IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
アルストラティア内部。
「……来たね」
この城の城主であるクラウン・リーパーは玉座に腰掛け、口角を僅かに上げる。
世界を敵に回した彼の前に投影される外の映像には、ISを展開した一団が接近してきているのが映っていた。
その数は二〇。
相手の戦力は最早換算するまでもない。その気になれば幾つもの大国を制圧することが可能であろう。
だがこの男はなんとも思っていない。それどころか、不敵に笑ってさえいた。
「まっすぐこっちに向かってくるよ。懲りない連中だ。……君が、散々痛めつけたっていうのにね」
「………………」
顔を左に向けると、無表情の美女、死んだはずのアオイ・アールマインが立っている。
「それはそれとして……。これ、どういうことだろうね」
映像が拡大され、《G-soul》を展開する瑛斗が映った。
「君自身からの報告だと、
その目に凄みを宿したクラウンのわずかに低くした声が女の鼓膜を打つ。
だが女は表情を崩さぬのまま、淡々と答えた。
「確かに私はあのISのコアを砕きました。ですがそれ以降のことは存じ上げません。それでも説明が必要ならば、そうですね……、奇跡が起こったとしか」
クラウンは自分の中の時が一瞬止まるのを感じた。女の口から意外とロマンチックな言葉が出たことに驚いたのだ。
「……フハッ、クッ、フフ……アハハハハハッ!!」
思わず吹き出し、脚をバタつかせゲラゲラと大笑した
「奇跡……! 奇跡ねえ……! ククッ、いいじゃないか。相手に取って不足はないよ」
玉座から腰を上げ、クラウンはパンと手を叩いた。
「それじゃあ始めようか━━━━。歴史に残る史上最大のショーを!」
その声に呼応するように、城が鳴動する。
「彼女たちもウズウズしてるだろうけど、そこはちょっと我慢してもらって……。まずは盛大なオープニングだ!!」
◆
IS学園を出発してから、五分ほど経った。
目標の浮遊城との距離は約半分。このまま何も起こらなきゃいいけど……。
けれど、無情にもG-soulのセンサーは前方からの
「見て! 城から何か出てきたわ!」
鈴の言う通りアルストラティアの下半分の結晶塊から『何か』が出てきた。
強化された視覚で観察したそれは、鳥のような形状をしていた。ガラス細工で作られたカラス……とでも言えばいいかな。
「百……二百……三百……! まだ増えていくわ!」
分析する戦闘部隊の先生の声のあと、イーリスさんが短く笑うのが聞こえた。
「うじゃうじゃ出てきやがるたあ、雑魚の典型だな。こういうのは一気に薙ぎ払うのが一番だ。なあ? 桐野瑛斗」
「ええ。ありますよ。うってつけのが。……セシリア!」
「おまかせを!」
ぐんとスピードを上げた蒼の流星が軍勢の正面に躍り出た。
「行きますわよ、《ブルー・ティアーズ》!」
セシリアの声に応え、ブルー・ティアーズの背部に接続されていた大型の翼状スラスターユニットが分離。
さらにセシリア自身も大型レーザーライフル《スターダスト・シューターMkⅡ》を両腕に構え、BTビットを飛ばした。
「ストライク・バニッシャー……! このわたくしになら!」
ストライク・バニッシャー。
BTシリーズ用に開発されたスラスターユニット兼ビットホルダーと、それに追加搭載した二つの補助AIにより大量のビットを操作する、一対多数の実戦的運用を想定した広範囲制圧パッケージ━━━━!
「さあ、酔いしれなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
撃ち出された無数の光軸が空を走り、押し寄せる大群を飲み込んで爆裂する。
「すごい! 一度にあんなにたくさんのビットを!」
一夏が快哉を上げ、振り返ったセシリアは満面の笑みを見せる。一夏に褒められたのが嬉しいんだろうか。
「………………!」
「おいガキ、なんでお前があの金髪ロールにも負けないくらいのドヤ顔してんだ」
「なんでって、俺の発案したパッケージで活躍してくれるんだから嬉しいに決まってるだろ!」
この喜びは開発者にしかわからないものだ。というか、特権だな。うん。
「よっしゃあ! 野郎ども! アタシに続けえっ!」
悦に浸っている間に、すっかり切り込み隊長っぽくなっているイーリスさんが群れの中央に空いた穴を突っ切って、一気にアルストラティアと距離を詰める。
「見えた! あれが『門』ってやつか!」
前方。白亜の城塞の中に通じる門を捉えた。
「っ! あの鳥みたいなやつら、まだ出てくるっすよ!」
セシリアが撃墜したタイプと同じエネミーたちがまた結晶塊から出現した。
でもエネミーは俺たちに見向きもせずまっすぐに飛んでいく。
振り返った瞬間、俺はあいつらの狙いを理解した。
「しまった! あいつら学園に!」
「放っておきなさい」
追いかけようとしたところをスコールに手で制され、キッと睨みつけた。
「なんで止めるんだよ!」
「そのためにわざわざ二つの部隊に分けたのでしょう? 学園の防衛はエリナたちに任せるの」
そこに織斑先生からの通信も入る。
『こちらでも確認した。迎撃準備ははすでにできている。お前たちはお前たちの役目を果たせ』
「………………はい!」
そうだ。俺たちには俺たちのやるべきことがある。学園の方はエリナさんや山田先生たちに任せよう。
「瑛斗! こっちだ!」
先に門前の断崖に降り立っていたみんなに合流して白亜の城門と対峙すると、その大きさに圧倒された。
「で、デカいな……!」
「押して開けるタイプ……じゃなさそうね」
「ぶっ壊せば関係ないだろ!」
オータムが以前より一回り大きくなった《アルバ・アラクネ》のウェポンアームの先端を赤熱化させて門に突進する。
「はあああっ!!」
振動爪が門に突き刺さ━━━━らなかった。
「どういうこった!? 削れもしねえ!」
アラクネのクローは門に突き刺さるどころか傷一つもつけられない。どんだけ硬いんだ。この門の素材は!
「……え? 何これ?」
と、シャルが思わずという感じで声を漏らした。
「シャル? どうした?」
「ら、ラファールが変なんだ」
「変って?」
「どこからか詳細不明のプログラムを受信してて……みんなはなってないの?」
調べてみても特に変わったことはない。それはみんなも同じなようで顔を見合わせたり肩を竦めたりしている。
次の瞬間、シャルの《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》の左腕から不自然なスパークが発生した。ここに来て機体の不備か!?
「うあっ!?」
「シャルロット!」
大型シールドがパージされて、ラファールの切り札とも言える武装、パイルバンカー《
「ラファールが、勝手に!?」
そしてシャルは見えない何かに引っ張られるように左腕を突き出しながら門に近づいていく。何をする気なんだ?
「わああっ!?」
高く跳躍したシャル、否、ラファールは門の中央の穴に鉄杭を打ち込んだ。
けれど、だからどうというわけでもなく、何も変化は起こらない。
「え、えっと……」
シャル自身もなんだかバツが悪そうに目を泳がせている。
「……彼女は、何をしている?」
戸宮ちゃんの問いに答えられる人は誰もいなかった。
でも、その数秒後。
━━━━カチリ。
何かが噛み合う音がした。
小気味のいい、まるで機械仕掛けの装置が作動したかのような……。
「……! シャル! 離れろ!」
俺の叫びを聞いてシャルがすぐに門から飛びのいて俺たちの中に戻ってくると、地鳴りのような轟音が大気を震わせた。
「も、門が開きます!」
蘭の言葉の通り、巨門が中央から左右に分かれて、城の内部への入り口が現れた。
「シャルロット、開き方を知っていたのか?」
「う、ううん……。まったく。これっぽっちも」
「何が起きたのかはさっぱりだが、好都合だ。突入するぞ!」
イーリスさんを先頭に門を通り抜けて、いよいよ
「これが、アルストラティア……」
見える景色は、既視感があるとか、そんなもんじゃない。
IS学園そのものだった。
建物の外壁も、道も、何もかもが白亜に統一されている。
「うんざりする白さね。私に言えたことじゃないけど、自分たちを『白』とでも思っているのかしら?」
流れていく風景にスコールが嘆息する。
『突入に成功したな。細心の注意を払いつつ探索、破壊行動に移れ。その際拘束および救出対象の捜索も怠るな』
耳元に織斑先生の声が聞こえた。先生の言う通り、用心しなくちゃな。
『これよりこちらとの通信は遮断する。……気をつけろ。すでに敵陣の中だ。向こうがいつ襲ってくるかわからんぞ』
━━━━警告! 前方に未確認反応確認!━━━━
「っ!?」
言われたそばから警告文付きのアラームが鳴り響く。
開けた場所に、大きな十本の柱。
それぞれの柱に、人が立っていた。
纏うローブで姿を隠すその人達を
なぜなら━━━━
「所長……!」
「………………」
中央の柱。
IS学園を襲い、俺たちを蹂躙し、G-soulのコアを砕いた、死んだはずの所長が俺たちを見下ろしていたからだ。
「お出ましか……!」
「いかにも、って感じね」
誰ともなしに唾を飲むのが聞こえた。この緊張感は、誰もが味わってることだろう。
「瑛斗、あれ!」
シャルが指差したサークルの中心にノイズが走って、人の形が投影される。
『クク……よく来たね』
「クラウン!」
クラウン・リーパー。この騒ぎを起こした張本人が、薄ら笑いとともに現れた。
『待ちくたびれたよ。君たち、思ったより来るのが遅いもんだから』
「御託はいい! 姉さんはどこにいる!」
箒が叫ぶとクラウンは笑みを一層深くその顔に刻んだ。
『おやおや、お姉さんを助けに来たのかい? 随分とお姉さん思いじゃないか。ええ? 篠ノ之博士の妹さん?』
小馬鹿にするような言い方に、二振りの刀を握る箒の手に力が入る。
「貴様……!」
「落ち着け箒、あいつのペースに飲まれちゃダメだ」
『篠ノ之博士なら俺のところにいるよ。俺はこの城の奥のタワーの頂上にいる。君たちのところからも見えるだろう?』
所長の立つ柱の向こう。学園のシンボルの中央タワーを模倣して作られた塔が確かに聳えている。あそこにクラウンと本物の博士が……。
『まあでも、簡単には近づかせないよ。今回のゲームの内容、知ってるだろ? この城を壊すこと。それが君たちの勝利条件だ。そのためには君たちの目の前にいる僕の部下たちを倒さなくちゃいけない。彼らを倒せば、自動的にこの城は崩落していく仕掛けになってるんだ』
「なるほどな、わかりやすくていいじゃねえか。要は勝てばそのままお前へのダメージになるってわけだ」
『ご明察だよアメリカ代表。だが、そう簡単に勝てると思わないでもらいたいな』
「
『そうかい。……なら、これは予想できたかな!?』
俺たちの足元が、突然発光し始めた。
「な、なんだ!?」
「やつめ、不意打ちか!?」
『安心しなよ。これはただの転送だ』
「転送?」
『君たちには、こちらが選んだ相手と戦ってもらうよ』
見れば柱に立つ虚界炸劃たちもそれぞれ光に包まれている。
けど、この場で光に包まれていないやつが二人いた。
それは、所長と、━━━━俺。
「瑛斗!? なぜ!?」
『ハハハハッ! ここは俺の城だよ? 城主の命令は絶対さ! 瑛斗くん、君にはアオイと戦ってもらうよ! たった一人でね!』
「非道な……!」
「いい、ラウラ。大丈夫だ。俺はここであいつと……所長と戦う」
「瑛斗くん無茶よ! 彼女はあなたの━━━━」
「だからです。楯無さん」
「瑛斗くん……!」
「俺だから、俺が『桐野瑛斗』だから、あの人と戦わないといけないんだ」
そう。俺が俺の手で決着をつけなくちゃいけない因縁。
あの夏、箒がゴーレムExと戦う前に言ったあの言葉のように、これは、俺と所長の問題だ。
誰にも譲れない。譲っちゃいけない。
「信じてください。俺は、負けません」
「……そんな顔するの、ずるいわよ」
まっすぐに見つめた刀奈さんの表情は、説得が無駄と悟ったような、でも、俺を信じてくれている表情だった。
「私が必ず助けに行くわ。それまで、負けないで」
「はいっ!」
「私も必ず行く。嫁、待っていろ」
「瑛斗、頑張って。私も、頑張る……!」
「瑛斗、信じてるから!」
「ああ、みんなも気をつけて!」
頷くみんなの目の輝きは、誰もが真剣だった。
『さて、お話は済んだかな? それじゃあ、舞台へご案内だ!』
眩い光が数秒間俺の視界を塗りつぶし、光が消えると周りには誰にもいなくなる。クラウンもいなくなっていた。
この場には俺と、
「………………」
所長だけが残った。
「言ったはずよ。次に会った時は、どちらかの命が消える、と」
《G-HEART》。
所長の駆る、《G-soul》によく似た純白のIS。
その右腕は失ったG-soulの右腕装甲に代わり、ビーム砲と一体化した武装を装着している。
全身に伝わってくる威圧感は、これから戦う相手がこれまで対峙した誰よりも強者であることの証。
「あなたの勝利は万に一つもない。結局は果てる命を、こんなところで使い果たす必要はないのよ?」
優しい声が、懐かしい響きが、俺の闘志を折ろうとしてくる。でも、わかってる。あいつは所長じゃない。俺を育ててくれた所長は、もういないんだ。
あれは、あるはずのない者。あってはならない『モノ』。
だったら、戦える━━━━!
「俺は負けるわけにはいかない。自分のためにも。みんなのためにも。そして━━━━
所長の眉が一瞬震えて、その口元に薄い笑みが浮かんだ。
「……なるほど。少しは真実に目を向けたわけね。━━━━いいわ」
《G-HEART》の左腕にビームソードが顕現する。
「彼に会いたいなら、私を超えてみせなさい!」
「そうさせてもらうっ!」
二本のビームソードがぶつかり合い、干渉のスパークが弾けた。
◆
「侵攻部隊のメンバーが分断されました! 同じ場所にとどまっているのはG-soul! 桐野くんです!」
オペーレーター担当の学園職員の報告が司令本部に響く。モニターでも侵攻した部隊がアルストラティアの内部でバラバラにされたのは確認できた。
「その前方にはもう一つの反応があります。これは……先日学園を襲撃したものと一致しています!」
続く報告に千冬は抱いていた自分の腕の力をわずかだが強めた。
「アオイ・アールマインか……!」
通信をオンにして、個別に登録されている地下特別区画の一部屋、ここよりもさらに奥の部屋と接続した。
「束、そちらはどうなっている」
小型のモニターに束の姿が映る。言うまでもなく、デバイス内の人工知能の束だ。
《順調だよ! 今くーちゃんがコアの同期を頑張ってくれてる。でもまだ時間がかかりそう》
「頼むぞ、今回の作戦は『あいつ』にかかっている」
《わかってる。そっちも気をつけて。多分もうすぐ━━━━》
「前方から未確認反応多数接近! さっきのアルストラティアからの攻撃です!」
学園のレーダーが反応を捉えた。アルストラティアから放出された結晶鳥だ。
《……来たみたいだね》
「こちらも悠長にはしていられないな。防衛部隊に攻撃許可を! 学園には近づけさせるな!」
指示を飛ばした直後にこの司令本部の扉が開く音がした。
「始まりましたか」
入ってきたのは轡木十蔵。学園の本当の運営者だった。スーツ姿なところを見るに、政府との会談を終わらせたその足でこちらに赴いたようだ。
「いかがでしたか。政府の方は」
「やれやれ、
「では……」
「はい。あまりいい答えはえられませんでした。このまま予定通り、学園は単独で行動を続けてください」
「もとより期待はしてなかったが……」
苦虫を噛み潰すような渋面を作り呻く千冬に、「力になれずに申し訳ありません」と十蔵は頭を下げた。
「それからもう一つ。織斑先生、これはあなた個人になのですが、以前ドイツでIS操縦の指導を行っていましたよね」
「それが、何か?」
「ここに戻る前に、ドイツ軍のエージェントで、あなたに世話になったという女性から伝言を頼まれまして」
「伝言?」
突然のことに千冬は訝しみ、警戒する。一体誰が何を伝えようというのか、見当がつかなかった。
故に、次の十蔵の言葉に千冬は驚愕することになる。
「━━━━黒ウサギ隊という特殊部隊が襲撃を受け、音信不通になっているとか」
◆
光に飲まれ、視界がゼロになる感覚から数秒。ゆっくりと目を開ける。
ラウラは先ほどとは違う場所に立っていた。
学園に設営されているアリーナのようだが、白に統一されたこの景色が、ここがアルストラティア内だということを理解させる。
「貴様らか。私の相手は」
五メートルほど離れた場所に、二人の小さな虚界炸劃がいた。
「ふふ……」
「ふふふ……」
強化された聴覚が囁くような笑い声を拾う。子ども。それも少女だ。
二人の少女。虚界炸劃。
二つのキーワードが、ラウラの中で繋がった。
「まさか……!」
二人の少女は笑い続けながら、フードを取った。
「久しぶりですね、お姉様!」
「再会を喜ばしく思います、お姉様」
思った通り。瑛斗がクラウンと初めて会ったあの時、後から現れたクラウンの娘という双子だ。(シェプフとツァーシャとか言ったか……)とラウラは漠然と記憶を掘り起こした。
「お前たちに姉と呼ばれる覚えはない。そしてお前たちといえど私の前に立つならば、倒すべき敵だ」
「さすがはドイツ軍特殊部隊の隊長……。女子供にも容赦はない、と」
「そうこなくっちゃです! さあ、始めましょう!」
溌剌とした声の後、シェプフとツァーシャはローブを脱ぎ捨てる。閃光が一瞬爆ぜた。
「私の《キサナドゥ・パペッター》とツァーシャの《イヴィル・パペッター》が、お姉様のお相手をするのです!」
光の中から現れたのは、全く同型の、黄色の機体色をベースにそれぞれ白と黒の配色を散りばめた二つの機体。
そのどちらも、本体の機体サイズとは不釣り合いなほど巨大な腕を
「それがお前たちの虎の子のIOSか。ISと変わらんな」
「ええ。その通りですよ。だって、
「何だと……?」
「言葉通りです! 私達が使うのは、お姉様と同じISです!」
この双子のマシンはIOSではなく、IS。
それがどういうことなのかラウラには判断ができなかった。
「………………」
だから、これから始める戦いに、それ以上の情報は必要ないと判断した。
「いいだろう。どちらでも私のやることは変わらん。お前たちを無力化し、瑛斗の救援に行く。それだけだ」
全ての兵装の安全装置を解除。強化型レールカノンにもエネルギーを回し、
「ああ、ああ、始まるようですよ! ツァーシャ!」
「ええ、ええ、始めましょう。シェプフ」
駆動音とともに四本の巨腕が蠢く。
「仕掛けるっ!!」
開戦の合図は、シュヴァルツェア・レーゲンのカノン砲だった。
◆
「くそ! この! 逃げるなっす!」
《コールド・ブラッド》から発射される氷弾は、そのことごとくが躱される。
転送からすぐに戦闘を開始していたフォルテは自分の相手に苛立ちを感じていた。
「………………」
このフードを目深に被り顔を隠した相手は、こちらに仕掛けてくることはなく、ひたすら回避に徹している。
(早く先輩を探しに行かないといけないのに……!)
フォルテ自身の最大の目的は、虚界炸劃に捕まったダリル・ケイシーの救出。
故にそれ以外のことに手間取ることはできない。(ソッコーで倒してやるっす!)と息巻いたのはいいものの、相手にこう逃げの一手を取り続けられてはその意気込みも意味はない。
「おいお前! 逃げてばっかりで、やる気あるっすか!」
「………………」
叫んでみても返事はない。動きを止めて、じっとこちらを見たままだ。
「なんとか言えっす!」
「………………」
「ぐぬぬ……! もういいっす! お前みたいなやつに構ってるヒマないんすよ!!」
業を煮やしたフォルテはブラッドに意識を集中させた。ブラッドの生成する氷の制御ユニット《アブソリュート・ゼロtype2》が鳴動し、フォルテの周りに浮遊していた氷を集結させ、大型の氷塊を作り出す。
「………………」
当然相手はまた回避行動を取ろうとするが、その足は動かなかった。
その足が、凍りついて地面に張り付いていたからだ。
「━━━━もう、逃げられないっすよ?」
ニヤリと笑うフォルテ。
何もやたらめったらに氷弾を撃ち出していたわけではない。散らばった氷はこのための布石。
『フローズン・ヴァイン』。
小さな氷は繋がり、地を這い、目標を絡め取る。
「さあ、これで終わりっす!」
二メートル超えの大氷塊が、空を裂きながら飛んだ。
直撃コース。避けることは不可能。フォルテがそう確信した瞬間、
「………………!」
突然、一本の火柱が上がり氷塊を両断した。
「うわっ!?」
火柱はフォルテまで迫り、とっさに回避するもその熱にフォルテは怯まずにはいられなかった。
「ほ、炎?」
氷塊を溶断した炎の一撃。それだけにとどまらず、足を封じる氷までもが、巻き上がる炎によって溶かされる。
「ブラッドの氷を炎で溶かすなんて……」
コールド・ブラッドが戦闘時に作り出す氷は特殊な性質を持ち、高出力のビームやレーザーならまだしも、『通常の炎』では溶かすことなど到底できない。
「っ!?」
直後、嫌な汗が噴き出した。そう。それができるとするならば。『そんな炎』を出すことができるのは━━━━!
「そんな……まさか!?」
燃えたローブが焼け落ちて、その内側の正体が露わになる。
現れた虚ろな瞳。表情を無くした顔。けれど見慣れたその顔。そして金色の髪。
「先輩……!?」
フォルテが対峙したのは、彼女の探し求めていた、ダリル・ケイシーその人であった。
お待たせしました。更新でございます。
コツコツと書き進めてはいたのですが、お待たせして申し訳ございません。
さて、今回からバトルパート突入ですが、あまりグダグダにならないように気をつけてまいります。アルストラティアへの突入もサクッと達成させました。
さて本編ですがクラウンの策略(?)でまさかの瑛斗がアオイと一騎打ちです。仲間たちはそれぞれの相手を倒して救援に来れるのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに!