IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「………………」
東の空が白んで来た。
世界滅亡のカウントダウンから一夜明け、タイムリミットは残り六日と数時間。
朝焼けの中で神秘に輝く浮遊城アルストラティア。その中央にそびえるIS学園のシンボルを模したタワーの頂上に、クラウン・リーパーはいた。
視線の先には━━━━IS学園。
「……やあ、おはよう」
後ろからの気配。大方の見当はついていた男は微笑みを浮かべて朝の挨拶をした。
「………………」
その相手は死んだはずのアオイ・アールマイン。
「よく眠れたかい?」
「ええ。そちらはどうでしたか?」
社交辞令的なアオイの言葉にクラウンは目を細め、肩をすくめてカラカラと笑う。
「いつも通り、最悪さ。だからこうして世界を見てた。景色がいいんだ。ごらんよ。ここからなら直接IS学園が見える」
クラウンの言葉に、アオイはさざ波の向こうのIS学園を一瞥し、再度クラウンを見る。
「……あの学園には、すでに刺客を放ったようですね」
「まあね。いない人間を創り出すなんてことは、俺にとっては造作もないことさ。国連のEOSだってそうやって手に入れたんだし。今頃彼らは対策に動いてることだろう」
ぐっと首を伸ばし、クラウンは高い高い空を仰いだ。
しかしその目は空を映してはいない。クラウンが見据えているものは、遥か彼方にある。
「回りくどいと思うかい? だけどこれくらいしないと俺の気が収まらない。桐野瑛斗は、桐野瑛斗を是とするこの世界は、この手で叩き潰してやらなくちゃ」
「……………」
「賽は投げられたんだ。もう止まらない。君にも、最後まで付き合ってもらうよ」
狂悦に口を歪ませる目の前の男に、何の感情も抱く様子も見せずアオイはただ頭を下げた。
「━━━━仰せの通りに」
◆
風が際限なく吹き付ける。
サングラス越しに流れていく景色を眺めていく。
開いた窓から入ってくる風に踊る髪を若干うっとおしく感じながら、俺はこのいかにも高そうな赤色の車の運転手に問いかけた。
「……なあ」
「なにかしら?」
「何してんの? 俺ら」
「あら、わからない? ドライブよ。私とあなたの二人きりで」
そう言いながら、ハイウェイを走る車のハンドルを握るのは、教師モードの時に着る赤いスーツ姿のスコールだ。俺と同様にサングラスをかけて目を隠している。
いや、逆だな。こいつが先にグラサンをかけて、俺もかけさせられたんだ。
「そうじゃなくて、なんで俺とお前がこうしてドライブ洒落込んじゃってるんだって話だよ。昨日の今日だぞ!?」
順を追って説明すると、いきなりスコールが俺の部屋にやって来て、俺に出かける支度をさせると、ほとんど連行するような形で俺を車に乗せてこうしてIS学園を飛び出したわけだ。
「そもそも何しに行くんだよ? どこに向かってんだよこれ」
「質問ばかりする男はモテないわよ? ……って言うのもバカらしいわね。じゃあ聞くけど、私たちはどうして外に出られたと思う?」
「え……?」
「昨日、この国の政府のエージェントが来てIS学園はあのお城への攻撃を禁止された……。そのはずなのにこうして外に出られてるのはなぜ?」
言われてみれば、ここまでの道中、
それどころか静か過ぎだった。
「う、うーん……」
「はい、時間切れ。端的に言うとあのエージェント、あれは偽物よ。かなり精巧に設定も作ったんだろうけど、多分この国の政府に漣香澄という女は存在しないわ」
「わかるのか?」
「本物だったらこんな悠長に構えられてないわ。だって彼女、通告の後まともに話もせずに帰ったのよ? その時点で余裕で警戒対象だわ。今頃あの理事長が政府のお偉いさんたちと首を傾げてるわ」
「だったら教えてやればいいのに」
「そこまでする義理もないわよ。さて、そろそろあなたの質問にも答えましょうか。私たちは今、ある人物に会いに行くためにこうして車を走らせてるの」
「ある人物って?」
「私たちの味方になってくれるかもしれない女性よ。あなたも会ったことあるんじゃないかしら?」
「俺が?」
この言い方からすると、スコールの知り合いでもあるはずだ。スコールの知り合いで俺も知ってるような人なんていたっけ?
「ま、行けばわかるわ。それまではおしゃべりでもしましょう?」
いいのかな、こんなのん気な感じで……
「……篠ノ之博士のデバイス、まだ動かないの?」
「ん? ああ。一応持ち歩いてはいるけど、まだ充電中なんだ」
取り出したデバイスの真ん中のボタンを押してみるが、昨日の夜と全く同じ。反応はない。
「早く博士に起きてもらって、いろいろ聞きたいんだけどな……。くーも検査も兼ねた取り調べで朝から会ってないし……」
「そのことだけど、確か博士の妹ちゃんがあの子に付き添ってたわね」
「箒にも思うところがあるんだよ。くーは博士と一緒にいたんだから、聞きたいことや話したいことの一つや二つあっても不思議じゃない」
「それはドイツの黒ウサギちゃんも同じだと思うわよ」
「ラウラも?」
「あなたも薄々わかってたでしょ? あの子と黒ウサギちゃんは
「同じ……」
確かにあの二人はどことなく雰囲気が似ている。
なら、スコールの言う『同じ種類』とはつまり━━━━
「造られた命、か」
この言葉の本当の重みを、俺は知らない。きっとこれからも知ることはできないんだろう。
だけどラウラはその言葉を受け入れ、むしろ誇ってさえいた。
あの女の子、クロエ・クロニクルも、そうだと思いたい。
「偶然……それとも運命かしら。もしかしたら一度も出会わずにいたかもしれない二人よ。世界は狭いわね」
「その狭い世界を滅ぼそうとするやつを止めるために、こうして動いてるんだろ?」
「ふふ、そういうこと。それじゃあ急ぎましょうか。━━━━飛ばすわよ!」
スコールがアクセルを踏みつけると車は唸りを上げてスピードを跳ね上げる。かつての敵に俺の思いは確かに届いていた。
ぐっとシートに押さえつけられるような圧迫感。懸命に言葉を振り絞った。
「こ、交通ルールは守れ!」
◆
目の前を走る赤い車を追う、黒い車。
「………………」
その車の運転手は、まるで獲物を狙う猛禽のように鋭い目をした巻紙礼子、もといオータムであった。
「スコール……あのガキと一緒にどこに行こうってんだ?」
「おい、ちゃんと運転しろ」
助手席から文句を飛ばしたのは、なんとラウラである。
「っせーな。勝手についてきやがったくせに偉そうなこと言うんじゃねえ」
この異色とも言える組み合わせ。スコールが瑛斗を連れ出すところを見つけたオータムがその後をつけ、そこにラウラが付いてきただけで、結成にはそう時間はかからなかった。
「大体てめーら専用機持ちのガキどもは待機命令が出てただろ。後でブリュンヒルデに言いつけてやっからな」
「好きにしろ。私は瑛斗を守る義務がある。お前ら亡国機業には任せていられん」
「ハン、まともに戦えないくせに、いきがるじゃねえか」
意地悪げな視線で見られた太ももを、ラウラは制服越しに手で撫でた。
「むぅ……」
ラウラのIS《シュヴァルツェア・レーゲン》は現在パーソナルロックモードになっている。
レッグバンドではなく厚さ一ミリにも満たない
「
「案ずるな。ISが完全に使えないわけではない。レールカノンはダメだがプラズマ手刀は使える。それに万一のことも考えて、サバイバルナイフを常に持ち歩いているから問題はない」
「そういうこと言ってんじゃねえって……ったく、これだからガキの相手は嫌なんだ」
前髪をくしゃくしゃっと荒っぽく梳いて嘆息するオータムにラウラはお返しとばかりに冷ややかな視線を送った。
「……そういうお前も、スコール・ミューゼルが気になってこうして出てきたのだろう? 行動原理は私と同じはずだ」
「あ?」
「お前たちの話は瑛斗から聞いている。お前も、あのスコールを『嫁』にしているのだろう?」
「よ、嫁ぇっ!?」
普段では絶対に聞くことのない声を上げたオータムに逆にラウラが驚いてしまった。
「な、なんだ? 違うのか?」
「違うとか違くないの話じゃねえだろ! た、確かにスコールがお嫁さんになってくれるのは嬉しいけど、どっちかって言うと私が嫁にされたみたいなところあるしそれに式だってまだだし夜だっていつもスコールが……!」
早口な小声でぶつぶつとひとりごちるオータム。ラウラはそんなオータムを見てわずかに口角を上げた。
「……どうやら、お前という人間の本質を見たかもしれんな。ほら、奴の車がスピードを上げたぞ。見失うなよ」
「わ、わかってる!」
前を行く赤い車と離れないように、黒い車もスピードを上げた。
◆
「……で、なんでここなの?」
俺とスコールがやってきたのは、この夏に新装オープンしたばかりの水族館、ウォーター・フロンティアだった。
クラウンの放送もあってからかどうかわからないけど、人の数は少ない。というか、営業してることに驚きだ。
「まさかこの中にその、味方になってくれるかもしれない人がいるのか?」
「そのまさかよ。さ、行きましょう」
「お、おい待てよ……!」
軽い足取りのスコールから離れないよう、揺れる金色の髪を追いかける。
大人二人の入場券を購入して、スコールは悠然と、俺はおっかなびっくりと水族館の中へ。
「んー……早速出迎えってことはないわよね。瑛斗、少し中を探してみましょうか」
「………………」
「何をキョロキョロしてるのかしら?」
「警戒してるんだ。だって、ここにいる人って言ったら━━━━」
「わかってるなら、もうどうしようもないわよ。ここは彼女のテリトリーなんだから」
言いながら先へ先へと進んでいくスコール。水槽の中の生き物たちを見るようにして空間に溶け込む姿はいたって自然体だ。
「開き直って堂々となさい。心配しないでいいわ。いきなり襲ってくるほど彼女も愚かではないはずだから」
「だといいけど……」
諦めた俺は水棲生物たちに癒しを求めつつスコールに随伴し、そうしてしばらく進んで行くと、スコールは大水槽の横の、『KEEP OUT』と書かれた看板が置かれた通路の前に立った。
「一通り見て歩いた……。残るはこの先だけね」
「スコール、やっぱり帰ろうぜ? さすがにこれ以上はまずいって。あの人いないみたいだしさ」
「誘いには応じておいてこの態度ね……あのひねくれ女らしいわ」
その言葉尻にわずかな苛立ちがうかがえるところを見るに、こいつちょっと怒ってる?
「まったく……あの腰抜け女! 怖くなって逃げたのかしら!」
いきなり声を張り上げるスコール。館内に声が反響する。
「ええ、情けないほどに腰抜け女だわ!」
「お、おいスコール?」
止めようとしても、スコールは止まらなかった。
「腰抜けの━━━━腑抜け女よ!」
みしいっ!と床を強く踏みしめる音。
「だ、れ、が! 腰抜けの腑抜け女ですってえ……!?」
そして棘のある声。こわばる身体を震わせながら、俺はゆっくりと振り返った。
ついにこの時が来てしまった……!
「お、お久しぶりです。……日向さん」
日向海乃さん。
表向きはこの水族館でイルカの調教師をやっている女の人━━━━。
でもその正体は亡国機業のメンバーにしてイギリスで俺と戦ったIS《セイレーン》の所有者。
「そうね、久しぶりね。でも君との話は後よ!」
およそ三ヶ月振りに会った日向さんは、敵愾心たっぷりな視線を真っ直ぐに伸ばした人差し指と一緒にスコールへと向けた。
「スコール! 表に出なさい。ここはあなたになんか相応しくないわ」
「やっと顔を出したと思ったらずいぶんなご挨拶じゃない。そこの水槽の貝類の方がまだ素直よ」
負けじとスコールも威丈高に言い放つ。何だ? この二人そんなに仲悪いのか?
「だまらっしゃい! とにかくさっさとここから出て行きなさいよ! 話はそこで聞いてやるから!」
「上等じゃない。瑛斗、ついてきなさい」
「は、はい……!」
不機嫌な女性二人の間の三歩後ろを歩きながら、外の広場へと出る。
出てすぐのところにあったカフェテラスの端のテーブルを、イギリスでも見たことがないくらい怒ってる日向さんと、急に怖くなったスコールと俺で囲む。はっきり言って地獄のような気まずさ!
「……で? 何の用? わざわざ私の職場まで来たんだから、つまんない話だったら承知しないわよ」
水族館のロゴの入ったウインドブレーカーをチラと見る。やっぱり仕事中だったのか。
「のん気なものね。世界があと六日で滅ぶかもっていうのに、水族館でお仕事なんて」
「お生憎様、私、今日はオフなの。プライベートで来てるのよ」
「あらそう? そっちの方が問題じゃない? プライベートでも職場にいるなんて、あなたワーカーホリック? 男の一人でも作らないの?」
「うるっさいわね! 私にはここに家族同然の生き物たちがたくさんいるからいいのよ!」
……な、なんか全然話が進まないな。ここは俺がしっかりせねば!
「ご、ごほんごほん! 二人とも、話が逸れてるぞ」
「あらやだ、哀れな女を哀れむのに夢中ですっかり忘れてたわ」
白々しく言うスコール。日向さんがまた一層眉間のシワを深くする。あわわ……。
「さっさと話さないと本当に帰るわよ、私」
突き放すような物言いで自分用に買った微糖の缶コーヒーに手をかけて、プルトップを開ける。
「……ま、なんとなく察しはついたわ。昨日のテレビの電波ジャックで男が話してた事でしょ?」
「だったら話は早い。お願いします、日向さん。俺たちに力を貸してください」
「イヤよ」
一蹴とはこのことか。俺の嘆願はにべもなく断られた。
「ど、どうして!?」
「どうしても何も、私には関係ないし協力するメリットが無いわ。あのキラキラしたお城はISで壊せるんでしょ? だったら私が行かなくたっていいじゃない。それこそあなたたちでどうにかしなさい」
「それじゃダメなんですよ! あいつの戦力は俺たちを圧倒して━━━━」
「瑛斗、もういいわ」
ふと近づけられたスコールの白い手に続く言葉を飲み込んだ。
「……この際あなたはいいわ。あなたの持ってるISを渡しなさい。そしたらおとなしく帰ってあげる」
スコールが譲歩してるあたり、状況は逼迫しているんだろう。
「それもイヤ。私自身を守る手段がなくなっちゃうじゃない」
けれど日向さんは取りつく島もない。
「そ、そこをなんとか……」
スコールを援護するように何とかして食い下がってみようと試みると、日向さんは深いため息をついて心底がっかりした様子で眉を下げた。
「大体ね、君も君よ。瑛斗くん。一人で来てくれるならいざ知らず、よりによってこんなヤツと一緒に来るなんて」
こ、こんなヤツ呼ばわりされたスコールの顔を怖くて見れない……!
「その女相手に仲間面してるけど、一体どんな手段で飼いならされたのかしら? 三日三晩抱かれでもした?」
「そ、そんなことありません!」
知らぬ間に寝込みを襲われたことはあるけども! とは言わない。話がこじれるから。
「それに百歩譲って協力を約束したとして、私に何をさせたいの?」
「もちろん戦ってもらうわ。私の予想が正しかったら、あの城を落とすために戦えるのはわずかよ。それにあなたを加えたいのよ」
「話にならないわね。私が自分以外のために、ましてやあなたと一緒に戦うと思ってるわけ?」
立ち上がった日向さん。
「帰りなさい。そして二度と私の前に姿を見せないで」
このままではご破算になってしまう。そう思い立ち上がった時だ。
日向さんが何かに気づいて動きを止めた。
「……スコール、あなたは私に協力を仰ぎに来たのよね?」
「一応ね」
「なら、━━━━あれは何?」
指差した先には、妙な人がいた。
一人や二人じゃない。五人……いや、六人。
迷彩柄のズボンにタンクトップ。そして筋骨隆々な六人の男が近づいてくる。俺たちを囲い込むように、近づいてくる。
けれど様子がおかしい。
顔つきも背丈も人種的にバラバラなのに、その足取りだけは全員ふらついているが統率がとれているように思える。
「……た……」
「み……つけ……た」
うわごとをこぼし、何も写してない目をこっちに向けている。
「みつ、けた」
直後、閃光が弾けた。
現れたのは巨大な影。
人の肢体を包む、機械的なユニット。
それはまるで……まるで━━━━!
「IS……!?」
そこに在る『何か』は、篠ノ之博士が作り上げたパワード・スーツと酷似していた。
どことなくゴーレムシリーズに似ている。
「そんな……だってこいつら男だぞ……!?」
「《セイレーン》!」
「《ゴールデン・ドーン》!」
驚愕する俺の真横を駆け抜けて、金色と群青のISが目前に現れた。
「ちょっとスコール! あんたが連れてきたんじゃないでしょうね!」
「そうならあなたのところになんて来ないわよ……!」
二人の様子からするに、どうやらこいつらと戦う気みたいだ。いや、そうしなくちゃいけない。
「スコール! こいつらって、まさかクラウンの……!」
「ええそうよ。よかったわね瑛斗、念願が叶ったじゃない。こいつらは……IOSよ」
「IOSね……。男でも使えるISもどきって触れ込みだけでも胡散臭いのに、実物はより胡散臭いわ」
「戦うの? 私と一緒は嫌だったんじゃないのかしら?」
「勘違いしないで。私は自分のために戦うだけよ」
「あらそう。瑛斗! あなたは隠れてなさい! 今のあなたじゃ……」
「ふざけるな! 俺だって戦える!」
チョーカーが黒く光り、吹き出した闇が身体を包み始める。
「バカ……!」
強化された聴覚で拾えたスコールの呻くような声を聞き流し、肺いっぱいに貯めた空気を咆哮に変えて吐き出した。
「ガアアアアアアアアッッ!!」
艶のある黒の内側から、蒼の燐光が溢れ出す。サイコフレームを顕現させた《セフィロト》が前方のアンノウンをセンサーで捉えた。
「向こうから来たならちょうどいい。壊して学園に持って帰る!!」
地面を蹴った勢いを加えて、IOSへ。
「あっ! 瑛斗くん!?」
意識を集中させて、クローアームを作動させる。
クローアームは問題なく展開した。
………………右腕だけ。
(そんな!?)
意識とコンマの差もなく表示されたデータには、背中と左腕のクローアームが損傷したというどうしようもない事実だけが記されていた。
「だけど武器はある!」
叫びとともに不安を吐き出し、使えない左腕のクローの代わりにマルチライフルを呼び出してグリップを握る。
右腕のクローアームをシールド代わりに、ブレードを構えて突貫。
「………………」
IOSが向けてくる右腕部装甲と一体化した銃口から吐き出される装甲同様白色のビーム。クローのBRFでそれを弾き、接近戦に持ち込む。
「だああっ!」
シールドの役目も果たしている右腕のキャノンに斬撃が受け止められた。
「おい! お前たちの狙いはなんだ! クラウンの差し金か!?」
「………………」
男は何も言わない。それどころかその目からは生気を感じられなかった。
「な、なんだ……!? こいつら……」
「気持ち悪いわねっ! うんともすんとも言わないで!」
欠陥のあるアクア・ナノマシンで強化したトライデントを振り、IOSと切り結ぶ日向さんもIOSの操縦者たちの発する違和感に眉をひそめている。
「スコール! どうなってるのよ!」
「私が知るわけないわ。でも、普通じゃないのは確かね」
言いながら火球を飛ばすスコール。それを見た日向さんが目を向いて吠える。
「ちょっと! 建物に当てないでよ!? 燃えたらどうするのよ!」
「あなたが消せばいいでしょ」
「ふざけないで!」
「そこ! 喧嘩してる場合じゃねえだろ!」
叫んだ勢いのままブレードを振り上げ、空いた胴体にクローをお見舞いする。
だけど男は表情一つ変えずに反撃とばかりにまた銃口を俺に見せた。
しかし男の身体が背後からの攻撃に体勢を崩した。
「!」
「なるほどな。こいつがIOSか」
「オータム!?」
背後からの攻撃の正体は《アルバ・アラクネ》を展開したオータムだった。ついてきたのか!?
「嘘でしょ……。あいつまでいるとか勘弁してよ……」
天を仰ぐ日向さん。
「オータム? あなた……」
「スコールが心配で後を追いかけてきたんだ!」
「そ、そう。ありがとう」
「ああそれと、もう一人いる」
もう一人って? 聞こうとした瞬間、一体のIOSが俺たちの一団から離れていった。
「………………」
IOSがビームを放つ。建物への破壊行動じゃない。その『標的』は確かにその先にいた。それは、銀色の髪の━━━━!
「ラウラァァァァァッ!!」
間一髪。
セフィロトが発したBRFがIOSのビームを弾き飛ばし、ラウラを守ることができた。
「瑛斗……」
「ラウラ! お前なんで!?」
「そ、それはお前のことが━━━━瑛斗! 後ろだ!」
「っ!?」
動きを止めた俺に、IOSが襲いかかった。
ここで躱せばラウラが潰される!
(くそ……!)
直撃を覚悟して歯を食いしばる。
一秒後、背後で音が爆裂した。
「………………?」
身体に痛みはない。
攻撃をうけたわけじゃないようだ。それにラウラも無事。では、一体何が?
俺の疑問は、巻き起こる風に吹き飛ばされた。
「ふーむ……キミ、勇敢と無茶とを混同しちゃあダメなのサ」
揺れる赤い髪。音を立ててレンズを絞る特殊機能義眼。見たことのない女の人。
「あ、あなたは……!?」
「アリーシャ・ジョセフスターフ。━━━━アオイ・アールマインに負けた女と言えばわかるんじゃないのサ?」
というわけで更新です。
ついにアーリィことアリーシャ・ジョセフスターフが登場しました。瑛斗の周りに年上女性がまた一人……。
次回は戦闘の続きと、少しばかり学園側も映そうと思います。
次回もお楽しみにっ!