブ上がった少々間の抜けた声を上げることになった。
『え、え、瑛斗がそう、言っていて、だな……』
「瑛斗………ああ、隊長が好意を寄せられいるツクヨミの生存者の彼のことですね」
クラリッサはピンときた。
『う、うむ。こういう場合は、ど、どうすればいいんだ?』
「そうですね、まずは現状把握です。直接言われたのですか?」
『い、いや、向こうは私がここにいると思ってはいない』
クラリッサの口の端が、ニィッと吊り上がった。
「━━━━最高じゃないですか」
『そ、そうなのか?』
「本人のいない場所で言われる褒め言葉にウソはありません」
『そ、そうか!』
先程まで不安十割だったラウラの声が一気に明るくなる。そしてクラリッサは筆談で隊員に状況を伝えた。
【隊長の片思いの相手に脈あり】
「「「「「おお~~!」」」」」
と十数名の乙女が盛り上がった声を漏らす。
この部隊とラウラのわだかまりは、VT事件の直後にラウラがクラリッサに『好きな男ができた』と相談をもちかけたことから一気に解消された。
その時の部隊員の様子はただ事ではなく、ほかの部隊から上層部に、
『黒ウサギ隊が兵舎食堂で赤い食材を片っ端からを使って赤い米を炊く謎の儀式を行っている』
と伝令が出るほどだった。
「では隊長、現在の状況を」
『う、うむ。それでだな、今、その、水着売り場にいるんだが…………』
「ほう、水着! そう言えば来週は臨海学校でしたね。隊長はどのような水着を?」
『う、うん? 学校指定の水着だが━━━━』
「何をバカなことを!!」
『!?』
「確かにそれも一つの手でしょう。男子のマニア心をくすぐることは可能です。しかし! それでは! それではっ!!」
『そ、それでは…………?』
「……色物の域をでないっ!!」
『なっ……!?』
「確かに隊長は豊満なボディで男を籠絡するタイプではありません。ですが、ここで際者に逃げるようなことでは『気になるアイツ』から前に進むことはできないのです!」
言葉にどんどん熱が入るクラリッサ。
何を隠そうこのクラリッサ・ハルフォーフ、好きなものは日本の少女マンガ、およびそれに関する文化である。
もっと言うと、ラウラに『気に入った相手を嫁にする』という間違った日本の文化を教えた張本人だ。瑛斗がこれを知れば、ボルケーノクラッシャーを叩き込みに単身ドイツに殴り込みに行くだろう。
『な、ならば……どうする?』
「フッ。私に秘策があります」
そして、クラリッサの目は、キュピーンと光るのだった。