IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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その名は天使 〜または嵐の後の夜に〜

「見て見て! あれだよ!」

 

  クラウンの二度目の世界規模電波ジャックから数時間。陽が落ちてなお、IS学園は未だに騒然としていた。

 

「きれ〜! あれ本当に壊さなきゃいけないの?」

 

  寮での待機指示が解除され、外に出てきた学年もバラバラな女子たちが海の見える方向に集まっている。その視線の先にはクラウン率いる虚界炸劃(エンプティ・スフィリアム)の城、アルストラティアがあった。

 

  夜の闇の中を淡く発光しながら漂う巨大な構造物は、まるでSFアニメに出てくる神殿みたいだ。その城を一目見ようと、もしくは写真に収めようとして、こうして女子たちは殺到している。のん気というか、なんというか……。

  そんな携帯のシャッター音と話し声の二重奏を聞きながら、かく言う俺もあの城が見えるベンチに座っていた。

  クラウンの放送の後、俺は一度自室に戻った。あの夏の日に机の中にしまいこんだ俺の両親の手紙を読むために。

  けど結局、その封を開けることはできなかった。取り出して、また元の場所に戻してしまった。封を開けようとした瞬間クラウンと、そして所長の顔がフラッシュバックして、言いようのない恐怖に、俺は負けてしまったんだ。だからこうしてこのベンチに座っている。

 

「………………」

 

  そう。負けた。俺は負けた。所長に。所長と同じ顔をしたあの人に。

 あの時俺が動揺していなかったら、《G-soul》はあんな変わり果てた姿にはならなかったかもしれない。

  G-soulのコアの残骸、それとG-soulの右腕はまだ地下特別区画に保管されているはずだ。検査が終わってから特別区画には行ってないからあくまで予想だけど。

  というわけで今の俺に残っているのは、この待機状態のチョーカーとして首に巻きついている《セフィロト》だけ。こんなことを言うとセフィロトに失礼だけど、少し寂しい。というか、自分の身体の一部を奪われたような気分だ。

 

「……あ! 桐野くん!」

 

  俺を呼んだ声に振り返ると、相川清香さんが俺に駆け寄って来るのが見えた。

 

「相川さんか。どうしたんだ?」

 

「エリナ先生がどこにいるか知らない?」

 

「エリナさん? 見てないな」

 

「そっか……」

 

「何かあったのか?」

 

「うん、お礼を言いたくて。今日のあの襲撃で逃げ遅れた私を助けてくれて、ずっと側にいてくれたから」

 

  言われてみれば確かに俺が学園に着いた時エリナさんの姿はなかったけど、そんなことがあったのか。

 

「冷静になってから、思い出して驚いちゃった。エリナ先生ってIS持ってたんだね。その横にはあのイーリス・コーリングさんもいたし」

 

「いろいろと事情があってな」

 

  イーリスさんの名前を聞いて思い出したけど、あの人どこ行ったんだろう。千冬さんと博士から話を聞く前に出て行ったきり見てない。まさか出て行ったってことはないだろうけど。

 

「ふーん。事情、か……」

 

「え?」

 

  考えていたら、立っていた相川さんが腰を軸にして左右に身体を捻った。その目はまるで何かを探しているようだ。

 

「今この瞬間も、()()()()()()()()?」

 

「……っ!」

 

  身体がこわばる。そうだ。あの放送は学園生徒全員が見ていたはず。相川さんも例外じゃないんだ。

 

「びっくりだよ。学園中に隠しカメラがいっぱいなんて」

 

「……ごめん」

 

  口を突いて出たのは、謝罪の言葉。何に対して謝ったのか自分でもわからない。多分、相川さんを始めとする一般生徒たちに隠している秘密が多すぎることを、謝ったんだ。

 

「どうして桐野くんが謝るの?」

 

  対して相川さんは不思議そうな顔をして俺の隣に座った。

 

「だって……みんなが危険な目にあって……」

 

「今になって始まったわけじゃないよ」

 

「それに学園がこんな風になったのだって……」

 

「それこそ桐野くんが謝ることじゃないって。知ってるよ。私、見たもの」

 

「見たって……何を?」

 

「ボロボロの桐野くんたちが運ばれていくところ」

 

「………………」

 

「あれって、空から降ってきたあの人と戦ったんだよね?」

 

「……ああ」

 

「校舎の窓には防護シャッターが降りてたから景色は見えなかったけど、桐野くんの叫び声も聞こえたよ。セフィロト? って言ったっけ、桐野くんのもう一つのIS」

 

「でも……俺たちは……俺は、負けた……」

 

「そんなことないよ。学園を守り切ったじゃない。桐野くんたちがいなかったら、本当に学園が壊されちゃってたよ」

 

  そう言ってくれる相川さんの姿が、なんだか眩しく見える。純粋な感謝の眼差しが俺に向けられていた。

 

「学園を代表してって言うとなんだかおこがましいけど、きっとみんなが思ってること言うね。ありがとう、桐野くん」

 

「………………」

 

  どんな言葉を返せばいいかわからなくて、いよいよ言葉に窮してしまう。

 

「瑛斗、ここにいたのね」

 

  そこに聞こえてきた足音。そして聞き慣れた声。噂をすればなんとやら。相川さんが探していた相手だ。

 

「エリナさん……」

 

「織斑先生が呼んでるわ。専用機持ちは集合ですって」

 

「何かわかったんですか?」

 

「ええ。私もまだ詳しくは聞かされてないから、一緒に行きましょ。校舎の会議室にみんな集まってるらしいわ」

 

「わかりました。……でも、その前に」

 

「?」

 

「こちらの相川さんが、エリナさんに言いたいことがあるそうですよ」

 

「私に?」

 

「あ、あの! さっきは助けてくれてありがとうございましたっ!」

 

  立ち上がって頭を下げる相川さん。綺麗なおじきだ。腰が直角に曲がってる。そしてエリナさんはというと数秒キョトンとしてから、思い出したようで顔をほころばせた。

 

「ああ、あなたあの時の子ね。どういたしまして。よかったわ、まだ怯えてるかと心配してたのよ。その様子だと平気みたいね」

 

「はい! もうなんともありません!」

 

「ふふ、それはなによりだわ。今は大変な状況だけど、なんとかしてみせるからどうか冷静さを失わないでね」

 

「もちろんです。私、信じてますから!」

 

  力強い言葉にエリナさんと一緒に笑って応える。相川さんは満足げに鼻を鳴らして、「それじゃあ失礼します。桐野くん、またね」と手を振ると浮遊城の写真を撮っているクラスメイトの方へ走って行った。やっぱり相川さんも気になってたんだ。

 

「……この学園の子達は誰も立派ね。全くパニックを起こしてないもの」

 

「多分、みんな慣れたんだと思います。ここ最近、学園ではいろんなことが起こりすぎてる」

 

「そうね……。そう言われると、少し複雑だわ」

 

「行きましょうエリナさん。学園のみんなのためにも、俺たちはクラウンを止めなくちゃいけないんです」

 

「……ええ。わかってるわ」

 

  立ち上がり、エリナさんと並んで校舎へ歩き出す。歩き出す前、エリナさんが何か言おうとして止めたのを俺は見逃していなかった。多分、所長のことだ。

  でもエリナさんはそれを堪えてくれた。それは気持ちが揺さぶられないからありがたい反面、罪悪感に似たものも感じた。

  振り返り、第二の月のように浮かぶ城を見た。

  その輝きは神々しく、けれど寂しそうに見えた。

 

 ◆

 

「……では、これよりあの城……アルストラティア攻略の作戦会議を始める」

 

  千冬の言葉を皮切りに戦闘担当教師陣、全学年の専用機持ち、スコール、オータムの亡国機業(ファントム・タスク)組を集めた大規模な会議がIS学園校舎内特別会議室で始まった。タブレットを持った真耶が一歩前に出て、ドーナツ型の円卓の中央の投影型ディスプレイに映像を映し出す。

 

「これが、偵察に出たオルコットさんと更識さんが収集したデータから製作したアルストラティアの全体図です」

 

「で、デカいっす……!」

 

  縮小されてるとはいえ、フォルテがその大きさに圧倒されたように言葉をこぼし、それから息を飲む音や、唸るような声がちらほらと上がる。

 

「距離は学園から南方におよそ二十キロ。その大きさはこの学園とほぼ同じで、ところどころに似たような意匠が見られます」

 

  真耶の言葉の通り、投影されるアルストラティアの中央には学園のシンボルであるタワーに似たものが屹立しており、その周囲にも学園の施設に似た建築様式が用いられた建物が点在している。

 

「大きさもさることながら、その形にも驚かされましたわ。このIS学園を丸々複写したかのようでした」

 

「このような巨大なものが、なぜ浮いていられる?」

 

  実に奇妙だと首を捻る箒の疑問に楯無が答えた。

 

「この城の下半分。巨大な結晶の塊からPIC反応があったわ。おそらくそれがあの城の浮いているカラクリよ」

 

「あれが、ISと同じ原理で浮いている……?」

 

「けど、やはり特筆すべきはこの城に張られたバリアね。反撃こそなかったけど、セシリアちゃんのビットのレーザーと実弾の同時攻撃がどっちも完全に無力化されたわ。レーザーは霧散、実弾は勢いを殺されて落下……まるでBRFとAICが同時に発動されているみたいだったわ。ついでに言うと私の《ミストルテインの槍》も防がれたの」

 

  「何よそれ、マジで無敵じゃない」

 

  鈴がげんなりした様子で言うと、真耶は困ったようにタブレットを両手で握って顔の下半分を隠した。

 

「うう、み、みなさん……。あまり進めないでくださいよう。私の役目がなくなっちゃいます……!」

 

「も、申し訳ありませんでしたわ」

 

「すみません」

 

  さっそく緩みかけた雰囲気は、千冬の咳払いで体勢を立て直した。

 

「だが凰の言葉通り、鉄壁であることは確かだ。一週間という期限を設けているが、破壊が不可能となれば明らかに矛盾している」

 

「ギリギリまでこちらの好きにはさせないつもりではないでしょうか?」

 

「━━━━いや、そんなはずはない」

 

  ラウラの後、声をあげたのは瑛斗であった。真っ直ぐな視線をアルストラティアへと向けている。千冬は瑛斗が決して考え無しに言を発したのではないと判断して、「続けろ」と促した。

 

「クラウンはゲームと言った。だったら必ず俺たちが勝つ方法も設けてる。例えそれがどんなに困難であったとしてもだ。セシリア、楯無さん。攻撃したのはどこから?」

 

「え、えっと……このあたりだったかしら」

 

  楯無が指差したのはタワーより高い位置。アルストラティアの斜め上。

 

「あらゆる攻撃を無力化するバリアが包み込むように……なら、どこかに……」

 

  ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、瑛斗は全員が見ることができるようにゆっくりと回転する立体映像(ホログラム)の浮遊城を凝視する。そしてある一点を見つけた時、鋭い声を上げた。

 

「山田先生! 回転を止めてください!」

 

「は、はいっ?」

 

  若干疑問形な返事をしつつ、真耶は瑛斗に従ってタブレットを操作し映像の回転を止める。

 

()だって言うなら、その城には()があるだろう?」

 

「門? ……あっ!」

 

  正面。瑛斗の隣にいた簪は息を飲んだ。『門』があったのだ。

  浮遊城の端に位置する、崖のような場所。そこに、来る者を待ち構えるように閉じた状態の門があったのだ。

 

「ここならその無敵のバリアも無いはずだ」

 

「確かにわたくしたちもその門のようなものの存在は知ってましたが……確証があるのですか?」

 

「あるわけじゃない。でも、あいつなら……クラウンなら、そういうことをしそうな気がするんだ」

 

「もし瑛斗の言葉を信じたとしても、罠である可能性が極めて高いわね」

 

  エリナは顎に手を当てて、皆が考えていることを代弁する。

  しかし一週間というタイムリミットがある以上、こうして話しているだけでは話が進まないことも全員理解していた。

 

「束の意見を聞きたいが、そのデバイスの再起動にはもう少し時間がかかるか……」

 

  瑛斗の持つ束のデバイスは特別区画での出来事の後、突然充電状態になってしまい、完全に文鎮状態であった。頼みの綱のクロエも、今は医療棟で深く眠っている。

 

「専用機持ちたちのISの修理もあります。早くて丸一日かかりますよ」

 

「あの襲撃者が使ってきた謎の武装も気になる……。《打鉄》や《ラファール・リヴァイヴ》が消えたのはどうして?」

 

  にわかに騒ぎ立つ会議室内。千冬がもう一度咳払いして仕切り直そうとした瞬間━━━━扉が開いた。

 

「この会議に最早必要性はありません」

 

  現れたのはスーツ姿の女性。

  銀縁のメガネをかけ、その奥の切れ長の目はまるで獲物を射殺そんとするスナイパーのように鋭利だ。

 

「誰だお前は。ここは部外者の立ち入りは禁じているぞ」

 

  千冬の恫喝にも動じる様子はなく、逆に女は千冬を睨み返した。

 

「申し遅れました。政府から派遣されて来ました、(さざなみ)香澄(かすみ)です」

 

「政府? それはご苦労なことだな。いったい何の用だ? この会議に必要性がないとか言っていたが?」

 

「言葉通りの意味です。すでに国連が動き、虚界炸劃(エンプティ・スフィリアム)に対しても作戦の立案が行われています」

 

「……やけに動きがいいな。こちらの面倒ごとはこちらに押し付けたままにするのがお前らの常套手段だろう?」

 

  千冬の言は皮肉でもなんでもなく事実であった。

 

「今回の件は、この学園だけでなく世界規模の問題であると判断を下したまでです」

 

「ほう? ではどうする? その作戦とやらで、政府はIS学園と協力して事にあたると?」

 

「いえ。それも必要ありません。」

 

「なに……?」

 

  漣は事務的に、淡々と宣告した。

 

「━━━━今回の作戦に、IS学園側の参加は認められません」

 

 ◆

 

  同じ頃、アルストラティア内。

  中央にそびえ立つ塔内の一室では、培養器から生まれた双子、シェプフ・リーパーとツァーシャ・リーパーが、白で統一された室内にまるで一輪差しの薔薇のように存在感を放つ赤いソファーの上に(シェプフ)は脚をプラプラ揺らし、(ツァーシャ)は綺麗に揃えて行儀よく座っている。

  しかし双子のどちらも退屈そうで、その目は不満げである。二人の間には菓子が盛られた皿があるが、手をつけられた様子もない。

 

「……暇ですね、ツァーシャ」

 

「暇ですね、シェプフ」

 

  耐えきれなくなったようにシェプフが声をあげ、ツァーシャが同調する。

  二人は『父親』であるクラウンの放送が始まる前からこの室内にいたのであった。

 

「さっきIS学園から来た更識楯無とセシリア・オルコットが的外れな攻撃を仕掛けてからさっさと帰りましたけど、偵察だったですかね」

 

「そう考えるのが妥当でしょう。少し考えれば侵入できそうなものですが……」

 

「お父様も変なこと言ってたです。『桐野瑛斗はこの城の防御システムの秘密を看破する』とかなんとか……あんなもの、一目見ただけでバレるですよ!」

 

「まったくです。ですがああも早々と撤退されると、失望さえ抱きます」

 

「ノコノコ入り込んでくれたら、あの金髪のお姉さんのようにお父様の駒にしてあげられたのに、残念です」

 

「駒と言えば……シェプフ、おばさん(エミーリヤ)の方はいかがでしたか? 様子を見てきたのでしょう?」

 

  尋ねられたシェプフは脚をプラプラさせたまま「あー」と鳴き、まさしく子ども然とした感じに文句を口にした。

 

「あのおばさん、私たちが連れて帰ってきたドイツの特殊部隊の人たちのことがいたく気に入ったみたいです。ネットに流せば変態どもが食いつきそうな感じになってましたですよ」

 

「つくづく愚かなおばさんですね。あの人たちは()()()()()になるというのに」

 

  聞いたツァーシャも額に手をやり大仰に頭を振ってみせた。

 

「もうあの人たちが持ってたISもお父様がIOSに作り変え終えてるし、あのおばさん待ちなんですけどねー」

 

「まあ、あまり時間がかかるようであれば、直接私たちが出向くまでです。今の私たちにはお父様からの言いつけがありますし、それを遂行しながら待つとしましょう」

 

「はてさて、おばさんが来るのが先か、()()が目覚めるのが先か……。ツァーシャ、このお菓子で賭けをするです!」

 

「では、目覚める方にクッキーを一枚」

 

「私も目覚める方にクッキーを一枚です!」

 

「………………」

 

「………………」

 

  双子は互いの顔と賭けたクッキーと見合わせて、ぷっと吹き出した。

 

「あははっ! もー! どっちも一緒じゃ賭けになりませんよー!」

 

「ふふふ、最初に言ったのは私です。シェプフが譲歩するべきです」

 

  仲睦まじく笑いあう微笑ましい光景。

  しかしそれはこの場ではあまりにも異様な光景であった。

  なぜなら、双子のいる部屋の中央には、巨大な結晶塊が淡く光りながら浮かんでいたからだ。

 

「おふざけもほどほどに……そろそろですね」

 

「ええ。もうそろそろです」

 

  互いの摘んだクッキーを頬張り、結晶塊に視線を投げる。

 双子の動きと全く同時のタイミングで結晶塊が輝きを増し━━━━

 

「………………」

 

  薄れゆく光の中から、一人の一糸纏わぬ少女が現れた。

 

「しかしまあ、お父様の趣味の悪さは最高ですね」

 

「ええ。『彼ら』の器に死体を使うなど、あのお父様でなければ出来ない(わざ)です」

 

  棒立ちの少女を見る双子の目、そして口元に、短期間の睡眠学習で植え付けられた父親(クラウン)と類似した人格の片鱗が見え隠れする。

 

「では……おいお前!」

 

「……ろ……」

 

「もっとはっきりしゃべるです!」

 

「シェプフ、あまり急かしてはいけません。おそらくまだ言語野が━━━━」

 

「こ……ろ……す」

 

「!」

 

「……殺す……」

 

  言いかけたツァーシャは、少女の口にした確かな声を聞いて言葉を飲み込んだ。

 

「……どうやら、想像以上のスピードで融合が進んでいるようですね」

 

「ならよしです!」

 

  ピョンとソファーから降りたシェプフが少女の前に立ち、左手を腰に当てて右手で少女を指差した。

 

「お前! 名前言ってみるです」

 

「……私は、『エー』」

 

  自身より頭一つ分背丈が低いシェプフに従順に答える少女。しかし当のシェプフはなにやら不服なようで半眼を作った。

 

「んー……エーって、確かアルファベットの一文字目のことですよね。つまらないです! お前に名前をつけてやるですよ! んーと、んーと」

 

「シェプフ、物事は考えてから言うべきですよ?」

 

「う、うるさいですツァーシャ! ……エンジェル! お前の名前は今からエンジェルです」

 

「……エン……ジェル?」

 

  言われた少女は少し困惑したようにシェプフの細い人差し指の先を見つめた。

 

「まあ、天使(エンジェル)? いささか仰々しいのでは?」

 

  背後で意地悪げに微笑む妹を無視し、シェプフはもう一度少女の顔を指差して高らかに言い放つ。

 

「じゃあ改めて、エンジェル!お前の役目を言ってみるです」

 

  何も言わず静かに膝を折り、双子の前に跪いた少女。

  そして今度は吃ることのない、はっきりとした言葉を紡ぐ。

 

「私の名はエンジェル。その役目は、織斑マドカを殺すことにございます」

 

  マドカの名を発したその口には、薄い笑みさえ浮かべていた。




というわけで更新です。
前回の更新の後、地の文の書き方について指摘を受けたので早速今回から参考にして書いてみました。

さて本文ですが、相川さんの懐の深さが滲み出てました。優しい子ですね。
学園にはなにやら陰謀的なものが降りかかってきました。IS学園は一応独立した機関のはずですが、いったいどうなっていくのでしょうか。
敵側では、作者が個人的に気に入ってるシェプフとツァーシャが久しぶりに顔を出したと思ったら、マドカを殺す宣言の新敵キャラの登場シーンになりました……。まだ増えるか。
そして次回は一夜明け、タイムリミットが迫る中、瑛斗がとあるイタリア代表と初コンタクトです。

次回もお楽しみにっ!

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