IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
遂にやってきたトーナメント当日。ピットにいた俺はエリナさんからかかってきた電話に対応していた。
「はい? もしもし? エリナさん?」
『あ、瑛斗? この前電話に出れなくてごめんなさいね』
「あ、全然気にしないでください」
『そう?それで、要件はなんだったのかしら?』
「えっと、ですね……エリナさん、ドイツの『ラウラ・ボーデヴィッヒ』って名前に心当たりあります?」
『ラウラ? うーん……。ごめんなさい。無いわ』
「そうですか。ですよね」
『そのラウラって人がどうかしたの?』
「ああ。いや。別になんでもないです。それじゃ。あ、ちょっと大事な用があるんで、しばらく携帯の電源切りますから」
『あ、瑛斗、ボルケーノクラッシャーの方は━━━━』
プツッ
「エリナさんも知らないか……」
「………瑛斗。今、一方的に電話切らなかった?」
シャルルが俺を見て聞いてくる。
「ん?そんなことねえよ」
「そ、そう? なら、いいけど」
「おかしなやつだな。ここに来るまでで疲れちゃったか?」
この日のまでの忙しさは凄いもので、今こうして第一試合が始まる直前まで、全生徒があっちへこっちへ右往左往して会場の準備や来賓の誘導をしていた。そして俺、シャルル、一夏の三人はさっき解放されたアリーナの更衣室を三人で使わせてもらっている。
「しかしすごいなこりゃ……」
一夏がモニターを見ながら呟く。モニターには各国政府関係者や研究員、企業エージェント等々、沢山の人でごった返している観客席が映されている。
「そりゃそうだ。三年にはスカウトが来てるし、二年生には一年間の成果を確認するっていうことで来てる奴も沢山いる。それに技術があれば二年生でも注目されるからな。ま、俺達一年生はそんなに気に病むことはないがな」
今回のトーナメントは鈴、セシリアは出場を許可されていない。怪我のせいでもあるが、やはり自分の力を見せることができないのは悔しいだろう。アイツらの分も頑張らないとな。
「そうは言ってもやっぱり緊張するよね……」
シャルルが自信なさげに呟く。
「大丈夫だって。俺がついてるからよ」
シャルルの肩に手をまわして笑ってみせる。これから一緒に戦うことになるパートナーの緊張をほぐしてやるのも勝利への近道だと、俺は思ってる。
「う、うん。そうだよね……。瑛斗がついてるから大丈夫だよね。……うんっ! 頑張るよ!」
顔をちょっぴり赤くして、後の方は何かモゴモゴ言ってて聞き取れなかったが、どうやら調子が出てきたみたいだ。
「さ、それにしても一夏」
「ん?」
「結局お前、ペア見つからなかったな」
「あー、そうだな。決まらなかったんだよ」
一夏は首を竦めた。
「箒は? てっきりあいつの方から申し込んでくるかと思ったんだがな」
「実は俺もそう思って箒を探したんだけど、どこにもいなくてさ。学校でも休み時間はどっか行っちまうから話しかけらんねーし、夜に部屋に行ってもいないんだよ」
「へぇ~。ま、意外と今から始まる抽選でペアになるかもな」
「はは。かもな」
トーナメントまでにペアが決まらなかった参加者は決まらなかった者同士がランダムにペアを組むシステムになっている。そういや、女子たちが朝早くからクジ作ってたな。ちなみにそのランダムのペアは対戦表と同時に発表される。
「あ、二人とも。対戦表が出るみたいだよ」
モニターに目をやると、画面が変わり、トーナメント表が表示されていた。ちなみに俺とシャルルのペアはAブロックの一回戦一組目だ。
(さぁて、相手はどこのどいつかな).
自分の名前を見つけて、その横の名前を読んだ。
「「「……………え?」」」
◆
「………………」
場所は変わって女子たちが使う更衣室。そこで箒はモニターをじっと静かに見据えていた。しかし、その胸中は穏やかではない。
(こ、こんなことが……こんなことがあるのか!?)
結局最後まで一夏を誘えず、腹をくくって運に任せようと考えたのがいけなかったか、はたまた己の心の弱さがいけなかったのか。なんと箒のペアは━━━━
「……ふん」
ラウラだった。しかも対戦相手は瑛斗とシャルル。ラウラは箒の横で鼻を鳴らすと、そのまま箒の方を向いた。
「……なんだ?」
「専用機も持たない一般生徒などと組むことになるとはさすがに予想できなかったが、まあいい。元から頼りにする気など無かったからな。せいぜい私の邪魔をしないことだな」
ラウラの言葉に箒は何も言い返せない。確かに箒には専用機は無い。専用機が一度に三機も出る戦いに訓練機の打鉄で挑むのはまさに無謀だ。
「………………」
「言いたいことは、それだけだ」
そう言ってラウラは更衣室を出て行った。
(私に……私に専用機があれば……!)
箒は力強く自分の拳を握った。もう彼女の耳には一夏とペアになった女子の喜びの声など聞こえていない。
◆
「まさか一回戦目の相手がいきなりラウラと箒とはな……」
「一回戦目からハードな戦いになりそうだね」
対戦表を見た俺とシャルルは驚愕した。決勝でぶつかる予定だったんだが、こうも早く戦うときが来るとは思わなかったぜ。
「本当は俺もあいつと戦いたかったんだけどよ。まあこればっかりは運だからな。瑛斗、シャルル。先に決勝戦で待っててくれ」
一夏が拳を突きだしてきた。
「おいおい。それは一人前の奴が言うセリフだぞ?」
俺は苦笑しながらその拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「千冬姉みたいな言い方するなよ」
「よし! じゃあ決勝で一夏と戦うためにもまずはこの試合に勝たなくちゃ!」
「おう!」
俺とシャルルは一夏に見送られながら更衣室を出た。
「ねえ、瑛斗」
「ん?」
ピットで待機していると、ふとシャルルが話しかけてきた。
「さっき電話でボーデヴィッヒさんのことを聞いてたみたいだけど、何かあったの?」
「ああ、そのことか。実はよ、俺、あいつの顔に見覚えがあるんだ」
「見覚え?」
「だけど、どうして俺はあいつのことを知ってるのかいまいち覚えてないんだ。向こうはしっかり覚えてるみたいだけどな」
なにせ転校してきて早々、背負い投げさせれたからな。あの時は驚いた。
「直接聞かなかったの?」
「お前、あいつがめちゃくちゃ怒ってたの忘れたのか?シールドがへこむくらいの手刀を叩き込んできたんだぞ」
「あ、そう言えばそんなこともあったね」
「だろ? だから俺は俺達ツクヨミの研究員があいつに何をしたのかを知りたいんだ。もし俺達に非があるなら謝る。けど俺達に何の非もなかったら………」
「なかったら?」
「全力で倒すだけだ」
シャルルは一瞬キョトンとしたがすぐに笑顔になった。
「そうだね。でもおそらく彼女は一年の中で最強だよ」
「最強? バカ言っちゃあいけねえぞ。シャルル」
俺はチッチッチと指を振る。
「最強は、俺たちだ」
「………………」
シャルルが本格的にキョトンとした顔をした。あれ? シャルルさん? 今、結構決まったと思ったんだけどね?
「……ぷっ。ふふ、あははははは!」
そして今度は声をあげて笑い出した。特に面白いことを言ったつもりはないんだがな?
「な、なんだよ、笑うなよ。恥ずかしいだろうが」
「ごめんごめん。ふふふ。そうだね。瑛斗は最強だもんね。頼りにしてるよ?」
「ああ! タイタニック号に乗ったつもりでいてくれ!」
「瑛斗、タイタニックは沈んじゃうよ」
あれ? そうだったかな? すると、試合開始のアナウンスが流れた。どうやら時間になったみたいだ。
「よし! 準備はいいか!」
「もちろん!」
俺とシャルルは会場へと歩き出した。
厚い鉄の扉が開き、日差しと歓声が怒涛になって押し寄せた。
「よお。奇遇だな初戦でぶつかるなんて」
「ふん。そんなに余裕があるとはな」
各々のISを展開し、試合開始の直前。俺はプライベートチャンネルで、漆黒のIS《シュヴァルツェア・レーゲン》を展開したラウラに話しかけた。
「さて、突然だが、一つ賭けをしようぜ」
「賭け?」
「ああ。お前が勝ったら俺を煮るなり焼くなり好きにして構わない。だが、俺が勝ったら、どうして俺を恨むのかその理由を聞かせてもらうぜ」
ラウラの眉がピクッと動いた。そして口元に笑みを浮かべる。
「くっくっ……。そんな賭けを提案するとは、結構な自信だな?」
「まあな。さて、そろそろ始めようか?」
「言われなくとも!」
試合開始のブザーが━━━━、鳴った!
「おおおおおお!」
同時に俺は左手にビームガン、右手にビームソードを構えてラウラに突進する。
「ふん。開始直後に突進か」
直後、俺の動きは完全に停止する。ラウラのAICだ。押しても引いてもビクともしないぜ。
「ああ。その通りだ。良く分かったな。褒めてやるよ」
俺はわざと挑発するように言う。するとラウラは不愉快そうに眉をひそめた。
「では、私が何をしようとしているのかもわかるな?」
ガコン! とリボルバーの回転する音が聞こえ、《G-soul》が警告のウインドウを表示する。
━━━━敵ISの大型レール砲の安全装置解除を確認。警告! ロックオンを確認!━━━━
分かってるよ。慌てんなって。何も一対一ってわけじゃないだろう?
「させないよ」
シャルルが俺の頭上を飛び越えて現れる。そしてアサルトカノン《ガルム》でラウラに爆破(バースト)弾を浴びせる。
「……っち!」
射撃によってラウラの砲撃は俺の顔面スレスレを通り過ぎていく。そしてラウラは後ろに飛び退いた。
「逃がさない!」
シャルルは即座に銃身を正面に突きだした突撃体勢へと移り、左手にアサルトライフルを一秒とかからずに装備する。流石は《
「私も忘れてもらっては困るな」
すると横合いから打鉄を展開した箒が刀を振りおろし、シャルルを後退させた。そうだ。ラウラも強敵だが、こいつも忘れてはいけないな。
「じゃあ、俺も忘れてもらっちゃ困る!」
AICから解放された俺はビームガンを箒に撃つ。射線上にいるシャルルが宙返りでそれを躱し、ビームは真っ直ぐ箒に向かう。絶妙なコンビネーションだ。
「くっ……!」
箒はそれを実体シールドで防ぐ。ふむ、さすがは防御型ISの《打鉄》。堅いな。だが!
「おらおらおらぁっ!」
俺はビームソードを両手に構え、箒と斬り合いを演じる。スラスターの出力と、攻撃の威力を少しずつ上げてじりじりと箒を後ろへ後退させる。
「くっ!。このっ………!」
痺れを切らした箒が刀を大上段に振り上げた。━━━━ここだ!
「シャルル!」
「うん!」
ビームソードをクロスさせて一撃を受け止める。刹那、俺の後ろに控えていたシャルルが二十口径ショットガン《レイン・オブ・サタディ》二丁を俺の両脇から箒目掛けて構える。俺のヘッドギア内蔵型のバルカンもセットだ。
「なっ!?」
蒼ざめる箒が見えたが、その時にはすでに俺達は弾丸を放っていた。
「邪魔だ」
「「「!?」」」
突如、箒の姿が消えた。
「ぐっ!」
「うわぁっ!」
次の瞬間、俺とシャルルは訳が分からないまま、横からの衝撃で吹き飛んだ。
今、俺達にぶつけられたのは━━━━箒!?
ワイヤーで牽引した箒をそのまま質量弾としてぶつけたのか!? なんて真似を!
「な、何をする!」
箒はラウラに抗議をする。しかし返ってきたのは冷たい返事だった。
「貴様を利用してやったのだ。ありがたく思え」
「なっ……!?」
ここまでに冷酷で非道。俺は背筋が凍った。
「私は叩きのめす。この男を。必ず!」
ラウラはカノン砲の照準を俺に合わせた。
「ぐうっ……!」
放たれた砲弾は俺に命中し、手持ちのシールドを吹き飛ばした。
「瑛斗!」
シャルルが俺に近づいてくる。俺はプライベートチャンネルで話しかけた。
『大丈夫。シールドを吹っ飛ばされただけだ。やっぱり一筋縄じゃいかないみたいだ。あの作戦で行くぞ!』
『わ、分かった!』
短いやり取りのあと、俺とシャルルは散開した。そしてシャルルは箒と、俺はラウラと対峙する。
「お前の相手は俺だ!」
「ふん! 元からそのつもりだ!」
ラウラはプラズマ手刀を構え、俺に迫ってきた。
「Gメモリー! セレクトモード!セレクト! ハルトゥス!」
━━━━コード確認しました。ハルトゥス発動許可します━━━━
《G-soul》の装甲が肩から全体を包むカバーのようなフルシールドに覆われ手刀を受け止める。
「なっ!?」
「食らえ!」
俺はフルシールドを開き、ビームピストルでラウラに続けざまにビーム弾を浴びせる。ハルトゥスは射撃戦重視の装備。色々な射撃武器を装備している。ビームピストルは威力は低いが連射ができ、近距離射撃にもってこいだ。
「なめるなぁっ!」
ラウラは右手を突き出しAICで俺の動きを止めにかかる。
「その手は何度も通じな━━━━」
AICの効果が及ぶ範囲から退避しようとしたが、動けなかった。足にワイヤーが!
「ふっ、無防備だな」
ラウラはワイヤーブレードで俺に襲い掛かった。
「ぐあああっ!」
シールドエネルギーが減少していく。だがここは耐えるしかないっ!
「終わりだ!」
ラウラはカノン砲を俺に向けた。
(━━━━今だ!)
「シャルルッ!」
「おまたせ」
甲高い音とともに砲弾がシャルルのシールドに防がれる。危なかった……。
「チッ!」
後退するラウラ。俺は体勢を立て直した。
「箒は?」
「お休み中」
見るとアリーナの端で悔しそうに呻きながら膝を折る箒の姿があった。打鉄の損傷度から見てシールドエネルギーは〇だな。
「よし。上出来だ」
「後は君だけだよ?」
俺は《G-soul》をノーマルモードに戻す。そしてビームガンを構えた。シャルルもショットガンとマシンガンをそれぞれ両手に構えた。
「ここからが本番だね」
「ああ。見せてやるぜ。俺達のコンビネーション!」
「……さない」
突然ラウラは動きを止めた。どうしたんだ?
「私はお前を、いや、お前たちを許さない!」
ラウラは自分の左目の眼帯を取った。
「「!?」」
その眼帯に隠されていた目は金色に輝いていた。あの目は一体……?
「この目を見てもまだわからぬか! あの時! あの時貴様らが! ドイツの技術開発に協力していれば! 私のこの『
ヴォーダン・オージェ? 一体何のことだ?
わからない。しかし、その金色の瞳は怒りに燃えている。激しく、どす黒い、怒りの炎に。
「貴様らがああああっ!!」
「なっ!?」
今までとは比べ物にならないスピードで接近したラウラはプラズマ手刀で切りかかってきた。咄嗟にビームソードでそれを受け止めるが、ものすごく重い一撃だ……!
「瑛斗!」
シャルルがラウラを俺から引き剥がそうと攻撃を仕掛ける。ラウラは猛獣のような目でシャルルの方を睨んだ。
「邪魔をするなあっ!!」
「ああっ!」
「シャルル!?」
カノン砲の砲身をシャルルに向けて2発を至近距離でシャルルに撃った。直撃を受けたシャルルは大きく吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
一瞬、シャルルに注意が向き、俺はラウラの蹴りを諸に受けてしまった。マズい。エネルギーが残り少ない!
「許さない! 絶対に!」
ラウラはワイヤーで俺の手足の動きを止めた。そしてカノン砲を俺に向ける。
やられる……!
「━━━━なんてな」
俺は四発分のエネルギーを使ってビームガンを斜め前に撃った。
「?」
ラウラは俺が何をしたのか分からないというような顔をしている。
「……驚けよ?」
「!?」
ラウラは突然の後ろからの攻撃に揺さぶられた。振り向くが誰もいない。そりゃそうだ。シャルルはそっちには吹っ飛んでない。ただ、そこにあるのは、
「なっ……!?」
BRFが発動している俺のシールドだけだ。
「種明かしだ。BRFはな、ビームを特殊な粒子で偏光、屈折、消滅させることができる。出力を調整すれば、弾道だって変えられる」
「いつからそんなものを!?」
「あの時だよ。お前が箒をそのまま俺達にぶつけて、俺にカノン砲を直撃させてシールドを吹っ飛ばした時」
「!」
「最初は気づかなかったんだけどよ、たぶん落下のショックで起動したんだろうな。最低出力でBRFが発動してた」
「運任せな……ッ!」
「運も実力の内だ。あ、そうそう。もう一つお知らせだ。ただいま、お前を倒す最後の攻撃が接近中」
俺はゆるくなったワイヤーをほどき、後ろを指差す。
「!?」
「ハアァァァッ!」
そこには瞬間加速でラウラに突進するシャルルの姿があった。まさか瞬間加速で来るとは。呑み込みが早いな。
「これで決めるよ!」
シャルルの大型実体シールドが弾け飛び、中からリボルバーと杭が一緒になったような武器が姿を現した。六九口径パイルバンカー《
またの名を━━━━!
「『
AICを発動しようとラウラは手を伸ばす。瞬間加速で接近してきたんだ。全身停止は間に合わない。やるならばピンポイントで当てるしかない。だけどな。
「させねえよ」
ビームガンを一発撃ち、AICを中断させる。これで『盾殺し』は直撃確定だ。
「ハアアアアッ!」
爆裂する衝撃。
「うぐぅぅ……!」
絶対防御が発動するがシールドエネルギーはごっそり削られる。そしてシャルルは容赦なく第二、第三弾と続けて撃った。
(……勝ったな)
俺は勝利を確信した。だが、そこから異変は起きた。
◆
(負ける? 私が? こんなところで?)
攻撃を受けながら、私は自問していた。確かに相手の力量を見誤った。それは認めよう。だが━━━━
(負けられない! 負けたくない……!)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
それが私の名前だ。
だが、正確に言えば本当の名━━━━記号は、遺伝子強化試験体C-〇〇三七。人工的につくられ、鉄の子宮から生まれた私はただ戦いの為だけにつくられた。教わったのは如何にして人を攻撃するか。どうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。ただそれだけだった。
格闘を覚え、銃を習い、あらゆる兵器の運用において、最高の成績を収めた。だが、すべてISが現れてから一変した。その適合性向上の為の処置『ヴォーダン・オージェ』によって異変が生まれたのだ。
『ヴォーダン・オージェ』というナノマシン移植処理を施された私の左目は黄金色に変色し、常に稼動状態のままカットできなくなったのだ。
そしてこれによって私はISの操縦においてほかの隊員に後れをとるようになった。そしてトップの座から転落した私を待っていたのは隊員からの嘲笑と侮蔑。
私はそれ以来あまり人と接しなくなった。そんなあるとき、私はある技術者からこんなことを聞いた。
━━━━君のその目はツクヨミの研究員たちが技術面の協力を拒み、我々ドイツだけの技術でナノマシンを開発したからだ━━━━
私はそれから宇宙ステーション《ツクヨミ》のIS研究所の研究員に恨みを募らせた。いつか、いつか必ずこの手で! 強い強い憎しみを、空っぽの心に抱えて。
そして今、その研究所の生き残りがここにいる。私をこんな体にした、私の敵が……!
倒す。倒さなければならない!
(力が、欲しい……)
ドクン……
私の心で何かがうごめく。そして、そいつは言った。
『願うか……? 汝、自ら変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』
言うまでもない。力があるなら、それを得られるのなら、私など━━━━空っぽの私など、何から何までくれてやる!
さあ! 力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を━━━━私によこせ!
Damage level……………D.
Mind condition……………Uplift.
Certification……………clear.
《Valkyrie Trace System》……………boot.
◆
「ああああああああっ!!!」
突然ラウラが身が裂けんばかりの悲鳴を上げた。
そしてシュヴァルツェア・レーゲンから強い電流が走り、シャルルが吹き飛ばされる。
「い、一体何が……!?」
そして俺とシャルルは信じられない光景を目にした。ラウラが、ISから噴き出した黒いドロドロした物体に飲み込まれた。
(あれは……まさか!?)
「おい……嘘だろ……!?」
「瑛斗! あれは何なの!?」
「全世界で、開発、設計が禁じられている禁忌のシステム……。《VTシステム》だ……!」
「VT……システム……?」
「VT……ヴァルキリー・トレース。歴代ヴァルキリーの戦闘データをコピーして、そっくりそのままの動きを他のISでやろうっていうマッドサイエンティストの妄想だ。理論上は可能だ。だが、常人にはとてもじゃないが扱えない。しかも、こいつのデータはとんでもないぜ……!」
ラウラの体を飲み込んだ物体はあるものを……ある人をかたどった。それは━━━━。
「最初にして、最強のヴァルキリー。織斑千冬の戦闘データだ!」