IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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ついに最終回です。
いろいろ悩んで、悩み抜いて、書き上げました。
後書きに大切な挨拶を書いたので、最後まで読んでいただきたいです。


over the world 〜またはここから始まる物語〜

「えいっ! やあっ!」

 

 篠ノ之神社に隣接する剣道場。

 道着を着た子供たちが、揃った掛け声と共に竹刀を振るう。

 同じく道着姿の一人の女性——箒が、それを厳しくも温かい眼差しで見守っている。

 

 織斑季檍との戦いから二年。

 IS学園を卒業した少女たちは、それぞれの道へ踏み出した。

 箒はこの道場を継ぎ、地域の子どもたちに剣術を指南している。

 

「……そこまでっ!」

 

 箒の一声で子供たちは竹刀を下ろす。

 

「今日の鍛錬はここまでにする。皆、気をつけて帰るように」

 

「「「先生、ありがとうございました!」」」

 

 声を合わせて礼をした子供たちは、荷物をまとめて道場から去っていく。

 箒はその見送りを終え、短く息を吐くと、機会をうかがっていたかのように道場と家を繋ぐ通路の戸が開いた。

 

「箒ちゃん、お疲れさま」

 

「雪子おばさん」

 

「すっかりこの道場の師範が板についたわね。私、嬉しいわ」

 

「いえ。私もまだまだ修行の身。父上には到底及びません」

 

「どうかしら。正式に特別保護プログラムが解かれて、義姉さんと一緒に世界中旅して回ってる今なら、箒ちゃんの方が強いかもしれないわよ?」

 

「冗談はよしてくださいよ」

 

「ふふふ。お風呂出来てるわ。汗を流してらっしゃい。その間に着替えも用意しておくわ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 湯浴みをして身を清めた箒は、雪子の用意した着替え——鮮やかな紅色の着物に袖を通した。

 

「……少し派手過ぎはしませんか?」

 

 姿見に映る自分を見て顔を赤らめる。

 

「何言ってるの。せっかくの晴れ舞台ですもの。うんとおめかししなくっちゃ」

 

 そう言った雪子は、箒の肩越しに続けて囁いた。

 

「彼も、きっと喜んでくれるわよ?」

 

「っ! あ、あいつは別に——!」

 

 箒が反論しかけた瞬間、呼び鈴が鳴る。

 

「あ、お迎えが来たみたいね」

 

 二人で玄関に向かい、雪子が引き戸を開けると、外にいたメイド服の女性がうやうやしく頭を下げた。

 

「お久しぶりでございます、篠ノ之箒さま。お迎えにあがりました」

 

 オルコット家の筆頭侍女、チェルシー・ブランケットその人である。

 

「ご無沙汰してます、チェルシーさん。わざわざすみません。こちらの都合に合わせてもらって」

 

「お嬢様のご意志ですので、どうぞお気になさらず」

 

 チェルシーは箒の挨拶に柔和な笑みを浮かべる。雪子は「本の中から飛び出して来たみたいなメイドさんねぇ」とチェルシーの佇まいに感嘆した。

 

「では参りましょうか。セシリアお嬢さまたちがお待ちです」

 

「わかりました。おばさん、行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 チェルシーと共に家から出た箒は、見覚えのある白のロールスロイスが停車しているのを認めた。

 

「箒さん!」

 

「あ、来た来た!」

 

 ドアを開けてくれたチェルシーに会釈してから車内に入ると、わずかに大人びた、しかし見覚えのある顔が並んでいた。

 

「セシリア、鈴。元気だったか?」

 

「ええ。箒さんも。お元気そうで何よりですわ」

 

「こうやって三人まとめて顔を合わせるのは半年ぶりかしら。しばらく見ないうちに、またちょっと大人っぽくなったんじゃない?」

 

 下から上へじっくり鈴に見られ、箒は気恥ずかしさに膝の上の手をモジモジと絡める。

 

「そ、そうか? お前にそう言われるとおもばゆいな。二人も見違えたぞ」

 

 談笑の途切れたタイミングで車が発進する。

 

「それにしても着物かぁ。いかにもって感じね。あたしが言えた義理じゃないけど」

 

 そう言う鈴は真紅のチャイナドレスで、スリットから覗くスラリと伸びた脚が眩しい。

 

「国家代表ってのも大変よ。政府のお偉いさんの見栄っ張りに付き合わなくちゃいけないんだもの」

 

「そうなるとセシリアは意外だな。てっきりドレスでも着ているとばかり」

 

 公務用の白いスーツを纏うセシリアは、フフンと澄まし顔で鼻を鳴らした。

 

「今回のわたくしは国家代表だけでなくスポンサーとしての出席も兼ねていますの。はしゃいでばかりもいられませんわ」

 

「と、仰られていますが、お嬢さまは新しいドレスもしっかり用意しているんですよ?」

 

「ち、チェルシー!」

 

 運転席からの一言で、車内にまた笑い声が生まれる。

 

「そうか。二人が国家代表か……」

 

 ひとしきり笑い終えて、箒がつぶやく。

 

「セシリアはともかく、鈴は大変だったな」

 

「まあね。あたしがこうしていられるのも、皆のおかげだわ」

 

「IS運用において実権を握っていた中国軍上層部の一斉摘発なんて、クーデターの一歩手前でしたもの。今思えば、かなりの無茶でしたわ。……ですが、感慨深そうに言いますけれど箒さん、わたくしたちが何も知らないと思いまして?」

 

「え?」

 

「国家代表間の情報網、ナメないでよね。あんたが日本代表になるのは秒読みだって、わかってるんだから」

 

「なっ!? だ、誰から聞いたっ?」

 

「そりゃあ、今や世界中を飛び回って取材してる元新聞部のエースさんよ」

 

「黛さん……! あの人はまったく……」

 

「その反応は、真実ということですわね。道場の方はよろしいのですか?」

 

「ああ。むろん道場も続ける。あの道場もあの家も、私たち家族の象徴だからな。手放すわけにはいかない」

 

「いいこと言うじゃない。あたし、応援する!」

 

「わたくしもですわ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 そして、車は三人にとって最もゆかりのあるあの場所へ。

 

「わあ、懐かしいわね! ——IS学園!」

 

 IS操縦者を養成する特別施設、IS学園。

 白に統一された校舎と、中央にそびえる巨大なタワーは箒たちの記憶に残るものと何ら変わらない。

 正門前で車を降りた一同を出迎えたのは、豊満なバストが目を惹く眼鏡の女性。

 

「みなさ〜ん! お久しぶりです〜!」

 

「山田先生! ご健勝で何よりですわ!」

 

「うわ、山田先生あの頃から見た目全然変わってない!」

 

「こら鈴。失礼だぞ」

 

「うふふ。構いませんよ。さ、行きましょう。生徒のみなさんが騒ぎだす前に——」

 

「あ! セシリア・オルコットに凰鈴音! 篠ノ之箒もいる!」

 

「えっ! どこどこ!?」

 

「本当だ! 本当に本物だよ!」

 

 真耶が言い終えるより早く、学園生徒たちが押し寄せる。

 

「……騒ぎだす、前に……」

 

「秒で気づかれたわ」

 

「まあ、無理もありませんわね」

 

 と、生徒たちと箒たちの間に二人の少女が割り込んだ。

 

「はーい、そこまでです」

 

「ご来賓の方々の案内は我々生徒会が担当します。みなさん、道を開けてください」

 

 制服に腕章をつけた、まるで鏡合わせのようにそっくりな相貌を持つ少女。

 

「シェプフとツァーシャ……!」

 

 クラウン・リーパーの忘れ形見の双子姉妹。

 彼女たちはIS学園にその身を置いていた。

 

「まったく。自分たちの認知度ってものをしっかり把握してほしいです」

 

「どうぞこちらへ。ご案内します」

 

「あ、ああ」

 

 前を歩く二人を見て、鈴は箒とセシリアに耳打ちする。

 

「ね、ねえ、さっきあの子たち、生徒会って言ったわよね?」

 

「ああ、言ったな」

 

「ええ、言いましたわ」

 

「お二人ともしっかり働いてくれてますよ。生徒会長のアバルキンさんとの仲も良好ですし」

 

 真耶の発言に、三人は以前楯無に紹介された少女の顔を思い出した。

 

「なんだか、世代交代ってものを目の当たりにしてる気分だわ」

 

「時の流れは平等、というわけですわね」

 

 双子の案内で学園内を進む箒たちの一行は、その姿を一目見ようと集まった生徒たちの間を抜け、中央タワーの最上階へと赴いた。

 

 そこで最初に出会ったのは、書類の束を運んでいたエリナだった。

 

「あら、三人とも。来てくれたのね」

 

「エリナさん。こんにちは」

 

「今日はよろしくお願いしますわ」

 

「ええ、こちらこそ。ちょうど蘭ちゃんたちが着いたところよ」

 

「鈴さん!」

 

「蘭! 元気そうね。梢も、また背伸びた?」

 

「……久しぶりに会った親戚的ムーブ。でも、会えて嬉しい」

 

「お店の方は順調?」

 

「はい! 近々二号店を作る予定で! お兄が店長なんですよ!」

 

「……私たちも、そこで働く」

 

「虚もね。まったく、おねーさんのメイドを攫っていくなんて、弾くんも隅に置けないわね」

 

「楯無さん!」

 

「うふふ、またみんなに会えておねーさん嬉しいわ」

 

 梢の背後から現れたのはロシア代表として今なお活躍している楯無。開いた扇子には『再会』と達筆な二文字が書かれている。

 

「先日の親善試合ではお世話になりましたわ」

 

「こちらこそ。セシリアちゃんも国の代表として堂々と戦えていたわよ」

 

「次はあたしとですから、覚悟しておいてくださいよ!」

 

「ええ。お互い、いい試合をしましょうね」

 

 語らう楯無たちを横目に、箒はキョロキョロと首を巡らした。

 

(あいつは……まだ来ていないのか)

 

 来ない、ということは無いと思うが、どこか寂しい。

 早く会いたい。そう念じた時。

 

「——あれ? 俺が最後か」

 

 扉が開き、声がした。

 そこにいたのは、最愛の人。

 

「一夏っ!」

 

 箒の声に続いて、鈴やセシリアたちも一夏に注目する。

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

 少女たちを見て穏やかな表情を浮かべる一夏。

 

「もう、遅かったじゃない!」

 

「ごめん。NEIS(ネイス)の機能テストが長引いてさ」

 

「NEIS……男女平等に使える新型のパワードスーツねぇ。本当に上手くいくの?」

 

「瑛斗と束さんが開発に関わってるし大丈夫さ。それに良い報告もあるん——」

 

「そ、れ、よ、り、も!」

 

 楯無が一夏にぐいと迫った。

 

「久しぶりに会ったんだから、もっと言うことがあるんじゃない? 私たちの、あ・な・た?」

 

「た、たてな……刀奈さん」

 

()()()()()()()()()なんて大見得を切ったんですもの。それくらいの甲斐性、見せてくれなくちゃ」

 

 一夏の胸板を指先でなぞる楯無、もとい刀奈。

 

「た、楯無さんズルい! あたしも!」

 

「わたくしだって一夏さんとお話ししたいことがたくさんありますのに!」

 

「はしゃいでられないとか言ってたの誰よ!」

 

「……蘭、ごーごー」

 

「こ、梢ちゃん! 地味に強めな力で背中を押さないで!?」

 

 すると、ピピーッとホイッスルが鳴った。

 

「貴様らは相変わらず騒がしいな。……って、お姉ちゃんなら言うよ」

 

 そう言って現れたのは、黒スーツに身を包み、危険な刑事めいたサングラスをかけた千冬……ではなくマドカ。

 

「ま、マドカちゃん?」

 

「えー、こほん。お兄ちゃんのマネージャーである私の記録では、みんな今日まで全く同じ比率でお兄ちゃんと接してます」

 

「う、うん?」

 

「というわけで! 今日は私がお兄ちゃんを独占しまーす!」

 

「へー、ってなるわけないでしょ!」

 

「そんな記録を取ってるなんて初耳ですわ!」

 

 一夏からマドカを引き剥がそうとする鈴とセシリア。

 なおもを背を押す梢と押されて戸惑う蘭。

 からからと笑う楯無……。

 

「——ふ、ふふっ、あはははっ!」

 

「箒?」

 

 唐突に笑いだした箒に、一同の視線が集まる。

 

「いや、すまない。なんだか懐かしくて、嬉しくて……。つい笑ってしまった」

 

「そうだな。たしかにこの感じ、懐かしい」

 

 マドカの頭を撫でる一夏。

 温かな雰囲気に包まれる空間で、真耶がおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あのぉ、マドカさんが来た、ということは……?」

 

「あ、そうだったそうだった。お姉ちゃんが瑛斗たちとの通信をつなげって。向こうの準備ができたみたい」

 

「ついに始まるんだな」

 

「瑛斗さんたち、本当に行ってしまわれるのですね……」

 

「新しい『プロジェクト・アヴァロン』か……」

 

 一夏たちはタワーの窓から見えるの空、宇宙へ向けて遠い視線を投げた。

 

 ◆

 

 宇宙。

 

 静止軌道上に浮かぶそれは、天刀吏舟(あめのとりふね)であった。

 攻撃システムを取り払い、完全に宇宙船として改修されたその内部で、瑛斗は無重力に身体を預け、丸窓から眼下に広がる地球を見ている。

 

「瑛斗」

 

 呼びかけに振り向くと、無重力下での移動にすっかり慣れた様子のシャルロットがこちらに向かって来ていた。

 

「ここにいたんだ。そろそろ時間だよ」

 

「ああ。今行く」

 

 床を蹴った瑛斗は、シャルロットとともに、ブリッジへ続く道を進む。

 

「今頃、一夏や箒たちも学園に集まってるころだよ」

 

「懐かしいな。メールとか電話のやり取りはあっても、直接顔を合わせるのは久しぶりだ」

 

 ブリッジに入ると、簪とラウラ、エリスと本音が配置についていた。

 

「あ〜、きりりん来た〜」

 

「瑛斗さん、お待ちしてたっすよ」

 

「瑛斗、何をしている。準備が整っても指揮官がいなければ話にならんではないか」

 

「ごめんごめん。ちょっと、地球を見てた」

 

 苦笑しつつ瑛斗は中央の座席に腰を下ろす。

 

「地球……?」

 

「出発の前に見ておきたくてさ。でももう充分だ。IS学園との通信を繋いでくれ」

 

「はいっす」

 

 エリスがコンソールを操作して、中央のモニターに地上、IS学園中央タワー内部を映し出す。

 

『よう、瑛斗。元気そうで良かった』

 

「そっちもな、一夏。NEISの方はどうだ? 俺たちが宇宙に上がってから進展があったか?」

 

『聞いてくれ。開発に協力してくれていた全界炸劃(フル・スフィリアム)の人たちがNEISを動かせたんだ!』

 

「本当か!? すごいじゃないか! 半年前にようやくお前が動かせるようになったばかりなのに!」

 

『ヒカルノさんたちの頑張りのおかげだよ。PICを使った浮遊時間もどんどん記録が更新されてるし、お前たちが帰ってくる頃には完成してるかもしれないぞ』

 

『ちょっと一夏! あたしたちもいるんだから!』

 

 一夏を押しのけるようにして鈴が顔を出した。

 

『ハーイ! 瑛斗! シャルロットたちも!』

 

「鈴! みんなも久しぶり!」

 

『簪ちゃん、本音。おねーさんよ』

 

「お姉ちゃん……!」

 

「わは〜、ごぶさた〜」

 

『瑛斗、エリス、調子はどう?』

 

「エリナ先輩! この通り、元気っすよ!」

 

 画面の向こうに集う面々に、瑛斗たちは笑顔を見せる。

 埋もれていた一夏はやっとの思いで顔を出すと、今度は瑛斗だけでなくその画面の映像自体に言及した。

 

『にしても、その配置、マジで宇宙船の艦長みたいだな』

 

「そんな大したもんじゃないって」

 

『大したことあるさ。何せ、これから別の世界に行くんだからさ』

 

 新生プロジェクト・アヴァロン

 二年前に頓挫したプロジェクト・アヴァロンを再始動させたものだが、内容は外宇宙の探索ではなくなっている。

 

 並行世界への転移航行。

 偶発的にだが確かに観測された別世界。

 そこへ直接赴き、そして調査する。

 

 それが新たなプロジェクト・アヴァロンの概要である。

 今回はその第一回目。

 これを始発点に、瑛斗たちはさまざまな世界を、文字通り()()()()()()()

 

「セシリア。礼を言うよ。お前のところの資金援助がなかったらここまでは来れなかった」

 

『このプロジェクトには世界中が注目しています。旅の成功を祈りますわ』

 

「二年前俺たちを助けてくれた並行世界の篠ノ之博士が送ってきたデータと、《白式》の瞬間移動能力を解析して組み上げた技術なら、きっと上手くいく」

 

 そこへ、別の映像通信が入った。

 

『こちらIS学園地下司令部よ。瑛斗、聞こえてる?』

 

「ああ。スコール、聞こえてる。お前も見送ってくれるのか?」

 

『まあね。ほら、オータムも何か言ったら?』

 

『ケッ、とっとと行けよ。せーせーすらぁ』

 

『まったく、素直に別れの言葉も言えんのか』

 

 映像の向こうでオータムの頬をつねるチヨリ。

 

『てめえババァ! 何しやがんだ!』

 

『もう、しょうがないんだから』

 

 騒がしくなる大人(?)たちを隠すように、千冬が前に出た。

 

『桐野、これより計画を実行に移す。それにあたり——』

 

『最後の内容説明だよ!』

 

 通信に割り込んで来たのは束。その横にはクロエも控えている。

 

『これから学園の中央タワーの頂上に設置したガジェットからエネルギーを天刀吏舟に送信。船内の炉心で増幅したエネルギーを放出して強力な時空干渉を発生させて時空に穴、(ゲート)を作って、そこを天刀吏舟で潜り抜けるん——だ!?」

 

 ギリギリで言い切った束を、千冬が頭を掴まれて投げ飛ばす様子が映ってから、画面に戻った千冬は咳払いした。

 

『我々の世界と接触した向こうの世界とは、道が繋がっている状態で、あとはこちらが門を開くだけだ。最初の瞬間に全てが懸かっていると言っていい。心するように』

 

『もー、ちーちゃん! あんまり脅かしてもしょうがないでしょー』

 

『お前の説明だけでは却って不安になるだろうが』

 

「安心してください、先生。必ず成功させますから」

 

『……頼むぞ。よし、ではこれより新生プロジェクト・アヴァロンを開始する!』

 

『瑛斗! 向こうの俺たちによろしくな!』

 

 映像通信が終わり、画面にエネルギー到着までのカウントダウンが表示される。

 その数字の減少を見守りつつ、瑛斗は真剣な顔つきになった。

 

「……みんな、本当に良いんだな?」

 

「前にも言ったでしょ。瑛斗と一緒ならどこへだって行くって」

 

「お前は私の嫁だ。夫婦とはいつまでも添い遂げるものだろう?」

 

「私も、瑛斗と一緒にいたい……」

 

「じ、自分はっ! いえ、自分も! 瑛斗さんが行くところにご一緒したいっす!」

 

「私は〜、かんちゃんのメイドだし〜、この舟のメカニック補佐だし〜、それから〜、まだ見ぬお菓子〜!」

 

 最後の本音のコメントに、わずかに張り詰めた空気がほぐれる。

 瑛斗は(一夏をどうこう言えないな……)と自嘲気味に笑って、みんなにしっかり聞こえるように言葉を紡いだ。

 

「——ありがとう」

 

 そして、カウントは残り10秒を切った。

 

「エネルギー到達まで、四、三、二、一……到達!」

 

 簪の報告の直後に船体が大きく揺れ、エネルギーの増幅が開始される。

 

「増幅進度問題なし。間も無く臨界!」

 

「時空干渉エネルギー、発射できるよ! 瑛斗!」

 

「よし、放射!」

 

 天刀吏舟の先端に取り付けられた砲門からエネルギーが解き放たれ、船体の100メートル先の空間に沈んでいく。

 エネルギーを放射し終えて5秒後、空間が捻れ始めた。

 

(ゲート)、開くっす!」

 

 門が開放された。

 それは宇宙よりも鮮やかな色合いで、星のような煌めきを蓄えている。

 

「これが、並行世界への入り口か……!」

 

「おお〜! きれい〜!」

 

 過去を経て——。

 

 未来を歩み——。

 

 成層圏は飛び越えた。

 

「さあ、行こうか。無限に続く世界が、俺たちを待ってる!」

 

 これは、成層圏を超え、世界を超えて続いていく、遥か無限の物語。




これにて、この小説は本当に完結です。
ここまで付き合ってくださった読者の皆様に心から感謝します。
にじファン時代から書き始めたこの作品は、他人からの評価は気にせず、ただエタらないことを目標として書いてきたものでした。
それでも、この作品を楽しみに読んでくれている読者の方が一人でもいてくれたなら私は嬉しいです。

ハーレム物の結末というのは本当に悩ましいもので、この真・終章を書き始めると決めた時から試行錯誤していました。
その結果、一夏も瑛斗も、ヒロインたちと共に生きる。というものになりました。

瑛斗は最後に自らの世界を旅立ち、別の世界へと向かいます。
もしかしたら、ここまで読んでくださったあなたの作品の世界にいるかもしれません。

コラボも大歓迎です。
ISでも、それ以外の作品でも好きに使ってください。

最後に、四年近くのご愛読ありがとうございました!

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