IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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マドカと『マドカ』 〜または優しいままの君でいて〜

夏の日差しが容赦なく照りつける。

森の真上だから蝉の声が下から飛んで来る。

ラウラたちと合流して一時間くらい。俺はマドカと鈴と千冬姉の居場所を目指して街から遠く離れた森林地帯上空にいた。

「ラウラ、あとどれくらいだ?」

「間も無くだ。瑛斗の情報が正しければ………」

先頭のラウラが停止する。

「見えたぞ。あれだ」

「あれが、瑛斗の言ってた……」

「桐野第一研究所…………」

シャルロットと簪が森の中に建つ廃墟を見下ろす。

「ボロボロだな」

箒もその異様な雰囲気を感じ取ったみたいだ。

「奥の方の建物など、半分無くなっているではないか」

箒の言うとおり、ドーム状の建物だったんだろうってことだけが伝わる骨組みが奥に半分だけあった。

「離れか? すごい力で消し飛ばされたみたいだけど」

離れと思えるその建物の後ろは、抉られたように地面が剥き出しになっていた。

「あれは瑛斗が行った戦闘の跡だろう」

「瑛斗が?」

「G-spiritのビームメガキャノンを限界以上の威力で放ったらしいんだ」

ここで瑛斗は戦ったのか。

「見たところ、建物の周りに見張りはいないみたいだね」

「中に……いるのかも……」

「でも中に入らないことには始まらないんだ。行こう」

「お、おい一夏!」

ひしゃげた門の向こう側。建物の入口の扉の前に降り立つ。

「一夏、軽率だぞ! 敵がいつ来るのかわからない!」

箒が俺の横に立って、眉を吊り上げた。

「ごめん。だけど、急がないと取り返しのつかないことになるのは箒もわかるだろ?」

「それは……そうだが………」

ラウラ、シャルロット、簪も俺たちのそばに来た。

「まだ外は明るいのに中は暗いね」

シャルロットが中を覗いて、様子を探った。

「ちょっと……怖い」

「人の気配は無いな。付近にも見張りはないと見える」

ラウラが扉に手をかけて力を込めると、ゆっくり開いた。

「開いている……?」

扉の奥は薄暗い広間だった。

「全員、展開を解除しろ。侵入する」

「鈴達を助けるのに、展開を解除するのか?」

「箒、救出作戦と制圧作戦は全くの別物だ。ISを使えば解決というわけではない」

「な、なるほど」

こういう時、ラウラの軍人としてのスキルはとても心強い。

「中の構造が把握出来ない。全員で離れずに行動する。いいな?」

ラウラの指示に俺も含めて全員が頷く。

「よし。では行くぞ」

中に入ると、外の暑さとは打って変わって涼しいくらいだった。

「不気味だな……」

「何年も前に……棄てられてる……らしいよ」

「瑛斗も言ってたけど、何か出てきそうだね」

「だが、誘拐犯の拠点となれば、おあつらえ向きだ」

「………なあ」

俺は少し気になっていたことを聞くことにした。

「瑛斗はどうして来れないんだ?」

瑛斗は俺と箒がラウラ達と合流した時にいなかった。

「さっきも話しただろう。エネルギー補給が万全ではない瑛斗を連れてくるわけにはいかん」

俺と箒はここに来るまでの間に、三人から瑛斗が来れない理由を聞いた。最初に聞いた時もそう言ったけど、どうも腑に落ちない。

「でも、ここを見つけたのって瑛斗がG-soulで探したからなんだろ? なら、一緒に来れるんじゃないか?」

あいつの性格だと自分から来るのを辞退するなんて考えられない。

「…………………」

ラウラは黙ったまま、こっちを見ないで前に進み続ける。

わかるぞ。何か隠してる。

「……………そうだよ。瑛斗は来れないんじゃなくて、僕たちが来させなかったんだ」

「おい、シャルロット……」

自分に代わって答えたシャルロットに、ラウラは止めるかのように振り返った。

「ラウラ、楯無さんは僕たちに任せるって言ってたけど、やっぱり一夏達にも話さないとダメだよ」

「楯無さんも関わっているのか?」

「隠し続けられる話じゃ、ない……」

「……………………そうだな。だが」

ラウラは振り返って、俺を真っ直ぐ見つめてきた。

「一夏、箒、すまないがこの話はまだできない。教官たちを見つけ、鈴を救出してから、全てを話そう」

ラウラの目に、俺は何も言えなくなる。三人はいったい何を抱えてるんだ?

と、隣を歩く箒が俺に顔を寄せて耳打ちした。

「一夏、気持ちはわかるがマドカたちのことも忘れるな。一刻を争う」

「あ、ああ……そうだな」

頷いて、俺はもう何も追及することはせずに通路を進むことにした。

通路を進むと、部屋ごとに引き戸で分けられてる場所に出た。

「なんだここは? この建物は病院も兼ねていたのか?」

「瑛斗が言ってた血だらけの病室がある場所だね」

「……そのようだ。見てみろ」

ラウラが引き戸にはめられている小窓を叩いて俺達に中を見るように示す。

「うわ……!」

見た瞬間に見なきゃよかったと後悔した。

部屋の中に赤色がぶちまけられていたんだ。

「これが……全て血……」

「明らかに人一人の致死出血量を超えている。ここで拷問でも行なっていたのか?」

「ら、ラウラ……怖いこと言わないでよぉ……!」

(こんな危険なところに鈴も、マドカも、千冬姉も……)

凄惨な光景に不安が湧き上がる。

カンッ……

「!」

「一夏?」

「みんな、今の音聞こえたか?」

「今の音?」

カキンッ……カンッ……!

「また聞こえた!」

「僕も聞こえたよ! 奥からだ!」

音のした建物の奥へ走る。

奥に進むに連れて建物の中はどんどん荒れていく。

 

壁が割れて、部屋という部屋がメチャクチャになっていた。

「誰かが戦っているのか!?」

 

鈴が暴れてる? それともマドカが千冬姉と!?

「みんな……! 待って!」

簪が声を上げて俺達を、立ち止まらせた。

「なんだ簪!」

「ここ、壁に穴が空いてる……」

簪の言う通り、壁にポッカリと巨大な穴が空いていた。

「この穴……最近出来たみたいだね」

シャルロットが壁の向こう側を覗いた。

「み、見て!」

シャルロットの上ずった声で言うと、全員が壁の穴の向こうを見た。

壁の向こうも通路だった。

「なんだこれは……」

だけどその通路は、まるで何本も鋭い刃物が暴れまくったかのようにズタズタだ。

「刃物……?」

壁に近づいて、切り口を見る。

「まさか……!」

穴の近くに転がっていた、壁だっただろう瓦礫を手に取って確認した。間違いない。

「……! ブレーディアのビットだ!」

「この穴も、ISが通れる程の大きさはあるな」

「じゃあここでマドカちゃんが戦ってたの?」

壁の傷は一方向にだけ伸びている。移動した方向はすぐにわかった。

「この奥……続いてる……」

傷を頼りに通路を駆ける。

(間に合え……!)

ここに来るまで、時折浮かんでは沈んだ最悪の光景。そんなことは起こさせたくない。起こさせはしない。

「……………マドカァッ!!」

俺は、思い切り、全力で、その名前を叫んだ。

 

 

「はぁっ!」

「ふっ!」

刃と剣がぶつかり合う。

赤く閃くブレードビットは、千冬の踊るような剣捌きに翻弄され、届かない。

「……どうした? その程度か?」

千冬は少し挑発するかのようにマドカへ言う。狭い通路の奥のこの大部屋は、戦うには十分な広さだった。

「あの時とは違う!」

マドカは《スターダストmkⅡ》を呼び出し、実体弾を連射する。

「……………!」

対する千冬は周囲を飛ぶビットの合間を縫って弾丸を回避し、走り続けて照準を定めさせない。

チラ、と両手に握るサーベルの刀身を見た。僅かだが刃こぼれが目立ち始めている。強度は一級品のはずだが、それ以上にブレードビットの威力が高いのだ。

(じきに折れるか……。桐野のやつ……面倒な機体をこさえたものだ)

「ねえさん! 今日こそ私はあなたを倒す! あなたを殺す!!」

弾丸が地面を穿つ。

「機体を変えた程度で息巻くか。底が知れるぞ。記憶を取り戻して少しは成長したかと思ったが、拍子抜けだな」

「黙れっ! 知ったような口をきくな!」

ビットは千冬を狙って追い続けるが、銃撃は止まった。

「なぜあの時私を殺さなかったっ!?」

代わりにマドカの叫びが千冬に向かって降りかかる。

「どうして私を生かしたんだ!」

「理由がなければ、殺さなければならないのか?」

「あの時……! あの時ねえさんが私を助けなければ……殺していればっ!! 情けをかけたのか!? だとするなら、それは私にとって屈辱でしかないっ!!」

「殺してもよかったが、あいつに止められた」

「……っ! あなたが………お姉ちゃんが………!」

「なに……?」

マドカの手に、短剣が呼び出された。ビット同様にクリアーレッドの刀身が煌めく。

マドカの周囲を飛ぶビット達が、短剣に集い、繋がり、バスターソードに変化を遂げた。

「はあぁぁぁぁっ!」

振り下ろされた大剣が千冬に迫る。

千冬はバク転の要領で斬撃を躱した。

「助けなきゃ……! こんな思いをしないで済んだのにっ!!」

「くっ!」

着地する前にバーニアを吹かして身体を捻ったマドカの追撃を左のサーベルで受け止める。サーベルは衝撃で弾き飛ばされた。

着地直前の負荷にバランスを崩し、よろけた千冬をマドカは見逃さなかった。足を強く踏み、バスターソードの切っ先を千冬へ向ける。

「このまま突き刺すっ!!」

千冬の首に、切っ先が届き━━━━

「マドカァッ!!」

「!?」

背中越しの叫び。反射的に動きを止めてしまった。

文字通り、耳を疑った。もう、会うことはないと思っていた。

それなのに、振り返って、見てしまった。

「織斑……一夏………?」

肩を上下させ、真っ直ぐな目を向けてくる、その人の姿を。

言い表せない気持ちが込み上げた。

怒り。

 

呆れ。

 

そして、安堵。

それらが溶け合い、混ざり合う。

「……どうやら、もう私たちと共にいたお前ではないようだな」

ラウラが《シュヴァルツェア・レーゲン》を展開し、カノン砲の照準をマドカに合わせる。

「教官から離れろ。さもなくば━━━━━━」

「ラウラ、待ってくれ」

一夏はラウラの前に立った。

「一夏? 何のつもりだ?」

ラウラの問いに一夏は、すぐに済むから、とだけ答えてマドカを見据えた。

「…………マドカだろ?」

「………………………」

「お前は、()()()なんだろ?」

意味がわからず、シャルロットは一夏に尋ねた。

「一夏、どういうこと?」

一夏は背中を向けたまま、マドカを見据えて答える。

「俺、家に箒と一緒に戻っただろ? 窓が開いたままだったからって」

「それが、どうだっていうの?」

「戻ってみたら、窓なんて開いてなかったんだ。それだけじゃない。今日出すはずだった燃えるゴミもなくなってたんだ」

「燃えるゴミ……?」

「他にも鍵がポストに入ってたり、お前の靴が一足なくなってたり、枕が元の位置に戻ってたり……全部お前がやったんだろ?」

 

一同が一夏からマドカに視線を向ける。

「…………………」

 

「お前は、亡国機業にいた頃の『マドカ』じゃなくて、俺と千冬姉の妹の『マドカ』だ。……そうなんだろ?」

「…………………」

数秒の静寂の後、マドカは答えた。

「……そうだよ。私は、織斑マドカ」

冷静に。冷淡に。冷酷に。

「お兄ちゃん、どうして来たの?」

「お前を止める為に決まってる!」

その言葉があまりにも滑稽で、マドカは口の端から息が漏れた。

「出来なかったくせに、まだそんなこと言ってる」

「なんだと……!?」

冷たい声が紡がれる。

「私は、全部思い出したの。何もかも……。でも、不思議だね。私は昔の私を知っているのに、人格は今の私で固定されてる」

バスターソードを下ろし、マドカは一夏に身体全体を向けた。

「私、嬉しかったよ? あの時、お兄ちゃんとお姉ちゃんに、家族だって言ってもらえて。……でも嘘だった。私は、家族と真逆………ううん、それ以上に最悪の関係━━━━敵同士だった」

腕を広げて、一夏に言葉を投げる。

「お兄ちゃんと戦ったとき、私は期待してた。お兄ちゃんが私を止めてくれるって。お兄ちゃんが迷わず私を倒してくれるって……それなのに!」

マドカの瞳が怒りを宿した。

「どうして止めてくれなかったの!? あのまま剣をを振り下ろしてくれれば、私を倒せたのに! 家族でも何でもない私を倒すことに、何をためらったの!?」

「ためらうさ! お前は俺の妹なんだっ!!」

「お兄ちゃんが倒してくれていたら、私はこんな思いをしてないのに! 私はどうしてお姉ちゃんを殺したいのかも知ってるし、理解もしてる! ………………そんなことしたくないのに!!」

マドカの悲痛な叫びが響く。

「大切な人なのに! 抱き締めてくれたのにっ! 家族だって言ってくれたのにっ!! でも! 殺さなきゃ私は………『織斑マドカ』は終われない!!」

マドカは自分が涙を流していることを気に留めることなく、叫ぶ。

「だから私はお姉ちゃんを殺す! その後で私も死ぬ! そうすれば、みんな終わるんだよ!」

「バカ野郎っ! そんなことさせるかっ!!」

一夏は白式を展開して、雪片弐型からエネルギー刃を出現させる。

「夜みたいにはいかないぞ。俺は━━━━━━!」

「やめろっ!!!!」

 

その場にいる全員が硬直するほどの叫び。空間が一瞬、静寂に包まれた。

「千冬……姉?」

声の主は、千冬だった。

「一夏、マドカに手を出すな」

千冬の命令に、一夏は反抗する。

「な、なんでだよ千冬姉! そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」

「これは私とマドカの問題だ」

「だけど!」

「マドカの狙いは私一人だ。お前が出る幕じゃない。帰れ」

突き放すような言い方だが、一夏は引き下がらない。

「いいや帰れない……! 鈴が攫われて、この建物のどこかにいるんだ!」

「鈴が?」

マドカは少しだけ眉を動かした。

「……だったら、お前らはとっとと凰を助けに行け」

「でも……………」

「大体、お前はいつから私を心配するほど強くなった?」

「…………お兄ちゃん、私からもお願いするよ。鈴のところへ行ってあげて」

マドカはバスターソードの刃を自分の首元に近づける。

「じゃなきゃ……私はお兄ちゃんの目の前で、この首を切り落とすよ」

「マドカッ!?」

 

「セーフティなんて、とっくに解除してる。本気だよ」

たとえプラフであったとしても、一夏にとってこれは有効な手段だった。

 

マドカはそのことをよく知っていた。

 

一夏は、自分を愛してくれる、大切な()なのだから━━━━。

「よせマドカ! やめろ!」

「嫌でしょ? だったら……」

「「早く行けっ!!」」

マドカと千冬。二人分の声が重なる。

「…………! 絶対……絶対に戻って来るからな!」

一夏は再び通路へと飛び出した。

「待て一夏っ! 一人で行くのは無茶だ!」

箒も一夏の後を追い、通路へ出る。

「ラウラ、デュノアと更識を連れてお前も行け」

 

「……………了解、しました」

ラウラは千冬に従い、シュヴアルツェア・レーゲンの展開を解除した。

「……行くぞシャルロット、簪。あの二人を見失うわけにはいかない」

「わ、わかったよ」

「行く……」

シャルロットと簪は、ラウラが千冬を信頼していることを知っていた。だからシャルロットと簪は千冬を信頼するラウラを信じることにした。

二人も一夏たちを追いかけて駆け出したあと、ラウラは一度だけ千冬に振り返った。

「………ご無事で」

ただその一言だけを告げて、ラウラも離脱する。

そして、再びこの場所は同じ顔を持つ二人の、二人だけの戦場へと姿を変えた。

「やれやれ……やっと邪魔者がいなくなったか」

千冬は嘆息する。

「仕切り直しだな」

マドカと少し距離を取り、そしてサーベルを構えた。

「…………………」

マドカはバスターソードを首から離し、涙を拭い、千冬へ固い決意を宿した眼差しを向けた。

「ねえさんの武器はその右手のサーベルだけだ」

「構わん。二刀流は性に合わないからな。箒あたりに譲ってやるさ」

「そろそろそのサーベルも限界だろう。わかっていると思うが、私のビットならそんな細身の剣、簡単にへし折れる」

「そのようだ。ところでまた口調が変わったが……実際問題、今のお前はどっちだ? 私に復讐心を燃やすマドカか? それとも━━━━━」

「どちらも私だ。しかし、今この瞬間に、ねえさんの前にいる織斑マドカは、『私』だ」

「そうか………ならば、その執念とやらに免じて、全力で相手をしてやろう」

「その余裕、いつまでもつかな?」

「生意気を言うな。妹相手に慌ててどうする」

「……………もういい。殺してやろう!!」

踏み出そうとした瞬間だった。

ドォォォンッ!!

千冬とマドカの間に、何かが飛来した。

「………っ!?」

凄まじい勢いで落下してきた何かは、土煙を巻き上げてマドカの視界を遮る。

何が起きたかわからなかった。

土煙が晴れて千冬の姿が現れる。

千冬の隣には角材のような黒い物体が鎮座し、鈍く光る紅が千冬の右腕を覆っていた。

「それは………」

その紅に、マドカは見覚えがある。

━━━━《迦楼羅》。

かつて千冬に挑んだ時に、千冬が使ったIS。その右腕の装甲。

そして千冬の右手は、細身のサーベルではなく、あの時マドカを圧倒したISのブレードが握られている。

「余計なことを……!」

千冬自身も今の出来事は予測していなかったようだ。

「束!! いるなら出て来い!」

千冬は穴の空いた天井へ向けてこの武器たちの送り主の名を叫んだが、物陰からも、天井からも、地面の中からも束は出て来なかった。

「だんまりか……まあいい。これで、少しはまともに戦える」

ブレードを構えると、装甲からブレードの柄の下にケーブルが伸び、装甲がブレードと直結された。

「ジェネレーター内蔵型か。なるほど。あいつ、あの時のISをこの『腕だけ』に改造したのか」

鈍色のブレードが割れ、エネルギー刃が顕現する。

「言っておくが、こうなってしまえば本当に加減はできんぞ」

「……フフッ」

千冬の言葉に小さく笑う。

 

マドカは、滾っていた。

目の前にいる本気の千冬に、ようやく終わりを見出せた自分に、滾っていた。

「そうでなくては。でないと……」

足に力を込めて、思い切り地面を蹴った。

「私が殺される前に、私はねえさんを殺す!!」

 

 

「クソッ! クソックソッ!!」

鈴を見つける為にがむしゃらに走る。

「一夏っ! 待て! 待てと言っている!」

「なんだよ箒!」

走り続けながら叫ぶ。止まっている暇なんてない。

「闇雲に走り回るだけでは意味が無い! あてはあるのか?!」

「そんなもん無くても、早く鈴を見つけないといけないんだよ! マドカは死ぬつもりなんだぞ!」

「マドカは本気なのか!?」

「本気だ! 千冬姉も容赦しない! 全力でマドカを潰しにかかる! 止めないと……俺が止めないといけないんだ!」

「千冬さんがマドカを殺すというのか!? そんなことする人ではないことくらいお前もわかっているだろう!?」

「当たり前だ! でもマドカはそれを望んでない! 仮にあのマドカが千冬姉に負けて生き延びたとしても、何度でも千冬姉を襲う! 千冬姉を殺して、自分が死ぬまで!」

言ってて、怒りが込み上げて来た。

 

馬鹿げてる。

 

そんなのまるでただの自殺願望じゃないか。死に場所を求める狂戦士だ。

助けないといけない。止めないといけない。でも、その為には……!

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! りぃぃぃぃぃぃん!! どこだぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

腹の底からの叫びは反響して、通路に轟く。

「うおっ!?」

直後に視線が低くなった。瓦礫に躓いたみたいだ。思い切り叫んだせいで足元に注意が回らなかったぜ。

「うわぁぁぁっ!」

ゴロゴロと転がる。

「ってぇ……!」

止まった目の前には扉があった。危うく激突だ。

「い、一夏! 大丈夫か!?」

「あ、ああ……………ん?」

少し開いた扉の隙間から何かが見えたぞ?

「今のは……」

立ち上がって扉を開くと、会議室だった。と言っても、壊された長机が無造作に部屋の隅に積まれてたから、会議室だったんじゃないかっていう俺の判断だけど。

でもそこが問題じゃない。

「…………………」

「……鈴!」

「こんなところに!」

部屋の中央で《甲龍》を展開して、直立する鈴がいたんだ。

「良かった! 怪我は無いみたいだな!」

想像以上に早く見つけられた!

「甲龍を展開してるという事は……まさかお前、誘拐犯相手に大立ち回りしたのではないだろうな?」

「………………………」

 

少し呆れたような箒の言葉に、鈴は反応しない。

「………鈴?」

「鈴、聞いてくれ。この近くでマドカが千冬姉と戦ってる。俺は二人を止めに行かなきゃいけないんだ」

俺は鈴に早口で事情を伝えた。きっとわかってくれるはずだ。

「………………………」

「鈴……?」

だけど鈴は返事をしてくれなかった。

代わりに移動して、俺の背後に立ち、進路を塞さいだ。

「………………………」

それどころか、《双天牙月》を振り下ろしてきた!

「一夏っ!」

「うわっ!?」

箒が俺の腕を引いてくれなかったら縦にスッパリ行かれてただろう。危ねえ!

「……………………」

追撃とばかりに衝撃砲を俺に向けてくる。

「び、《白式》!」

「《紅椿》!」

箒と左右に散って、衝撃砲を避ける。

「……………………」

鈴は箒を見ることなく、俺に飛んできた。

ガキンッ!!

雪片と牙月の刃がぶつかり合う。

「おい鈴! 何のつもりだ!?」

「…………………なきゃ……」

「え?」

「足止め……しなきゃ。足止め……しなきゃ」

鈴が呪文のようにブツブツとつぶやく。

「あ、足止め? 誰のだ!?」

俺は雪片を振り抜いて、鈴と距離を取った。

「足止め………しなきゃ」

甲龍の衝撃砲の砲口が俺に向いた。

「一夏っ!」

ラウラが俺と鈴の間に割って入ってAICで衝撃砲の見えない砲弾を止めてくれた。

「ラウラ! 助かった!」

「簪! シャルロット!」

ラウラが名前を叫ぶと俺の頭上を二つの影が飛んだ。

「ミサイルは使えない……でも、レールガンなら………!」

「鈴、ごめんっ!」

鈴に弾丸が飛んだ。

「足止め……しなきゃ」

鈴はまるで機械のように無駄のない動きで攻撃を躱した。

「足止め……しなきゃ」

牙月を地面に突き立て、通路への出口の前に立つ鈴。さながら門番だ。

「鈴のやつ、いったいどうしたと言うんだ。いきなり斬りかかって来たぞ」

「少なくとも正気じゃないみたいたね」

「目が……虚ろ……」

「洗脳されている……? だが、この廃墟にそんなことが出来るほどの道具があるとは思えんが……」

「洗脳って……どう対処すりゃ元に戻るんだよ」

「強いショックを与えて一度気絶させる、だろうか?」

箒が首を捻り、疑問系の返事をした。

「とにかく、甲龍を止めよう。そうすればISを展開して突破出来るよ」

数は五対一。何とかなるはずだ。

「足止め……しなきゃ」

だが、それもすぐにわからなくなる。

 

甲龍の腕が輝いて、武装が追加された。

明らかに別規格だ。無理矢理取り付けたっていうのが素人目の俺にもわかる。

「意地でも通さないつもりかよ……!」

「足止め……しなきゃ」

四八口径ガトリング内蔵型シールドなんて、甲龍が使うわけないんだからな。




グフカスタムみたいなシールド×2です。

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