IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「うっ……うぅ……!」
俺は泣いていた。
許せなかった。
自分の無力さ、情けなさが。
所長があの時俺を脱出させてくれていなかったら俺は今頃宇宙の塵になっていただろう。
左腕につけていた、待機状態のISが音を立てた。俺は身寄りがなかったところを所長に拾われ、六歳であの宇宙ステーションに行き、そこでISの基礎知識を学んで、所長の手伝いをした。このISだって俺と所長が一緒に作ったものだ。
「《G-soul》……!」
それがこのISの名前だ。俺のアイディアと所長の作ったバイオコンピューターが内蔵された、ツクヨミにある唯一の完成されたIS。
━━━━だが、それがなんだ。
俺は男だ。男はISを使えない。本当は別の誰かに渡されるはずだったこの機体。所長はなぜかそれを俺に渡したのだ。
「……?」
ふとディスプレイにメッセージが表示された。文面はこうだった。
『この脱出ポッドはパラシュートを装着することを前提とし、大気圏内に突入完了後、十五秒後に自動分解を開始します』
「…………………」
えーと、掻い摘んで、かみ砕いて、分かりやすく言うと、俺は大気圏突入後、十五秒したらスカイダイビングをしなきゃいけないのか。そうかそうか。あっはっはっは。
「ちょっと待てい!?」
え? 何? スカイダイビング? 宇宙に住んで八年くらい経つけど、地球に戻ってきていきなりスカイダイビングっておかしいだろそれ!!
「ぱ、パラシュート! パラシュートは!?」
それらしきものはどこにもない。ってことはつまり……。
「ああ、俺、死んだな」
おそらく地面に落下した衝撃で俺は即死だろう。ミンチよりひどいことになるかもしれん。いや、なるな。これは。
「ど、どうしよう!どうすりゃいいんだ!?」
あわあわと慌てるが、一向にいい案は思い浮かばない。どの作戦も俺がミンチになる結末を迎えているのだ。しかし、考えてる間にもどんどんポッドは降下し、もうすぐ大気圏に突入するというところまで来ていた。
「やばいやばいやばい! ホントどうすんだよ!」
そしてついにその時は訪れた。ピシッ、ピシッとポッドの壁に亀裂が入り、バカッと割れて視界に青空が広がった。
「所長の向こう見ずー! ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
所長へ一言文句を言ってから俺のパラシュートなしのスカイダイビングは始まった。息ができない。体の向きを変えようにも、体が動かない。
重力半端ねえ。やばいぞ。どんどん地表が近づいてる。このままではあの島に墜落してしまう。あれは……学校か? なんてこった、学校なんかに落ちたら、新聞の一面に載ってしまう。なんとかせねば……。
「!」
すると俺の目にあるものが飛びこんだ。
待機中の
「一か八か……!」
俺は藁にもすがる思いでG-soulに意識を集中させた。
俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。
所長が助けてくれたこの命を、こんなところで消してたまるか!
「G-soul! 俺のISなら、なんとか━━━━!」
焼け付くような熱を、言葉にして吐き出した。
「なんとか……しやがれえぇぇぇぇぇぇ!!」
カッ! と眩い閃光に視界を塗りつぶされ、目を覆った。
目を開けると、そこには見慣れない手があった。白に黄色のラインが入った大型の小手のようなものが俺の手を包んでいたのだ。
「マジかよっ!?」
俺が、俺がISを動かしている!
夢かと思ったが、体中に感じる風が現実を物語っている。
「よぉし!」
俺はまずこの落下速度をどうにかしようとした。姿勢制御系の装備は……背部スラスター。よし、これは使える!
「動けっ!」
叫ぶと、豪快な音を立てながらスラスターが起動した。
うん。稼働に問題はない。見れば、フォーマットとフィッティングも完了している。しかし、なぜだろうか、減速したいはずなのに、さっきより速度が上がってる気がする。疑問を感じていると、俺の前に画像が浮かび上がった。
『速度超過。
さっきも見たぞこんなの……!
『ショック対策として、ビームバリアの使用を推奨します』
「そうか! その手があった!」
俺は腕に装備されているビームバリアを最大展開した。最大展開の光の盾は大分目立つ。だがそんな事はもう関係ない。むしろ誰かに見つけてもらえたなら好都合!
「う……おおおっ!!」
そして、俺は自身の無事を祈りながら、森へ突っ込んだ。
地面を削りながら、ひたすら歯を食いしばり、衝撃に耐える。最後は大木の根に身体を打ちつけて止まった。
「た……助かった……のか……?」
ぐらぐらと揺れる視界。息も絶え絶えになりながらつぶやく。どうやら俺は無事に、地球に降りることができたみたいだ。
「ここ……どこだろう……」
ここはどこかの森の中だ。土地勘なんてない。もう少ししたら、G-soulで調べよう。
けれど今は、身体が上手く動かない。
本物の重力だけじゃない。今の俺では言葉では表せない『何か』が、俺の身体を押さえつけている。
「おーい。誰かいるのかー?」
ふと、遠くから誰かの声が聞こえた。ガチャガチャと重たい足音が近づいてくるのもわかる。
「く、くそ、動きづらい! ……あ! おい! 大丈夫か!?」
誰かが、俺が地面につけた跡を辿って駆けてくる。ああ、助かった。この人にはお礼を言わなきゃな。
近づいてきた顔を見る。
俺の目の前には心配そうに俺を見る、IS《
俺と同い年くらいの男が立っていた。
細かいところが気になるかもしれませんが、どうかご容赦を……。