IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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発現する力 〜またはその覚悟と願いの裏側〜

倉持技研第二研究所の休憩室。テレビでは全国放送されているとあるチャンネルがニュース番組を放送している。

いつもならこの時間は地域の激安スーパーや害虫の駆除などの話題を取り上げているが、今放送しているのは臨時ニュースだ。

『先程からお伝えしているように、各国の軍事基地から、弾道ミサイルが一斉に日本に向けて誤射されるという事態が発生しております』

アナウンサーが、悪い冗談のような報道を行う。

『情報によりますと、発射された弾道ミサイルは、IS学園へ向かっているそうです。近隣のみなさんは誘導に従って避難してください。繰り返します。現在………あ、学園の付近から映像が届いているそうです。繋いでみましょう』

画面が切り替わり、IS学園のシンボルである中央タワーが見える場所に女性アナウンサーが緊張した面持ちで立っていた。

『こちらはIS学園へ続く道の途中です。先程、遠方の海上で爆発が起こりました。カメラをズームにすると、爆発に混ざって小さな光のようなものが見えます』

休憩室のテレビを見ているのは、この研究所の所長である篝火ヒカルノ、そして倉持技研が開発した試作型IS《打鉄飛天式》のテストパイロットである伊那崎カグヤ。

「ねーねーヒカルノ」

椅子に腰掛けながらドーナツを頬張るカグヤが画面から目を離さずに、隣に立つヒカルノを呼ぶ。

「なんだいカグヤ」

ヒカルノも顔を動かさずに返事をする。

「始まったね」

「ああ、始まった」

「今の迎撃ってさ、誰かな?」

「十中八九、瑛斗()だね」

そこでようやくカグヤはヒカルノへ顔を向ける。

「行かなくていいのかな、 応援」

「逆に聞くけど、行きたい?」

「んーん。行きたくなーい」

ヒカルノは、ふふふん、と笑う。

「ま、そうだろうね。と言うか、行くって言っても止めるから」

ヒカルノはぐいーっと身体を伸ばした。白衣の下のISスーツに包まれた豊満な胸がプルンッと跳ねる。

「さぁーって、これから忙しくなるよ!」

「楽しみだねぇ。あのミサイルはさしずめ祝砲ってところかな」

「あれが祝砲か。派手でいいじゃない。……そう、今、この瞬間から………」

ヒカルノは踵を返し出口へと歩き出す。

「世界は次のステージに入るんだ」

そしてその長い長い犬歯を覗かせ、怪しく微笑みながら、休憩室を後にした。

 

少し熱を持った風が俺の身体に浴びせかけられる。

「ふぅ……」

俺はビームブラスターを下ろして、息を吐いた。

(なんとか間に合ったか……)

振り返ると、シャルが俺の方を見ていた。って、おいおい、なんて顔してんだ。泣いてるのか?

「もう大丈夫。俺が守ってやるからな。街も、学園も、お前も」

「……! ……………………! 」

シャルがしきりに何か言ってるけど声が聞こえない。多分これも例のフィールドの所為なんだろう。

と、箒が駆け寄って、シャルに肩を貸して立ち上がらせた。箒も俺を驚いたように見ている。

声でのコミュニケーションが無理だから俺は頷いてみせた。

箒も頷き返して、シャルと一緒にシェルターへ避難していく。

━━━━ミサイル群、前方に展開━━━━

「さあ……行こうぜ、G-soul!!」

ビームウイングを羽ばたかせ、ミサイルの群れに向かう。

学園の近くで爆発したらまずい。止めるなら海の上だ。

(一発たりとも、学園には届かせない!!)

ミサイルの反応を察知して、俺は拳を握った。

 

 

リフトは、無事に地下へと降りた。

「一夏さん!」

「お姉ちゃん! シャルロット!」

「大丈夫っすか!?」

先に地下へ降りていたセシリア、簪フォルテ、梢が一夏達に駆け寄る。

「シャルロットちゃん、膝は平気? 他に怪我は無い?」

「………………………」

楯無が座り込むシャルロットに話しかけるが返事が無い。

「シャルロット? どこか怪我を?」

心配したラウラがシャルロットのそばにしゃがむ。

「来て……くれた…………」

「来た……? 誰が来たのです?」

セシリアの問いかけに、シャルロットは顔を上げた。

「瑛斗が……瑛斗が来てくれた……!」

「えっ………!?」

「瑛斗が!?」

その場にいた全員がシャルロットの言葉にざわめく。

「シャルロット、本当!? 本当に……!?」

簪が少し興奮してシャルロットに近づいた。

「瑛斗が……来たの!?」

「うん……! うん!」

「私も見たぞ。確かに瑛斗がG-spiritを展開していた」

箒もシャルロットの言葉に頷く。

「あいつの顔つきには、もう迷いは無かった。まさに戦士だ」

「瑛斗……」

ラウラがぎゅっと両手を握る。

「無事でいてくれよ……話したいことがあるのだ…」

「楯無さん、俺たちはどうしたら……」

「今は彼に託すしかないわね」

楯無は一夏にそう答えた。

「瑛斗くんが来たのはきっと、私たちを守るためよ。加勢してあげたいけど、今はできない。……想像以上に堪えるわね、こういうのって」

「楯無さん………」

「だから瑛斗くんに会ったら、ちゃんと、お礼を言わないとね」

「……はい」

千冬は後方で瑛斗の帰還の報せを聞いた。

(戻って来た……あいつは受け入れたということか。ならば……………)

「………………………」

 

千冬は、その表情を緩めることなく、ポツリとつぶやく。

「……あと一息、か」

そして千冬は生徒達から離れ、一人、特別区画の通路を歩き出した。

 

 

「おおおおおおっ!!」

ビームブラスターからのビームでミサイルを薙ぎ払う。ミサイルが連鎖的に爆発を起こした。

だけど爆炎の奥から次々とミサイルの反応が出て来る。

「くっ……! まだまだぁっ!!」

ブラスターを再度構えた時だった。

ザバッ! ザバザバザバザバッ!!

「っ!?」

海中から人のシルエットが複数飛び出して来た。

白を基調にしたボディに、V字のアンテナをつけた頭には人と同じような二つの目。背中にはオレンジ色のブースターを装備した、ロボットのような……………。

「ロボット…? まさか、あの一つ目のロボットと同じ━━━━━!」

戦闘義構(アサルト・マリオネット)

 

そう理解した瞬間、やつらが右手に装備していたライフルから一斉にビームを発射した。

「くっ!」

咄嗟にビームウイングを前に出して光線を吸収する。

「しまったっ! ミサイルが!」

ほんの一瞬でも気をそらすとミサイルは高速で横切っていく。戦闘義構は俺の足止めか!

「ちくしょうが!!」

ビームウイングをはためかせてミサイルの後ろを追う。

(間に合うのか!?)

ブラスターの照準を合わせようとした瞬間、反対側から飛来したエネルギー弾がミサイルを撃墜した。

「ガキ! 何ちんたらやってんだ!」

「オータム!」

《アルバ・アラクネ》のウェポンアームから銃口を覗かせるオータムが爆炎を抜けて俺の横に来た。

「そんなガラクタども気にかけんな! ミサイルに集中しろ!」

「つっても結構な数だぞ!」

見ればオレンジ色のロボットに混ざって、青と白の二色のボディカラーの目の部分をバイザーで覆ったロボットまでいた。

「チッ……! 邪魔すんじゃねぇよっ!」

オータムがロボット達に飛び込んでいく。

「コイツらは任せな。ガキ、お前はミサイルだ! まだまだ来やがる!」

「わ、わかった!」

ビームウイングを広げて続々と飛来するミサイルへと向かう。そこで気がついた。

「そういやお前、蘭はどうした? 一緒じゃないのか?」

オープン・チャンネルで聞くと予想外の返答が来た。

『蘭? あぁ、あのチビガキか。あいつなら、学園に張られてるフィールド発生装置の破壊に行かせた!』

「一人でか!? なに無茶やらせて━━━━!」

『あいつが自分から言い出したんだよっ!』

「はぁ!? どういうことだ!?」

『軽く説明してやったらあいつ、自分が行くとか言いやがって、止める間も無くな!』

「マジかよ……!」

驚いてつぶやくとウインドウの中のオータムは口角を少し上げた。

『チビガキのくせに、中々肝っ玉据わってるじゃねーか!』

「そういう問題じゃないだろ!」

ミサイル群に向けてビームブラスターの引き金を引く。遠方の海で爆発が起きた。

「大丈夫なのかよ……」

上空を見上げる。だけど蘭の姿は確認出来なかった。

と、警告音が響いた。

「なっ!? しまっ━━━!」

後ろに五体の戦闘義構が迫って……いや、違う!

戦闘義構じゃない!!

「ゴーレム………!?」

突然現れたゴーレムたちは、俺の両手足にしがみついて動きを封じてきた。

林間学校の時とは違って、ボディカラーは白で統一されていた。

「こ、このぉ……っ!!」

ギリギリと締め上げられて、身動きが取れない。

ビームブレードを出してもビーム刃が届かない。

「ウイングなら!!」

ウイングで攻撃しようとしたら、ゴーレム達は左腕を前に出した。するとビームウイングはゴーレム達の前で途端に出力が下がった。

「ビームが!? BRFか……!」

オータムも大量の戦闘義構の相手で助けてくれそうにない。完全に動きが封じられた。

(篠ノ之博士……!!)

「あの人は……あの人は本当に何を考えてるんだっ!!」

無理矢理にでも拘束を逃れようと身体を動かす。

「放せっ! 放しやがれってんだ!!」

ふと、後ろが見えた。

俺の背後にはIS学園がある。

大切な、かけがえのないものが、たくさんある。

前からは、またミサイルが飛んで来ている。

「………………………」

(いや……博士がどうとかは、どうでもいい……………)

ここに来る前にあの公園で決めたことを、もう一度思い浮かべた。

(俺は………俺は!)

両の拳に力を込める。

「そうだ……だから……………!!」

力だけじゃない。決意と、覚悟も一緒だ。

「邪魔を……するなああああああああああっ!!」

咆哮の瞬間、閃光が爆発した。

 

 

少し離れた空で爆発が起きる。

《フォルニアス》を展開する蘭はIS学園にはまっすぐに向かわず、オータムが言っていた特殊な装置の破壊に向かっていた。

演習の時でも上がらない程の高度まで上がって来た。

(あの人は、その装置が一夏さんたちのISを使えないようにしてるって言ってたから……それを壊せれば……!)

しかし装置のようなものは見つけられない。

「まだ上なの……」

そうつぶやいた矢先、フォルニアスのセンサーが反応をキャッチした。

ハイパーセンサーを駆使して拡大した視界の一点に、グライダーのような飛行物体を捉える

「見つけた! きっとあれだ!」

蘭はアサルトライフルを呼び出し、飛行物体に照準を合わせた。

「これで、一夏さんたちを………!」

 

引き金を、引いた。

発射された弾丸は、正確な軌道で飛行物体へ飛んでいく。

(当たって……!)

 

しかし、蘭の願いは虚しく消えた。

ギンッ!!

「えっ!?」

弾丸が突然躍り出た何かに弾かれる。

それは人の形で、頭にあたる部分には、赤く光る一つの目。

ゴーレム。

蘭の知っているものと違うのは、そのボディが白に染められていたことだ。

「これ……あの時の━━━━━!」

蘭の言葉の終わりを待たず、ゴーレムは右手のひらの中央の銃口からビームの弾を連射する。

「っ……!」

蘭はすぐさま横に飛んで弾を避けた。

「どうしてあんなのが!?」

アサルトライフルを構え直した時には既にゴーレムはいない。上からのロックオン警報で位置を把握する。

ガキンッ!

「うぅっ……!」

(絶対防御が発動しないから、これで防ぐしかないじゃない!)

以前の戦闘の経験を活かし、左腕の物理シールドで防御する。

「━━━━━━━━」

ゴーレムはそのまま連続してブレードをシールドに叩きつけ、蘭を飛行物体から遠ざける。

「こ、これじゃ近づけない!」

「━━━━━━━━」

ズバッ!!

「あぁっ!」

ゴーレムの斬撃がシールドを吹き飛ばした。

「━━━━━━━━」

ゴーレムのアイセンサーが一度光り、蘭は頬に汗を垂らす。

「や、ヤバいかも……」

胸の内に陰りが差した時、背後で連鎖的な爆発が起きた。

「……っ! そうよ。そうよね……!」

蘭は拳を握り、ゴーレムを睨みつけた。

(こんなところで尻込みしてちゃダメだ……。みんなを助けなきゃ!)

フォルニアスの右手首の装備、ボルテック・フィストが放電を始める。そして放電の激しさは徐々に増していく。

「━━━━━━━━」

ブレードが振り下ろされた瞬間、

「私……だってぇぇぇぇっ!!」

ボルテック・フィストから伸びた電撃剣がゴーレムの胴を貫いた。

「━━━━━━━━!」

ゴーレムは流れ続ける電撃に動きを止める。

「はああああああああっ!!」

振り上げられた電撃剣がゴーレムのボディを斜めに切り裂いた。

「━━━━━━━…………」

二つに割れたゴーレムはアイセンサーを明滅させながら落下。数秒後に爆散した。

「はぁ……はぁ…………倒せた…」

安堵しかけて、再び遠方で起きた爆発で本来の目的を思い出す。

「いけない! 忘れてた!」

飛行物体を探して、最初に見た時と同じ場所に見つけた。

「よかった、動いてない!」

飛行物体に近づき、電撃剣を振り上げる。

「これで━━━━」

バシュウッ!!

何かが電撃剣に激突し、電撃剣が消滅した。

「……!?」

すぐそばで起きた衝撃に蘭は身体を硬直させる。

「な、何が?」

数十メートル先に、熱源を感知した。

「二体目!?」

アサルトライフルをもう一度構え直し弾丸を放つも、次のゴーレムはジグザグな軌道で回避し蘭に急接近した。

「速いっ!?」

ゴーレムが蘭の至近距離で右腕と一体化したビームカノンを構える。

(避けられない……!)

ドッ!!!!

そう悟った瞬間、ゴーレムの動きが止まった。

「……………?」

ゴーレムの右腕に突き刺さっていたのは、クリアーレッドの刃。

 

ブレードビットであった。

「え……え!?」

理解が追いつかないでいると、ビットが抜けたゴーレムの右腕が爆発を起こした。

ビットが戻る方向に首を巡らせる。

「ま……マドカさん?」

そこには確かに、《バルサミウス・ブレーディア》を展開するマドカがいた。

その顔つきに、蘭はある人物を重ねた。

「織斑先生………?」

「………………………」

と、フォルニアスが新たな反応をキャッチした。

「━━━━━━━━」

「━━━━━━━━」

「━━━━━━━━」

白色のゴーレムが三体、上空から降りてきたのだ。三体とも両腕が大型の物理ブレードである。

しかし三体のゴーレムは総じて装甲の至る所に傷を負っている。ボロボロだ。

右腕を失ったゴーレムを含め、手負いだが合計四体のゴーレムが二人の前に立ちはだかった。

「ま、まだこんなに……!」

戦慄する蘭の肩に、マドカが手を乗せる。

「……大丈夫」

「えっ?」

聞き返した時には、マドカは蘭の前に出ていた。

「あ、危ないですよっ!?」

「………………………」

直後、ブレーディアが輝き出した。

「な、何っ!?」

蘭はその眩しさに顔を手で隠す。

輝きはすぐに薄れ、マドカは姿を現した。

マドカには変化は無い。しかしブレーディアにはあった。

「バルサミウス・ブレーディア第二形態……《ブルーム・ツイン・ブレーディア》!!」

全身の真紅の装甲が増加され、背中には大型ブレードビットが左右に三機ずつ、繋がりあって翼のように広がる。そして両腕の装甲にそれぞれ二機搭載された小型ブレードビットも僅かだが刃が巨大化していた。

「あれが……マドカさんのISの第二形態………」

自主練に付き合ってもらった際に一夏や瑛斗が何度かそれぞれのISの第二形態を見せてはくれたが、最初の発現を蘭は見たことが無かった。

「━━━━━━━━!」

右腕を失ったゴーレムがマドカに肉薄する。

「き、来たっ!?」

「……いけっ!!」

マドカの号令で両腕の装甲からブレードビットが飛び出す。

ビットの刃が中央から左右に割れ、生じた刃と刃の間からレーザー砲が現れた。

「っ!」

銃口からレーザーが発射される。

「━━━━━━━━!?」

多方向からのレーザーに貫かれたゴーレムが爆散した。

「すごい威力……!」

「━━━━━━━━!」

「━━━━━━━━!」

「━━━━━━━━!」

残りのゴーレムが一斉にマドカに突進する。

「ふっ!」

大型ビットが六機全て射出された。クリアーレッドの刃は宙を舞い、大小合わせて十機のブレードビットが三体のゴーレムを圧倒する。

「す、すごい………」

蘭はただそうつぶやくことしか出来ない。それほどまでに目の前で繰り広げられている戦闘は激しいのだ。

だがその戦いはすぐに決着した。

ブレードビットの攻撃を捌き切れないゴーレム達は瞬く間にそのボディを刻まれ、隙が生じる。

「これでっ!」

全てのブレードビットがゴーレム達を八つ裂きにした。

三体のゴーレムはほとんど同時に爆散。

全ての障害を破り、マドカは1機の小型ビットのレーザー砲を飛行物体へ向け、発射されたレーザーは飛行物体を焼く。

学園の周囲に変化は無いが、これで学園を包むフィールドは消滅した。

「ふぅ……」

全てのビットがマドカの元へ戻り、マドカは小さく吐息する。

「マドカさん!」

蘭はマドカのそばに近寄った。

「ごめんね。あの三体にちょっと手間取っちゃって」

「あっ、い、いえ……こちらこそ、助けてくれてありがとうございます」

「怪我は無い?」

「は、はい」

「そっか。よかった」

「あ、あの……」

蘭はマドカに話しかけるが、マドカは蘭の話を聞かずに進める。

「蘭ちゃんは梢ちゃんのところに行ってあげて? きっと心配してるよ」

「マドカさんは?」

「私は………」

マドカは言い淀む。しかしすぐに笑みを浮かべた。

「私はあの爆発の方に行くよ。G-soulの反応があるし、瑛斗が戦ってるんでしょ?」

「そうですけど……あともう一人いますよ。確か……オータム、さん?」

「……そうなんだ。わかった。ありがとう」

「え……あっ、マドカさん!?」

蘭の声にはもう反応することなく、マドカは遠くの爆発へ飛んで行った。

 

瑛斗が最初のミサイルを撃墜した頃、スコールはその金色の髪を風になびかせながら同じく金色のISを展開して空を飛んでいた。

行き先は当然、IS学園だ。

『スコール、機体の調子はどうじゃ?』

チヨリからプライベート・チャンネルで通信が入った。チヨリはマスターとともにバーに待機している。

「えぇ。良好ですよ。前よりも運動性が上がってる」

『運動性だけではないぞ。各部位の性能も引き上げて、損傷した装甲も配置パターンから一新しておるんじゃ』

スコールの纏うISは、かつて《セフィロト》という名前を持っていたが、その面影はもう無く、全く別の機体へと生まれ変わっていた。

「それにしても驚きましたわ。チヨリ様が私のセフィロトの改修パーツを常備していたなんて」

『ワシを誰だと思うておる。お前が捕まっとる間、何もしとらんとでも?』

「備えあればって、ことね」

『まあの。ちゃんと名前もあるぞ』

「名前? セフィロトではなくて?」

『ワシたちの行動の始まりとして、景気良くつけたのがあるんじゃよ』

「それは、どのような?」

 

聞くと、チヨリは少し溜めながら応答した。

『その名も……《ゴールデン・ドーン》』

「黄金の夜明け……ですか。いい名前ね」

『じゃろじゃろ? 今度からそのISはその名前で通すがよい』

チヨリは本当に子どものように笑った。

「わかりました。そうさせてもらいます」

『うむ、ではそろそろ切るぞ。バックアップは任せろ』

チヨリは満足気に頷き、通信を終わらせた。

「ゴールデン・ドーン……今は夕暮れだけど、言ったらいじけそうね」

そうひとりごちてから、スコールは脚に力を込め、速度を上げる。

「さて……急がないと!」

金色の軌跡が黄昏の空に描かれた。

 

 

「こ、これは……?」

ビームウイングから飛び出した光が、無数の線になって四方八方、IS学園の方向にも行く。

それどころか、危険を察知したのか俺から弾かれるように離れたゴーレム達や、ロボットと戦ってるオータムにも伸びていた。

更に変化は起きた。G-spiritの装甲が輝き出して、ビームウイングもどんどん大きくなって出力が上がっていく。

「な、なんだ? 何が起きてるっ!?」

どうなっているのかわからない。勝手にGメモリーが起動することはあったけど、今までこんなこと一度も無かった。

(もしかして、これは……!)

━━━━《G-entrusted》━━━━

━━━━半径5km圏内に存在するISコアからのエネルギー吸収、性質同調、増幅……………完了━━━━

ハイパーセンサーからの表示には、そう記されていた。

装甲が白銀に輝き、ビームウイングが見たことがないくらい大きくなっている。

身体中に、力を感じた。

(……! やっぱり……これが!!)

そして俺は理解した。

これが、俺の……! G-soulの………!!

(ワンオフ・アビリティー!!)

 

「な、なんすかあれ!?」

フォルテが天井の方を指差す。天井から、光の筋が降りてきていた。

「こ、こっちに来るわよ!?」

鈴の言う通り、光はこちらに降りてきた光は、ある程度の高さまで来ると分裂し、別々の方向へ降り注いだ。

待機状態のラファールが伸びてきた光に包まれる。

「な、何っ?」

(俺は自分が誰だろうと構わない……)

「えっ……!?」

「シャルロット?」

「今……瑛斗の声がしたような……」

「瑛斗の……?」

広がるように枝分かれした光は簪の打鉄弍式、ラウラのシュヴアルツェア・レーゲンも包み込む。

(ただ……守れれば……)

「あっ……」

「か、簪ちゃん?」

「私にも、聞こえた……瑛斗の声!」

(ただみんなを守ることができるなら………!)

「まさか……これは瑛斗が……!」

(それだけでいい……それだけで!!)

瑛斗の声は三人だけでなく、一夏、箒、鈴、セシリア、楯無、フォルテ、梢にも聞こえていた。なぜならば各々の待機状態のISが光に包まれていたからだ。

「こ、これはどういうことですの!?」

「アタシに聞かないでよ!」

「何すかこの光! 何の光っすか!?」

「……私に聞かれても困ります」

光はある程度まで留まると、一夏達から離れてまた天井の向こうへと消えた。

「楯無さん、やはりこれは……」

「そうね、箒ちゃん。瑛斗くんが何かしてるわ」

「瑛斗は、俺たちのISをどうしようとしてるんだ?」

「はっきりとはわからない。でも僕、これだけはわかるよ……」

シャルロットは、光の消えた先を見つめた。

「瑛斗が……僕たちの力を必要としてるんだよ!」

 

 

「おぉぉぉぁぁぁぁっ!!」

大型化したビームウイングがゴーレム達を飲み込む。五体のゴーレムが同時に爆散した。

『おい! おいコラ! ガキ!』

オータムからオープン・チャンネルが来た。

『お前今何しやがった! エネルギーが急に減ったぞ!?』

「これが俺のワンオフ・アビリティーなんだよ!」

『ワンオフ・アビリティー? この状況で発現したってのかよ!?』

「これで、俺はもっと戦える!」

ビームウイングをめいいっぱい広げる。

「守ることが出来るっ!!」

ハイパーセンサーがミサイルを一度に複数ロックした。

「いっけぇぇぇぇぇっ!!!!」

ガガガガガガガガガッッッ!!!

叫びと共にビームウイングから打ち出される無数のビーム弾。飛来するミサイルに命中して大気が揺れる。

けどミサイルの反応は次々と現れる。

「どれだけ来ようが━━━━!!」

ビームが後ろから飛んで来てG-spiritの脚の装甲を掠めた。

無数の戦闘義構たちが目標をオータムから俺に変えて襲ってきたんだ。

「お前達に構ってられないんだよっ!」

もう一度ビームウイングを広げた瞬間、何かが煌めいて戦闘義構が次々と両断されて爆発した。

「これは……ブレードビット? マドカ!?」

振り仰ぐとマドカが俺の斜め上で滞空していた。

マドカが来たことにも驚いたけど、そのマドカが纏うブレーディアの装甲が変化していたことにも驚いた。

「マドカ、お前それ………第二形態か!?」

聞いてから思い返す。マドカは記憶が戻っているはずだ。

もしかしたら敵に回ってくるかもしれない。

「マドカ……だな?」

「……………………」

マドカは一瞬微笑んでから、また真剣な顔に戻った。

「この人形たちは私とオータムで片付けるよ。だから瑛斗はミサイルを」

「お前……!」

『私もいるわよ?』

不意に、オープン・チャンネルで通信が入った。

「スコール! 来たのか!」

ウインドウにスコールの姿が映し出される。

『間に合ったみたいね』

『スコール!』

オータムの弾んだ声も混ざった。

『オータム、待たせたわね。まだ戦える?』

『余裕だよ!』

『お前達、合流出来たようじゃな』

「チヨリちゃん?」

さらにチヨリちゃんも加わった。

『学園に向かっている残りのミサイルがわかったぞ。後続の反応が無いところからして、次に飛んで来るミサイル群が最後じゃ!』

「そいつを全部落とせば終わりなんだな!? そうとわかれば!!」

俺はビームウイングをはばたかせて戦闘義構を吹き飛ばしながら空を駆けた。

「スコール、オータム、マドカ! 戦闘義構は任せたぞ!」

『わかったわ。久しぶりに、三人でお仕事といこうじゃない?』

『へっ、仕方ねえな。ガキ! 美味しいところはくれてやる!』

『任せてよ』

三人の答えを聞いてから、俺はさらにスピードを上げる。

(これで……これで最後だ! そしたら………!)

ブラスターを構えながら、俺は前方からの来るミサイルと対峙した。




そんなわけでついにG-soulのワンオフ・アビリティーが発動しました! 強そう!

マドカのISも第二形態に! これまた強そう!

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