IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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虚勢と偽りの狭間で 〜または最強の用務員〜

物心ついた時から、私は周囲からの期待にさらされていた。

言われたことは何だってやった。

 

何だってこなした。

 

何だって出来た。

 

そうしていると、

━━━━これで次代の更識も安泰だ━━━━

 

みんな口々にそう言って、気がついたらそれが私の唯一のアイデンティティーになっていた。

私は十七代目『更識楯無』。

そうなる為に、生まれてきた。

「本当に?」

え……?

「本当に、そうなの?」

……そうよ。それが私だもの。

「ならどうして、私を遠ざけたの? 姉妹なのに」

遠ざける? そんなつもりは……

「避けられていたんじゃなく、自分が逃げていたんじゃないの?」

そ、そんなこと……ないわよ……

「自分から歩み寄る勇気が無かっただけじゃないの? だから彼らに頼ったんじゃないの?」

ち、違う! 違うわ!

「違うなら、どうして私はあんなに辛い思いをしなくちゃいけなかったの?」

それは………!

「答えられないんだ………嘘つきなんだね。()()()()()は」

やめて……

「嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき」

お願い……!

 

「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」

 

その声で言わないで……!!

「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」

もうやめて!!

「そんな嘘つきは殺されても文句は言えないわよねぇ?」

 

 

「っ!?」

目を覚ますと、天井の照明の眩しさを最初に感じた。

「ここは……医療室……? つっ……!」

身体を起こした瞬間、腹部に鋭い痛みを感じ、その痛みによってぼんやりとしていた意識が覚醒する。

(そっか……。私、倒れたんだっけ……)

じっとりと嫌な汗をかいていた。髪が額に張り付いている。

(やな夢だったわ……)

起き上がりつつ、張り付いた前髪を指先で梳いた。

「気がついたようね」

「!」

スコールだ。赤のスーツ姿で、ベッドの横の丸椅子に足を組んで座っている。

「起きて最初に見るのが、この顔とは………」

「あら何? 不満? なんだったら外に控えてるオータムも呼びましょうか?」

「結構です」

「まったく………。薄々こんなことになるんじゃないかと思ってたわ。あなた、相当な無理をしたみたいね」

「…………………」

「いい教訓になったんじゃない? これでわかったでしょ? あなた一人じゃ限界があるってこと」

「限界………」

「まぁ、怪我人にどうこう言うつもりはないわ。けど、あなたを気にかけている子達のことも考えてあげたらどう?」

「…………………」

目を伏せてスコールから顔を逸らす楯無。

「はあ……私としたことがとんだ貧乏くじだわ……」

頭を左右に振って、スコールは立ち上がった。

「もう遅いから、私達も帰らせてもらうわね。………一応言っておくけど、あなたをここに運んだのは瑛斗だから」

「瑛斗くんが……」

「織斑一夏と一緒にね。会ったら、お礼くらい言っておきなさいよ?」

そう言い残してスコールは出て行った。

「…………………」

一人になった楯無は《ミステリアス・レイディ》の状態を確認するために右腕を部分展開しようとした。

しかし展開された装甲は傷だらけの掌部のみで、このごく一部の部分展開が限界のようだった。

「やっぱり……かなりダメージを受けてるわね……」

展開を解除する。

━━━━どれくらいいるのかしらねぇ! 自分の国の代表が、自分の国の国民じゃないことに納得出来ない人が!━━━━

「………っ!」

ふいにエミーリヤの言葉を思い出して、思わず身震いした。

そしてそのまま衝動的にレイディの秘匿回線通話を接続。

呼び出しの音がいつもよりも長く感じたところで、通話は繋がった。

『ハイ? モシモシー?』

片言の応答。声の主はアリサ・アラノフ。楯無は再びロシアへと回線を繋げていた。

「更識……楯無よ」

『オー! 国家代表サマ! マタマタ珍シイネ。ソッチカラ━━━━』

「ごめんなさいアリサ。付き合ってる暇は無いの。『遊びは終わりよ』」

『………了解。御用件をどうぞ』

「今日、彼女……エミーリヤ・アバルキンと戦ったわ」

『これは、任務完了の報告と捉えてよろしいのですか?』

「いえ………逃がしたわ……」

『代表、この回線は各国から傍受されないよう複雑な信号としてやり取りをしています。……言いたいことは、わかりますね?』

「わかってる。わかってるわ。でも確かめたいことがあるのよ」

『それは、何ですか?』

「ミステリアス・レイディ二号機……彼女は 冷酷な霧の女王(ジェストコスチ・トゥマン・プリンツェサ)

 

と呼んでいた機体……。あれには私のレイディのアクア・ナノマシンを奪い取る能力が備わっていたわ。貴女は……知っていたの?」

『私はあくまで連絡担当です。機体の詳しいスペック等は、何も』

「そう……そうよね。ごめんなさい」

即座に返ってきた至極当然な答えに、楯無は腑に落ちないがそう言うしか出来ない。

『以上でしょうか?』

「ま、待って。もう一つだけ」

『どうぞ』

「………私が国家代表であること、あなたは納得してる?」

『……………』

沈黙。

今度は先程と打って変わり、返事が来ない。

この静寂が楯無に言いようのない恐怖を与えた。

「……どうしたの? どうして何も言わないの!?」

『……失礼。少々言葉を失ってしまいました』

「ど、どうして?」

『その問いに私が仮に否と答えた場合、貴女はどうするおつもりですか?』

「アリサ……」

『愚問です。貴女は貴女自信が望まれて今の立場にあるのですよ』

「アリサ…! 違うの、そうじゃなくて……!」

『これ以上の通信は傍受される危険があります』

「アリサッ!? 待ちなさ━━━━」

『失礼します』

通信はあちらから一方的に切られ、すかさず楯無は再接続を試みたがそれは失敗に終わった。

「…………………」

━━━━味方以上に敵がいるのよ! 貴女はぁぁぁぁっ!!━━━━

「わかってる……。わかってるのに………!」

またしてもエミーリヤの声が頭に響いて、脇腹がズキズキと痛んだ。

「私……わたし………っ!」

この数分後にスコールに言われてやって来た真耶が見たのは、膝を抱えて震える楯無の姿だった。

 

 

学園祭の翌日、その午後。

劇のセットの片付けを終わらせた俺と一夏は、楯無さんのお見舞いに行くことにした。

「楯無さん、元気になったかな」

「どうだろうな。結構ヤバそうだったけど……」

「簪はよかったのか? 呼ばなくて」

「それなんだけどな……簪本人から聞いたんだけど、あいつ朝方お見舞いに行ったんだとさ。でも、まだその時は治療中だったらしくて面会謝絶で会えなかったらしい」

「え……じゃあもしかしたらまだ治療の真っ最中かもしれないのか?」

「そうじゃないかもしれない。そしたら携帯で簪を呼ぶさ。心配してたんだ。きっと打鉄弐式で飛んで来る」

「なるほど……そう言えば、イーリスさんはどうしてるんだ? この学園にいるんだろ?」

「あー……どうなんだろうな。全然それっぽい人は見ないけど」

「もしかして、スコールさんと巻紙さんみたいに先生として来たりして」

「ありそうで怖いな………」

 

国家代表の授業って聞くとかなり魅力的だけど……イーリスさんだからなぁ。

「あ、イーリスさんで思い出したけど、あの時瑛斗が遅れてきた理由が、まさかイーリスさんにサインを書いてもらってたからとはなぁ」

「フォルテ先輩が欲しがってたからさ。イーリスさんのサイン」

片付けの途中でフォルテ先輩に会った俺は、昨日から持ち歩いていたイーリスさんのサイン色紙をフォルテ先輩にプレゼントした。

「喜んでたな。先輩」

「ああ。着ぐるみの苦労が報われたーってな。学園祭中に見なかったと思ったら、着ぐるみで客寄せしてたとはな」

「着ぐるみはちょくちょく見かけたよな。中身がフォルテ先輩とはわからなかったけど」

「フォルテ先輩にはイーリスさんがいることは言ってないからな。バレて騒がれたりしたら……あれ?」

俺は医療棟の前まで来て足を止めた。一夏も俺のすぐ後に止まる。

「あ……」

楯無さんがちょうど医療棟の建物から出て来たところだった。

「や……やあやあ二人とも! こんなところで何してるのかしら?」

楯無さんはそう言って手を振る。

「俺ら今から楯無さんのお見舞いに行こうと思ってたんですよ」

「楯無さん、もういいんですか?」

「もっ、もちろんよ! おねーさんもうバリバリ元気なんだから!」

楯無さんがパンッと音を立てて広げた扇子には、『回復』と達筆な筆字が。よかったよかった。

「ならいいんですけど……あ、そうだ簪! 楯無さん、簪すごく心配してましたよ。早く行ってあげてください。なんだったら呼びましょうか?」

「…………………」

と、楯無さんは一時停止のボタンでも押されたみたいに動かなくなった。

「……楯無さん?」

「えっ!? あ! う、うん! そうね。簪ちゃんね。うん、簪ちゃん……」

楯無さんの浮かべる笑顔は、どこかぎこちない。

「本当に大丈夫なんですか? まだ具合悪いなら寝てた方が━━━━」

「心配性ね。おねーさんはそんなにヤワじゃないのよ?」

「なら………いいですけど」

「うん。それじゃあね」

楯無さんは行ってしまった。その一連の動作は、まるで俺達から逃げるかのようだった。

「一夏……楯無さん、どう思う?」

「様子、ちょっと変だったな……」

「きっ、桐野くんっ!!」

建物の中からまた人が出て来た。今度は山田先生だ。

「山田先生? どうしたんです?」

「す、スワンさんが目を覚ましました!」

「エリナさんが!? 」

「私、今から織斑先生を呼んで来ますので!」

山田先生は慌ただしく走っていく。

「これ……イーリスさんも呼んだ方がいいんじゃないか?」

一夏の言葉にハッとした。

「そ、そうだ! こうしちゃいらんねぇ! イーリスさんを連れて来なくちゃ……でもあの人どこにいるんだ?」

するとそこに……

「はっ、はっ、はっ……」

「あれ? 箒だ。おーい、箒ー」

ISスーツ姿でランニングしている箒がやって来た。

「む? なっ、い、一夏!? 瑛斗まで!?」

驚いた箒のポニーテールが揺れる。

「なんでこんなところISスーツで走ってるんだ?」

「うっ……じ、実は、片付けの後セシリアに誘われてISの自主練習行ったんだが………」

箒にしては珍しくはっきりしない言い方だな。

「行ったんだが?」

「突然、見たことのない女性が乱入してきて、訓練の相手をすると言って生身にISブレードで挑んできてな」

「そんな千冬姉みたいなことを!?」

「その、不甲斐ない話、圧倒されてしまって……今そのペナルティーで走らされている」

「そんな人が……ハッ!」

俺はなんだか嫌な予感がした。

「ほ、箒……その人、今どこに?」

「まだこの第四アリーナの中だろう。セシリアが戦っている筈だ」

「第四か……。そんなに遠くないな! ちょっと行ってくる!」

第四アリーナへ走り、そして観客席へ出た瞬間━━━━

「きゃああああっ!」

ドカーン!

土煙が上がり、それが風に流されて、地面に倒れているセシリアを確認出来た。

「これでゲームセットだな」

セシリアの前には、ISブレードを肩に担いでニヤリと笑う、作業着の上着を脱いだ黒のタンクトップ姿の女の人が。

間違いない。イーリスさんだ。

変装のためにサングラスをかけているんだろうが俺にはわかる。

「こ、このわたくしが………ここまで手玉に取られるなんて……! 貴女は何者ですの!?」

《ブルー・ティアーズ》の展開を解いて立ち上がったセシリアがイーリスさんに叫ぶ。

「さっきも言ったろ。今日付けでここに来た用務員だ」

「意味がわかりませんわ!?」

「ゴチャゴチャうるせぇなぁ。そら、ペナルティーだ。さっきのポニテのやつみたいにアリーナの外を一周! そら、ダッシュダッシュダッシュ!!」

「〜〜っ! お、覚えてなさいっ! 次は負けませんわっ!!」

潔いセシリア。捨て台詞を言ってからアリーナの外へ出て行った。

「篠ノ之先輩に続いて、オルコット先輩まで…!」

「只者じゃないわよ……! セシリアのビットの動きを完全に先読みして………」

「浮遊してるビットを足場にして飛んだところなんて、信じられなかった!」

遠巻きに見ていたギャラリーの女子達もざわついている。

「よーしっ! 次の相手は誰だ!? 見てるだけじゃ強くはなれねぇぞ!」

次の獲物……もとい相手を探しているイーリスさん。新たな被害者が出る前に止めないと!

「ちょ、ちょっと! 何やってるんですか!?」

観客席から飛び降りて、声を張る。

「わっ! 桐野先輩だっ!」

「飛び入り?」

「写真写真! 写真撮らなきゃ!」

俺が乱入したことで女子達がまたざわついたが、そんなことを気にしてる場合じゃない。

「ん? お! 次の相手はお前か!」

イーリスさんの目はイキイキとして輝いている。

「何してんですかマジで! 用務員でしょあんた!」

「行くぜぇっ!」

「うわぁっ!?」

ISブレードの重たい一撃をシールドで受け止める。話聞いてくれないんだけど!?

「おいおい、私が生身だからって遠慮してんのか? 部分展開なんかじゃなく全展開でかかって来い!」

「そ……そんなことやってる場合じゃないんだ………よっ!!」

シールドを力いっぱい押してブレードを押しのける。

「あ?」

「エリナさんがっ! 目を覚ましましたっ!!」

「なっ……!?」

イーリスさんが一度大きく目を見開いて、ISブレードを地面に突き刺すと、ズンズンと歩み寄ってきて俺の両肩を掴んだ。

「馬鹿野郎! なんでそんな大事なこと先に言わねえ!?」

「言おうとしたのにあんたが斬りかかって来るからでしょうが!!」

と、周りがシン………と静まり返っていることに気づいた。

「あれ? なんか、話してるみたいだよ?」

「て言うかあの人、桐野先輩の知り合い?」

ま、マズいな。これ以上注目されるとイーリスさんの正体がバレかねん。

「ほ……ほら! とにかく行きますよ!」

イーリスさんの手を取って走り出す。

「お、おいおい……へへ、大胆じゃねーの」

「バカ言ってないで!」

イーリスさんを連れて医療棟に入り、エリナさんがいる部屋に走る。

「エリナさんっ!」

ノックも忘れて扉を開けると、山田先生と織斑先生。一夏もいて、そしてベッドにはエリナさんがいた。

「瑛斗……」

「来たか、桐野」

先生達への挨拶もそこそこ、俺はエリナさんに向かった。

「エリナさん……よかった。あの後から丸一日眠ったままだったから、心配したんですよ!」

「瑛斗………えいと……!」

エリナさんはもう一度俺の名前を呼ぶと、目から涙を溢れさせた。

「ごめんなさい……! 私……あなたを殺してしまうところだった……!!」

「………それって、あの軍艦で、ですか?」

「ごめんなさい……! ごめんなさい………!!」

「エリナさんが謝ることありませんよ……。大丈夫。もう、大丈夫ですから……」

「うぅ……! うああああ…………ああああ……!!」

エリナさんが俺の制服の上着を掴んで子どものように声をあげて泣き出す。

「怖かったですよね……。よく頑張りましたね……」

俺はそれを受け入れて、エリナさんの頭を撫でた。

「でも……エリスだってまだ……!!」

「わかってます。わかってますよ……。でも、今は、エリナさんは泣いてもいいんです」

「………チェッ、アタシにゃ何も無しかよ」

エリナさんの泣き声に混じって、イーリスさんが愚痴をこぼしている。

「イーリスさん!」

「わーってるわーってる。言ってみただけだっつの」

エリナさんが泣き止むのを待って、俺達はエリナさんの話を聞くことにした。

「━━━━では、スワンさんは人質となったエリス・セリーネさんの身の安全と引き換えに、エミーリヤ・アバルキンと行動を共にしていた、ということですね?」

書類にエリナさんの証言を書き込みつつ、山田先生が確認を取る。

「…………」

エリナさんは無言のまま頷く。

「私がエリスと離れていたばっかりに……」

「起きちまったことは仕方ねぇ。助けることだけを考えた方がまだ健全だぜ」

イーリスさんの言葉には賛同できるものがあった。

「そうですね……エリスさんを早く救出しないと」

「エリス……」

ポツリとエリスさんの名前を呼んだエリナさんが、何かに気がついたように眉を動かした。

「瑛斗、私のヴァイオレットは?」

「そのことですか……」

俺は昨日イーリスさんに話した内容を、ここにいる全員にもう一度話した。

「声を聞いただと?」

真っ先に口を開いたのは織斑先生だった。

「それは本当なのか?」

「はい。聞いたことのない女の人の声でした。エリナさんには聞こえませんでしたか?」

「い、いいえ……」

「……………………」

「千冬姉?」

「いや、何でもない。こいつがあまりにも突拍子もないことを言うから少し驚いただけだ」

「………? まぁいいや。にしても瑛斗、今の話だと、なんか初めて会った頃の戸宮ちゃんみたいだぞ?」

「言うなよ。俺もちょっと気にしてるんだよ……」

「そう……ヴァイオレットは、あなたが持っているのね」

「持っているっていうか、その後にヴァイオレット・スパークみたいなことが出来るようになっただけで……い、いや、その、なんかごめんなさい」

「いいのよ。そのおかげで、楯無ちゃんを助けられたんでしょう? なら、いいのよ」

エリナさんは少し寂しそうに笑う。

「話を戻そうぜ。エリスを助けに行くわけだがよ、エリナ、お前エリスと一緒にいたのか?」

「ええ……でも」

「でも、なんだ?」

「私、自分がどこにいたのかわからないの………」

「わからない?」

「彼女に着けられたバイザーで目隠しをされて……ヴァイオレットは自動操縦で、目的地に着くと見えるようになって……」

「つまり、居場所はわかんねえってことか」

重たい沈黙が漂う。エリスさんの居場所がわからなきゃ助けに行きようもない。

「━━━━お困りみたいね?」

「スコール!?」

いつの間にかスコールが部屋の扉のそばに立っていた。

「こうして顔をちゃんと合わせるのはセフィロトを頂戴した時以来かしら?」

「あなたは……?! どうしてここに!」

「あぁ、そう言えばあなた何も知らなかったわね」

「エリナさん、あいつは俺達の味方です」

「味方……?」

「まったく……今日はゆっくりさせてもらおうと思ったのに」

ぼやきながら靴の音を響かせてスコールが部屋に入ってくる。

「何かあったのか?」

「これを見て」

スコールは持っていた携帯端末から映像を浮かび上がらせた。

上空からの映像のようだ。やけに高いところから撮影してるな。

「かなり荒れてんな。どっかの戦場か?」

イーリスさんの言う通り、建物らしいものは無く、代わりに瓦礫や剥き出しになった地面が見える。海にも面してるみたいだな。

「スコール、それでこれ、どこの映像なんだ?」

「……神掌島よ」

「えっ………!?」

神掌島。その島は俺がセフィロトの制御を出来るようにするために行った、チヨリちゃんと初めて会った場所だ。

(これが……あの島……!?)

すぐに信じられなくて、スコールを見る。スコールは長いブロンドを揺らして肩を竦めるだけだ。

「今朝方、チヨリ様が留守にしてる島の様子を見るためにどこかの国の人工衛星をハッキングしたそうよ。これはその時見た映像」

「そんな……! ここにいる人達はどうなった!?」

「まだそこまで調べきれてないけど、面白いものが映っていたわ」

「面白いもの?」

映像が一部……というか海岸付近を拡大、そして数秒巻き戻されてからまた再生される。

海岸側から何かが飛んで来て、そこで映像が一時停止した。

「これ、何かの役に立つんじゃない?」

「んん? ………ああっ!?」

さらに拡大された映像には、見覚えのある姿が映っていた。

「こ、こいつ……エミーリヤだ!」

俺達の目に飛び込んできたのは、 冷酷な霧の女王(ジェストコスチ・トゥマン・プリンツェサ)

 

を展開したエミーリヤ。上空からの画だけど、間違いない。

「あいつ……神掌島を根城にしてるのか」

「セリーネさんもここにいる可能性が高い、と、そういうことでしょうか?」

「その通りよ。察しがいいわね、真耶ちゃん」

「ま、真耶ちゃん?」

突然名前を呼ばれ、山田先生は目をしばたたかせる。

「っしゃ! なら話は早え。早速乗り込んで━━━━」

「待ってイーリ」

「ん?」

エリナさんがイーリスさんの言葉を遮って、真剣な眼差しを向ける。

「……私も行くわ」

言われたイーリスさんよりも早く、俺はエリナさんを止めようとした。

「エリナさん!? 無茶ですよ! そんな状態で、第一ISも無しに……」

「………わかった」

でも、イーリスさんは頷いてしまう。

「イーリスさんまで!?」

「けど準備がある。出発は明日の朝だ。それでいいな? エリナ、それまでに立てて、走れて、戦えるようになっとけよ」

「任せて。私も貴女と同じ道を歩いていたのよ?」

エリナさんは、イーリスさんの無茶振りに笑ってみせた。

「私とオータムも同行させてもらうわよ。うちの上司から行くよう言われているし。瑛斗、あなたはどうする?」

「聞くまでも無いだろ?」

「それもそうね。ブリュンヒルデ、よろしくて?」

「構わん。好きにしろ」

「瑛斗、俺も行くよ」

「お前はダメだ」

一夏が前に出たが、織斑先生が止めた。

「ち、千冬姉? どうして!?」

「お前には、明日行ってもらう場所があるからだ」

「行ってもらうって……どこにだよ?」

先生は、短く息を吐いて、そして短く答えた。

 

「………倉持技研だ」

………

……………

…………………

………………………

「倉持技研かぁ………」

俺と一夏はエリナさんの治療が行われるからと部屋から出され、やることもないので医療棟からも出た。

「確か白式を造ったところだろ? 何の用なんだ?」

「データ収集とかじゃねーの? しかも第二研究所だかんな。もしかしたらヒカルノさん達に会えるかもだぜ?」

「知り合いなのか? と言うか、行ったことあるのか?」

「あ……ま、まぁ、ちょっとな。ハハ……」

『あの時』のことはなんだか言いづらい。はぐらかすことにしよう。

「ふーん? で、そのヒカルノさんってどんな人なんだ?」

「一言で言うなら……痴女?」

「なんだそりゃ」

なんて話をしてたら、前から歩いてきた人に声をかけられた。

「一夏くん、瑛斗くん」

楯無さんだ。

「楯無さん。簪のところにはもう行ったんですか?」

「……………………」

「楯無さん?」

「ねぇ、二人とも………このあと、暇?」

楯無さんは藪から棒にそんなことを言ってきた。

「へ? まあ、暇っちゃ暇だよな?」

「そう……だな?」

「じゃあさ……付き合ってくれる?」

いつもと違って不安そうに揺れた楯無さんの瞳を、無下にすることは出来なかった。




イーリス・コーリング、身分を隠して用務員として学園に身を置くことになりました。早速箒とセシリアを圧倒です。

楯無の心が非常に揺れてます。悪夢を見てしまうくらいに。

次回もお楽しみにっ!

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